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1巻

1-3

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 それから、クリュートくん、ミントくん、スリゼルくんの検査も終わる。
 クリュートくんは水、土属性の魔法と精神操作の魔法が扱えるという結果だった。ちょっと怖いよ。
 ミントくんは回復魔法と魔獣召喚しょうかんのスキルが使えるみたい。うんうん、動物好きだったもんね。うちに来てからは門番の犬をでてる光景をよく目撃してました。
 スリゼルくんは光魔法と同じくらいレアな闇魔法が使えるらしい。うーん、かっこいい。
 全部の検査が終わったと思ったら、研究員の人が私のほうに歩いてきた。

「あなたも検査するんですよね。検査着は渡されませんでしたか?」

 そう話した途端、別の研究員の人が慌てた様子でやってきて「おいっ」とその背中をひじでつついた。つつかれた研究員の人が、振り返った私のひたいを見て「あっ……」と声を漏らす。
 この検査は貴族の子に義務づけられてるものだけど、あれなのだ。ここでいう貴族の子というのは、貴族の後継者資格をもった子たち――第一継承権とかではなく第二第三でも継承権さえあればいい――なのだ。
 要は貴族の家を継ぐのに十分な魔力をもった子たちだけが対象というわけである。
 なので私はこの検査制度の対象からは外れる。
 まあ、跡を継ぐ可能性がない子をいちいち検査しても仕方ないしね。
 研究員の人たちの間にちょっと気まずい沈黙が流れる。
 私は彼らを見上げて聞いてみた。

「もしよかったら、検査を受けさせてもらっても大丈夫ですか?」
「え……? い、いいんですか……?」
「ご迷惑でなければよろしくお願いします!」

 私は親指を立てて、お願いをする。
 実は興味はあったのだよ。
 私自身のステータス。どんなもんだろうって。
 許可をもらったので、堂々と検査室の中に入っていく。

「そ、それでは、検査を開始させていただきます」

 その言葉とともに、魔法陣が光り始めた。
 本当の目じゃないからチカチカしない。心眼〈マンティア〉って便利だなぁ。
 検査が終わると、私は研究員の人のほうに走っていった。

「見せてください!」

 ぴょんぴょんっと、検査用紙を要求する。

「は、はい」

 研究員の人から検査用紙を渡された。
 私はそれをのぞき込む。魔力についてはぜんぜん期待してないけど、その他の項目はあれだよね、学校の体力測定みたいな感じに楽しめるはず。
 どんなもんかなぁ、どきどき。


 名前:エトワ・シルフィール
 年齢:4歳
 性別:女
 生命力:11
 持久力:7
 マナ:1
 筋力:4
 耐久力:2(+30)
 敏捷びんしょう:10
 魔力:0.1
 スキル:心眼〈マンティア〉
 加護:なし


 なにこれ、スライムよりひでぇ……
 ていうか小数点以下表示できたのかよ……



   第三章 別荘旅行


 ついに五歳になりました。
 あと一年で学校に入学。早いものです。
 そういえば、あの魔力測定のときの耐久力についてた(+30)って数値だけど、あのあと研究員の人に聞いてみたところ、風の大精霊石の効果みたいです。
 ただのめちゃくちゃ貴重な飾りだと思ってたら、そんな効果があったのかぁ、としみじみ感心しました。
 そんなトリビアは置いておいて、明日から別荘に行くことになってます。
 貴族の子供たちは、元の世界でいう春休みの時期、別荘で過ごすことが一般的なのだそうです。
 知らんかったよ。お父さま、忙しいしね。うん。
 とにかくリンクスくんとクリュートくんが行きたいと言ったので、私たちも行くことになりました。
 お父さまの代わりに執事長のクラットレさんが引率いんそつしてくれることになってます。私が生まれたときに近くにいた、あのおじいさん執事です。
 正直、公爵家から出たことがなかったから、かなり楽しみです。
 ビバ! 異世界での初旅行!
 リュックを準備して、着替えを入れてーの、石けんやタオルなどのお風呂道具を入れてーの、それから薬も一式あったほうがいいよね。
 わくわくしながら準備をしていたら、リンクスくんやソフィアちゃんたちから、不審な目で見られました。
 君たちー、なんですかな?
 私が首をかしげて視線を返すと、ソフィアちゃんが代表するようにおずおずとたずねてきた。

