勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
129 / 493
三波新、定住編

閑話休題:みんなと一緒に

しおりを挟む
 暗いから外は危ない時間帯になるが仕方がない。
 みんなが集まることができる時間と場所は、夕食後のフィールドしかない。
 俺は、今はまだ、サミーの世話が中心だからな。
 日中のおはぎ騒動、もとい、サミーに降りかかった災難を一応全員に伝えた。

「だって……美味しそうだったんだもん」
「美味しそうって……私の体ですよ?! 私の腕ですよ?!」
「……だったら何で自分の腕をおはぎに擬態させたんだよ」

 って、何で話題がおはぎに移ってんだ!
 しかもついそれに口出ししちまったじゃねぇか!
 にしてもな。
 ライムはともかくヨウミが美味しいと言い出すくらいだから、視覚と味覚までそっくりに変えることができるってことだよな。
 食品サンプルなんて目じゃないってことか。
 それにしても、思わず噛みついてしまうほどの再現率の高さ、パねぇな。
 そして思わず噛みつくヨウミの神経も、まともな奴じゃねぇよな。
 いや、ひょっとしてそこまで精神を狂わすほどのクリマーの能力かも分からんが……。

「そのおはぎっての、あたしも食べてみたいなー」
「あたしも……」

 マッキーはともかく、テンちゃんは食えるのか?
 まぁアンコの材料も穀物だから……っていう問題かな。

「人が魔物を食おうとしてるなんて話ぁ、なかなか聞くこたぁねぇな。笑わすぜ」
「モトモト、キクハナシ、スクナイ」
「それは言っちゃいけねぇやな」

 地底に住みついてりゃそうだろうな。
 ある意味隠居生活だ。
 って、話戻せよお前ら!
 サミーが怖い目に遭ったってのに……。
 って……。
 サミーはクリマーの腕にしがみついてる。
 おはぎへの擬態に期待してんのか?!

「リラース家っつってたんだなあ? ドーセンはあ」

 お、ようやく話が戻せそうだ。
 モーナー、お前は俺達の数少ない良心だ。
 お前の存在は有り難いぞ!

「あ、ああ。その双子がサミーを玩具扱いしたっぽい、と思われる。サミーは話できないから推測しかできないが」
「そうかあ……」

 質問してきた割には素っ気ない返事。
 いつになく沈んだっぽい顔は、心の中を見せているも同然。
 もっとも気配を察知する力ならではの効果。
 他の奴らは気付きはしないだろうな。

「それは変! あまりに変!」

 いきなりヨウミが奇声を上げた。
 思わず声の方に顔を向けると……。

「く、クリマー! 何やってんだお前!」

 彼女の肘から先が、モーナーの手のひらになっている。

「い、いえ、ヨウミさんが、自分と同じ体の部分で、極端に違う物を再現したらどうなるかと……」
「ちょ、ちょっと! あたしのせいにしないでよっ!」
「さ、さっきそう言ったじゃありませんか!」

 何をやってるんだ何を。
 モーナーを見ると、ぽかんとしている。
 自分の右の手のひらと同じ物がクリマーの右腕にあるのだから当たり前か。
 クリマーの手よりも二倍くらい大きい。く

「再現率、ほんと高ぇな。不気味だけど」
「質量があまりに違う場合は、擬態する体の部分に近いところも巻き沿いにするみたいです」

 試しに触ってみる。
 力仕事をいつも素手でしているせいか、皮膚は固い。
 そして肉厚。
 目を閉じて触ると、モーナーの手なのかクリマーの擬態なのか区別がつかない。

「あ、じゃあさ、おっぱいが大きい人の女性の胸を」
「お前なぁ」

 ヨウミがクリマーの体を玩具にしてどうする!

「極端じゃなければできますよ」

 おいこら待てや。

「やってもいいけど、衣類が破けたり肌の露出する面積が変わらないようにっ」
「えー」

 えーじゃないわ。
 何考えてんだヨウミは。

「じゃあさ、あたしの体毛は真似できるの?」
「体毛に限って言えば……こんな感じですかね」

 自分の腕にテンちゃんのような灰色の毛が現れた。
 サミーはそれに反応して素早くその腕に絡みつき、いつもテンちゃんがやってくれるような毛づくろいを始めた。

「サミーちゃん、くすぐったいですよ、サミーちゃん」
「え……。何でサミーはあたしの体にやってくれないんだろ……」

 テンちゃんも、そこで凹んでどうする。

「サミーちゃんから見たら、やろうとしても終わらないほど広いからじゃないんですか?」

 その前に埋もれるだろ。
 巨体だしな。

「分離は出来ないの?」
「分離?」
「矢に変えて、あたしの弓で射撃できないかなーって」
「いや、流石にそれは……。私の体自体は外れませんから」

 マッキーがしょげた。
 こいつもこいつで、クリマーを何でも屋みたいに扱うんじゃねぇっての。

「まぁなんだぁ、アラタのあんちゃんが気に食わねぇっつって追い出されるんだら、出てく前に報せろや。俺とンーゴはついて行くからよ」
「ついてくって、ミアーノはともかくンーゴは……」
「シタニモグッテイドウスル」

 マジか。
 ンーゴの通った道沿いに地震とか起きないのか?
 心配になってしまうが。

「あたしもついてくよ。真っ当に生きていられるのもアラタのおかげだし。ついでに食いっぱぐれないし」

 食いっぱぐれがないのをついでにするとこは可愛げはあるな。

「俺もお……ついて行こうかなあ」

 ということは、地下を掘り進んでいく仕事には特にこだわってないってことか。
 他のみんなも賛同するが、今のところ追い出されそうな感じじゃない。

「ま、万が一ってときに備えてってことでな」
「でもあたし達、魔物率高いからねー」

 魔物率って……。
 確かにテンちゃんの言う通り、人間なのは俺とヨウミだけだけどよ。

「ま、そういうことがあったんでな。そろそろ夜も更ける。今夜はこんくらいにしとくか。じゃミアーノ、ンーゴおやすみ」
「おーう。また明日なー」
「オヤスミ」
「二人とも、お休みなさい」
「また明日ねー」

 全員でのミーティングが終わるとそんな挨拶で解散。
 まぁ解散と言っても、フィールドに残る二人以外は、今のところみんな洞窟に戻るんだがな。
 けど、「また明日」か。
 こんな俺でも子供の頃は、そんなことを言う相手は、二人くらいはいた。
 でもあの時以来そんな言葉を口にしたことがなかった。
 ここでは何度も聞いてたが、ちょっとだけ、あの頃が懐かしくなった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...