勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
100 / 493
三波新、定住編

アラタの店の、アラタな問題 その8

しおりを挟む
 エライ騒ぎに巻き込まれた。
 とんでもない泣き声が突然聞こえてきて跳び起きた。
 全身筋肉痛で大ダメージ。

「いつまで寝てんのよっ!」

 と叫ぶ涙目のヨウミから一撃がクリティカルヒット。
 病み上がりにひどくね?
 いや、病むと言っても病気じゃないんだが、それでもな、うん。
 で、その泣き声が隣の部屋だったから行ってみると、テンちゃんがモーナーに抱きしめられながら泣いてる。
 それはいいんだが、ここ、人間用なのにテンちゃんが寝そべることができたことに軽くショック。
 呆れて部屋に戻って、改めて思い返すと……。
 モーナーと一緒に戻ってきたことは思い出せる。
 けどそっから先の記憶がない事にもショック。
 その後から今までの事の流れをヨウミから説明してもらった。

「昨日だったかな。あの子達は宿で寝泊まりしてたけど、あの子達が卒業した養成所に連絡して、とりあえずそれぞれ自分の家に戻らせたみたい。家のない子は養成所の寮の空き部屋行きだって」
「そっちからクレームきそうだな」
「今のところないから、養成所からは特に問題視されることはないみたいよ?」

 もしクレームが来たら、その説明を分かりやすくする作業とか、理解されなかった時にはここを立ち退くつもりだったからそれはいいんだが、そのための準備とかの計画を考えるのが面倒なんだよな。
 俺とヨウミだけなら荷車引っ張って行商再開、でその騒ぎは収まるはずだから。

「あいつらの保護者からのクレーム対応が面倒だなぁ……」

 筋肉痛で全身が痛む体を引きずって、何とか自室に戻れた。
 そんな体の状態で、養成所からだろうから家族からだろうが、殺到する抗議に対応することを想像するだけでも面倒だってのになあ。

「ドーセンさんがそこら辺はうまくやってくれたようよ。あの洞窟が、おそらくこの国で一番危険度が低いダンジョンだって言ってるらしいの」
「おやっさんが?」
「そりゃそうよ。あのダンジョンに入る冒険者達の宿泊場所で、記名しなきゃ泊まれないんだから。私達への配慮ってよりも、自分の仕事を守るためってことじゃない? もっともあたしはその現場見てないから何とも言えないけどさ」

 いや、それは理に適っている。
 あのおっさんも、まず自分にできることをやってからってタイプっぽいからな。
 だから泉騒動の時も、冒険者達が集まってから遅れてやって来た。
 でなきゃ率先して動いてたはずだからな。
 とはいっても、俺達おにぎりの店のスタッフの代わりに矢面に立ってくれたって感じもないわけじゃない。
 けどそれだと逆に、俺達はそっち方面では、ある意味無責任な仕事してるかなぁ。
 万が一の時に備えてガイダンス役をやってたモーナーの仕事を引き継いだ形ではあるが。
 もっとも今回のようなことは、モーナーが一人で掘削作業をしていた時には、あったことはあったらしい。
 が、いつだったか思い出せないほど昔の事で、数えるほどしか経験がない、とも言ってた。

「まぁ危険な場所に足を運ぶ仕事だ。改めて命の危険がある仕事ってことを分かってもらえたんじゃないか? ロマンを求めて。高額の報酬を求めて。そんな理想ばかり追い求める子供達にはいい経験になったろ」
「いい経験って……」
「死亡者、怪我人がゼロだったんだろ? 何度でも取り返しがつく状況は、これは喜ぶべきことだと思うがな」
「まぁ部外者の被害はないのは、確かにアラタの言う通りなんだろうけど……。でもテンちゃんも……アラタも……大変だったんだからねっ」

 下手すりゃモーナーもどうなってたか分からない。
 こちらの被害は軽くはなかったにせよ、その度合いは、やはり思ったほど重くはなく、これもまた歓迎すべき結果……だと、俺は思うがな。
 しかし……。
 事態は歓迎どころじゃなく、どうかお引き取り頂きたい状況がやってきてしまった。

 ※※※※※ ※※※※※

 翌朝一番、ヨウミから声をかけられた。

「アラタぁ、今動ける?」

 俺は筋肉痛で、未だにしっかり動けない。
 無理してもいいが、それで満足できる仕事ができなきゃ店の評判も落ちちまう。
 休むことでみんなの心配が減るなら、動きたくても休むべし。

「どう動くのかが問題だがな。どうした?」
「こないだの件で、文句言いに来たお客さんがいるのよ」

 やはり来たか。
 ま、ここをおさらばする覚悟は、ここで目が覚めてからはできてるけどさ。

「あいよ……っこらせっと。店の方か?」
「あ、無理しないで。肩貸すよ?」
「いいよ、そんくらいは無理しなくても動ける。……はいはい、何のご用で?」
「アラタさんですか? 私、クリマーと申します」

 文句を言いに来た客としては、かなり冷静沈着って感じだ。
 いずれ、自分の名前を名乗る人ってのはそれなりに礼儀を弁えてる。
 いかにも、話をしに来たって感じがするが……。
 一見女性……だよな?
 種族は何だこれ?
 俺達人間が着る服と似たような恰好をしている。
 が……黒い。
 肌が黒い。
 真っ黒じゃないけど。
 目も、白目がほとんどないな。
 黒目の輝きはあるけど。
 逆に髪の毛は灰色よりも少し白いか?
 人間じゃないよな。

「クリマーさん、ですか。で、ご用件は?」
「こないだ世話になった弟のゴーアのことでお話を伺いに来ました」

 毅然とした態度。
 買い物のついでにってんじゃないな、と思ったら……。
 にしても、弟?
 人間として見たこの人の見た目……二十歳より上に見えないな。

「アラタ、こないだの救助活動の件だよ。似たような感じの子、いたでしょ?」
「こないだ?」
「いや、それでアラタ、昨日まで寝込んでたんじゃない。まさか、忘れた?」

 えーと……。

「ふわあぁぁ……あれえ? アラタあ、店、今日からだっけぇ?」

 あくびして出てくんな、マッキー!
 みっともねぇ。

「いや、朝から来客がな」
「あら? えーと、あの子のご家族?」

 おい、マッキー。
 口出してくんな。
 っつーか、あの子?

「あ、アラタはそこまで見る余裕はなかったか。あたしがダンジョンの中から連れ出した、最後の一人と同じ種族の人だよ、その人。いらっしゃいませー」

 悪かったよ!
 そこまで細かく見てる余裕はなかったよ!
 でも最後に一人取り残された奴はいたな。

「私の事よりも……」
「アラタぁ、珍しい種族だよ。ドッペルゲンガーだよ」
「はい?」

 ドッペルゲンガーっつったら……。
 いろいろとやばくない?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...