「エトワさま、何をしていらっしゃるんですか?」
「旅行の準備ですけど?」
「え?」
「え?」

 お互い何かおかしいですか、みたいなやり取り。
 私には原因がさっぱり。
 なんでこんな変な子を見るような目で見られなければならないのか。
 そんなことを思っていると、スリゼルくんが私に言った。

「エトワさま、旅行の準備でしたら侍女たちがやっていますが?」

 えっ……
 その言葉に、はっと衝撃を受けた。
 私は今まで旅行には着替えや洗面用具、お金が必須だと思っていた。
 で、でももしかして、貴族の旅行にはそんなもの御必要ではない?
 いや、必要かもしれないけれど、少なくとも自分で持ち歩く必要はない!?
 侍女の人たちが必要な荷物を持ち運んでくれて、私たちは手ぶらで移動。
 そ、それって――
 今までの旅行という概念が、根底からくつがえってしまう!

「こ、これが! ぶるじょわーる……!!」

 私は衝撃のまま叫んで、子供たちからさらに白い目で見られた。
 いや、でも、私ってばかなり恵まれてるよねぇ。
 生まれて最初にひたいに焼きごてを押しつけられたときはびびったけど、それからは平和でぶるじょわーに暮らせてる。
 元いた世界では行ったことすらなかった別荘旅行なんてものに行けるのだ。
 かなりいい感じに異世界生活できてるのは間違いなかった。

「お前、何考えてんだ?」

 リンクスくんが呆れた表情で私を見る。
 しかし、私はふっふっふと笑って、用意していたリュックをかつぎ、リンクスくんを見つめ返した。
 まあいとだから、目は合わないんだけどね。気分です。

「な、なんだよ……」
「なるほど、貴族の旅行がどういうものかはよくわかったよ。侍女の人は確かに君たちの荷物を用意してくれるかもしれない。でも、君たち、旅行というものをナメてないかい? いつもと違う土地、知らない場所、そこでは何が起こるかわからない! 旅行には備えというものが必要なのだよ。もしも何かあったとき、頼れるのは自分と自分の荷物だけ!」

 私はリュックをかつぎながら、子供たちへと宣言する。
 年長者として、人生の先輩として、旅行の心得を見せつけるのだ。

「だから! 私は!! この荷物を持っていく!!」
「あ、エトワさま、それ着替えですよね。勝手に取らないでください。準備ができません」

 リュックからはみ出したドレスをめざとく見つけた侍女の人が困った顔で、私からリュックを取り上げた。
 そしてリュックを開けて中身を取り出していく。

「あ、洗面所の石けんまで。どこに行ったのかと思ってたら……って薬!? こんなものどこから持ってきたんですか」

 あ~ん。

「アホか。庭に遊びに行こうぜ」

 私の旅行セットは侍女さんたちに解体され、呆れたリンクスくんたちは庭に遊びに行ってしまった。


     * * *


 今、私の目の前にはエメラルド色の森がどこまでも広がっている。ちょうど発生していた夕霧が森の間を通り抜け、ファンタジー映画の中に来てしまったような景色だった。
 澄んだ風が私の頬をでる。

「うおー」

 私は感動して叫んでしまった。
 なんと一日も経たずに、私たちは公爵家の所有する別荘地の一つにたどり着いてしまったのだ。
 移動手段は空飛ぶお船、飛空船ひくうせんだ。
 公爵家で五年間暮らしていたけど、そんなもの持ってるなんて知らなかったよ。
 それを見たときも感動して叫んでしまって、リンクスくんたちに白い目で見られた。
 この別荘地は高原にあるらしい。
 人の家はまったくといっていいほどなく、森と草原がどこまでも広がっている。
 特に高台に造られた公爵家の別荘から見下ろす景色は格別だった。
 ただ低地より気温は低く、春だからかちょっと寒い。
 でも、侍女の人が厚めの上着を着せてくれたから大丈夫だ。

