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突き進め!偽装ファミリー
13話:美園(長女)、危うし
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家の玄関を開ければ城島がいる、そんな光景が現実になるかもしれない。
そう思うだけで美園は飛び上がって万歳したい気分だった。
妄想の中ですでにゴールインしかかっていた美園だが、その夢を打ち砕くかのように、どこからともなく失笑が漏れ聞こえてきた。
その声に振向くと、扉の隙間から半笑いでこちらを見ているつかさがいた。
「あ、あんた!」
「いやいや、ちょいとお邪魔しますよ」
貴様は江戸時代の岡っ引きか!
つかさは小馬鹿にしたようにお辞儀をして、つかつかと生徒会室に入って来る。
「な、何の用よ! もしかして盗み聞きしてたわけ?」
「おいおい人聞きの悪いこと言うなよ。俺とお前の仲じゃないか。俺たちは一心同体だろ?」
この野郎、どこまで図々しいんだ。
美園はパンチを食らわすべく、ぐぅになりかかった手を必死に広げる。
「生徒会室に何か用かしら、進藤君」
自分の声がワントーン低くなっているのを自覚しながら、美園は目を細めてつかさを睨みつけた。
「何って、さっき確認し忘れてたんだけど日曜に家に行っていいか、って聞きたくて」
「日曜?!」
「そ、いろいろ話もしたいし、美園の部屋も見たいし」
いつから名前で呼ぶような間柄になったのか、つかさは馴れ馴れしく美園との距離感を縮めてきた。
「冗談でしょ、そんな勝手に……」
そう言いかけた美園だが、ズボンのポケットに忍ばせたボイスレコーダーにそっと手を添えたつかさの動きを視界に捉えた。
指先でボタンを押せば、さきほどの暴言が部屋中に流れることは間違いない。
「日曜は無理か?」
耳の垂れたウサギのように寂しげな表情を見せるつかさだが、その瞳の奥には肉食獣のそれと変わらない残忍さが見え隠れする。
「だ…だめな…ことはないけど」
「ほんとか、行っていいのか」
「いいか悪いかで言われると、だめってことはないんだけど。だからと言ってOKってことでも……」
もごもごと煮え切らない口調の美園を抑え込むように、つかさは大げさに声を張り上げた。
「いやぁ、嬉しいな! OKしてくれるなんて幸せだよ」
つかさはボイスレコーダーから手を放し、美園の両手を握ると上下に激しく振り動かす。
「ありがとう! 俺、絶対美園の家族に気に入られるように努力するから」
「いや、どうかな。無理だと思うけど……」
そんな2人の様子を不思議そうに見比べていた城島は、合点がいったようにポンと手を叩く。
「ひょっとして君たちって、付き合ってるわけ?」
「はい?」
突拍子もない城島のセリフに、美園の首はありえないほど傾いだ。
「まぁ、付き合ってるっていうか、どういうか。うん。やっぱ付き合ってるようなものかな。これからずっと一緒にいるわけだし。生徒会長も応援してくれますよね」
とんでもないことを言い出すつかさ。
「あんた、なんてこと言いだすのよ!」
「なんてことったって、専属契約しただろ」
「してないわよ!」
息のあった2人の会話を聞いた城島は、うんうんと何度も頷いて、共犯者めいた笑みを浮かべた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕は口が堅いほうだからね。それに美園君と進藤君が付き合ってるってバレても、モデルファミリーに影響はないと思うけどな」
何を言い出すのだ、と唖然と口を開ける美園を前に、城島は会心の一撃を放つ。
「進藤君の経歴は悪いものでもないし、イメージも悪くない。まぁ彼の父上はちょと過激だけど、マスコミにもコネはあるしモデルファミリーとして有利にことが進むんじゃないかな。それに、2人並んでると絵になるよ」
「絵に……なる」
城島のセリフを信じられない思いでそのまま繰り返す美園。
「そう。とってもお似合いだよ」
おに……あい?
美園の心に手榴弾を投げつけた城島は「ごゆっくり」と微笑んで、生徒会室を出て行ってしまった。
すでに消し炭となりつつある美園に、つかさがとどめの一発を食らわす。
「――脈なし、だな」
・
・
・
・
・
OJ: Hi! リエ、起きてる?
リエ: 起きてるよ、どうしたの?
OJ: なんだか今日は眠れなくって
リエ: そんな日もあるよ。無理に眠らなくたって大丈夫。話し相手になるよ
OJ: Great! きみはいつも優しいね
リエ: そんなことないよ、優しいふりをしてるだけかもしれないよ
OJ: 優しいふり? だったら本当のきみはどんな子なんだい?
