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第2章 紡がれる希望
第101話 唯一無二
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ウクライナ北部
「必ず勝つぞ……俺達は」
そう告げたユウキは、結晶のリングで束ねられていない状態の黒髪を揺らながら、透き通った空色の瞳でファクティスを見つめていた。
「本当に勝てるって思ってるんだね」
思考を読んだファクティスは、紅赤の左眼と京紫の右眼で容姿の変化したユウキを不思議そうに観察した。
「でも、絶対無理」
ファクティスが満面の笑みを浮かべながら言葉を発した瞬間、差し込んでいた陽の光は、厚い黒雲に再び覆われた。
「だってホラ」
赤黒い刃を持つ刀を二、三回左右に振ったファクティスは、再び地面を蹴り砕き、ユウキの視界から一瞬で姿を眩ませた。
「消え——」
「これで終わりだもん」
「なっ!?」
禍々しい気配を察知し視線を下げると、ファクティスは既に懐へと入り込み、鋭い切先を胸元に向けて突き出していた。
(さっきよりも遥かに速いっ!)
「くっ!」
意識を集中させたユウキは、接近する切先を刃で捌く事は出来ないと判断し、最小限の負傷で抑える為に身体の位置を移動し始めた。
(力の制限を解除した状態でも、契約無しじゃ太刀打ち出来ないのか!?)
吹き荒ぶ風に髪を靡かせたユウキは、周囲の音が消え去る程に精神を研ぎ澄ませ、接近する切先を避ける為に右方向へと身体を動かした。
しかし、接近する切先はユウキの動きを追尾し、心臓を確実に貫ける位置へと切先の向きを変化させていた。
「はい、オシマイ」
ユウキの胸部に刃が突き刺さる直前、ユウキの右腕をレンが強く引いた事で、切先は標的の存在しない空間を貫いた。
「あれ?」
赤黒い刃が空気を貫いた一瞬、回避した二人は周囲の空気が抜かれたかの様な息苦しさを感じ顔を歪めた。
ズガァァァァン
そして、切先から一瞬伸びた赤黒い糸が視界の果てへと到達すると、空気を揺るがす爆音と共に、辛うじて見えていた緑を軽々と呑み込む程の業火が天高く燃え上がった。
(なんだあの威力はっ!?)
「不味い、障壁をっ!」
轟音の後に障壁で身を守った二人の元へと到達した熱風は、ユウキの創造した障壁の形状を歪めてしまう程の熱量を持っていた。
「防御出来たんだね、えらいっ!」
変形した障壁を見たファクティスは、突き出した右腕を戻し、満面の笑みを浮かべながら二人に拍手をし始めた。
「あ、ありがとうユウキ」
「それはこっちの台詞だ」
感謝の言葉を告げ合った後に、互いに負傷が無い事を確認した二人は、瞳を合わせながら安堵の笑みを浮かべた。
「外しちゃった。絶対当たると思ったのに」
「今のが、お前の全力か?」
離れた場所で不機嫌そうに刀を振り回しているファクティスに視線を向けたユウキは、先程の力の程度を探る質問を投げ掛けた。
「全力?テカゲンならしたけど……怖いの?」
唖然とした顔で返答したファクティスは、ユウキが微かに抱いた恐怖を感じ取り、嬉しそうに身体を左右に揺らし始めた。
「そっかぁ。怖いんだ……今ので怖がる人なら、簡単に殺せちゃうね!」
瞬間的に表情を一変させたファクティスは、身体の芯を凍らせる程の鋭い眼差しを向け、再びユウキに接近すると同時に赤黒い刃を振るった。
「そう簡単に行くかっ!!」
水縹に近い半透明な結晶刀の柄を両手で握り締めたユウキは、迫る赤黒い刃へ向けて渾身の一振りを放った。
「さっきはレンに邪魔されたけど、関係無いよ。だって、私の標的は貴方だけだからっ!」
「殺すつもりが無かろうが、お前の攻撃範囲なら—— 」
「だったらレンを逃せば良いのに、なんでここに残すの?」
「俺の感情を読むお前が、その隙を与えるとは思えないだろ!」
思考を読んだファクティスの一言を皮切りに、次々と繰り出される斬撃は、ユウキの刃を避ける様に放たれ、身に纏っていた白い隊服には徐々に刀傷がつき始めた。
(変だなぁ。もう、身体が穴だらけになる攻撃を何度もしてる筈なのに死んで無い……考えてる事と、違う動きをしてる?)
