鬼精王

希彗まゆ

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夢にむかって

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昼下がり──スタジオの廊下。

モデルの撮影が終わった架鞍くんがやっとやって来るのを見つけ、わたしが駆け寄ろうとすると、どっと背後から女の子の群集が走って来てたちまち架鞍くんは囲まれてしまった。


わたしはひとつ、ため息をつく。いつものこと、なのだけれど。

やはり、架鞍くんとこんなに距離が出来てしまったのが少し淋しい。


「そりゃ、架鞍くんがお金が必要だっていうから絶対売れるからってモデルのオーディション受けさせたのはわたしだけど」


こんなに売れっ子になってしまうとは思わなかった。


架鞍くんはあの後、一度【鬼精界】に戻ったが、「本来の目的を果たしたから」、と【鬼精王】を辞退し、結局【鬼精王】は禾牙魅さんと霞の二人になり、一人に絞られることはなかった。

架鞍くんの【鬼精王】としての力は残っていて、戸籍や何やかや、色々と「工作」をして人間界の住人となった。今は専属モデル事務所の計らいで、高級ホテルの一室に一人で住んでいる。


「架鞍くんと会えるのが少なくなっちゃったのも悩みだけど……」


わたしは自分の下腹部を見下ろし、右手で抑える。


「生理遅れてるんだよね……なんでだろ……」


ハッとわたしは一瞬架鞍くんとのことを思い浮かべたが、そんなことはない、と思い直す。だって、架鞍くん忙しいから、あれから二回くらいしかしてないし──。第一、ちゃんと架鞍くんは避妊していた。それ以外は一度も―――


そこで、あの【鬼精鬼】との争いの直前に愛し合ったことを思い出す。あの時……あの時架鞍くんは、わたしの中で最後を迎えた筈だ。

まさか、あの時に……。わたし、もしかして──。


どうしよう、と架鞍くんのほうを再び見ると、女の子達に腕を引っ張られたり胸に顔を埋められたりしている。


「……かえろ……」


一人で産婦人科にでも行こう。お金はかかってしまうが大事なことだ。

その時、架鞍くんの冷ややかな声が聞こえた。


「邪魔。どいて。それから俺に触らないでくれない?」


まだ嬌声を上げる女の子達を掻き分け、わたしの元へやって来る。


「苺! 俺に会いに来てくれたんでしょ? なんで帰ろうとするの?」

「だって、わたしとばっかりいるとファン減っちゃって売れなくなって架鞍くんが必要だっていうお金も入らなくなっちゃうし、」


そのわたしの声をさえぎるように、女の子達が架鞍くんにアピールする。


「架鞍く~ん♪」

「その子もファンなんでしょ? あたし達にも優しくして~♪」


もう、やだ。

わたしがうつむくと、架鞍くんは片手でぐいっとわたしの肩を掴み、キスをした。


「キャ~ッ!!!」


女の子達が悲鳴を上げる。架鞍くんはそしてわたしの肩を掴んだまま、冷たい声と表情で彼女達にきっぱりと言い放った。


「俺、こいつだけしか愛してないから。こいつの中に俺の子供いるし、そのうち結婚しようと思ってる。だから必要以上につきまとわないで欲しいんだよね」

「か、架鞍くん、そんなこと言ったらファンが、お金がっ……って、こ、子供っ!?」


やはり、わたしの中に架鞍との子供がいるのか。女の子達は一瞬静まり返ったが、もっと黄色い声を上げ出した。


「そんな冷たいところも愛してる~っ」

「結婚したら、あたしと浮気して~っ」


……心配することなかったか……。

そしてなんとそれだけでは留まらず、ファン達はどどどっと押しかけて来た。


「か、架鞍くんどうしよう!」

「捲くしかないでしょ」


架鞍くんはわたしを抱き上げ、走り出す。





【鬼精王Side】



「なんだかんだ言って、あいつが一番絶倫っぽくねぇ?」


「覗き見」ていた霞が、禾牙魅にため息をつく。禾牙魅は相も変らぬ愛想のない表情のまま返した。


「安心しろ、お前がNO.1だ」

「……なんのだよ」

「こうして空から時々様子を見に来るのもあまり意味がないのかもな。架鞍もいつでも【鬼精界】には来れるわけだから」

「だな。でも架鞍ぜってー確信犯だよ。捲くとか言いながらあいつ自分の住んでるとこに連れ込むとこだぜ」

「安心しろ、誰が何と言おうとお前がNO.1だ」

「……だからなんのだよっ!?」
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