リエ: 化け物
OJ: Ghost?
リエ: No...Devil.
そう思うだけで美園は飛び上がって万歳したい気分だった。
妄想の中ですでにゴールインしかかっていた美園だが、その夢を打ち砕くかのように、どこからともなく失笑が漏れ聞こえてきた。
その声に振向くと、扉の隙間から半笑いでこちらを見ているつかさがいた。
「あ、あんた!」
「いやいや、ちょいとお邪魔しますよ」
貴様は江戸時代の岡っ引きか!
つかさは小馬鹿にしたようにお辞儀をして、つかつかと生徒会室に入って来る。
「な、何の用よ! もしかして盗み聞きしてたわけ?」
「おいおい人聞きの悪いこと言うなよ。俺とお前の仲じゃないか。俺たちは一心同体だろ?」
この野郎、どこまで図々しいんだ。
美園はパンチを食らわすべく、ぐぅになりかかった手を必死に広げる。
「生徒会室に何か用かしら、進藤君」
自分の声がワントーン低くなっているのを自覚しながら、美園は目を細めてつかさを睨みつけた。
「何って、さっき確認し忘れてたんだけど日曜に家に行っていいか、って聞きたくて」
「日曜?!」
「そ、いろいろ話もしたいし、美園の部屋も見たいし」
いつから名前で呼ぶような間柄になったのか、つかさは馴れ馴れしく美園との距離感を縮めてきた。
「冗談でしょ、そんな勝手に……」
そう言いかけた美園だが、ズボンのポケットに忍ばせたボイスレコーダーにそっと手を添えたつかさの動きを視界に捉えた。
指先でボタンを押せば、さきほどの暴言が部屋中に流れることは間違いない。
「日曜は無理か?」
耳の垂れたウサギのように寂しげな表情を見せるつかさだが、その瞳の奥には肉食獣のそれと変わらない残忍さが見え隠れする。
「だ…だめな…ことはないけど」
「ほんとか、行っていいのか」
「いいか悪いかで言われると、だめってことはないんだけど。だからと言ってOKってことでも……」
もごもごと煮え切らない口調の美園を抑え込むように、つかさは大げさに声を張り上げた。
「いやぁ、嬉しいな! OKしてくれるなんて幸せだよ」
つかさはボイスレコーダーから手を放し、美園の両手を握ると上下に激しく振り動かす。
「ありがとう! 俺、絶対美園の家族に気に入られるように努力するから」
「いや、どうかな。無理だと思うけど……」
そんな2人の様子を不思議そうに見比べていた城島は、合点がいったようにポンと手を叩く。
「ひょっとして君たちって、付き合ってるわけ?」
「はい?」
突拍子もない城島のセリフに、美園の首はありえないほど傾いだ。
「まぁ、付き合ってるっていうか、どういうか。うん。やっぱ付き合ってるようなものかな。これからずっと一緒にいるわけだし。生徒会長も応援してくれますよね」
とんでもないことを言い出すつかさ。
「あんた、なんてこと言いだすのよ!」
「なんてことったって、専属契約しただろ」
「してないわよ!」
息のあった2人の会話を聞いた城島は、うんうんと何度も頷いて、共犯者めいた笑みを浮かべた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕は口が堅いほうだからね。それに美園君と進藤君が付き合ってるってバレても、モデルファミリーに影響はないと思うけどな」
何を言い出すのだ、と唖然と口を開ける美園を前に、城島は会心の一撃を放つ。
「進藤君の経歴は悪いものでもないし、イメージも悪くない。まぁ彼の父上はちょと過激だけど、マスコミにもコネはあるしモデルファミリーとして有利にことが進むんじゃないかな。それに、2人並んでると絵になるよ」
「絵に……なる」
城島のセリフを信じられない思いでそのまま繰り返す美園。
「そう。とってもお似合いだよ」
おに……あい?
美園の心に手榴弾を投げつけた城島は「ごゆっくり」と微笑んで、生徒会室を出て行ってしまった。
すでに消し炭となりつつある美園に、つかさがとどめの一発を食らわす。
「――脈なし、だな」
・
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リエ: 起きてるよ、どうしたの?
OJ: なんだか今日は眠れなくって
リエ: そんな日もあるよ。無理に眠らなくたって大丈夫。話し相手になるよ
OJ: Great! きみはいつも優しいね
リエ: そんなことないよ、優しいふりをしてるだけかもしれないよ
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