モテたかったがこうじゃない

なん

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第一章

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「あの…、おれ初対面で、しかも助けて貰ったのにベタベタ触ってごめんなさい」

「い、いや、それは別に構わない、…私こそ狼狽えてしまって悪かった。それに、…初対面ではない」

「え?どこで…」

こんなに大きくて目立つ人見たら覚えてると思うんだけど…。

「あぁ、私が君を一方的に見ただけだ。謁見の間で」

「あ、あそこにいたんですか!?」

あのある意味カオスな空間に!?じゃ、じゃあおれがレイヴァン様とカール様とキス以上してるってバラされたのも見てたのか!気まずい…。

命の恩人に男好きの変態だと思われたら最悪だ。なんとか誤解を解かないと…っ。

「あ、あのですね!レイヴァン様達とは何にも無くてですね!人命救助と言いますが、その仕方のない行為でして…っ」

慌てて弁解するおれの手を取って見つめられる。さっきまでの狼狽えた目じゃなくて、射貫くような真剣な眼差しに目が反らせない。

「貴方は王直々の保護対象者であり、殿下達と関係のある方だから、幾ら惹かれようと戦う立場である私が側に行くことは叶わないと思っていた。しかしここで貴方を見つけ、手の届く距離に戸惑い避けてしまったが、背中で震える貴方に心が決まった。貴方が殿下達と深い関係であるのは百も承知だが、マシロ殿、どうかこのグランツ・オベリオンを貴方を護る騎士にして頂けないだろうか」

そのまま片膝を着いたグランツ団長は、うやうやしくおれの手の甲に口付けをした。

シーンと静まり返る。

鍛え抜かれた身体に貫禄のあるグランツ様に膝をつかれ、意志の強い茶色の瞳で見つめられると思わずはいと頷いてしまいそうになる。が、

これはイケメンフェロモンに当てられている…っ!!

なんてことだ…っ!こんなに渋くて格好いい男の中の男のようなイケオジ騎士団長様が、こんな平凡チビに膝を付いてキスまでするなんて、とんでもない威力だイケメンフェロモン…っ!!

どうしよう、何とかこの呪いのようなフェロモンから解放してあげないと命の恩人が平凡少年好きの変態だと思われてしまう。

いや、騎士塔のど真ん中でこんなことになってるんだ、もう手遅れかもしれないが…。

それにしてもグランツ団長もなんだあの口上は重すぎないか?真面目な人がフェロモンにあてられるとこんなにも損をするのか。本来ならもっと相応しい将来奥さんになる美人に使うべき切り札みたいなシーンを、まさかおれなんかに使わせてしまうとは。罪悪感が半端ない。

「目を覚まして下さい!貴方のそれは本心じゃないんです!」

「…私の誓いを信じて下さらないのか?」

うーっ、やめて!そんな捨てられたドーベルマンみたいな目で見ないで…っ。

「し、信じてない訳じゃなくて!今貴方はフェロモンでそう思い込んでるだけで…っ」

「思い込みではない。私は誇り高き騎士だ。自分の気持ちを違えたりはしない」

「いやグランツ団長が騎士の中の騎士であるのは間違い無いんですけど、おれを護りたいってのはそう思い込まされてるというか…」

「…私では貴方を想う事すら許されないと言う事か」

やめて、本当に勘弁して!ほら、周りを見て下さいよ団長!貴方の部下達の何とも言えないポカン顔を!絶対格好いい団長が平凡少年好きで、しかも本気の告白を公衆の面前でかました挙句、平凡チビごときに振られそうになってる図ですよ!可哀想!

どうしたら穏便に真実を伝えつつ傷付けずに済ませられるのか。せめておれが美少年だったらな!

「グランツ団長」

凛とした声が割って入る。アレク王子!そうだあんたがいたよ…っ!

この地獄絵図打開の糸口になってくれ…っ!

「マシロちゃんは俺のお姫様になって貰う予定だから駄目だよ」

お前、まさかのダークホースか…っ!

「…それはマシロ殿も同意している事ですか?」

してないです。

「マシロちゃんは恥ずかしがり屋だからね」

なんじゃそりゃ…っ。

「ではアレクセイ殿下の妄想と言う事でよろしいか」

「妄想じゃ無くて、予言だよ。グランツ団長」

バチバチバチ…っ!!

いがみ合うイケメン王子とイケオジ騎士。
取り合ってるのおれなんだぜ?…帰っていいですか。

でも、この2人はおれの意味わからんイケメンフェロモンの被害者。おれが止めないと駄目だよな…。

大きく息を吸って吐く。よし、やろう。

「アレク王子、グランツ団長」

バチバチと絡み合った視線がおれを向く。
あまりの迫力にビビりそうになるのを何とか堪えて、渾身の媚びた顔を作る。

上目遣いに困ったような八の字まゆ。出来るだけ目を開けて涙を溜め、うるうるするように頑張る。おれは今美少年だ。この2人にとっては美少年だ!

「…おれの為に争わないで。仲良くして」

「「~~っ!!」」

マジか、効いてるぞ。
もう少しだ。

「お願い(きゅるるん)」

エグい。おれの男としての尊厳が死にそうだ。

「「・・・・・」」

…え?まさかの不発?嘘でしょ。
ここまで身を削ったんだから何が何でも止まってくれ…っ!

祈るように更に目力を入れて涙を溜めると、ぽろっと堪えきれずに涙が一筋落ちた。やべ、本当に泣いちゃった。

「っ!?マシロ殿、私達が悪かった!」

「マシロちゃん、ごめんね。泣かないで…っ!」

大慌てでご機嫌取りにくる2人にチョロいなと思いつつラストスパートだ。

「もうバチバチしない…?」

「もうしないよ(マシロちゃんの前では)」

「グランツ団長も?」

「もちろん、誓って(マシロ殿の前では)」

「よかった。2人共ありがとう」

にこぉと出来る限りの満面の笑顔を浮かべる。

手を握ったり、頭を撫でられたりされながら、おれは心に大ダメージを負った。
モテるって、辛いんだな。

ちらりと横目で周りの様子を見ると、みんな一様にニヤニヤと面白いものを見たという表情だ。うわぁ…、暫くここには近寄らないようにしよう。

「じゃあっ、そろそろ部屋に帰ろうかな」

「そうだね、戻ってお茶にしよう」

え、まだ一緒にいる気なの王子。

とにかく、早くこの場所から離れたい。それは後で聞こう。

「では、グランツ団長。助けて頂いてありがとうございました。ダミアン副団長達もありがとうございました!また来ます」

「おうおう、また来いよ。姫ちゃん」

絶対面白がってるな、こんちくしょう。

「マシロ殿」

真剣な声に顔を向ける。

そこには切なそうな表情のグランツ団長がおれを見ていた。…だから、そんな表情向けられるのはおれじゃないんだってば。

フェロモンのせいって言っても、今のこの人は本気なんだろうし、応えられないのにどう接するのが正解か分からない。けど、

「今度、改めてお礼に来ますね。グランツ団長」

「っ!あぁ、待っている」

傷付けるのは嫌だなって思う。

「行こう、マシロちゃん」

アレク王子も冗談で言ってるんだろうけど、本当にだったらどうしよう。

レイヴァン様もカール様も、善意でえっちしてくれてるけど、ずっとそうかな?

…おれは、どうなのかな?

「うん」

でもおれが生きる為に必要な事だから。

後回しにしても…いいよね。






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