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拾◆池田屋事変
五
しおりを挟むそんなことを考えている私に、帝は更に続ける。
「だが、あの後俺たちが移動した距離から考えて、あのとき俺たちが立ってた場所って、未来で桜の木があったところと同じだったと推測される。あとは日付も。俺たちがこっちに来た日、元居た時代では新月で、こっちに来たら満月だった。それを考慮して旧暦から西暦に換算すると、1864年の4月21から23日に当たる。つまり、俺たちは場所はそのままに、きっかり148年の時間を遡ったってことになるんじゃないかと」
「うん。つまり、あの場所に秘密がありそうってことだよね。共通項は、今のところ「場所」だけだから」
「ああ。だからまずは、もう一度あの場所に行ってみることが先決だろうな。タイムスリップなんてあり得ないけど、実際こうやってあり得てるわけで。あの場所が見つけられれば、時間を移動した原因が掴めるかもしれない。……まぁ、現状それは出来ないわけだけど」
帝の言う通り、まだ私たちは単独行動は許されていない。非番の日でも、誰かと一緒でなければ外出を許してもらえないのだ。
「俺が山南さんに見せて貰った地図でも、やっぱり俺たちが居たのは学校付近の場所で間違いなさそうだった。明るい時間なら見通しもいいし、結構簡単に見つかるんじゃないかと。まぁ……そこはおいおい探すとして」
帝は思案顔で言葉を濁す。
「……今一番気になるのは、千早を助けてくれた廉さん似の男だよな」
「……」
――あの事件があった日、屯所に帰ってきた私と沖田さんが事の顛末を土方さんに伝えたあと、私はすぐに帝に“あの人”のことを話した。勿論、他の誰かには決して聞かれないように細心の注意を払って、だ。
そのときのことを一つ残らず話した帝は、すぐに“あの人”の発したおかしな言葉に気が付いた。そう、あの時彼は私のことを「女」と言ったのだ。絡んできた男たちに対し、「女子供に手を出すとは武士の風上にもおけない」――と。
そのことに一瞬で気づいた帝はこう推理した。「その人は千早のことを最初から女だって知っていたんじゃないか」と。
私も、言われてみれば確かにそうだと思った。普通なら、男の着物を着、男の髪型をした私を女だと思うわけがない。つまり、きっとあの人は最初から私のことを知っていたのだ。
「まぁ、とは言え今は何一つ手がかりはないし、名前も知らない相手をこちらから捜すのは不可能だ。向こうが俺たちのことを知っているのだとしたら、きっとまた向こうから現れてくれるだろうから……とにかく今はそれを待つしかないな」
確かに、今は待つしかない。だって私たちは実際のところ、どうしてこんなことになってしまったのかまったくわかっていないのだから。
ここに来てしまった理由も、方法も、そしてどうやって未来に帰るのかも――。
「……でもまぁ、あんまり悲観しないでいよう。取り敢えずはなんとかここででやっていけそうだし。皆いい人たちだから、しばらくは生きるのに困ることはないだろう」
「うん、そうだね」
私は再び頷いた。帝の言うとおりだ。
私たちのような素性の怪しい者を、新選組の皆は受け入れてこうやって養ってくれている。何も出来ない子供を、即戦力にもならない私たちを。それだけが唯一の救いだ。
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