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プロローグ2
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この世とは別世界に、【鬼精界】というものがあり、【鬼精虫】を使って処女を餌食にしたり自分専用の人形にしたりする【鬼精鬼】と常に戦う【虫狩】と、それを統べる【鬼精王】が三人いる。
通常は【鬼精王】は一人なのだが、能力がほぼ同じなため、一人に決められない。
そんな時、「処女でもない女に【鬼精鬼】が【鬼精虫】を仕込んだ」という噂が届いた。
そんな例は今までに殆どない。
【鬼精鬼】がそんなことをする時は、その女を好きになった時だけだ。しばらく【鬼精鬼】の気はその女のほうに向くだろう。
うまくすれば、【鬼精鬼】を封印し、封印した三人のうちの一人だけが【鬼精王】となることが出来、【鬼精界】を完全に自分のものにすることが出来る。
逆に【鬼精虫】がその女の中で成長しきってしまったら、【鬼精鬼】にどれだけの力が蓄えられることか――何が起こるか正直それは想像できないことだという。
◆
「──だから、わたしを【助けに】きてくれたってわけ? 【鬼精王】さん達は」
半眼のわたしに、たいして堪えてもいないように霞という男が微笑む。
「やだなー、苺ちゃん顔がコワい」
「当たり前でしょ! そんな話いきなりされて、そんな、わたしの中になんかヘンなものが入ってるなんてっ……」
「恐いか?」
禾牙魅という男にそう尋ねられたとたん、わたしは初めて【鬼精虫】というものを意識した。わたしの中に、そんな得体の知れないものがいつの間にか入っている、ということに血の気が引く。
もちろん信じなくてもいいことだったけど、この男達には不自然なくらいの説得力があった。
「こ、コワくなんかっ……」
それでも虚勢を張ると、架鞍という男が無表情のままつぶやいた。
「声が震えてる。面倒な女」
霞という人が、歩み寄ってきて頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
「大丈夫大丈夫、俺らがちゃんとなんとかしてやるから」
「……子供じゃないんだから頭撫でなくてもいい……」
この霞という人は、なんだか緊張感に欠ける。
「精神的には子供だな。22歳のわりに」
禾牙魅という男の言葉に、更に驚く。
「な、なんで年齢まで知って……っ」
「だから、助ける対象ってことで俺達もう苺ちゃんのこと調べ上げちゃってるからね~」
霞という男がにこにこと言う。続いて、架鞍という男の一言。
「数日前の初体験が痛かったからって男に振られたバカな女だってこともね」
「……!!」
この架鞍って子、一番意地が悪い……。
それは置いておいても、わたしばかりがほとんど何も知らないというのも気分が悪い。
「……あんた達は何歳なの? 年齢くらい教えてくれてもいいよね?」
「俺が23歳、霞が24歳、架鞍が18歳」
あっさりと禾牙魅という男が教えてくれた。
「で、どう? 退治、任せてくれる?」
霞という男が、ようやくわたしの頭から手を離して尋ねてくる。
こんな男達に状況を任せるというのも、癪にさわるけど。
でも……わたしは、【鬼精虫】とやらを体内に抱えたまま普通に生活していく自信がなかった。
「本当に、退治できるの……?」
恐る恐る尋ねると、
「一日の中で、苺の【中】の【鬼精虫】の力が弱まる時を狙ってな」
と禾牙魅という男が言う。
続いて、霞という男。
「そうそう。そういうことだから、俺達今日から退治出来るまで苺ちゃんとこの家で暮らすから」
「……はぁっ!?」
同居までするのっ!?
「俺達の傍にいれば、それだけ力が弱まる時も分かるし、【鬼精鬼】が近づくことも容易にはできないからな」
「苺ちゃんの三人の弟ちゃん達の部屋、それぞれ借りるからね。あ、汚さないから安心して」
禾牙魅という男と霞という男に、なんとなく押し切られて、
「……はぁ……」
とうなずいてしまう。
「順応性が早いのだけは都合がいいな。話が済んだところで、電気つけるね」
見計らったようなタイミングで、今まで黙っていた架鞍という男がパチンと指を鳴らした。
電気がつき、リビングにあかりが戻ってくる。マジックみたい。
「そそるな~。俺が【鬼精王】で性欲コントロールできてなけりゃ襲いたいくらい」
突然の霞という男の言葉に、
「へ?」
わたしはきょとんとした。
禾牙魅という男は目をそらしている。面白くもない顔のまま、架鞍という男が言った。
「その部屋着、透けて見えるんだよ」
「……!!」
顔に血が集まってくるのが分かる。恥ずかしくてたまらない。
両手で自分の肩を抱きしめたわたしに、禾牙魅という男が向き直る。
「もう夜も遅い。慣れない話で疲れただろう。明日の朝までゆっくり休め」
拒む暇もなく。禾牙魅という男の手が額に触れたと思った瞬間、わたしの意識は夢の中に落ちていった。
「なあ、退治の仕方、言わなくてよかったのかよ?」
「言えば絶対に一緒に暮らすなんて承諾しなかったでしょ。それに、退治する時になれば嫌でも分かると思うけどね」
──落ちていく中で、霞という男と架鞍という男の声が、聞こえた気がした。
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