38 / 183
第2章
37,エリザベート
しおりを挟む
冒険者ギルドに入ると、お昼近くでも数人は居たようで全員がこちらをぎょっとした顔で見ていた。
カウンターにいるお姉さんまで目を丸くしている。
まぁそれも当然だろう。
一昨日来た時だって外套を羽織った状態でもものすごい注目を集めたのだ。
今はワンピース姿で大きなリボンまでつけている。
アルも外套は羽織らず執事然とした格好だ。前と変わらないけど俺の存在を引き立てていたりして驚くのも無理はない。
一通りギルド内を見渡してエリザベートさんを探したが見つからなかった。中に数人いるとはいってもカウンターはがら空きだったので聞いてみることに。
「すみません、エリザベートさんいますか?」
「あ、はい。少々お待ちください」
背伸びしてカウンターぎりぎりに頭を出して言うとお姉さんは、何か納得して奥の方に引っ込んで行った。
冒険者ギルドに用事があるのではなく、エリザベートさんに用事があるということで納得したのだろう。
そりゃこんな可愛い服着た幼女が冒険者ギルドに何のようだと思うのが正しい。
他の人達もオレの言葉を聞いて一様に納得しているようだ。
オレ達が入ってきてからものすごい静かになっていたので筒抜けだった。
しばらく待っているとぱたぱたと足音が聞こえたかと思うと、小走りで長髪を靡かせたエリザベートさんが姿を現した。
暇だったので掲示板を見ていたオレ達を見つけると、その表情は花が咲いたように明るいものになってすごい勢いでこちらまで接近してきた。
「きゃああああぁあん! ワタリちゃんすっごい可愛い! 抱きしめていい? 抱きしめていい?」
「お断り致します。それ以上近づかないで頂きたい」
「何よー! いいじゃない、ちょっとくらい!」
「お断り申し上げております」
すかさずアルが間に入って勢いそのままに抱きつこうとするエリザベートさんを止めてちょっとしたにらみ合いが始まってしまった。
許可を求める割にはアルが止めなければそのまま抱きしめられていたような気がするが、まぁいい。
そんなことより仲良くして欲しいものだ。会って早々睨みあうとかどうしてこの2人は仲良くできないのか……。
昨日はアルが喋ることはなかったから何もなかったけど、喋ったとたんにこれでは気が滅入ってしまうよ。
「……2人共……喧嘩はだめって言いましたよね?」
「は……申し訳ございません、ワタリ様」
「あ、ご、ごめんね、ワタリちゃん。でも喧嘩してたわけじゃないのよ? ほんとだよ?」
「どう見ても喧嘩してましたから……まったく、仲良くしてください。
これから一緒に食事に行くんですよ?」
「あう……ごめんね。なんかつい……」
「まったく……喧嘩するほど仲がよいっていうけど、そうは見えなかったですからね!」
「はい、ごめんなさい……」
「以後このようなことが無きよう気をつけさせていただきます」
しゅんとしてしまったエリザベートさんに比べてアルはいつも通りだ。
いつも通りすぎて諦め気味だけど、ここで諦めたらアルが成長しなくなっちゃうから諦めてはいけない。
「まぁいいです。それよりお昼休みまでもうちょっとかかりますか?」
「あ、もう大丈夫よ。さぁご飯食べに行こう! 今日は朝抜いてきたからお腹空いてるんだー。
ワタリちゃんはどう? いっぱい食べれる?」
「あー……朝食は普通に食べたので軽く摘むくらいでいいです」
「ありゃ……そっかー。ん~じゃぁどこにしようかなぁ」
「エリザベートさんの行きたいところでいいですよ?」
「そう? じゃぁお言葉に甘えさせてもらっちゃおうかなぁ~」
表情がころころ変わる可愛いエルフさん。
見ているだけでも飽きないが今日はお食事の約束だ。例の情報も欲しいし。
「ではワタリ様」
「うん」
いつものように恭しい態度で手を差し出すアルに手を添える。
それを見たエリザベートさんがおもむろに自分の手も差し出す。
何この状況……。
え、つまり何か? 両手を繋いでらんららーんですか?
