呪いの指輪が外れないので、とりあえずこれで戦ってみた。

犬尾猫目

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野良ゴブリン血風録

草原の謝肉祭

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当初の不安をよそに、思いのほかヤナは好調で毎日魚の水揚げがあった。

「魚の開きが作り放題だ。保存食バンザイってね。」

だがさすがに魚だけではもの足りないし、ハーブは庭先で採れるが塩ばかりはいつか底をつく。
川は海に流れ込むとすれば・・・。流れの先に行ってみるのも手だ。

「ハヤテの足で海までどれくらいかかる?」

「我は海など知らないぞ。」

別に海水浴や釣りなどの用事も無いのに海まで行く訳ないわな。

「なぁユーキぃ、狩りにいかないか?」

回復魔術のおかげでハヤテはすっかり完治していた。しかし大事をとって2日の安静をハヤテに申しつけている。

「さすがにハヤテもそろそろ退屈かぁ。どこで狩るんだ?」

「何を食いたいかによって変わるかな。猪なら森だし牛なら草原だ。」

豚肉、牛肉と甘美な響きだが、少し引っかかる。

「牛だって?それはもしかして人間の集落だったりするのか?」

「そう言えば近くに人もいたような。」

やはり。牛などを狩りに行けば人間たちに返り討ちにされるじゃんか。

「もしかして柵を乗り越えてその中の牛とか襲ったりした?」

「いいや、何の話だ?」

どうやら農場の牛を襲って返り討ちにあった訳ではないらしい。野牛であれば問題ない。

「いや、いいんだ。気にしないでくれ。俺はしばらく前に草原で人間に殺されそうになったからちょっと怖くてな。」

「そうだな。あそこは馬で荷物を運んだりしているから確かに人間によく出くわす。気をつけないと襲われるからな。たまにゴブリンやオークも見るぞ。」

そうか、あの草原は集落と集落をつなぐ街道があるのかも。何とか調味料だけでも手に入らないもんかね。できれば作物の種や主食になる米、小麦とかも。気は進まないが近隣のことも知っておきたい。そうなるとどうしても草原に打って出る必要はある。

「草原に行ってみよう。」

あれからクロヴィウスの書斎で研究し、魔術の試行錯誤も繰り返して来た。魔術は自分で術式を組めば使えるみたいだが残念ながらその方法はわからなかった。

「俺は指輪の術式を作動させて、やっと魔術を使える程度なんだよなぁ。」

魔術を使うすべが無い俺にとっては便利な指輪だが、クロヴィウスの日記によるとこの指輪を作った目的はいくつかあるそうだ。

一つは魔術の同時行使。複数の魔術を同時に行使することは理論上可能であるが、実践するのは神業の領域であるらしい。術式の構成を肩代わりさせれば同時行使も訳は無いということだ。

「ということは俺が一度に行使できる魔術は一つになる。俺は自分で術式を構成できないからな。ちょっと待てよ、指輪には何種類も魔術の術式が組み込まれている。とすれば一度に何個も発動させればいいじゃないか。」

しかしながらさすがに都合よくいかない。複数の術式を同時に発動させることはできなかった。

「おかしい、翻訳や結界の術式は同時使用できているんだがなぁ。他にうまい方法でもあるのか?」

そしてもう一つの目的は緊急手段だ。術者が魔術を封印されても指輪による魔術行使は封印されないとのこと。
さらに絶え難い激痛により精神の集中を欠き、術式を構成できない程の状態でも精密な魔術の発動が期待できる。魔術に頼り切りの場合、特に魔術師は物理攻撃に対して脆弱であるため切り札を用意する。本人の魔力が枯渇しても指輪に蓄積された魔力で魔術を使うことが可能なのも良い。制約はあるが、使い方次第でいくつもの戦術が組み立てられる。

ーーー

「すごい速い、最高の気分だ!」

俺は今、ハヤテの背に乗って移動している。俺と徒歩で移動していたら日が暮れると、業を煮やしたハヤテが乗せてくれたのだ。もし敵がいても騎兵でもないかぎりは確実に逃げきれるぞ。

「そうだろユーキ。我は速いのだ。もっとほめていいんだぞ。」

ハヤテも久しぶりに全力で駆けられるのでとても上機嫌だ。バイクの免許は持っていなかったが、バイクもこんな感じなのだろうか。
こんなに気分爽快なら乗っておけばよかったと勇騎は後悔する。いつの時代も人生でやれることはやれる内にやっておくべきなのだ。いつ死ぬかわからない異世界、後悔するような生き方しててもダメだ。

「ん?」

「ハヤテ、何かあったか?」

「向こうから血の臭いがする。行ってみるか?」

「俺たちに迫る危険かもしれないから確認しておく必要はあるな。気は進まないが、遠くから様子を見て判断しよう。巻き込まれない距離まで近づこう。」

「よし来た。」

ハヤテが臭いのする方向に向けて駆け出す。様々な可能性を考えているわずかの間に現場付近にたどり着いた。

「あれか。」

茂みに身を潜めて確認すると馬車の周囲で戦闘が行われていたようだ。

「御者台から引きずり下ろされたな、商人か?野盗の集団に襲われたのか。」

野盗と護衛者それぞれの死体がそこらに転がっており、野盗は4人生き残っている。確認できる状況はそんなところだ。

「清く正しいゴブリンから見れば人間同士の小競り合いだ、我が身を危険にさらす価値はないね。」

「馬車の荷は全て差し上げますからお命だけはお助けください。」

商人は泣きながら命乞いをしている。対して野盗は下卑たわらいを返して剣を突きつけた。

「ああいただくよ。けどな、俺たちは野盗だ。お前を殺して奪えばいいだけだろ。俺たちの仲間が何人も殺られちまったからよー。お前を生かして帰すなんて選択肢はハナからねーんだわ。」

「はははっ、頭はおっかねぇなぁ。お前助からねーってよぉ。」

「お前この状況で俺たちと取引できる立場か?おめでたい野郎だ!」

むぅ・・・、血も涙も無い悪党ってのはどいつもこいつも同じなのかねぇ。「どこを切っても同じ」って、金太郎飴かよ。テンプレ野郎め、腹立ってきた。アイツら油断しているから今ならやれそうだな。

わざわざ人間を助けてやりたい訳ではないし、そんな義理も無い。小競り合いに介入するのは正義感ではなく、漁夫の利を得るという実利を優先するからだ。よし、見てろ!

「ハヤテ、奴らの後ろに回り込んで奇襲するぞ。武器を持っている4人を殺る。できるか?」

「ああ。先制攻撃でまず一人にトドメを刺して見せる。まかせろ!」

「上等だ、行くぞ!」

合図とともにハヤテは回りこむように駆けながらトップスピードで野盗の首筋目がけて突っ込む。一方の勇騎はハヤテの背から飛び上がり上空からウィンドブレードを放った。

「うわぁっ、助け・・・」

ハヤテが野盗の首筋に噛みついて引きずり倒すとそのまま喰い千切ってしまった。その光景に慌てて武器を構えた野盗の首が相次いで宙を舞う。一瞬で3人を無力化した。

「あわわわわ・・・・」

地面に伏せていた商人は口を震わせながら頭を抱えて動けなくなっている。

「くそ、何だこりゃ。ファーウルフとゴブリンだと!お前ら何をした!」

野盗の頭が武器を構えているが明らかに狼狽している。

「ん?お前ゴブリンのくせに妙な格好しやがって。よく見りゃ丸腰じゃねぇか。お前から先にブチ殺してやる!」

野盗の頭が斬りかかって来る。しかし間合いに入る前にウィンドブレードで剣を握った腕ごと切り落としてやった。

「ぐがぁ、い、痛ぇ。チクショー。何でただのゴブリンが魔術を使えるんだ!」

切り落とされた部位を庇うように抱えて野盗の頭は怨嗟の叫びを上げる。無力化しているが油断すると足下をすくわれるのは俺たちも同じだ。トドメを刺すまでは安心できない。右手を掲げて魔術を放とうとすると野盗が声を上げた。

「ま・・・、待ってくれ。俺を見逃してくれ。腕もこの通りだ、もう何もできねぇ。そうだ、俺の持っているものなら何でもお前にやる。だから頼む、助けてくれ。」

「なるほど。」

最期のあがきに無理を承知でゴブリン相手に話しかけたのだろう。人語を解するはずが無いゴブリンからの返事を受けて野盗の顔に驚きと喜びが入り混じった表情が浮かぶ。

「お前、話せるのか?だったら俺の言ったことわかるよな。俺を見逃せば」

「お前はそこにいるそいつを見逃したのか?」

俺は相手の言葉をさえぎるように質問を被せる。野盗の顔が絶望にゆがんだ。

「あ・・・。ああ、俺はそいつを見逃すつもりだった。」

一瞬言いよどんだ後、卑屈な笑いを浮かべて野盗が答える。目の前の男は明らかに嘘をついている。これにより勇騎の心は決まった。

「そうか、では俺もお前を見逃すとしよう。」

「ありがてえ」

その言葉を聞いて勇騎が野盗に背を向けると、野盗はやおら落ちた剣を拾い勇騎に斬りかかる。

「死ねやクソゴブリンが!」

その瞬間、野盗の視界が斜めに回転した。そして自らの状況を理解するまでにさらに数秒かかっただろう。目の前のゴブリンは振り向いたまま魔術を発動させて野盗の身体を真っ二つに切り裂いた。

「スキを見せたら斬りかかると思ってたよ。」

戦闘を終えてハヤテが近づいて来る。

「ユーキは後ろにも目がついているのか?背中に魔力を集中させて何してるんだと思ったぞ。で、地面に伏せてるこいつはどうする?食べちゃう?」

「ダメだよハヤテ。今日は牛にするっていったろ。」

「うーん、それもそうだな。じゃあ早く行こうよ。」
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