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第1章
第14話 楽しい晩ご飯
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「――麺!」
中庭に入ってくるなり、そう言った師にルーカスは驚いた。
「そんなに食べたかったの、先生?」
「あぁ、ルキ。リリーも、こんばんは。今のは誤作動だ。本当はただいまって言うつもりだったのだが」
「そういう時あるよね」
「あるのかよ」
最後の呆れた声はリリアックだった。
若者二人が汗だくで鍛錬していたのは見てとれた。プロクスは二人の顔を交互に見、ふふと笑った。
「リリちゃん、我が弟子はどうだ?」
「まだまだだな。実戦が足りねぇよ。隙だらけだ。まぁ、この短時間にだいぶマシになったんじゃね?俺サマの指導でな」
リリアックは、ルーカスの頭をがしがしと押しつぶすかのように撫でた。痛い、とルーカスは呻いた。不服そうだ。
「それはすばらしい。ルキ。リリーは教えるのがとても上手だろう?地方でだらだらしていたのを君のために呼んだんだ」
「だらだらしてねぇよせんせ、騎士王サマ。というかリリちゃんとかリリーはやめろ。あんたの何代目かのロバと同じ名前だからって同じ呼び方してんじゃねぇよ」
リリアックは舌打ちした。なぜだか、ほんの少し顔を赤くしていた。反抗期かな、とルーカスは思う。
「さて、鍛錬はこれぐらいにして麺を食べに行こうか。美味しいお店を教えてもらったんだ。走って行く?私は馬、君たちは足」
師からの非情な言葉に、二人はくたくたになって店まで走らされることになったのだった。
✧ ✧ ✧
「おいしかった!バルベーノ!」
「食事に感謝。バルベーノ」
プロクスとルーカスは、胸の前で手を交差させて空になった器に一礼した。
「野菜スープが最高だったな。ルキはどうだった?」
「オニヤドリの串焼きも思ったよりうまかった!」
二人がわいわい言う横で、リリアックは串焼きを手に沈黙していた。彼は長い間プロクスと共にいたが、意外なことに食事風景を見たのは初めてだった。
外にいる時、プロクスは腹部まで覆う長い頭巾をかぶっている。食事の時も顔を見せないためだ。
そうして熱々の火傷しそうな料理が運ばれてきたのを、「おいしそう」の一言と共に頭巾の内に入れ、数秒後に頭巾から空の器を出して、机に戻した。
「満腹!」
(俺はまだ口に入れてすらいないぞ)
リリアックは、頭巾の下のプロクスの体を想像した。巨大な口が体についているのではないかという疑念が広がった。
「リリ、食べないのか?オニヤドリは君の好物だろう?」
「あぁ、覚えていたんだ?あぁ、そうだけど。うめぇよ」
リリアックは慌てて口に肉を入れた。さっきの不穏な想像は忘れることにした。
「明日の誕生日祝いは、君たち二人にも出てもらうからね。帰ったらリリアックは髪と髭を切ってあげよう」
「嫌だ。というか自分でできる」
「そうか。ルキはどうする?」
「先生にお願い。前髪はまっすぐにしないでくれよ」
「はいはい」
この二人の脳天気な会話は何だとリリアックは鼻白む。確かにルーカスはプロクスの養子だが、何だかむずがゆくなる。
「俺の参加は絶対か?」
「ウェールスもジークバルトも君のことを心配していた。たまには顔を見せてあげなさい。せっかく隊長職についたのに、さっさと辞めてしまうなんて」
小言が始まる、と思ってリリアックは子どものように耳を塞いだ。
「前みたいに逃げては駄目だからな。ルーカス、きちんとリリちゃんを見張るんだ」
「もちろん、そうする!」
ルーカスはにやにやとリリアックを見た。その小憎たらしい顔を見ながら、足腰立てなくなるまで鍛錬させれば良かったと思う。この子どもは、無駄に回復が早い。