「さぁ行きましょう!」
オレの意思はどこにもなく、結局両手を繋いでギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前には小さなサンドイッチが数種類と緑色の飲み物。
サンドイッチの軽い軽食セットだ。
エリザベートさんの目の前にはクリーム色のスープと同じようなサンドイッチ。
こっちは少しボリュームがある。
アルはオレと同じもの。
冒険者ギルドから10分くらいの距離にあるお店に入ったオレ達は今お昼中。
「ここはね~結構安くて美味しいんだよ~。私のお気に入りのお店なの」
「そうなんですかー。うん、美味しい」
「でしょでしょ? ここのサンドイッチは使ってるパンが違うからねぇ。とっても美味しいし、テイクアウトも出来るし結構日持ちもするの。
だからもし、外に依頼をこなしに行くならここでお昼を買ってから行くのもいいよ!」
「そうなんですか。じゃぁ今度依頼を受けたらここでお昼買ってから行こうか、アル」
「畏まりました」
軽く雑談しながら食べていく。
エリザベートさんの話通りにサンドイッチのパンはしっとりふわふわでこれ単体でもかなり美味しいんじゃないかと思えるほどだ。
野菜もシャキシャキしていて瑞々しいし、ハムもその味を主張しすぎないちょうどいい味わい。
数種類のサンドイッチは中身が全部違っていて、量もお昼に食べるには手ごろのサイズ。
他の具も卵だったりツナっぽい何かだったり、その全部が美味しい。
驚くべきことに使っているパンも中身に合わせて変えているようで、しっとりふわふわの物からちょっとぱさぱさしているものまであった。
それでも合わせて食べると絶妙な味わいと食感。
これはいいところを教えてもらった。
というか、エリザベートさんは結構食いしん坊キャラなのだろうか。
海鳥亭も料理が美味しいって特に言ってたし、ここも美味しい。
目の前でスープとサンドイッチをぱくついている表情もすこぶる幸せそうだ。
オレが見ていることに気づいたエリザベートさんはにっこり微笑んでくれる。
何この人……まじ可愛いんですけど!
そんな感じに楽しい昼食はあっという間に終わってしまった。
だが、ここからが本番だ。
食後のコーヒーの味がする紫色の飲み物を一口飲んで気分を落ち着ける。
「エリザベートさん。昨日頼んでいた情報のことなんですけど」
「えぇ、ちゃんと調べてきたわ。はい、これね」
そういって一緒に持ってきていた鞄の中から取り出したのは結構な量の紙束だった。
まさか1日経たない程度の時間でこれほど調べたのか?
「これは全部アディントン家、例の広場で捕縛された男の屋敷にいた奴隷の情報よ。
あの屋敷には相当数の奴隷が居たみたいで、そのうちのほとんどが結構な怪我を負っていたわ。
騎士団が屋敷に突入した時には奴隷を盾にしてかなりの死者も出たみたいで、こっちが奴隷の死者の情報。
こっちが怪我人の情報でこっちがそれ以外の奴隷の情報」
「こんなに……」
「うん、私も調べてみてびっくりしたわ。あの貴族は最低ね……。
ワタリちゃんが言ってた子は騎士団に連れて行かれた後は屋敷にいた怪我人の奴隷と一緒にされてたようで詳しくはわからなかったわ。
だからこっちの情報だけを参考にするのがいいかしら。
もし該当する情報がなかったらと思って全ての奴隷情報を持ってきたの」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「ううん、ワタリちゃんのためだもの。これくらいなんでもないわ。
今度また一緒にお食事したり、どこかに一緒に行ってくれたりするだけで十分」
「あ、あはは……」
苦々しい空気を払拭するかのようにおどけてみせるエリザベートさんに苦笑しながら、渡された怪我人の奴隷の情報を見ていく。
写真のようなものはなかったが、そこには名前や出身、種族や特徴などが書かれていた。
簡単に書かれているにも関わらず1枚の紙に十人。それが30枚以上ある。
怪我人だけでこれだ。
死者の紙束もそれに近いだけあり、それ以外のは3分の1程度。
エリザベートさんが最低というのも頷ける。
広場で見た狐の獣人の子の特徴と合致する物を選んでは抜いていく。
少し精査すると該当するだけで十数人いる。
「やっぱり1人1人の情報が少ないから難しいかしら」
「そうですね……でもおかげで絞れましたし、あとは……」
