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CⅬⅩⅩⅩⅦ 星々の天頂と天底編 前編(2)

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第1章。出立の景色


 その日、双月教国避難民警護の緊急の施策が発動された。

と同時に、旧創派の皇都への移住者の警護の派遣の廃止の予告も、
公表されている。
(黒い森で、移住の説得を続けていたハンニ老は、残留主張の中心人物
 グランスに、臨時代表の座を引き渡し、皇都に移住することになってる。)

メライ老より、残留希望者の最終の意思の確認のため、
自ら、黒い森派遣への同行の申し出が、正式に新帝国あてにあっていたので、
イルムは執政官として、これを許可している。


それで、この日の第1陣として、メライ老・スキ二將・タスク將が、
少数の旧創派出身の騎士と共に、早朝、皇都を出立している。

そして、この日の主隊、第2陣として、ルリ副執政官、リント將・グスタン將・
双月教国軍使者のナナリス、それに新帝国正規軍が、
教会前の広場を先頭に、縦列をつくっている。
なお、ラティスは、この部隊の先頭に、しっかり陣取っている。

第3陣は、皇都より中距離の街道警備が主目的で、今回の応募に答えてきた者の
混成部隊で、新帝国からはリョウリ將、ギルドからは、ギルド長のザクト自身
が参加し、指揮をとることになっていて、翌朝の出立である。

第4陣は、皇都より近距離の街道警備の任務。
これは、アバウト学院の実地訓練の名目で、学院生の部隊で、
学院の魔力剣の名匠ジンバラ老ら数人の講師が指揮をとることになっていて、
アバウト学院臨時講師のヨクスも、クリル大公国の監視官として帯同、
ヨクスは、最終的には、学院生が所定の位置に着いたあと、第2陣に合流する。
第4陣は、翌日、正午の出立である。


・・・・・・・・


「わたしも、ラティスさんもいるので、わざわざ、エリースさんが、
同行する必要はないと、思うんですが?」

と、完璧に御者の姿をまとった、妖精界の魔力頂点のひとりであるラファイアは、
手をすり合わせるような下手したてな態度で、自らの契約者アマトの義妹のエリースに、
たずねをしている。

「あんたねぇ~!義兄ィに対して、会わせて・話させて・切りつけられましたを
やらかした件、忘れたわけじゃないよね~~?!」

「今後も忘れたりしないように、キッチリとその頭に、
焼き付けてやろうか?」

清楚でりんとした美少女の外見は保ったままエリースは、
冷え冷えとした笑顔で、ラファイアにささやく。

。」

と、ラファイアは、下手へたな吟遊詩人の詩の朗読のようなで答え、
エリースの前から回れ右をして、そそくさと、先頭にある鉄馬車へ向かう。
エリースも衆人環視のなかで、電撃を振るうようなマネは避けたいのか、
それ以上は何もせず、あさっての方向、義兄アマトの元へ歩いて行く。

・・・・・・・・

 『はあ~』

この作戦の総指揮官として、隊列の先頭にいたルリ副執政官は、
目の前の鉄馬車の屋根の上で、仁王立ちしている暗黒の妖精ラティスを、
目で追いながら、聴覚の方は、今のエリースとラファイアのやりとりを、
捉えている。

このともうの勝手を許せば、
8割方本作戦は、うまくいかなくなるのは、間違いないだろう。

それでなくても、ルリは、この作戦に関して、ラティスの制御装置としての
アマトを連れだすため、義姉ユウイの同意を取り付けるために、
三拝九拝さんぱいきゅうはいをしたのだ。

ほんと、ユウイの機嫌きげんを損なわないために、
事前にエリースに、ユウイへの打診をお願いし・・・、
そして、ユウイの元に向かったのだが、
その話は、アマトの帯同の話のはずだが、いつの間にか、
アマトを帯同する話にすりかわっている。

仕方なくルリは、エリースこの作戦に帯同するところで、
ユウイを説得するはめになってしまっている。

つまるところ、話が終了したのをみはからって、エリースと契約している
超上級妖精リーエも、自分の目の前に現れ、
⦅わたしの前に道はできる!⦆のポーズを
完璧にとるしまつで・・・。