「この地方には古代の遺跡があるんですよ。だから王家と公爵家で所有して、一般人は入れないようにしてるんです」
「なるほどー」

 ソフィアちゃんの説明にほうほうとうなずく。
 だからこんなに人家がまったくないんだねぇ。

「早く中に入ろうぜ!」
「うん、さすが公爵さまご所有の別荘だ。悪くないね」

 遊びたい盛りの男の子たちだけど、もう夕方近いから遊ぶのは明日からだ。
 楽しそうに別荘のほうへ走っていく。
 別荘というけど、さすが公爵家の建物とあってか、元の世界で私が住んでた家なんかより何倍も広い。
 立派な屋敷だけでなく、横に広い庭と澄んだみずうみがあり、船が浮かんでいる。

「参りましょう、エトワさま」

 スリゼルくんに言われて私も別荘の中に入っていく。
 その日は別荘でゆったり過ごすことができた。


     * * *


 次の日、庭で遊んでたら、リンクスくんがこんなことを言い出した。

「遺跡に行ってみようぜ!」

 遺跡……
 話には聞いてたけど本当にあるらしい。
 私は思わずソフィアちゃんのほうを見る。

「行って大丈夫なの?」

 ソフィアちゃんはちょっと困った顔で言った。

「立ち入り禁止のところに入らなければ大丈夫だとは思います……」

 なるほど、入っていい場所とだめな場所があるのね。
 それからソフィアちゃんは、リンクスくんたちのほうを向いた。

「こら、あなたたち勝手に決めないで!」
「えー、ここに来たなら絶対に遺跡だろ! 遺跡!」
「そうそう、王族の許可を得た者か、この別荘に招かれた者しか見られないんだから、ぜひ見に行くべきでしょう。エトワさまもそう思いますよね」

 クリュートくん、やんちゃな三人の男の子の中では唯一、私をさま付けしてくれてるんだけど、まったく尊敬されてる感じはない。さすが腹黒少年。

「エトワ、どうなんだよ!」

 リンクスくんににらまれた。
 子供特有の断ったら許さないぞオーラを感じる。

「うん、いいよ」

 さっきの話を聞く限り、立ち入り禁止のところに入らなければいいだろう。
 私はあっさり許可を出す。

「よし、行くぞ!」

 そう言うとリンクスくんたちが森のほうに走り出した。
 え? 歩きっすか?
 どれくらい距離があるんだろう……
 結局、遺跡へは飛行魔法で行くことになった。私はスリゼルくんに抱きかかえられて一緒に。
 そうして三十分ほどで遺跡のある場所にたどり着く。
 そこは半分はんぶん瓦礫がれきになった石造りの建物が点在する廃墟はいきょみたいな場所だった。
 一見、元の世界にあった城跡のような感じだけど、独特の模様が描かれていて、そこだけ一切風化していなかったりして、何か異様な力みたいなのを感じる。
 しばらくの間、遺跡を見て回ったり、他の子供たちが高いところにのぼって遊んだり、追いかけっこしたりして――

「あー、つまんねぇ!」

 案の定、子供たちは飽きた。
 そりゃそうだよね。ちょっと不思議なところはあっても、ただ瓦礫がれきがあるだけの場所だもん。
 むしろ私のほうが楽しんでた気がする。
 マチュピチュとかに海外旅行に来た気分でした。

「なぁ、あっちに行ってみようぜ!」

 リンクスくんが遠くの遺跡を指さして言う。
 そこには看板が立っていて、この世界の文字でこう書かれていた――『立ち入り禁止』と。

「だめよ! 立ち入り禁止の場所には入らないって約束だったでしょ」

 ソフィアちゃんがリンクスくんに怒る。

「うんうん、さすがに悪いけど許可できないよ……」

 私もこれは許可できなかった。もしかしたら危ないことがあるかもしれないし。

「なんだよ、ソフィア。もしかしてお前、怖いのかぁ~?」

 リンクスくんが馬鹿にするように、ソフィアちゃんに返す。私は完全スルー。

「そんなんじゃないもん!」

 ソフィアちゃんはカチンときた様子でリンクスくんに怒鳴る。

「お~い、臆病おくびょう者のソフィアは放っておいて行こうぜ~」
「うんうん、王家が立ち入り禁止にする場所。何か面白いものがありそうだ。もしかしたら王家の秘密をつかんでしまうかもしれない」
「向こうにリスの巣が見えた」

 リンクスくん、クリュートくん、ミントくんはそう言うと、立ち入り禁止の看板の向こうに走っていってしまう。
 この場には私とソフィアちゃんとスリゼルくんが残された。

「むうぅぅぅ~」

 ソフィアちゃんは三人のいる方向を、涙目でにらみ続ける。
 この子、とてもいい子なんだけど、同時にとても負けず嫌いなんだよね。だからああいう挑発はかなり効いてしまう。今も追いかけたいのを必死にこらえてここに留まってるのだろう。

「う~ん……」

 私は頬をぽりぽりきながら、ちょっと逡巡しゅんじゅんしつつも、ソフィアちゃんに言った。

「入っちゃったものは仕方ないし追いかけようか。すぐに連れ戻せば、大丈夫だと思うし」

 ソフィアちゃんが、ぱっと顔を輝かせてうなずく。

「はい、エトワさま」

 私はこのときの選択を後悔することになる。
 むしろ私がしっかりと男の子たちを止めるべきだったのだ。


     * * *


 立ち入り禁止のところに足を踏み入れてしばらく、私たちは歩き続ける。
 どうやらかなり奥まで入ってしまったらしい。
 立ち入り禁止の場所はそうでない場所より、遺跡の形がちゃんと残っている。風化を防ぐあの変な模様もかなり多かった。
 そしてようやく、リンクスくんたちの背中を見つける。
 リンクスくんたちは何か大きい扉の前に立っていた。その扉にも変な模様が描いてある。

「おお、すげぇ! なんだこれ!」
「うーん、古代の遺跡がこんなにはっきりと残っているとは……」

 私は手を振って彼らのもとに走り寄り声をかけた。

「お~い、リンクスくんや。もう帰ろうぜ~」

 その瞬間、変な声があたりに響いた。

『侵入シャ感知 侵入シャ感知 排除セヨ 侵入シャ感知 侵入シャ感知 排除セヨ』

 周囲に響いたサイレンみたいな音と一緒に、遺跡の模様が赤く点滅し始める。

「な、なにこれ……」
「なんだなんだ!?」

 子供たちも騒ぎ始める。もう、嫌な予感しかしない。
 そう思ったとき、スパンッとあの扉が斜めに切れた。斬撃ざんげきの余波が私の横の地面を切り裂き、私の頬から赤い血がつーと垂れ落ちる。

「え、エトワさま!?」

 それを見たソフィアちゃんが悲鳴をあげた。
 切れ目の入った扉が崩れ落ちる。
 そして中から大きな鉄の巨人が姿を現した。六本の足と四本の腕をもった禍々まがまがしい姿。
 遺跡から響いてくる冷たい音声が私たちに告げた。

『侵入シャ六匹ヲ発見 スベテ殺セ』


     * * *


 私たちの目の前に、不気味な鉄の巨人が現れた。
 昆虫みたいな足が六本と、似たような形の腕が四本。見ているとぞわぞわする。
 さらにその四本の腕にはそれぞれ、禍々まがまがしい武器が備えつけてあった。
 子供なら数人を串刺しにできてしまいそうな大きな針。
 大砲のような長い筒。
 解体工事の現場にある重機についているような鉄球。
 そしてこの巨人の身長と同じぐらいのたけの大剣。
 殺意しか感じられないデザイン。
 その赤い目が不気味に光って私たちをとらえている。
 いやいや、だめでしょう、これ。
 RPGとかでたくさんの経験を重ねて成長した主人公の前に、終盤の敵として出てくるやつだよね。子供時代に別荘地からフィールド二、三歩あるいただけでエンカウントしていい敵じゃないよ。
 この世界のモンスター配置おかしいよ! どうなってんの! おーい、神さま!
 私は一瞬パニックにおちいりかけたが、「エトワさま、大丈夫ですか!?」と駆け寄ってくれたソフィアちゃんのおかげで正気を取り戻す。
 そうだ。この子たちは天才と呼ばれる子たちだったんだ。
 この歳にして魔法院の大人たちにも驚かれるような、優秀な魔法使いのちびっ子たち。
 そんな彼らなら、こんな敵も倒せちゃうのかもしれない。だいたいこいつも案外、見かけ倒しかもしれないしね。