「生き残ってる奴隷は全て奴隷商が引き取っていったはずだから、あとは奴隷商を当たるしかないわね……」
「この街には奴隷商はどのくらいあるんですか?」
「結構あるわ。アディントン家の奴隷はかなりの量だったから1つの奴隷商だけでは引き取りきれなかったはずだから……たぶんかなりの数の奴隷商が引き取っていったはずよ」
「となると……奴隷商を回るだけでも一苦労しそう……」
このラッシュの街はかなり大きい。
そんな大きな街だから同じ商いでもかなりの数が共存できる。奴隷商という特殊な供給ルートが必要な商いでも共存できるほどだ。
数が多くても総当りしか今のところ手がない。情報をもう少し絞れればよかったのだが、これだけの情報をたった1日足らずで調べ上げてくれたエリザベートさんには感謝こそすれ、そんなことを言える訳がない。
「とにかく、1つ1つ当たってみることにします」
「でもかなりの数あるのよ? 1人では大変だわ。何日かかるかわからないし、その間に売れてしまう事だってあるわ。
だから、私も手伝ってあげる」
「え、でも……」
「ワタリちゃん……その子を助けてあげたいんでしょ?」
「……はい」
エリザベートさんの諭すような微笑に何もいえなくなってしまった。
確かにぐずぐずしていたら売れてしまうかもしれない。そうしたら次はどんな目に合わされるかわかったものではない。
もしかしたらいい人に買われるかもしれない。オレに買われるよりは幸せになるかもしれない。
でもそれは……希望的観測に過ぎない。
アディントン家の奴隷の扱いが、エリザベートさんに最低といわせるほどの酷いものだったのだからそういう扱いが一般的だとは思わない。
だが昨日広場で見たあの光景は弱者が甚振られているのを傍観するだけという、周りにたくさん集まった人達の行動から奴隷というものがどういう存在なのかを如実に表している。
まさに物なのだ。
所有物を所有者がどう扱おうとその人の勝手。そこに感情は存在しない。
それがこの世界での常識。
だから決めた以上最善を尽くす。
あの子を探し出して引き取る。その後のことはまだ分からないけど、せめて人並みに生きていけるようにしてあげたい。
異世界にきてまだ3日目。
自分の生き方すら定まっていないこんな状況で他人を救おうなんて傲慢かもしれないが、もう決めてしまったことだ。
あとは最善を尽くすのみ。
カウンターにいるお姉さんまで目を丸くしている。
まぁそれも当然だろう。
一昨日来た時だって外套を羽織った状態でもものすごい注目を集めたのだ。
今はワンピース姿で大きなリボンまでつけている。
アルも外套は羽織らず執事然とした格好だ。前と変わらないけど俺の存在を引き立てていたりして驚くのも無理はない。
一通りギルド内を見渡してエリザベートさんを探したが見つからなかった。中に数人いるとはいってもカウンターはがら空きだったので聞いてみることに。
「すみません、エリザベートさんいますか?」
「あ、はい。少々お待ちください」
背伸びしてカウンターぎりぎりに頭を出して言うとお姉さんは、何か納得して奥の方に引っ込んで行った。
冒険者ギルドに用事があるのではなく、エリザベートさんに用事があるということで納得したのだろう。
そりゃこんな可愛い服着た幼女が冒険者ギルドに何のようだと思うのが正しい。
他の人達もオレの言葉を聞いて一様に納得しているようだ。
オレ達が入ってきてからものすごい静かになっていたので筒抜けだった。
しばらく待っているとぱたぱたと足音が聞こえたかと思うと、小走りで長髪を靡かせたエリザベートさんが姿を現した。
暇だったので掲示板を見ていたオレ達を見つけると、その表情は花が咲いたように明るいものになってすごい勢いでこちらまで接近してきた。
「きゃああああぁあん! ワタリちゃんすっごい可愛い! 抱きしめていい? 抱きしめていい?」
「お断り致します。それ以上近づかないで頂きたい」
「何よー! いいじゃない、ちょっとくらい!」
「お断り申し上げております」
すかさずアルが間に入って勢いそのままに抱きつこうとするエリザベートさんを止めてちょっとしたにらみ合いが始まってしまった。
許可を求める割にはアルが止めなければそのまま抱きしめられていたような気がするが、まぁいい。
そんなことより仲良くして欲しいものだ。会って早々睨みあうとかどうしてこの2人は仲良くできないのか……。