「……それで、今日の見学とやらはどうだったんだ?」
リリアックは話題を変えた。あぁ、とプロクスは頷く。
「イオの弟子に研究所を案内してもらった後、まだ新しい神殿の見学をしたよ。昔ペラフィールの神殿で住んでいた時期があったのだけど、イオがその時の家屋を再現してくれていてね。イオの部屋の壁に隠し扉みたいなのがあって、そこから入るんだ。彼が私の終の棲家にって用意してくれたんだよ。それで」
「ちょっと待て」
リリアックはオニヤドリを片手に残った左手を挙げた。
「場所おかしいだろ。なんで黒真珠の部屋の中に入口があるんだ?」
「全て彼が世話してくれるつもりだったそうだ。そうだね、そこまでさせるなんてやはり申し訳ないね」
プロクスの返答に、リリアックは目を丸くした。
「そうじゃねぇ。他に出口があるのか?黒真珠の部屋を絶対に通らなきゃいけないなんておかしいだろ」
「おかしいのか」
プロクスは首を傾げ、リリアックは舌打ちした。
「……今後黒真珠と会う時は、タイタニス様を必ず連れて行けよ。俺でもいい。後、終の棲家にそこを選ぶのは勧めない」
イオダス以外に会わずに、終わりを迎えそうな場所は、実質監禁に等しい。目の前の騎士王は、全くそれをわかっていなかった。
「うーん、タンタンは忙しいからな!……あぁ、ルキ、眠いのか?」
言われて視線を向ければ、にやにや笑いながらルーカスは机に突っ伏して寝た。
「お腹いっぱいになったらすぐに眠くなるんだよね」
「嘘だろ。赤ちゃんかよこいつ」
プロクスは店主を呼んでお金を払った。ため息をつくと、リリアックはルーカスを背負った。
「安心しろ。私の前でだけだから」
熟睡しているらしいルーカスの頭を、プロクスは優しく撫でる。
「師匠の前で寝るなんてとんでもない奴だな」
ぶつぶつと言いながら、月夜明るい通りを歩く。
目指すのは馬を預けた、町営厩舎だ。馬による事故や馬の盗難を防ぐためのもので、長時間馬から離れる場合は預けるのが義務化されている。
よって、帝都は歩行者が多い。町は街灯が多く、手にランプを持たずとも悠々と歩くことができた。
リリアックは、ルーカスの耳を塞ぐ魔法をかけ、プロクスに話しかける。
「こいつをどうするつもりか聞いていいか。あんたの引退まで後三年しかないだろう。優秀なのは認めてやるよ、残念だがな。だが、あんたはこいつに自分の戦っている姿をほとんど見せたことがないな」
プロクスは、黙って聞いている。彼の鬱憤がたまっているのはよくわかっていた。
「見せてやれよ。そうすりゃ、こいつも変わるよ。あんたみたいになりてぇってな。あんたは生ぬるい。こいつがどう言われているか耳に届いているはずだ。――親もわからぬ孤児に、雷蹄など継げるはずがない。騎士王の気まぐれだと。廊下で面と向かって言われたぞ。こいつはいつものことだって言っていたが」
「そうだね。グラディウス侯爵の後継としてルーカスを迎えるよう手続きしたんだが、風当たりが強くなってしまった。王は認めているけれど、一部の貴族が反発している。ど田舎の領主と見せかけて、グラディウスの所有する資産は膨大だ。後見は立てるつもりだが、誰の子ともわからない孤児に引き渡すのは危険だと言う」
「そうだろうとも」
「私はルーカスの両親を知っているのだけど。出生は確かだ。母親は優秀な軍人だったからね」
「そう……はぁ?」
リリアックは立ち止まった。
「リリアック=クラーバ。君にはこれからルーカスの良き導き手となってほしい。そして、彼が成人するまでの護衛を命じる。私が退位した後、雷蹄はルーカスに継がせる」
頭巾越しの静かな視線がリリアックに注がれた。有無を言わせぬ、騎士王の言葉だった。
「わかった、が……三年しかないぞ?今から訓練しないと」
リリアックは、プロクスが腰に差した剣を伺い見る。騎士ならば誰もが憧れる、騎士王の証。
「それはどうしても無理なんだ。ルーカスは肉体的に非常に未熟だ。今のままでこの大剣を手にすれば、両手が崩れる。文字通りな。魔力が安定した時に引き継ぐべきだが、契約で私はその前に退位せざるを得ない。雷蹄の十分の一の威力の武器を持たせ、徐々に魔力を上げる訓練はしているが……」
プロクスは眠るルーカスの前髪をそっと撫でる。
「できるだけ魔力を温存させ、肉体を強化しないといけないんだ。本当ならば、子どもには負担が大きすぎる力だ。強制的に上げる方法もあるが、それは危険で最終手段だ。魔力に満ちた特殊な訓練場でさせなければ」
ふん、とリリアックは笑う。甘いと思う。
「そんな未熟な奴をなぜ選んだ?」
「私が選んだのではない。雷蹄が選んだ。彼が剣を握る未来を、私は夢に見た」
プロクスは白い手袋をはめた両手をじっと眺め、また視線を前に戻す。
「雷蹄の扱いは難しい。アトラスも苦戦していた」
「初代王か」
「そうだ。昔、雷蹄の力が暴走したことがあってな。周囲を巻き込んで破壊の限りを尽くした。【商人】と取引して、何とかアトラスを止めたんだ」
まるで、目の前で見たかのように話す。
リリアックは、ほんの少しだけ違和感を持ったが、すぐにそれは風のように去る。
「いざとなれば、君にはルーカスを止めてほしい。いろいろな役目を押しつけて申し訳ないけれど」
「子守に武器の管理か?落第生の俺に頼むのか?」
「そうだよ。ちなみに契約書作成済で、今日から君は騎士王付の侍従となる。よって、明日の祝賀会にはきちんと参加するように」
リリアックは今日何度目かの舌打ちをした。
彼は、かつて次代雷蹄の後継者とも言われていたのだ。そのための厳しい訓練を受けてきたのに、ルーカスが現われてあっさり放棄された。
その周囲の変わり身の早さは、彼を人間不信にした。だが、そんな彼に手を差し伸べたのは、地獄にたたき落とした張本人であるプロクス=ハイキングだった。
(相変わらず、俺の保護者気取りかよ)
忌々しく思いつつも、リリアックは断れないのだった。
中庭に入ってくるなり、そう言った師にルーカスは驚いた。
「そんなに食べたかったの、先生?」
「あぁ、ルキ。リリーも、こんばんは。今のは誤作動だ。本当はただいまって言うつもりだったのだが」
「そういう時あるよね」
「あるのかよ」
最後の呆れた声はリリアックだった。
若者二人が汗だくで鍛錬していたのは見てとれた。プロクスは二人の顔を交互に見、ふふと笑った。
「リリちゃん、我が弟子はどうだ?」
「まだまだだな。実戦が足りねぇよ。隙だらけだ。まぁ、この短時間にだいぶマシになったんじゃね?俺サマの指導でな」
リリアックは、ルーカスの頭をがしがしと押しつぶすかのように撫でた。痛い、とルーカスは呻いた。不服そうだ。
「それはすばらしい。ルキ。リリーは教えるのがとても上手だろう?地方でだらだらしていたのを君のために呼んだんだ」
「だらだらしてねぇよせんせ、騎士王サマ。というかリリちゃんとかリリーはやめろ。あんたの何代目かのロバと同じ名前だからって同じ呼び方してんじゃねぇよ」
リリアックは舌打ちした。なぜだか、ほんの少し顔を赤くしていた。反抗期かな、とルーカスは思う。
「さて、鍛錬はこれぐらいにして麺を食べに行こうか。美味しいお店を教えてもらったんだ。走って行く?私は馬、君たちは足」
師からの非情な言葉に、二人はくたくたになって店まで走らされることになったのだった。
✧ ✧ ✧
「おいしかった!バルベーノ!」
「食事に感謝。バルベーノ」
プロクスとルーカスは、胸の前で手を交差させて空になった器に一礼した。
「野菜スープが最高だったな。ルキはどうだった?」
「オニヤドリの串焼きも思ったよりうまかった!」
二人がわいわい言う横で、リリアックは串焼きを手に沈黙していた。彼は長い間プロクスと共にいたが、意外なことに食事風景を見たのは初めてだった。
