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六◆偽りの過去
十八
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――何故土方さんがここにいるんだ。そう思った沖田は、必死に感情を押し殺して返事をしようとした。けれど土方は、沖田の返事を待つことなく、そして戸を開けることもなく告げる。
「あいつらの存在がお前の心をかき乱すってェんなら、今からでも遅くはねェ。あいつらを今すぐここから追い出したっていいんだぜ」――と。
それは確信をついた言葉で、沖田は身体を強張らせた。自分の心は間違いなく土方に読まれている。――そう悟らざるを得なかった。
「まさか忘れたわけじゃねェだろうな。俺たちが何の為にここに居るのか。何の為に戦うのか。お前の価値はなんなのか」
「――っ」
戸を一枚挟んだ向こう側から、土方にじっと睨まれているような気がして、沖田はその場で俯いた。あまりの自分の不甲斐なさに腹が立った。一体自分は何をしているんだろうと。どうしてこんなことで心を乱されているのだろうと。
「もしもそれが思い出せねェってんなら、俺が今直ぐ思い出させてやろうか」
「……っ」
「思い出せ、総司。お前が力を欲した理由を。その腰の刀は一体何の為にあるのかを――」
「……土方、さん」
沖田は拳を握り締める。
――何故僕は……土方さんにこんなことまで言わせているんだ。
沖田は先ほどまで帝に感じていた苛立ちを一切忘れて、自分自身に憤る。
「……僕は……馬鹿か」
深入りするな――と、そう言われていたのに。気づかないうちに泥の中に両足を突っ込んでしまっていた。周りなど見えなくなっていた。その事実を、こんな風に土方の手を煩わせてようやく気付くことになるなんて……。
――僕は新選組の為に戦うと決めた。命尽きるまで、近藤さんや土方さんの為にこの力を使うと決めた。僕の未来は新選組と共にあると――ずっとずっとそう信じて来た。それなのにこんな些細なことで苛立って、自分を忘れて……。
沖田の脳裏に蘇る、これまでの長い長い日々。十年の月日を共に過ごした仲間との日々――。
――ああ、そうだ。今さらこんなことに気持ちを揺さぶられている場合ではないんだ。しっかりしろ。新選組一番隊組長――沖田総司。だって僕の心は、いつまでも新選組と共にある――そうだろう?
「……ありがとうございます、土方さん」
沖田は両目を固く閉じ、深く深く息を吐く。それは身体に溜まった不要な感情を全て取り除くべく。一切の迷いを捨て去るべく――。
扉の向こうの土方の声が、沖田に決断を迫る。
「お前が決めろ」と。「あいつらをどうするか、今直ぐ決めろ」――と。その声に、沖田は……。
◇
沖田は戸を勢いよく開け放つ。するとすぐに土方と目があった。自分を見つめる鋭い瞳。一片の容赦もない“鬼の副長”の顔。
そんな土方を、沖田は今度こそ真っ直ぐに見据える。一切の迷いのない瞳で――ニヤリと口角を上げて。
「何も問題はありません。彼らは貴重な戦力になるでしょうから、このまま手元に置いておきましょう。ね、土方さん?」
――無邪気にそう言って、冷たく微笑んでみせた。
「あいつらの存在がお前の心をかき乱すってェんなら、今からでも遅くはねェ。あいつらを今すぐここから追い出したっていいんだぜ」――と。
それは確信をついた言葉で、沖田は身体を強張らせた。自分の心は間違いなく土方に読まれている。――そう悟らざるを得なかった。
「まさか忘れたわけじゃねェだろうな。俺たちが何の為にここに居るのか。何の為に戦うのか。お前の価値はなんなのか」
「――っ」
戸を一枚挟んだ向こう側から、土方にじっと睨まれているような気がして、沖田はその場で俯いた。あまりの自分の不甲斐なさに腹が立った。一体自分は何をしているんだろうと。どうしてこんなことで心を乱されているのだろうと。
「もしもそれが思い出せねェってんなら、俺が今直ぐ思い出させてやろうか」
「……っ」
「思い出せ、総司。お前が力を欲した理由を。その腰の刀は一体何の為にあるのかを――」
「……土方、さん」
沖田は拳を握り締める。
――何故僕は……土方さんにこんなことまで言わせているんだ。
沖田は先ほどまで帝に感じていた苛立ちを一切忘れて、自分自身に憤る。
「……僕は……馬鹿か」
深入りするな――と、そう言われていたのに。気づかないうちに泥の中に両足を突っ込んでしまっていた。周りなど見えなくなっていた。その事実を、こんな風に土方の手を煩わせてようやく気付くことになるなんて……。
――僕は新選組の為に戦うと決めた。命尽きるまで、近藤さんや土方さんの為にこの力を使うと決めた。僕の未来は新選組と共にあると――ずっとずっとそう信じて来た。それなのにこんな些細なことで苛立って、自分を忘れて……。
沖田の脳裏に蘇る、これまでの長い長い日々。十年の月日を共に過ごした仲間との日々――。
――ああ、そうだ。今さらこんなことに気持ちを揺さぶられている場合ではないんだ。しっかりしろ。新選組一番隊組長――沖田総司。だって僕の心は、いつまでも新選組と共にある――そうだろう?
「……ありがとうございます、土方さん」
沖田は両目を固く閉じ、深く深く息を吐く。それは身体に溜まった不要な感情を全て取り除くべく。一切の迷いを捨て去るべく――。
扉の向こうの土方の声が、沖田に決断を迫る。
「お前が決めろ」と。「あいつらをどうするか、今直ぐ決めろ」――と。その声に、沖田は……。
◇
沖田は戸を勢いよく開け放つ。するとすぐに土方と目があった。自分を見つめる鋭い瞳。一片の容赦もない“鬼の副長”の顔。
そんな土方を、沖田は今度こそ真っ直ぐに見据える。一切の迷いのない瞳で――ニヤリと口角を上げて。
「何も問題はありません。彼らは貴重な戦力になるでしょうから、このまま手元に置いておきましょう。ね、土方さん?」
――無邪気にそう言って、冷たく微笑んでみせた。
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