意志で動く人間であれば接触する事すら出来ない刃を辛うじて避け、致命傷となる地点に接近する刃を刃で弾くなど、常人では不可能といえる意志と異なる動きを見せていた。
「うっ!」
(なんて戦いだ。二人が刃を交える度に、身体の骨が折れそうな程の強風が吹き荒れる……)
互いの刃が接触する度に、甲高い音が遠方まで響き渡り、周囲の空気を震わせる程の衝撃波を幾度と無く発生させていた。
(昔の僕なら、立って居られなかっただろう……でも今の僕は、生まれる前の僕とは違うっ!)
「ユウキっ!」
『真価の灯』
脅威的な風圧に臆する事なく、離れた場所からレンが放った紅の斬撃に反応したファクティスは、後方へと飛び退き、地面を斬り裂く斬撃を回避した。
「はぁ、はぁ」
「ユウキ、大丈夫かい?」
「あ、ああ。ありがとうレン、助かった」
間髪入れずに放たれる斬撃に対して、回避と防御を繰り返したユウキは呼吸を荒げ、疲弊による汗を流していた。
「こんなに早い段階で使いたくは無かったが……」
「契約を使うのかい?」
「……ああ」
左手に輝くギメルリングを見つめたユウキは、呼吸を整えながらレンの問いに応えた。
「長期戦を想定して力を温存していれば、数分後には命を落とす事になる……そう思わせる程に、底の知れない力を持ってるんだ、あいつは」
二人の会話を邪魔する事なく、その場に立ち尽くしていたファクティスは、まるで時間でも数えるかの様に切先を地面に突き刺していた。
「本当に、それだけかい?」
レンの言葉にピクリと身体を強張らせたユウキは、反応を誤魔化すように顔を別の方向へと向けた。
「近くにいる僕の身を案じて、全力が出せないんだよね」
「……お前に、隠し事は出来ないな」
「君は、誤魔化すのが下手だからね」
先程の戦いで起きた衝撃波は、ファクティスにとっては小手調べ程度の力で発せられたモノだと理解していたユウキは、これ以上の力を出す事でレンに被害が及ぶ事を恐れていた。
ファクティスが感じ取った恐怖は、ユウキがファクティスに対して抱いたモノでは無く、レンが傷付く事を恐れた事で抱いた感情だった。
「でも、前に言っただろう?君の隣に立つ男として恥ずかしくない様に、元の世界に戻ったら修行するって」
その言葉を聞いたユウキは、創造の世界でレンと会話した内容を思い出した。
「君が意識を取り戻すまでの間に、僕はヨハネと少しだけ鍛錬をしたんだ。ユウ達みたいに実践とまでは行かなかったけれど……同じ炎の属性を使う者として、属性の使い方と戦い方を習った」
そう告げたレンが向けた刀身には、以前の荒々しく燃える炎とは異なる、静かに流動する炎が薄く纏われていた。
「属性は、帯びた量が力じゃ無い。最小限に抑えた属性量でも、荒々しく纏った属性でも力は同じ……今の僕は、刃に纏わせた属性の他に、身体全身に薄い炎属性を纏って身を守っている」
その言葉を聞いて注視したユウキは、レンの全身に薄い炎属性の膜が構築されている事を視認した。
「属性量の節約が戦闘の基本だって、ヨハネから教わったんだ」
警戒を緩める事なく会話を続ける二人の様子を、面白い見世物を見る様な目で観察していたファクティスは、繋がっている属性から流れる感情に反応し、上空へと顔を上げた。
