鬼精王

希彗まゆ

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気持ち、重なって(禾牙魅編)

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「……そろそろ、苺の中の【鬼精虫】も成長しきるな」


禾牙魅さんがそう口火を切ったのは、プールに行った日から間もなくの昼のリビングでのことだった。


「退治のしどきだな」


相槌を打つ霞の言葉に、わたしは自分のお腹に手を当ててみる。こうしていても、特に変わったところはないのに……鬼精王にはそれが分かるんだ。


「あの、退治って……どういうことするの?」


そういえばそのことを今まで聞いたことがなかった、と思って尋ねてみると、架鞍くんが口を開いた。


「【鬼精王】が強い快感を与えて、虫を消滅させるんだけど」

「強い快感……って、え?」


それって……まさか。


「【鬼精虫】の力が弱まる時期っていうのが、成長しきる時なんだよね」

「まあ、愛し愛された仲なら、尚のこと虫は消滅しやすいわけだけど」


架鞍くんの言葉に、霞が補足する。


「そんな……それって」


口ごもるわたしを、禾牙魅さんと霞が見つめてくる。


「最初からお前にそのことを言うと、警戒されると思った。だから言わなかった」

「今夜、苺ちゃんを一番好きな【鬼精王】の誰かが苺ちゃんの部屋に行く。それまで待っててくれ、心の準備もあるだろうし」


愛し愛された仲……ということは……。


「あなた達の中に、わたしを好きになってくれた人がいる、っていうの……?」


ちらりと禾牙魅さんの顔を見やる。

禾牙魅さんはわたしから視線をそらすと、カーテンの隙間から窓の外を見つめた。なにを考えているのかわからない。


「多分ね。そうじゃなくても退治は誰かがしなくちゃならねえから。そうしたら、【鬼精虫】の消滅も完全にうまくはいかないかもしれねえ。それは覚悟しといてくれ」


霞が、いつになく真顔で言った。


「わ、かった……」


とたとたと、わたしは自室に戻った。





あれから何時間が経ったんだろう。もう、とっぷりと日は暮れて夜になっている。

成長しきっているという、わたしの中の【鬼精虫】。

わたしは……わたしは、どうなっちゃうんだろう……。


その時、ノックの音がしてわたしは飛び上がった。


「は、はいどうぞっ」


誰だろう、誰が来てくれたんだろう……。

禾牙魅さんだったらいいとずっと考えていた。でも、いざこの段階になると、自信がない。


扉が開いて──入ってきたのは、禾牙魅さん、だった。

禾牙魅さんは黙って後ろ手に扉を閉める。


「強い結界を張った。【鬼精鬼】もこれでしばらくは邪魔出来ないだろう。俺では不満かもしれないが、我慢してくれ」

「そんな、不満なんかじゃ」


嬉しいくらいだよ、という言葉の続きをわたしは言えなかった。


「禾牙魅さんこそ、」


震える声で尋ねる。


「禾牙魅さんこそ、わたしなんかの相手しなくちゃなんなくて……イヤ、でしょ?」


禾牙魅さんはキッと歯を食い縛り、わたしの腕を引っ張って力強く抱きしめた。


「お前は……河原で俺が言ったことを、まだ理解していないのか……っ」


問答無用でそのままわたしの服を脱がし、乱暴にベッドに押し倒す。


「禾牙魅さ、!」


有無を言わさぬ禾牙魅さんの乱暴で強い口付け。残り一枚だったインナーを剥ぎ取られた。


「っ、っ!」


どん、と何度胸や肩を叩いても、禾牙魅さんは離れようとしない。両肩でわたしの身体を押し付けながら自分の服を脱ぎ、再び力強く抱き締め、口付けたままの唇から舌を侵入させ、わたしの舌に愛撫を加えてくる。