外にいる時、プロクスは腹部まで覆う長い頭巾をかぶっている。食事の時も顔を見せないためだ。
そうして熱々の火傷しそうな料理が運ばれてきたのを、「おいしそう」の一言と共に頭巾の内に入れ、数秒後に頭巾から空の器を出して、机に戻した。
「満腹!」
(俺はまだ口に入れてすらいないぞ)
リリアックは、頭巾の下のプロクスの体を想像した。巨大な口が体についているのではないかという疑念が広がった。
「リリ、食べないのか?オニヤドリは君の好物だろう?」
「あぁ、覚えていたんだ?あぁ、そうだけど。うめぇよ」
リリアックは慌てて口に肉を入れた。さっきの不穏な想像は忘れることにした。
「明日の誕生日祝いは、君たち二人にも出てもらうからね。帰ったらリリアックは髪と髭を切ってあげよう」
「嫌だ。というか自分でできる」
「そうか。ルキはどうする?」
「先生にお願い。前髪はまっすぐにしないでくれよ」
「はいはい」
この二人の脳天気な会話は何だとリリアックは鼻白む。確かにルーカスはプロクスの養子だが、何だかむずがゆくなる。
「俺の参加は絶対か?」
「ウェールスもジークバルトも君のことを心配していた。たまには顔を見せてあげなさい。せっかく隊長職についたのに、さっさと辞めてしまうなんて」
小言が始まる、と思ってリリアックは子どものように耳を塞いだ。
「前みたいに逃げては駄目だからな。ルーカス、きちんとリリちゃんを見張るんだ」
「もちろん、そうする!」
ルーカスはにやにやとリリアックを見た。その小憎たらしい顔を見ながら、足腰立てなくなるまで鍛錬させれば良かったと思う。この子どもは、無駄に回復が早い。
「……それで、今日の見学とやらはどうだったんだ?」
リリアックは話題を変えた。あぁ、とプロクスは頷く。
「イオの弟子に研究所を案内してもらった後、まだ新しい神殿の見学をしたよ。昔ペラフィールの神殿で住んでいた時期があったのだけど、イオがその時の家屋を再現してくれていてね。イオの部屋の壁に隠し扉みたいなのがあって、そこから入るんだ。彼が私の終の棲家にって用意してくれたんだよ。それで」
「ちょっと待て」
リリアックはオニヤドリを片手に残った左手を挙げた。
「場所おかしいだろ。なんで黒真珠の部屋の中に入口があるんだ?」
「全て彼が世話してくれるつもりだったそうだ。そうだね、そこまでさせるなんてやはり申し訳ないね」
プロクスの返答に、リリアックは目を丸くした。
「そうじゃねぇ。他に出口があるのか?黒真珠の部屋を絶対に通らなきゃいけないなんておかしいだろ」
「おかしいのか」
プロクスは首を傾げ、リリアックは舌打ちした。
「……今後黒真珠と会う時は、タイタニス様を必ず連れて行けよ。俺でもいい。後、終の棲家にそこを選ぶのは勧めない」
イオダス以外に会わずに、終わりを迎えそうな場所は、実質監禁に等しい。目の前の騎士王は、全くそれをわかっていなかった。
「うーん、タンタンは忙しいからな!……あぁ、ルキ、眠いのか?」
言われて視線を向ければ、にやにや笑いながらルーカスは机に突っ伏して寝た。
「お腹いっぱいになったらすぐに眠くなるんだよね」
「嘘だろ。赤ちゃんかよこいつ」
プロクスは店主を呼んでお金を払った。ため息をつくと、リリアックはルーカスを背負った。
「安心しろ。私の前でだけだから」
熟睡しているらしいルーカスの頭を、プロクスは優しく撫でる。
「師匠の前で寝るなんてとんでもない奴だな」
ぶつぶつと言いながら、月夜明るい通りを歩く。
目指すのは馬を預けた、町営厩舎だ。馬による事故や馬の盗難を防ぐためのもので、長時間馬から離れる場合は預けるのが義務化されている。
よって、帝都は歩行者が多い。町は街灯が多く、手にランプを持たずとも悠々と歩くことができた。
リリアックは、ルーカスの耳を塞ぐ魔法をかけ、プロクスに話しかける。