・・・・

『ははは、それは災難だったね。』

イルムの高笑いが、記憶の底からよみがえる。

『けど、アマトくんを殺すと宣言したヨクスを、
クリル大公国監視官として帯同するように、サシン大使からねじ込まれ、
同意せざるをえなかったからね。
だから、ルリ。エリースを許してあげたら・・。』

『今回の監視官の件では、クリル大公国は、今後は、反ミカルの貴族どもに
加勢するとでもにおわせれば、レリウス大公は同意せざるを得ないだろうし・・。』

『イルム。だからといって、エリースのやつ、ユウイさんを説得するのを、
わたしに一言の断りもなく、押し付けたんだからね!』

そう怒ったわたしの言葉のなかに、かずかな爽快そうかい感が存在するのを、
イルムは感じ取っていたに違いなく、

『ははは、セコイ技術の行使に対しては、偉大な教師ラファイアが側にいるからね。
影響受けるのは仕方ないわ。』

と笑うイルムに、すこしの怒りを感じたのを、あわせて思い出した。

むろん、イルムの真意がそこにないのは、わたしにもわかっている。
エリースまで参加すれば、この作戦が円滑に進む確率は、非常に高くなる。

わたしが、副執政官の職についてる事に、新帝国内の一部に、
疑問の声が上がっているのは、十分承知している。
それでなくても、コウニン王国時代・・暗殺者・・のわたしは、
王帝7世を手にかけていたのだから。

だから、イルムとしては、今回の作戦の成功させて、
わたしに、はくを付けたいのであろう。
新帝国にとって、余人をもって代えがたい人物と認識させるために・・・。

【歴史は、・・強者の・・勝者の・・ものである。】そういう指向の考えの
汚物にまみれることを、イルム自身は、〖よし〗としている。
この国に、わたしの居場所を、固定させ続けるために・・・。


・・・・・・・


第2陣は、モクシ教皇からルリ総司令官に、教皇旗を貸与された後、
この広場から出立することになっている。

いまだ、モクシ教皇はおろか、カシノも教会正門に現れていないこともあり、
隊に並んだ戦士たちの多くに、家族・恋人・友人たちが寄り添っている。
軽い笑いも起っているが、目に涙を浮かべ、または流しながら、
最期の時間を過ごしている人々も多い。

このため他国では、軍の士気の低下を嫌い、対面による見送りを、
禁止しているところも多い。

むろん、今回の作戦は、避難民警護が目的である。
しかし、3ヶ国の連合軍と戦端が開く可能性は、非常に大きい。
見送る人々にとっては、自分の大事な人との最期の時間に
なるかもしれないのである。

これは、ユウイにとっても同じことだった。

「アマトちゃんにエリースちゃん、ルリさんは、妖精さんたちがいるから、
まず負傷などしないと言っていたけど、
もし帰っきた時に、傷のひとつでもあったら、
わたしは、ラティスさんに、ラファイアさん、リーエさんを、
絶対に許さないんだから。その時は3日3晩、くわしい説明をしてもらうわ。」

さっきから、同じようなことを、何度も繰り返すユウイに、
アマトもエリースも、おなじように何度も何度もうなずいている。


・・・・・・・・


≪「あんたたち!危ないと思ったら、このラティスさまの後ろに隠れなさい。
  この事を守れば、高い確率で、皇都に無事に帰ってれるわ!」≫

ラティスのよくとおる声と、圧倒的な精神波がこの場にひびく。
見送りの人々のなかから、暗黒の妖精ラティスに向かって、手を合わせる者、
頭を下げる者が、相次いている。

間をおかず、教会の鐘が、高い清浄な響きをこの場、そして皇都にひびかせる。
見送りの人々は、戦士たちの姿を目に焼き付けるようにして、
隊列から離れていく。

それに合わせたように、教会の扉が開き、モクシ教皇と教皇旗をかかげた、
カシノらが現れる。

今日の皇都の空は高い。
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