ようやく離れた禾牙魅さんは、熱っぽい視線をわたしの身体に巡らせた。


「ずっと……見たかった。苺、お前の裸を」

「やだっ!」


乱暴な禾牙魅さんの行動に軽い怯えを感じていたわたしは、とっさに胸を隠す。


「見せてくれ。もっと……見たい。お前の綺麗な身体を」


胸を隠したままでいると、禾牙魅さんはその手を掴み、隠れていない胸の部分を舐め始めた。


「あ、」


時折吸っては、また赤い跡をつけていく。その度にわたしは快感に震え、力が抜けていく。

見計らって、禾牙魅さんは掴んだままだったわたしの手をベッドに押し付けた。


「!」

「綺麗だ……こんなに綺麗な身体、見たことがない」

「ん、ぅんっ……」


禾牙魅さんの唇が隆起をどんどん昇り、突起に辿り着く。同時に、いつの間にか太股の奥に入れていた禾牙魅さんの指が、花芽の皮を剥き、直接指を擦りつけた。


「きゃ、ぁ、っ」


びくんと海老のようにわたしの身体が跳ねるのを、禾牙魅さんは自分の身体で抑えつける。


「抱きたかった」


耳元で囁いた禾牙魅さんの息が熱い。


「いつの間にか……お前を自分の意志で抱きたくてたまらなくなっていた」

「そ、れって……」


禾牙魅さんはわたしの瞳を真っ直ぐに見下ろし、真剣な眼差しで告白した。


「お前を愛している」

「……!」

「お前が俺をどう思っていても……俺はお前を愛している」


わたしは嗚咽を堪えた。


「う、そ……」

「嘘だと思うのなら、これから証明してやる。俺がどんなにお前を求めているのかを……」


禾牙魅さんはわたしの胸を痛まない程度に強く揉み、先端を擦り舌で丹念に舐める。もう片方の手は変わらず、露になった花芽を摘み扱く。


「かっ、がみさん、っ……う、あ、ぁんっ……」


河原で見つけたわたしの腰の辺りの性感帯に舌を移動させ、舐めては吸い、また赤い跡をつける。指の動きは変わらない。


「禾牙魅、さんっ……強引っ、……、そんなふうにしなくたって、……わたし」


わたしはついに胸に秘めていた想いを泣くように告げた。


「わたしだって禾牙魅さんのこと好きなのに……っ!」


禾牙魅さんの動きが一瞬止まる。


「……本当か」

「うん、……だから、」


もう少し優しくして、というわたしの恥ずかしそうな小さな声に、禾牙魅さんはふっと笑ったようだった。


「だが、お前の身体は強引に愛されることが好きみたいだぞ」


太股やシーツにまで流れ出ている愛液を指で掬い取り、禾牙魅さんはわたしの目の前で舐めようとする。


「やっ!」


わたしは思わず、その手を取って指を齧った。


「その痛みは、お前からの愛なのか?」


くすっと禾牙魅さんは笑う。わたしは慌てて「ゴメン」と齧った指を舐める。


「っ、」


禾牙魅さんは切ない表情を見せ、指をわたしの口に入れたまま、顔を下半身へと移動させる。

花芯の中に舌を入れ、蠢かせる。ピチャ、と音がしてわたしは恥ずかしくて何か言おうとしたけれど、指が邪魔をして言わせてくれない。


「ん、くっ、んぅぅっ……」


禾牙魅さんの舌の動きが心地いい。快楽がどんどん身体中に拡がって行く。す、と舌が花芯から離れ、今度は太股の愛液を花芯まで丹念に舐めて行く。


「ん、っんんんっ」


わたしの口に入っていた指がようやく離れたと思うと、両手で花芯を広げて舌で攻め立てる。時折指を、思い出したように花芽に擦りつけているのは絶対にわざとだろう。


「はぁ、ん、んっ、……!」


わたしの腰が勝手にかくかく震え始める。

それを見た禾牙魅さんがわたしの位置まで上がって来て、


「入れるぞ」


とだけ囁き、ズッと勢い良く一気に入って来た。


「あっあっ!」


身体の芯の疼きを満たすものが入ってきて、わたしの中から再び愛液が溢れ出す。


「苺……お前の肌は心地いい」


荒く息を乱しながら囁く禾牙魅さんは、たまらなく色っぽく見えた。

わたしは激しい禾牙魅さんの動きに振り落とされまいとして必死に禾牙魅さんの背中に手を回す。


「わたしも、っ……、人肌がこんなに気持ちいいって、知らなかった、……」


何度も頭が真っ白になりそうなのを、わたしは我慢した。まだ、ずっと、禾牙魅さんが与えてくれるこの快楽に身を委ねていたかった。

声がかすれてくる。限界が来そうだった。禾牙魅さんはそれを察し、更に腰の動きを速め、微妙に角度を変えてはわたしの中を刺激する。


「や、あ、あ、禾牙魅さん、禾牙魅さん!」

「大丈夫だ。俺もちゃんとイける」


その言葉で、わたしは観念した。


「っ、あ、ああっ―――っ!!!」


びくびくとわたしの中が痙攣し、禾牙魅さんの終わりを促す。禾牙魅さんはそれに抵抗しなかった。


「は、ぁっ……!」


禾牙魅さんの昂ぶりの先端から、わたしの中に温かいものが拡がって行く。中だけに留まらず、花芯からもそれは溢れ出た。

わたしは朦朧とした中で、禾牙魅さんの言葉を聞いた。


「【鬼精界】の全てと俺の心と命に懸けて誓う。この魂ある限り、俺は中原苺を愛する」

「……わたし、世界中で一番、幸せな人間だよ、ね……」


しばらく、わたしたち二人はまだ肌と快びを確かめ合うように、抱き合っていた。
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