昨日はアルが喋ることはなかったから何もなかったけど、喋ったとたんにこれでは気が滅入ってしまうよ。
「……2人共……喧嘩はだめって言いましたよね?」
「は……申し訳ございません、ワタリ様」
「あ、ご、ごめんね、ワタリちゃん。でも喧嘩してたわけじゃないのよ? ほんとだよ?」
「どう見ても喧嘩してましたから……まったく、仲良くしてください。
これから一緒に食事に行くんですよ?」
「あう……ごめんね。なんかつい……」
「まったく……喧嘩するほど仲がよいっていうけど、そうは見えなかったですからね!」
「はい、ごめんなさい……」
「以後このようなことが無きよう気をつけさせていただきます」
しゅんとしてしまったエリザベートさんに比べてアルはいつも通りだ。
いつも通りすぎて諦め気味だけど、ここで諦めたらアルが成長しなくなっちゃうから諦めてはいけない。
「まぁいいです。それよりお昼休みまでもうちょっとかかりますか?」
「あ、もう大丈夫よ。さぁご飯食べに行こう! 今日は朝抜いてきたからお腹空いてるんだー。
ワタリちゃんはどう? いっぱい食べれる?」
「あー……朝食は普通に食べたので軽く摘むくらいでいいです」
「ありゃ……そっかー。ん~じゃぁどこにしようかなぁ」
「エリザベートさんの行きたいところでいいですよ?」
「そう? じゃぁお言葉に甘えさせてもらっちゃおうかなぁ~」
表情がころころ変わる可愛いエルフさん。
見ているだけでも飽きないが今日はお食事の約束だ。例の情報も欲しいし。
「ではワタリ様」
「うん」
いつものように恭しい態度で手を差し出すアルに手を添える。
それを見たエリザベートさんがおもむろに自分の手も差し出す。
何この状況……。
え、つまり何か? 両手を繋いでらんららーんですか?
「さぁ行きましょう!」
オレの意思はどこにもなく、結局両手を繋いでギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前には小さなサンドイッチが数種類と緑色の飲み物。
サンドイッチの軽い軽食セットだ。
エリザベートさんの目の前にはクリーム色のスープと同じようなサンドイッチ。
こっちは少しボリュームがある。
アルはオレと同じもの。
冒険者ギルドから10分くらいの距離にあるお店に入ったオレ達は今お昼中。
「ここはね~結構安くて美味しいんだよ~。私のお気に入りのお店なの」
「そうなんですかー。うん、美味しい」
「でしょでしょ? ここのサンドイッチは使ってるパンが違うからねぇ。とっても美味しいし、テイクアウトも出来るし結構日持ちもするの。
だからもし、外に依頼をこなしに行くならここでお昼を買ってから行くのもいいよ!」
「そうなんですか。じゃぁ今度依頼を受けたらここでお昼買ってから行こうか、アル」
「畏まりました」
軽く雑談しながら食べていく。
エリザベートさんの話通りにサンドイッチのパンはしっとりふわふわでこれ単体でもかなり美味しいんじゃないかと思えるほどだ。
野菜もシャキシャキしていて瑞々しいし、ハムもその味を主張しすぎないちょうどいい味わい。
数種類のサンドイッチは中身が全部違っていて、量もお昼に食べるには手ごろのサイズ。
他の具も卵だったりツナっぽい何かだったり、その全部が美味しい。
驚くべきことに使っているパンも中身に合わせて変えているようで、しっとりふわふわの物からちょっとぱさぱさしているものまであった。
それでも合わせて食べると絶妙な味わいと食感。
これはいいところを教えてもらった。
というか、エリザベートさんは結構食いしん坊キャラなのだろうか。
海鳥亭も料理が美味しいって特に言ってたし、ここも美味しい。
目の前でスープとサンドイッチをぱくついている表情もすこぶる幸せそうだ。
オレが見ていることに気づいたエリザベートさんはにっこり微笑んでくれる。
何この人……まじ可愛いんですけど!
そんな感じに楽しい昼食はあっという間に終わってしまった。
だが、ここからが本番だ。
食後のコーヒーの味がする紫色の飲み物を一口飲んで気分を落ち着ける。
「エリザベートさん。昨日頼んでいた情報のことなんですけど」
「えぇ、ちゃんと調べてきたわ。はい、これね」
そういって一緒に持ってきていた鞄の中から取り出したのは結構な量の紙束だった。
まさか1日経たない程度の時間でこれほど調べたのか?
