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第2章 紡がれる希望

第100話 暗闇に灯る光

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 数時間前

 チェルノボグは、後の決戦に備え準備を進めていた。

「……」

 殆どの準備を終えた頃、チェルノボグは研究室に貯蔵されていた属性を確認していた。

 (風がどちらに吹こうが、俺達の行く末が決まる戦いになる事は間違いない)

 薄暗い研究室内に大量に置かれた小瓶には、それぞれ名前が明記されており、チェルノボグは名前を確認しながら奥へ奥へと歩みを進めた。

 (奴等が敗北すれば、次に最も可能性を残したクレイドルを潰す事になるか)

 君臨する世界最強では無く、創造されて間もないユウトが選ばれた理由に、ファクティスの能力が関わっている事を理解していたチェルノボグは、国に残ったファイスでさえもファクティスに勝利する事は出来ないだろうと考えていた。

 (信念の強さが、属性の強さならば……俺が許す事の出来る人間は、俺を打ち破る事の出来る強い信念を有する者だけだ)

 部屋の最深部に辿り着いたチェルノボグは、身体に属性を迸らせ、自分の属性にのみ反応する扉を開けた。

 (ただ敗北する事は有り得ない。俺にとって光の人間は、闇の人間と大差無い腐った人間の集まりなのだから)

 扉の向こう側に保管されていた黒い金属の箱を手に取ったチェルノボグは、中にある二つの小瓶を取り出した。

「親父、俺の中で見てろ……属性を使わない医学の真価を。アナスタシアさん……この戦いの行く末を、どうか見届けて下さい」

 取り出された二つの小瓶は、アナスタシアと明記された水のマイナス属性の小瓶と、アラダルと明記された雷のプラス属性の小瓶だった。

 二人から託された小瓶から属性を抽出機で抜き取ったチェルノボグは、右腕の血管に針を突き刺し、小瓶内の属性を全て自身の身体に注入した。

 (違和感は無い。注入時の細工は機能しているようだな)

 血流に流された属性は、チェルノボグの体内の属性と混合する事なく体内を循環し始めていた。

 (一定量の雷属性で構築された薄い膜は、血中で属性同士の混合を分離させる作用がある。血中の属性に溶け合わなければ、身体的な影響も無い)

 体新規の属性に順応する変化を体感で感じ取ったチェルノボグは、過去の実験と同様の反応に目を細めた。

 (既存の属性に干渉しなければ、第二第三の属性を注入しようとも、身体機能は属性開花時と同じように属性に対応した変化を見せるか)

 他の被験者とファクティスで実証済みの方法を試したチェルノボグは、微かに残された疑念を消し去る結果に安堵していた。

「フッ、属性による二段覚醒か。ユウトの前例が無ければ、考える事も無かっただろう」

 (他者の属性を得た奴の成長は、常人が許容出来る属性の範疇を優に超えているがな)

 属性による体温の変化を感じながら、チェルノボグは常人とは異なるユウトの身体的異常さを痛感していた。

「やはり奴は、ファクティスの標的に相応しい」

 新たな属性の存在を感じながら、チェルノボグは属性貯蔵室から出て行った。

―*―*―*―*―

 ラザレット島

 (さぁ、始めるぞ)

