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六◆偽りの過去

十七

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 それは予想外すぎる問いかけで、沖田は思わず目を見開いた。そして動揺した。けれどその動揺を気取られまいと、表情だけは崩さない。

「どうなんですか、沖田さん」
「……」
 もしや何か気づかれたのか? 大した言葉も交わしていないのに? だとしてもこんなに直接的に聞くものだろうか。一体この男、何を考えている。
 ――そんな風に考えた末、けれど素直に答えるのも癪な気がして、彼はその取り澄ました顔にニコリと笑みを張り付けた。

「そうだね、いい子だと思うよ。何でも一生懸命で素直だし。まだ一ヵ月だけど、ここの皆ともよく馴染んでる。僕も皆も、彼女のことはもう新選組の一員だと思ってるよ」
「……そういう意味ではなくて」
「――? ……ああ、成程。うん、君の言う意味でなら、特に何とも思っていないかな」
「本当ですか?」
「おかしなことを聞くんだね。君は僕に彼女のことを好いて欲しいと思ってるの?」
「……いえ。すみません、じゃあ俺の勘違いですね」

 帝は沖田の答えに「うーん」と小さく呻って庭を見やった。沖田はそんな帝の姿に、この話はこれで終わりだろうと視線を前にやる。――が、話は終わりではなかった。次の瞬間、帝が再び沖田の方を向いたかと思うと、彼は耳元でこう囁いたのだ。「千早は俺のですから、今後とも興味を持たないようにお願いしますね」――と。

 それはまるで牽制けんせいのようで、あるいは挑発のようで、沖田は今度こそ顔をしかめた。チラと帝を流し見れば、そこには自分を敵視し鋭く見つめる両眼がある。それはどう見ても“確信を得ている”と言った表情だった。


◇◇◇


「――生意気な奴」

 沖田はそのときの帝の顔を思い出し、吐き捨てるようにそう言った。それだけでは飽き足らず、苛立ちに身をまかせ右手で壁を殴りつける。

 あれほど人を殴りたいと思ったのは初めてだった。千早が側に居なければ実際そうしていたかもしれない。

 だが沖田には、未だこの苛立ちの原因がわかっていなかった。

 ――そもそも自分は千早を好きだなどと言った覚えはない。それは千早本人にも、他の誰かにも、勿論秋月帝にだって。
 確かに自分は千早を好いているのだろう。それは百歩譲って認めてやる。だが、自分はそれを他の誰にも伝えていない。押し付けてもいない。今後も一切自分の外に出すつもりはない。それなのに、あのあからさまな敵意は一体何だ。あまりに失礼すぎやしないか。

 沖田は、心の奥底から湧き上がってくる苛立ちにただ身体を震わせる。――が、そんなときだった。

「総司」
「――!」

 突然部屋の外から聞こえてきた声に、沖田は我に返った。それは紛れもなく土方の声だった。
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