遠方で戦っている同士の抱いた懐かしさと寂しさを感じ取ったファクティスは、同士の感情に呼応して溢れ出る記憶の影響を受け、一筋の涙を流していた。
「俺が意識を失ってる間に、そんな事をしていたなんて」
「君のパートナーとして、情け無いままじゃ居られないからね」
その言葉を聞き頬を赤らめたユウキは、表情を見られない様に顔を逸らした。
顔を逸らしたユウキの視線の先には、離れた場所で別の方向へと視線を向けているファクティスの姿があった。
離れた場所に立ち尽くしていたファクティスの表情からは、先程までの幼さを感じない程の冷静さを感じさせた。
(あれは、涙?誰かの感情を読み取ったのか?……いや、今はそんな事よりも)
天を見上げるファクティスに意識が向いていたユウキは、自身を見つめているレンに再び視線を合わせた。
(ファクティスの内に秘めた力は未知数だ。力の解放を躊躇出来る相手じゃ無い事は、さっき刃を交えた時に身を持って理解した)
「強くなったレンに、頼みがある」
意を決したユウキは、言葉を待っていたレンに対して自身の思いを告げる事を選んだ。
「節約術を学んだだけで、強くなったとは言えない気がするけど……なんだい?」
「〝今の俺〟一人の力じゃ、未知数な力を持っているファクティスに敵わない……今の俺には、お前の力が必要なんだ」
「……うん」
その言葉を発したユウキは、自身と同じ存在である意識が、ある大きな変化が起きている事を悟っていた。
(ファクティスは感情を読んで攻撃しているにも関わらず、行動の読み間違えを繰り返している……これは、フィリアに背中を押されたユウトが創り出した千載一遇の好機だ)
『俺とフィリアが創った可能性……お前とレンなら、活かしてくれると信じてる』
自身の属性を使い、唯一無二の可能性を創り出したユウトの姿が脳裏を過ったユウキは、もう一人の自分自身の言葉を聞き、決意の灯火を瞳に宿した。
「もう二度と、後悔したく無い。だから…… 〝俺の契約者〟として、一緒に戦って欲しい」
「……勿論だよ」
差し出された左手を見つめたレンは、信頼の眼差しを向けるユウキの瞳を見つめながら承諾の言葉を発した。
「え?」
(さっきまで少しは読めた感情が、全然読めなくなった?指定した人の意識は読める筈なのに……どうして?)
その光景を見ていたファクティスは、突然二人の意識が完全に読み取れなくなった。
(目には見えるけど、届かない。まるで二人が、私のいる世界とは別の世界に立っているみたいに……何も感じられない)
目にしている二人が、隔絶された空間にいる事を直感したファクティスは、唖然とした表情で二人の周囲を見回り始めた。
「ん?……静かに、なった?」
一定の距離まで近付いたファクティスは、一瞬にして辺りに不自然な静寂が広がった事に違和感を感じた。
「君の隣を歩む事を—— 」
「お前と共に生きる事を—— 」
静寂の中で発せられた言葉は、二人を覆う透明な箱のような空間を見回していたファクティスの耳にも、明瞭に聞こえていた。
そして、ユウキと向き合ったレンは、差し出された左手の指先を、自身の左手の指先で支えた。
「んん?」
(この感覚は、なんだろう?私も、やった事があるような?された事があるような?)
