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店の日常編

王族の欲 王子の告白 人はそれぞれ思いを抱え、時間はそれでもなお進む

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 客が来ない午後。
 何もなかったら、俺だけが米の収穫だの米研ぎだのの仕事に追われて、ほかのみんなは退屈そうにしてただろう。
 シアンの話が思いのほか長くなり、俺だけが苦労する時間はなくなって、ある意味気分はすっきりしてる。
 が、流石にそのまま王宮に帰すのは気の毒だってんで、一緒に晩飯にしようとヨウミが誘った。
 俺も吝かじゃなかったんだが、お忍びでここに来てるから早く戻りたがった。
 来た時よりも晴れやかな表情をしてたから、あいつもそれなりに思うところはあったんだろうかね。

「……でもアラタさん、よく怒りませんでしたね」
「怒る?」
「だって、よその世界の人を旗手として呼んでも、自分に害は及ぶことはない、と見られたんでしょう? 何か足元見られてるような……」
「この世界から勇者を見出してた時代があった。けど、その時代とは無関係だし、その時代から今まで生きてる奴もいねぇだろ? それにあいつも空き時間を利用していろいろ調べて出した結論なんだろ? 一般人の目に触れることのない資料を見て、一般人にはそれに費やすことができない時間を費やしたんだろうよ。そんな憤りを感じる一般人なんかいるわきゃねぇだろ。俺が気にしなければ、問題になることはない問題じゃねぇのか?」

 怒るとしたら、世界征服を企てたらしいシアンの親父に対してだろうな。
 けど俺の場合は爪はじきにされた個人的な怒り、私憤だ。
 この世界に呼び出しといて、自分は俺に気をかけることは全くなかったんだから。
 けれども。

「……俺の世界よりも過ごしやすいってのが正直な感想だ。だから、今になって、まぁまぁいい生活を送らせてもらってるって思いはある。あの王が調子こくような気がするから言いたくねぇけどな。だからあいつに対して思うところは……特にないな、ない、うん」
「それ、本人に言ってあげればよかったのに」
「そうは言うがな、マッキー。口にしたところで社交辞令としか受け取らねぇんじゃねぇのか? 国王としての執務を、母親と二人でやってんだろ? さらに今回の話のこともある。余裕があるなら晩飯の誘いに乗ってただろうよ」
「国王代理、だもんね。仲間になりたいって言っても、立場が立場だし……」
「下手にここに顔出すわけにもいかないだろーしなー。気が休まる暇、なさそうよねぇ。あたしのお腹を枕にして休んだら、少しは元気にしてあげられたかもー」
「ほう。ならシアンのペットになってみるか? テンちゃん」
「ペットは……なんかやだ」

 ペットも家族っていう人もいるんだがな。
 会話ができりゃ、尚更家族同然だと思うんだがなー。

「ソレハソウト、オナカヘッタ」
「ん? あぁ、そうだな。モーナーもそろそろ戻る時間か? んじゃドーセンとこに注文しに行くから、リクエストあるやつー挙手―」

 シアンにはシアンの生き方がある。
 俺らには俺らの生き方がある。
 そしてそれぞれの生活ってもんもある。
 仲間になりたくてもなれない環境もあれば、させられない事情もある。
 仲間になっても、ずっと同じ所で一緒に生活できない奴もいる。
 誰もがそれぞれの事情を抱えながら、なるべく自分の望むように妥協しながら生きている。
 そして今晩も、こうして普段の毎日と同じような時間に戻っていく。
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