「これは全部アディントン家、例の広場で捕縛された男の屋敷にいた奴隷の情報よ。
あの屋敷には相当数の奴隷が居たみたいで、そのうちのほとんどが結構な怪我を負っていたわ。
騎士団が屋敷に突入した時には奴隷を盾にしてかなりの死者も出たみたいで、こっちが奴隷の死者の情報。
こっちが怪我人の情報でこっちがそれ以外の奴隷の情報」
「こんなに……」
「うん、私も調べてみてびっくりしたわ。あの貴族は最低ね……。
ワタリちゃんが言ってた子は騎士団に連れて行かれた後は屋敷にいた怪我人の奴隷と一緒にされてたようで詳しくはわからなかったわ。
だからこっちの情報だけを参考にするのがいいかしら。
もし該当する情報がなかったらと思って全ての奴隷情報を持ってきたの」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「ううん、ワタリちゃんのためだもの。これくらいなんでもないわ。
今度また一緒にお食事したり、どこかに一緒に行ってくれたりするだけで十分」
「あ、あはは……」
苦々しい空気を払拭するかのようにおどけてみせるエリザベートさんに苦笑しながら、渡された怪我人の奴隷の情報を見ていく。
写真のようなものはなかったが、そこには名前や出身、種族や特徴などが書かれていた。
簡単に書かれているにも関わらず1枚の紙に十人。それが30枚以上ある。
怪我人だけでこれだ。
死者の紙束もそれに近いだけあり、それ以外のは3分の1程度。
エリザベートさんが最低というのも頷ける。
広場で見た狐の獣人の子の特徴と合致する物を選んでは抜いていく。
少し精査すると該当するだけで十数人いる。
「やっぱり1人1人の情報が少ないから難しいかしら」
「そうですね……でもおかげで絞れましたし、あとは……」
「生き残ってる奴隷は全て奴隷商が引き取っていったはずだから、あとは奴隷商を当たるしかないわね……」
「この街には奴隷商はどのくらいあるんですか?」
「結構あるわ。アディントン家の奴隷はかなりの量だったから1つの奴隷商だけでは引き取りきれなかったはずだから……たぶんかなりの数の奴隷商が引き取っていったはずよ」
「となると……奴隷商を回るだけでも一苦労しそう……」
このラッシュの街はかなり大きい。
そんな大きな街だから同じ商いでもかなりの数が共存できる。奴隷商という特殊な供給ルートが必要な商いでも共存できるほどだ。
数が多くても総当りしか今のところ手がない。情報をもう少し絞れればよかったのだが、これだけの情報をたった1日足らずで調べ上げてくれたエリザベートさんには感謝こそすれ、そんなことを言える訳がない。
「とにかく、1つ1つ当たってみることにします」
「でもかなりの数あるのよ? 1人では大変だわ。何日かかるかわからないし、その間に売れてしまう事だってあるわ。
だから、私も手伝ってあげる」
「え、でも……」
「ワタリちゃん……その子を助けてあげたいんでしょ?」
「……はい」
エリザベートさんの諭すような微笑に何もいえなくなってしまった。
確かにぐずぐずしていたら売れてしまうかもしれない。そうしたら次はどんな目に合わされるかわかったものではない。
もしかしたらいい人に買われるかもしれない。オレに買われるよりは幸せになるかもしれない。
でもそれは……希望的観測に過ぎない。
アディントン家の奴隷の扱いが、エリザベートさんに最低といわせるほどの酷いものだったのだからそういう扱いが一般的だとは思わない。
だが昨日広場で見たあの光景は弱者が甚振られているのを傍観するだけという、周りにたくさん集まった人達の行動から奴隷というものがどういう存在なのかを如実に表している。
まさに物なのだ。
所有物を所有者がどう扱おうとその人の勝手。そこに感情は存在しない。
それがこの世界での常識。
だから決めた以上最善を尽くす。
あの子を探し出して引き取る。その後のことはまだ分からないけど、せめて人並みに生きていけるようにしてあげたい。
異世界にきてまだ3日目。
自分の生き方すら定まっていないこんな状況で他人を救おうなんて傲慢かもしれないが、もう決めてしまったことだ。
あとは最善を尽くすのみ。
10
お気に入りに追加
802
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる