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拾◆池田屋事変
二十一
しおりを挟むそれは突然の要求だった。千早は帝の切り替えの早さに、これでもかと目を大きく開かせる。
「ちょ……っと、何言ってるの、こんな時に」
「こんな時だからだろ。なぁ……ダメ?」
「~~っ」
――ああ、その声は反則だ。
千早の頬が赤く染まる。
帝の声は色っぽくて、その微笑みは見ているだけで甘くて……こんな状況なのに、こんなことしている場合じゃないのに、どうしたって引き寄せられてしまう。
「な――千早」
そうして次の瞬間には、唇をふさがれてしまうのだ。
――そう、こんな風に。
「……ん……っ、みか……っ」
「黙って」
「――んんッ」
それは本当に長い長い口づけ。
再び背中に回された力強い腕が、決して抵抗を許さない。
「……く……るしっ」
激しくて、激しくて……息をするのも忘れてしまいそうになる。
奪うような、何か大切なものを奪われるような……。頭の中が痺れて、何も考えられなくなる。
「……可愛い」
「~~っ」
キスとキスの僅かな合間に、耳元で囁かれる甘い声。身体の芯に染みわたる――心地よい低音。
「千早の全部……俺に頂戴」
その手が背中から腰へゆっくりと往復した。優しく、なめらかに、けれど――執拗に。
「声……出していいよ」
「……んっ、……あ、……んんっ」
「……はは。やべーよ、……その顔すげーエロイ」
恍惚とした表情で囁く帝は、――千早のよく知る帝だった。この時代にくる前の、彼女のよく知る帝の姿だった。
自信家で、自己中で、自分の欲望に忠実で……けれどいつだって誰よりも輝いていて、誰からも頼りにされる、そんな彼。――例えそれが、彼の素顔ではなかったとしても、
「……千早、愛してる」
その声は何よりも強い麻薬となって、千早の全身を犯していく。
帝のその熱い視線が、甘い声が、切なる吐息が、力強い腕が――その全てが太い鎖のように、千早の心と身体に絡まり、もうどこにも逃がさない。
「……口、開けて」
「……ん、……ふっ」
言われるがままに唇を薄く開けば、次の瞬間には全身を犯されたように身体が痺れて思考が麻痺していった。
――あれ、何だろう。何か…………変。
自分の咥内に侵入してきた帝の熱に犯される。――けれどそれとは違うほんの少しの違和感に……千早は思わず目を見開いた。
「――ん、……んッ」
そうして彼女は、帝の胸を押し返そうと腕に力を込める。けれどそれは叶わなかった。
「………やっ……ぁ」
――なんで……こんなに、ねむいの……?
彼女がそれを自覚したときには瞼は重く、必死に上げようとしてみても、もう、ちっとも上がらなかった。
――どう……して……。
その理由を確かめる間もないまま、千早の思考は深い闇に落ちていく。その最中にも、帝の舌は帝の口の中を侵し続けていた。最後まで――抜かるものかとでも、言うように。
そうして数秒の後、千早の腕がだらりと落ちる。全身から力が抜けて、帝の呼びかけにも全く応じなくなった。
帝は千早が完全に眠ってしまったことを確認し、ようやく千早の唇を開放する。その表情にはほんの少しの後悔と、――覚悟。
「……おやすみ、千早」
彼は甘く優しい声で囁いて、すっかり眠りに落ちた千早を背中におぶり、静かにその場を後にした。
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