「うおっ!?」

 鉄の巨人の大剣での一撃を、リンクスくんが飛行魔法を使ってひらりとけた。

「この野郎! よくもやってくれたな!」

 そしてお返しとばかりに、攻撃魔法を放つ。
 リンクスくんの手のひらから、竜巻を直径一メートルの球体に圧縮したような砲弾が放たれ、鉄の巨人へと直撃した。バキバキとにぶい音が響く。
 よっしゃ、いける!
 と、思ったのが甘かった。
 嵐がおさまったあと、鉄の巨人の表面には傷一つついてなかった。
 スリゼルくんが叫ぶ。

「魔法ダメージ減衰装甲げんすいそうこう!?」

 なんですか、その魔法使いとやたら相性が悪そうな装甲そうこうは……
 このメンバー、魔法使いと役立たずしかいないから、ピンチじゃない?
 あ、もちろん役立たずは私です。
 そんなことを思っていると、クリュートくんがふっと笑いながら前に出た。

「ここは僕に任せてくれたまえ」

 クリュートくんが魔法をとなえると、周囲の大地から黒い細かな粒が宙に浮かび上がってきた。
 これは……砂鉄!?
 砂鉄はクリュートくんの頭上に集まって融解ゆうかいし、瞬時に一本の巨大なやりへと変化する。

「これならば! 魔法ダメージを軽減できても関係ない!」

 たぶん、魔法だけど物理属性で攻撃できる技なんだと思う。こんな魔法まで使えるなんて、さすが魔法使いの名家に生まれた子供たちだ。
 クリュートくんが腕を振り下ろすと、やりが加速して鉄の巨人へと放たれる。
 しかし、鉄のやりは巨人の体にぶつかると、粉々に砕け散った。

「馬鹿な! ゴーレムぐらいなら軽くほふれるはずの魔法だぞ!?」

 いつも余裕たっぷりなクリュートくんが珍しく取り乱す。

「こいつ……」

 同時に他の子供たちの顔にも、焦りみたいな感情がまじり始めた。
 えっ……実はちょっとやばいぱたーんなの? これ?
 私の背筋にもひんやりとしたものが込み上げてくる。
 私は正直、この子たちなら、こんな強そうなモンスターだって、なんだかんだ倒せちゃうんじゃないかと思っていた……
 一緒に過ごす中で、彼らの魔法の才能は見てきたから。
 それに侍女さんたちの話でも、一般的な魔法使いの実力はこの歳で軽く超えていると聞かされていた。

「ソフィア! まずエトワさまを飛行魔法で避難させろ! あとから俺たちも続く!」

 スリゼルくんが撤退の指示を出す。

「わかったわ!」

 ソフィアちゃんが私を抱きかかえ、即座に飛行魔法を発動させる。
 その瞬間、鉄の巨人が動いた。六本の足で地面を蹴り、その巨体からは信じられない速さで突進してくると、空に飛び上がった私とソフィアちゃんを目がけて、あの大針を突き出してきた。

「ひぃぃぃっ!?」

 ガキンッとにぶい音がする。
 私の体の十センチほど手前に、白い障壁しょうへきが現れていた。すさまじい威力で放たれた大針がそれに突き刺さっている。そして白い障壁しょうへきはひびが入って壊れかけだった。
 もし、この障壁しょうへきがなかったら、私の体はあの大きな針に串刺しにされてた……
 さっきまで感じていた浮力がなくなり、ソフィアちゃんと私の体が地面に向かって落ちていく。
 ソフィアちゃんがうまく着地してくれたから怪我はなかったけれど、逃げるはずだったのに元の場所に戻ってきてしまった。
 たぶん、さっきの白い障壁しょうへきはソフィアちゃんが張ってくれたのだ。でもそれは飛行魔法と両立させられなくて、地面に落ちたのだろう……

「この速さ……私たちの飛行魔法じゃ逃げるのは無理かも……」

 ソフィアちゃんがひたいに汗を浮かべながら絶望的なことを言った。


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