鬼精王

希彗まゆ

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プロローグ

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どうしたの……大丈夫……?

ひどい怪我……待ってて、今……

わたしは苺。あなたの、名前は……?


◆​



「はぁ……この家にひとりって、何年ぶりだろ……」


ソファに座り込んで、ぼうっと天井を見上げる。


わたし──中原苺、22歳。大学も夏休みに入り、「長期の海外旅行に行こう」という家族の誘いを断って、ただひとり家に残った。振られた傷心で、そんな気分ではなかったのだ。


元々中原家は放任主義だ。両親と3人の弟は、今朝、わたしを置いて楽しそうに旅立っていった。


「アイツのせいで……」


わたしの脳裏に、数日前の忌まわしい記憶が蘇る。


「もう一回、いいだろ? な?」


コトが終わったあと、そうしつこく身体にまとわりついてくる彼氏に、わたしは泣きそうだった。


「~っ、イヤっ!」


腕を振り払っても、彼氏は心外そうに目を見開いて。


「なんでだよ? 気持ちよかったろ?」

「バカっ! こんなに痛いなんて思わなかった! もう絶対エッチなんてしない!」


たまらずに泣くわたしに、彼は言ったのだ。


「泣くことないだろ……ああ分かったよ、そんならお前とも終わりだな。じゃあな」


──初めてのエッチは、本当に痛かったのだ。

痛くて痛くてたまらなくて、それでも彼はやめてくれなくて……

だからこそのわたしの言葉に、彼はアッサリとわたしをフッた。

胸の中にまでも痛みがまだ残っている。


「あんな男……忘れてやるんだから……」


ひとりきりのリビングで、つまらないニュース番組を見るともなしに見ながらわたしはつぶやいた。


けだるい夜の雰囲気が、次第にわたしを眠りに誘っていく。


(苺……)


(お前が、……好きだ……)


──誰……?


いつのまにかソファにもたれかかってうとうとしていたわたしは、はっと目を覚ました。時計を見ると、午前1時を過ぎている。


部屋に帰って寝よう……。

そう思って立ち上がった時、だった。


突然、リビングの電気が消えた。


な……何……!?

停電……!?


「へぇ、噂は本当だったんだな。処女でもないのに【鬼精虫】が仕込まれてやがる」


知らない男の声に振り向くと、窓辺だけがぼうっと不思議な光をともしていて、3人の男たちの姿を浮かび上がらせていた。


……みんな美形すぎて、かえって恐い。

というか、いつのまに……どこから入ってきたの!?


「限りなく処女に近いみたいだけど」


そう言ったのは3人の中で一番年下っぽい、赤系の髪に金色の切れ長の瞳の、少年と青年との間特有の危ういカンジの美形。どこか冷たい感じも受ける。


「やめろ架鞍。……お前は中原苺だな?」


尋ねてきたのは一番品の良さそうな、髪の毛は青系、瞳は金色の優しくも冷たくも見える美形。

ていうか……わたしの名前まで、どうして知ってるの?


「あ、あなた達……誰……? 一体どこから……」


ようやく出せた声は震えている。青系統の色の髪の男が、言った。


「俺は禾牙魅。背の高いほうが霞で、小さいほうが架鞍」

「わたしは中原苺……ってそうじゃなくて! 一体誰なの? ち、痴漢とかだったら警察呼ぶからね!」


危ない危ない。あまりにあっさりとした対応に、つられるところだった。

わたしは思い切り、すごんでみせる。


緑色の髪に金の瞳の、悪戯っぽそうな笑みを浮かべた最後のひとりが、笑顔で言った。


「むーり無理。それが出来ないように、ここら一帯停電にして人間眠らせちゃってんだから」

「え、な……!?」


声からすると、一番最初に声をかけてきたのはこの男……霞、のようだ。

だけど停電だけじゃなく、人間も眠らせたって……この人たち、本当に何者なの……?


「説明するからよく聞いてくれ。お前の【中】の【鬼精虫】が成長しきってしまうと、お前自身が【鬼精鬼】のものになってしまう」


禾牙魅と名乗った男が、耳慣れない単語を口にする。


「キセイ……? わけわからないわよ!」

「分からなくてもいいから聞け」

「…………」


禾牙魅の有無を言わさぬ声に圧され、わたしは黙り込んだ。


そして、彼は話し始めて──

禾牙魅の説明するところの事情というのは、こういうものだった。
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