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S3:猫と盗聴器

19.シノさん達の帰省

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「そういえば、柊一達はなぜ帰省を?」

 料理が運ばれてきたところで、白砂サンは話題を変えた。

「ああ、えっと…、まえから椿サン…いや、えっと…シノさんのお母さんから、敬一クンとお父さんを仲直りさせるために、一度帰ってきて欲しいって連絡もらってたんだよね。それでお父さんが家にいるから、この休みの間に必ず帰って来るようにって言われて、急遽決めたんだよ」
「なるほどな。だが、連休を利用するのならば、店も休みにすれば良かったのでは?」
「この辺りは、なんだかんだで観光スポットになってるから、連休は人通りが増えるんだよ。一応観光ガイドとかにも店が掲載されているから、シノさん的に店を閉めたくなかったんじゃない?」
「ふむ、柊一も一応、店の運営のことを考えていてくれているようで、安心した」

 白砂サンの一言に、俺は苦笑いをした。
 確かにシノさんの様子を見ると、店をやる気なんて微塵もなさそうだし、今はカフェを白砂サンに丸投げ出来ているからますます自堕落が加速しているが。
 ミナミに何を言われようと、店がカフェメインになろうと、絶対にアナログレコードの取り扱いをめないのは、シノさんがレコードをこよなく愛していて、自分のコレクションを充実させるためには、レコードショップとカフェを両立させなきゃダメだ…と最後の最後のラインで考えているからだ。
 もっとも、シノさんの最強運を考えると、本人が勝負に出るとき以外はグダグダなのも、当然なんだろうけども。

「うわ、このソーセージ、うまっ!」
「素晴らしい。このマッシュルームのセゴビアふうも、フリットも、食材がじつに新鮮で美味しい」

 そんなうまそうなの食べながら、ワインを飲まないのはもったいないんじゃ? と思ったりもしたが、それに関しては嗜好品だから、以下同文だ。

「お気に召していただけましたか?」

 不意に、カウンターの向こう側から声を掛けられて、俺はビクッと顔を上げた。
 店の大将と思わしき男が、ニコニコしながらこちらを見ている。
 コミュ障の俺は、見知らぬ他人に突然声を掛けられて、あわあわと狼狽えた。

「ええ、とても。実に素晴らしい仕事ですね」

 だが、俺が取り繕いようのないを開けてしまうまえに、白砂サンがサクッと返事をしてくれた。

「こちらの大きなマッシュルームは、なにかツテがあってご入手されているんですか?」

 声を掛けられたのをむしろ好機とばかりに、白砂サンが大将に問いかけている。
 すると、調理法も素材も褒められて嬉しくなったのか、大将はカウンターから身を乗り出すようにして、白砂サンと話を始めた。
 とはいえ、コミュ障にしたら苦行以外の何物でもないイベントを、隣の席の白砂サンがサクサクッとこなしてくれるなら、俺にはなんらダメージはナイから、その間は料理と酒を堪能させてもらった。
 大将は、直ぐにもフロアを仕切っていた背の高い美人の給仕に叱られて、すごすごと厨房に引っ込んでいったが、白砂サンはどうやら名刺を貰ったようだ。

「済まなかったね」
「いやぁ、俺はああいうふうに話しかけられるの苦手なんで、白砂サンが引き受けてくれたのはありがたいですよ」
「良い仕入先があるなら、興味があるからね。ところで、何の話だったかな?」
「いや、別にこれって話はしてなくて……。そういえば、コ……」
「なにかね?」
「あ、いや、ええっと…コネコは、その後どうですか?」

 猫に興味なんて、微塵もナイ。
 だが、料理の旨さについついワインが進んでしまって、俺はいい感じに酔っ払ってきていた。
 故に、なんとなく脳裏を掠めた話題をそのままダイレクトに音声出力しそうになったのだが、こちらを見た白砂サンの顔に、ハッと我に返って "コグマ" を "コネコ" に置換したのだ。

「おもちも豆大福も、すっかり元気になったよ。豆大福はとてもやんちゃだが、おもちはおとなしいコでね。ああそうだ! それでは食事が済んだら、一緒にミナミのマンションに行こう。柊一が留守では、多聞君も時間を持て余してしまうだろう?」

 同じメゾン暮らしで、同じ職場勤めなことで、俺の行動はすっかり見透かされている。
 心の中では猫に会うのもミナミのマンションもお断りだったが、適度なアルコールによって俺の脳は考えることをだいぶ放棄しているために、適当な言いわけすら思いつかない。

「え…、あ~~、俺みたいな部外者がっても、邪魔なだけでは…」
「いや。おもちと豆大福のことをそんなに心配してくれて、とても嬉しい。是非、会ってやってくれたまえ」
「そ…そうですか? あ~、えーと…、ここの料理、ワインとムッチャ相性がイイですね~」
「アルコールは適宜にしておいてくれたまえ。泥酔されては、おもちと豆大福に会いに行けなくなるからね」
「はあ…」

 なんとか猫から話を逸らして、ミナミのマンション訪問をウヤムヤにしたかったのに、むしろクギまで刺されてしまった。
 曖昧な笑みを返し、俺は自分の掘った墓穴に後悔を覚えた。
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