混濁した属性によって自身の記憶が把握出来なくなっていたファクティスは、体内を駆け巡る属性に残された記憶の影響で、妙な既視感を覚えていた。
「「この指輪と共に契ろう」」
そしてレンは、支えた左手を自身の口元に近付け、薬指に嵌められていた結晶で創れたギメルリングに口付けをした。
『契約・第二段階』
「ウヒャアッ!?」
突然放たれた純白の光から、両手で瞳を庇ったファクティスは、周囲を明るく照らす小さな太陽の中に呑み込まれていった。
「あは……あはは、やっと本気になったんだ?」
眩い光と共に感じる冷気を受けたファクティスは、嬉しそうに笑みを浮かべながら暗雲に包まれた上空へと顔を上げた。
「それなら私も、本気で楽しまなきゃ……そうだよね?」
『ソアレ?』
「必ず勝つぞ……俺達は」
そう告げたユウキは、結晶のリングで束ねられていない状態の黒髪を揺らながら、透き通った空色の瞳でファクティスを見つめていた。
「本当に勝てるって思ってるんだね」
思考を読んだファクティスは、紅赤の左眼と京紫の右眼で容姿の変化したユウキを不思議そうに観察した。
「でも、絶対無理」
ファクティスが満面の笑みを浮かべながら言葉を発した瞬間、差し込んでいた陽の光は、厚い黒雲に再び覆われた。
「だってホラ」
赤黒い刃を持つ刀を二、三回左右に振ったファクティスは、再び地面を蹴り砕き、ユウキの視界から一瞬で姿を眩ませた。
「消え——」
「これで終わりだもん」
「なっ!?」
禍々しい気配を察知し視線を下げると、ファクティスは既に懐へと入り込み、鋭い切先を胸元に向けて突き出していた。
(さっきよりも遥かに速いっ!)
「くっ!」
意識を集中させたユウキは、接近する切先を刃で捌く事は出来ないと判断し、最小限の負傷で抑える為に身体の位置を移動し始めた。
(力の制限を解除した状態でも、契約無しじゃ太刀打ち出来ないのか!?)
吹き荒ぶ風に髪を靡かせたユウキは、周囲の音が消え去る程に精神を研ぎ澄ませ、接近する切先を避ける為に右方向へと身体を動かした。
しかし、接近する切先はユウキの動きを追尾し、心臓を確実に貫ける位置へと切先の向きを変化させていた。
「はい、オシマイ」
ユウキの胸部に刃が突き刺さる直前、ユウキの右腕をレンが強く引いた事で、切先は標的の存在しない空間を貫いた。
「あれ?」
赤黒い刃が空気を貫いた一瞬、回避した二人は周囲の空気が抜かれたかの様な息苦しさを感じ顔を歪めた。
ズガァァァァン
そして、切先から一瞬伸びた赤黒い糸が視界の果てへと到達すると、空気を揺るがす爆音と共に、辛うじて見えていた緑を軽々と呑み込む程の業火が天高く燃え上がった。
(なんだあの威力はっ!?)
「不味い、障壁をっ!」
轟音の後に障壁で身を守った二人の元へと到達した熱風は、ユウキの創造した障壁の形状を歪めてしまう程の熱量を持っていた。
「防御出来たんだね、えらいっ!」
変形した障壁を見たファクティスは、突き出した右腕を戻し、満面の笑みを浮かべながら二人に拍手をし始めた。
「あ、ありがとうユウキ」
「それはこっちの台詞だ」
感謝の言葉を告げ合った後に、互いに負傷が無い事を確認した二人は、瞳を合わせながら安堵の笑みを浮かべた。
「外しちゃった。絶対当たると思ったのに」
「今のが、お前の全力か?」
離れた場所で不機嫌そうに刀を振り回しているファクティスに視線を向けたユウキは、先程の力の程度を探る質問を投げ掛けた。
「全力?テカゲンならしたけど……怖いの?」
唖然とした顔で返答したファクティスは、ユウキが微かに抱いた恐怖を感じ取り、嬉しそうに身体を左右に揺らし始めた。
「そっかぁ。怖いんだ……今ので怖がる人なら、簡単に殺せちゃうね!」
瞬間的に表情を一変させたファクティスは、身体の芯を凍らせる程の鋭い眼差しを向け、再びユウキに接近すると同時に赤黒い刃を振るった。
「そう簡単に行くかっ!!」
水縹に近い半透明な結晶刀の柄を両手で握り締めたユウキは、迫る赤黒い刃へ向けて渾身の一振りを放った。
「さっきはレンに邪魔されたけど、関係無いよ。だって、私の標的は貴方だけだからっ!」
「殺すつもりが無かろうが、お前の攻撃範囲なら—— 」
「だったらレンを逃せば良いのに、なんでここに残すの?」
「俺の感情を読むお前が、その隙を与えるとは思えないだろ!」
思考を読んだファクティスの一言を皮切りに、次々と繰り出される斬撃は、ユウキの刃を避ける様に放たれ、身に纏っていた白い隊服には徐々に刀傷がつき始めた。
(変だなぁ。もう、身体が穴だらけになる攻撃を何度もしてる筈なのに死んで無い……考えてる事と、違う動きをしてる?)
意志で動く人間であれば接触する事すら出来ない刃を辛うじて避け、致命傷となる地点に接近する刃を刃で弾くなど、常人では不可能といえる意志と異なる動きを見せていた。
「うっ!」
(なんて戦いだ。二人が刃を交える度に、身体の骨が折れそうな程の強風が吹き荒れる……)
互いの刃が接触する度に、甲高い音が遠方まで響き渡り、周囲の空気を震わせる程の衝撃波を幾度と無く発生させていた。
(昔の僕なら、立って居られなかっただろう……でも今の僕は、生まれる前の僕とは違うっ!)
「ユウキっ!」
『真価の灯』
脅威的な風圧に臆する事なく、離れた場所からレンが放った紅の斬撃に反応したファクティスは、後方へと飛び退き、地面を斬り裂く斬撃を回避した。
「はぁ、はぁ」
「ユウキ、大丈夫かい?」
「あ、ああ。ありがとうレン、助かった」
間髪入れずに放たれる斬撃に対して、回避と防御を繰り返したユウキは呼吸を荒げ、疲弊による汗を流していた。
「こんなに早い段階で使いたくは無かったが……」
「契約を使うのかい?」
「……ああ」
左手に輝くギメルリングを見つめたユウキは、呼吸を整えながらレンの問いに応えた。
「長期戦を想定して力を温存していれば、数分後には命を落とす事になる……そう思わせる程に、底の知れない力を持ってるんだ、あいつは」
二人の会話を邪魔する事なく、その場に立ち尽くしていたファクティスは、まるで時間でも数えるかの様に切先を地面に突き刺していた。
「本当に、それだけかい?」
レンの言葉にピクリと身体を強張らせたユウキは、反応を誤魔化すように顔を別の方向へと向けた。
「近くにいる僕の身を案じて、全力が出せないんだよね」
「……お前に、隠し事は出来ないな」
「君は、誤魔化すのが下手だからね」
先程の戦いで起きた衝撃波は、ファクティスにとっては小手調べ程度の力で発せられたモノだと理解していたユウキは、これ以上の力を出す事でレンに被害が及ぶ事を恐れていた。
ファクティスが感じ取った恐怖は、ユウキがファクティスに対して抱いたモノでは無く、レンが傷付く事を恐れた事で抱いた感情だった。
「でも、前に言っただろう?君の隣に立つ男として恥ずかしくない様に、元の世界に戻ったら修行するって」
その言葉を聞いたユウキは、創造の世界でレンと会話した内容を思い出した。
「君が意識を取り戻すまでの間に、僕はヨハネと少しだけ鍛錬をしたんだ。ユウ達みたいに実践とまでは行かなかったけれど……同じ炎の属性を使う者として、属性の使い方と戦い方を習った」
そう告げたレンが向けた刀身には、以前の荒々しく燃える炎とは異なる、静かに流動する炎が薄く纏われていた。
「属性は、帯びた量が力じゃ無い。最小限に抑えた属性量でも、荒々しく纏った属性でも力は同じ……今の僕は、刃に纏わせた属性の他に、身体全身に薄い炎属性を纏って身を守っている」
その言葉を聞いて注視したユウキは、レンの全身に薄い炎属性の膜が構築されている事を視認した。
「属性量の節約が戦闘の基本だって、ヨハネから教わったんだ」
警戒を緩める事なく会話を続ける二人の様子を、面白い見世物を見る様な目で観察していたファクティスは、繋がっている属性から流れる感情に反応し、上空へと顔を上げた。
遠方で戦っている同士の抱いた懐かしさと寂しさを感じ取ったファクティスは、同士の感情に呼応して溢れ出る記憶の影響を受け、一筋の涙を流していた。
「俺が意識を失ってる間に、そんな事をしていたなんて」
「君のパートナーとして、情け無いままじゃ居られないからね」
その言葉を聞き頬を赤らめたユウキは、表情を見られない様に顔を逸らした。
顔を逸らしたユウキの視線の先には、離れた場所で別の方向へと視線を向けているファクティスの姿があった。
離れた場所に立ち尽くしていたファクティスの表情からは、先程までの幼さを感じない程の冷静さを感じさせた。
(あれは、涙?誰かの感情を読み取ったのか?……いや、今はそんな事よりも)
天を見上げるファクティスに意識が向いていたユウキは、自身を見つめているレンに再び視線を合わせた。
