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シルフ族の療法司ショーア

ショーアはここでの仕事に随分馴染んできました

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「へぇ。まさかコウジと同じことしてる人がいるとはねぇ」
「コウジさんには敵いません。ここに来て改めて実感しましたが、ほんとにいろんな世界があったんですね……。私は、私の世界の人達しか治せませんから」

 ショーアは俺の隣で、一緒に米研ぎをしている。
 流しを挟んで会話している相手は、久しぶりに見た男戦士。
 コルトを助ける前から何度も顔を出してたが、今日ここに来たのを見て、そのこと自体すっかり忘れてた。

「でも魔物がうじゃうじゃいるダンジョンの中で診療所開くって……冒険者達にゃ有り難い話だろうけどな」

 傍で会話されてるもんだから、聞くともなしに耳に入ってくる話。
 うっとおしいと言えばうっとおしい。
 ショーアにも作業に集中してもらいたいもんだがな。
 洗米する手に力が入りすぎて、米が割れたりしたら勿体ないだろ。

「しかもあちこちのダンジョンにそんな場所を作ったって……。一人じゃ切り盛りできねぇだろ」
「賛同して協力してくれる方々がいるので……。ただ、名声目当てに来られる方は迷惑ですけどね」

 会話してるから作業している手元が疎かになる。
 と思ってたんだが。

 汚れた水を切る。
 米粒は一つもこぼさない。
 まぁ……まぁ、やるじゃないか。
 だが監視の目は緩める気はないな。

「志を同じにしてくれる仲間達もだんだん増えて。でもその度合いにも差があったりするので、まずは診療所の活動維持を第一にして」
「戦場の前線に立つ者の大変さは知り尽くしたつもりだが、バックアップの大変さはあんたから話を聞いて初めて知ったような気がするな」
「いえいえ、私なんかまだまだです」

 ……飲み屋のママと客の会話じゃねぇの? これ。
 そのうち、マスターなんて呼ばれるようになったりしてな。
 もっともそう呼ぶほどここに何度も来る奴はいねぇだろ。

「なんかここ、俺の行きつけの酒場みてぇになってんな。なぁ、マス」
「何も食わずに今すぐ帰れ!」
「コ、コウジさん……」

 まったくこいつらは。

「あははは。コウジは変わんねぇなぁ。コルトちゃんは随分変わったってのにな」
「コルト……さん……ですか」
「おぅ。歌姫コルト。そんな渾名が定着したな。けどあの娘も出世したよなー」
「「出世?」」

 一々覚えてなかったが、法王とか何とかの宗教つったか? その生活支援補助とやらの長の補佐だかになってるとか。
 俺にはよく分からん。

「未熟な冒険者の方が、そんな役目に……。すごいじゃないですか、そのコルトさんって方は」
「自分の能力と成長力の自覚だね。それと献身度ってとこかな。そうだ、コウジ。あの娘の元仲間達、肩身が狭い思いしてるってよ」
「肩身が狭い? 何かあったんですか?」

 ショーアよ。
 マジでお前、飲み屋のママさんみたいな口調だぞ。

 男戦士の話を頷きながら聞いてる。
 顔を曇らせたり晴れやかになったり。
 まぁ人の話を聞くことで、相手の気持ちを和らげるってこともあるんだろうが。

 にしても、炊飯器クラッシュ以降、本当にミスしないよな。
 時々そいつの話を止めて、こっちの作業を優先する時もあるし。
 ……力仕事はシェイラに負けるのがちと惜しいが。

 カートで米袋を運んでくる間も、時々会話に混ざる他の冒険者とも普通に相手をしてる。

「王女? あ、あぁ、ちらっと見かけたましたね。私と入れ違いになった、あの……あれ?」
「何?」
「王女、というにはちょっとイメージが……。運動着っぽい服着てましたよね……」
「身分を隠してってことじゃないのかな?」 
「そうなんですか。すごい方が来られるんですねぇ……。やはりコウジさんの人徳なんでしょうね。ね? コウジさん」

 って力作業してるときにいきなり振るなよ。
 話は俺は聞いてねぇんだが?

「何の話だよ」
「コウジさんのお手伝いされる方が高尚な方ばかりなのは、コウジさんのお陰かもしれませんって話ですよ」
「自画自賛おつ。その論法ならお前も将来高い地位に就くって予言になるよな」

 ショーアがぽかんとしている。
 話の展開が予想外の方向に行くとそうなるよな。

「そう言えば……そういうことになるよな」
「けどお近づきになっても、別世界の人じゃちょっと残念かな」
「同じ世界から来た奴を助手にすればいいんじゃねぇの?」

 こいつらはこいつらで、変な皮算用してないか?
 つーか、駄弁る元気があるならとっとと帰れ!
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