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元カレとプールと(霞編)
しおりを挟む霞の看護のおかげか、2日も経つとすっかり全快した。霞は約束通り、プール券を買ってきておいてくれたらしい。
「さーてと、それじゃあお約束のプールにでも行こうか。苺ちゃん、誰と行く?」
「霞! プール券、買ってきてくれたしね」
「待ってました~」
霞は、顔をほころばせる。
わたしは、ますます嬉しくなった。
「もう準備してあるから、早く行こ!」
「うんうん、その前に、俺もたまには何か買ってみたいから、デパート寄ってかねえ?」
「うんいいよ~、じゃあ禾牙魅さん、架鞍くん、行ってきまーす!」
霞はデパートの3F、婦人服売り場にわたしを連れてやってきた。
婦人服売り場で、なにを買うつもりなんだろう。
「霞、こんなとこに何の用なの?」
「ん? いいからいいから、苺ちゃんは何か服とかでも見てて」
「? うん」
◇
【鬼精王Side】
苺が去っていくのを見届け、霞は水着売り場に入っていく。
「やぁっぱ苺ちゃんの水着は俺が買ってやりてーからな~。派手なのは苺ちゃんには合いそうにないしな……お、これいい! ぜってーこれ! すみませーん、これください!」
◇
【苺Side】
デパートで何か買ったらしい霞は、今度はカフェテリアにやってきた。
「結局何買ったの? わたしは見るだけで楽しかったから服とか見られて楽しかったけど」
「ほら、ウィンナーコーヒー来たぜ。生クリーム溶けちまうぞ」
霞……ごまかしてる。
と、そのとき。
「あれぇ? 苺じゃん」
「!」
この嫌な声は、聞き覚えがある。
恐る恐る振り返ってみると、通りがかった男女のカップルの男のほうは……元カレのリュウタだった。
リュウタは、歪んだ笑みを浮かべる。
「俺に振られといてすぐ男くわえ込むなんてお前も図太いのな」
ずきん、と心の傷が痛む。
けれど。
「あ~、どこかで聞いた声だと思ったら、未練がましく苺ちゃんの携帯にかけてきたモトカレさんじゃん?」
わたしが涙を堪えたその時、霞がガタッと椅子から立ち上がった。
「なんだよお前……。!? その声……ま、まさかあの電話の」
「覚えといてくれてサンキュ。なかなか色っぽいおねーさん連れてんじゃないの。隅に置けないねえ、あんたも。じゃ、ここらで一発殴らせてでももらいましょーか」
「霞!?」
な、殴るって──本気!?
リュウタも、慌てている。
「ちょ、ちょっと待てよ、俺もうこんな女に用ねえって!」
「だーいじょうぶ、すぐ済むから。はい目ぇ閉じて~?」
「う、うわ」
反射的に目を閉じたリュウタに拳を振りかざした霞は、拳の軌道を変えてリュウタの下半身へ──。
ゲシッとかなり鈍く重い音がした。
「わああっ!!!!!!」
股間を押さえて悶絶しつつ、必死に逃げていくリュウタ。彼女のほうは唖然として、「ちょっとォ、待ってよォ~」と追いかけていった。
霞はくるくると肩を回している。
「ん~、大きさは予想通りってとこか。下の中ってとこ? こりゃ苺ちゃん、【二度目】も血が出てチョット痛いかもよ? まあ相手が俺ならそんなこともないだろうけど」
「え……?」
「ま、これで俺の気も済んだし、プールに行こっか!」
霞……わたしのためにあいつにあんなことしてくれたんだ……。
リュウタにはちょっと可哀想なことをしたかもしれないけど、かなり気分はすっきりした。
そして室内プールにきたわけなんだけど……。
「ねえ霞」
「ん? どうしたの苺ちゃん、そんなに怒った顔して。せっかくの可愛い水着が台無しだよ?」
「わたしが持ってきた水着はどこ行ったのよっ、さては力使って入れ替えたわねっ!?」
更衣室に入って荷物を見て、気づいたんだ。
わたしが持ってきた水着は跡形もなくて、かわりにこの白くてかわいらしい水着が入っていた。
まあ、可愛いことは可愛いんだけど……露出度が、ちょっと。ビキニなんだもん。
「だから、こっちのほうが似合ってるって」
「こんな露出度の高い水着、恥ずかしくてみんなの前に出られないよ~!」
「俺はみんなに見せ付けてやりてぇな。このシチュエーション、完全にカップルだし、このイイ女は俺のモンなんだぜ、って」
「うう~……、自分は水着着てないクセに……」
「俺達【鬼精王】はね、無闇に人の前で露出度高い服着られないの、分かったら早く泳ごうぜ。っと、その前に……」
「?」
わたしが突っ立っている間に、霞はわたしの髪の毛をくるっとねじってどこからか取り出したバレッタで留めた。
「水着にも苺ちゃんにもピッタリ。さあ行こうぜ~、苺ちゃんの泳いで水が滴る姿、そそりそう」
「こっのすけべっ!」
わたしは自棄になってずんずんプールサイドを歩き、ばしゃんと水に飛び込んだ。
ああ、でも。
気持ちいい~!
実際泳ぎ始めると、水の感触がすごく気持ちいい。しばらく泳いでからプールサイドに上がると、霞が缶ジュースを持って立っていた。
「すっきりした顔してるぜ」
「うん、霞も泳げばよかったのに」
ふと、霞が真剣な顔つきになって叫ぶ。
「苺ちゃん!」
ばっと突然真顔で抱きしめられ、わたしはびくっとした。缶ジュースがカラカラ、と落ちる。
なに……? まさか……【鬼精鬼】……?
「苺ちゃん……落ち着いて、よく聞いてくれよ」
霞の真剣な声。わたしは息を呑んだ。
「苺ちゃん……………………透けてる」
「は?」
「白い水着って水に濡れると透けるものもあったのか~、知らなかった俺。苺ちゃんの可愛いピンク色とかが透けちゃっててもう大変」
このっ……なにかと思ったじゃない!
てか絶対確信犯でしょ!
「!!! ばか~っ! 離して、着替えてくるっ!」
「今離すとみんなに苺ちゃんの身体見えちまうって」
「着替えるったら着替える~っ!! あ、」
「あ」
いつの間にか水際ギリギリのところまで来ていたらしい。わたしはバランスを崩し、わたしをしっかり抱き抱えていた霞まで巻き込んでプールに派手に落っこちた。
「あ、俺の髪縛ってたのどっかいっちまった」
「や~っ! 今離れないでっ!」
「苺ちゃん、嬉しいけどそんなに抱きつかれたら苦しいって」
「上……水着の上、今ので取れた~っ!!」
「ああ……ホントだ。あんなところに流れてる」
「もう最悪……」
霞は、すごく楽しそうだったけどね!
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