(ファクティスの内に秘めた力は未知数だ。力の解放を躊躇出来る相手じゃ無い事は、さっき刃を交えた時に身を持って理解した)
「強くなったレンに、頼みがある」
意を決したユウキは、言葉を待っていたレンに対して自身の思いを告げる事を選んだ。
「節約術を学んだだけで、強くなったとは言えない気がするけど……なんだい?」
「〝今の俺〟一人の力じゃ、未知数な力を持っているファクティスに敵わない……今の俺には、お前の力が必要なんだ」
「……うん」
その言葉を発したユウキは、自身と同じ存在である意識が、ある大きな変化が起きている事を悟っていた。
(ファクティスは感情を読んで攻撃しているにも関わらず、行動の読み間違えを繰り返している……これは、フィリアに背中を押されたユウトが創り出した千載一遇の好機だ)
『俺とフィリアが創った可能性……お前とレンなら、活かしてくれると信じてる』
自身の属性を使い、唯一無二の可能性を創り出したユウトの姿が脳裏を過ったユウキは、もう一人の自分自身の言葉を聞き、決意の灯火を瞳に宿した。
「もう二度と、後悔したく無い。だから…… 〝俺の契約者〟として、一緒に戦って欲しい」
「……勿論だよ」
差し出された左手を見つめたレンは、信頼の眼差しを向けるユウキの瞳を見つめながら承諾の言葉を発した。
「え?」
(さっきまで少しは読めた感情が、全然読めなくなった?指定した人の意識は読める筈なのに……どうして?)
その光景を見ていたファクティスは、突然二人の意識が完全に読み取れなくなった。
(目には見えるけど、届かない。まるで二人が、私のいる世界とは別の世界に立っているみたいに……何も感じられない)
目にしている二人が、隔絶された空間にいる事を直感したファクティスは、唖然とした表情で二人の周囲を見回り始めた。
「ん?……静かに、なった?」
一定の距離まで近付いたファクティスは、一瞬にして辺りに不自然な静寂が広がった事に違和感を感じた。
「君の隣を歩む事を—— 」
「お前と共に生きる事を—— 」
静寂の中で発せられた言葉は、二人を覆う透明な箱のような空間を見回していたファクティスの耳にも、明瞭に聞こえていた。
そして、ユウキと向き合ったレンは、差し出された左手の指先を、自身の左手の指先で支えた。
「んん?」
(この感覚は、なんだろう?私も、やった事があるような?された事があるような?)
混濁した属性によって自身の記憶が把握出来なくなっていたファクティスは、体内を駆け巡る属性に残された記憶の影響で、妙な既視感を覚えていた。
「「この指輪と共に契ろう」」
そしてレンは、支えた左手を自身の口元に近付け、薬指に嵌められていた結晶で創れたギメルリングに口付けをした。
『契約・第二段階』
「ウヒャアッ!?」
突然放たれた純白の光から、両手で瞳を庇ったファクティスは、周囲を明るく照らす小さな太陽の中に呑み込まれていった。
「あは……あはは、やっと本気になったんだ?」
眩い光と共に感じる冷気を受けたファクティスは、嬉しそうに笑みを浮かべながら暗雲に包まれた上空へと顔を上げた。
「それなら私も、本気で楽しまなきゃ……そうだよね?」
『ソアレ?』
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レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。
こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。
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【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】
・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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