「こいつをどうするつもりか聞いていいか。あんたの引退まで後三年しかないだろう。優秀なのは認めてやるよ、残念だがな。だが、あんたはこいつに自分の戦っている姿をほとんど見せたことがないな」
プロクスは、黙って聞いている。彼の鬱憤がたまっているのはよくわかっていた。
「見せてやれよ。そうすりゃ、こいつも変わるよ。あんたみたいになりてぇってな。あんたは生ぬるい。こいつがどう言われているか耳に届いているはずだ。――親もわからぬ孤児に、雷蹄など継げるはずがない。騎士王の気まぐれだと。廊下で面と向かって言われたぞ。こいつはいつものことだって言っていたが」
「そうだね。グラディウス侯爵の後継としてルーカスを迎えるよう手続きしたんだが、風当たりが強くなってしまった。王は認めているけれど、一部の貴族が反発している。ど田舎の領主と見せかけて、グラディウスの所有する資産は膨大だ。後見は立てるつもりだが、誰の子ともわからない孤児に引き渡すのは危険だと言う」
「そうだろうとも」
「私はルーカスの両親を知っているのだけど。出生は確かだ。母親は優秀な軍人だったからね」
「そう……はぁ?」
リリアックは立ち止まった。
「リリアック=クラーバ。君にはこれからルーカスの良き導き手となってほしい。そして、彼が成人するまでの護衛を命じる。私が退位した後、雷蹄はルーカスに継がせる」
頭巾越しの静かな視線がリリアックに注がれた。有無を言わせぬ、騎士王の言葉だった。
「わかった、が……三年しかないぞ?今から訓練しないと」
リリアックは、プロクスが腰に差した剣を伺い見る。騎士ならば誰もが憧れる、騎士王の証。
「それはどうしても無理なんだ。ルーカスは肉体的に非常に未熟だ。今のままでこの大剣を手にすれば、両手が崩れる。文字通りな。魔力が安定した時に引き継ぐべきだが、契約で私はその前に退位せざるを得ない。雷蹄の十分の一の威力の武器を持たせ、徐々に魔力を上げる訓練はしているが……」
プロクスは眠るルーカスの前髪をそっと撫でる。
「できるだけ魔力を温存させ、肉体を強化しないといけないんだ。本当ならば、子どもには負担が大きすぎる力だ。強制的に上げる方法もあるが、それは危険で最終手段だ。魔力に満ちた特殊な訓練場でさせなければ」
ふん、とリリアックは笑う。甘いと思う。
「そんな未熟な奴をなぜ選んだ?」
「私が選んだのではない。雷蹄が選んだ。彼が剣を握る未来を、私は夢に見た」
プロクスは白い手袋をはめた両手をじっと眺め、また視線を前に戻す。
「雷蹄の扱いは難しい。アトラスも苦戦していた」
「初代王か」
「そうだ。昔、雷蹄の力が暴走したことがあってな。周囲を巻き込んで破壊の限りを尽くした。【商人】と取引して、何とかアトラスを止めたんだ」
まるで、目の前で見たかのように話す。
リリアックは、ほんの少しだけ違和感を持ったが、すぐにそれは風のように去る。
「いざとなれば、君にはルーカスを止めてほしい。いろいろな役目を押しつけて申し訳ないけれど」
「子守に武器の管理か?落第生の俺に頼むのか?」
「そうだよ。ちなみに契約書作成済で、今日から君は騎士王付の侍従となる。よって、明日の祝賀会にはきちんと参加するように」
リリアックは今日何度目かの舌打ちをした。
彼は、かつて次代雷蹄の後継者とも言われていたのだ。そのための厳しい訓練を受けてきたのに、ルーカスが現われてあっさり放棄された。
その周囲の変わり身の早さは、彼を人間不信にした。だが、そんな彼に手を差し伸べたのは、地獄にたたき落とした張本人であるプロクス=ハイキングだった。
(相変わらず、俺の保護者気取りかよ)
忌々しく思いつつも、リリアックは断れないのだった。
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