 体内に流れた属性の膜を解除したチェルノボグは、直後に水と雷属性の過剰な反応を全身で感じ取り、内側から無数の針を突き刺されるような痛みに目を見開いた。

「ぐっ、あぁ」

 二人に聞こえない程度のうめき声を発すると、チェルノボグの全身からは赤黒い電撃と金色の電撃が交互に迸っていた。

「何か変だ……多分、次の一撃で終わらせるつもりだ」

 チェルノボグの前例の無い変化から、相手の次なら手が最大の一撃である事を推察した二人は、電撃の射程となる地点まで接近する事を避けた。

「うん……ミール、僕らも次に全てを懸けよう」

 離れた場所で様子を見ていた二人の内、シュウは全身を流れる結晶の属性に意識を集中させ、全ての属性を使用した最後の創造物を脳内に思い浮かべ、両手を正面に翳した。

 ミールは、温存していた攻撃用の属性を万全の状態で発揮する為に、白刃に纏わせていた属性を全身に伝達させ始めた。

『デェニ、お前は日の名を持ってるんだぞ?お前なら、治癒の属性なんか無くとも、暗闇で苦しんでいる人達を照らす日輪になれる』

「この、記憶は……」

 属性が混同し始めたチェルノボグの脳内には、属性内に残された記憶が流れ込んでいた。

 父親であるアラダルから告げられた言葉だったが、チェルノボグの記憶には父親の目線と自身の目線から見た景色が混濁した状態で再生されていた。

『彼なら、エリーの病気を治してくれると……私は信じています』

「ぐっ、アァァァァアッ!!」

 チェルノボグの医療方法に不満を抱いていた隊員達に対して、アナスタシアが告げている言葉が脳内で再生された瞬間、意識が飛びそうな程の電流が体内を駆け巡った。

 光の人間である二人の記憶と属性を受け取ったチェルノボグの身体は、混ざり合う事のない光と闇の部分が乖離し、混同が不完全な状態の属性になってしまっていた。

「わ……かっていた事ダ。今の俺に……二人の属性ヲ、有する資格ガ無イ事は」

 身体から赤、黒、金の電撃を発していたチェルノボグは、体内の異常を治し続ける治癒属性から、アナスタシアの恩恵を身体の芯から感じていた。

「ダガ……この二つの属性ハ、今……使う事に、意味ガ……アるンだっ!」

 そう叫んだチェルノボグは、前屈みになりながらも、体内に放出され続けた雷属性を強引に押さえ込んだ。

「はぁ、はぁ……悪が苦しむ様が、そんなに面白いか?」

 属性を安定させたチェルノボグは、上体を上げ、正面に立つミールに対して鋭い眼差しを向けた。

「人が苦しんでいるのに、それを面白がる人なんて……光の人達の中にはいませんよ」

 視線の先には、チェルノボグの様子を伺いながら属性の最終調整を開始したミールの姿があった。

「ハッ!若さ故の、社会を知らぬ浅い応えだ。怠惰で傲慢な人間の、裏を知らな過ぎる」

 ミールの応えを嘲笑い、応えに対する心境を吐き捨てたチェルノボグは、額に流れる汗を拭った後に、再びミールの瞳に視線を合わせた。

「お前の知る世界は、光の一部に過ぎない。自身に危害が無ければ、他人の不幸に歓喜する人間は、光闇問わず存在する」

「……確かに僕は、アーミヤさん達に比べれば、まだ何も知らない……でも」

 チェルノボグの言葉を聞いたミールは、柄を左手に持ち、刃を軽く払ったミールは、右の掌を胸の位置に当てた。

「今の僕にとっては、誰かの為に日々を生きるツァリ・グラードの人達……僕が人生で関わった人達が、僕の全てです」

 煌めくエメラルドのような瞳で、自身の意志が込められた言葉を返されたチェルノボグは、世界最強の人間達が胸に秘めた意志に匹敵するモノを感じ取った。

 (無知であるが故に純粋、と言う訳か。全てを知る他の世界最強とは比較にならん程に浅く、単純な理由だが、意志の強さは世界最強に並び立つか……この純粋さも、若さ故か)

 過去に、光拠点ペチェールシクに迷い込んだ傷付いた猛獣に対して大人達が警戒する中、幼いエリーが猛獣を庇った事があった。

 アナスタシアが猛獣の傷を治し、エリーがペチェールシク内で傷の癒えた猛獣と仲良く戯れている様子を見守っていたチェルノボグは、歳を重ねる事で見えなくなる事がある事を理解していた。

「僕からも、言いたい事があります」

 ミールの声によって現実に引き戻されたチェルノボグは、体内で二人の属性に混ざり合う自身の属性に不快感を覚えながら、意識をミールに向けた。

「貴方は……この世界がゲームだと、自分を理解する事が出来るのは自分で、他者の価値観も思考も理解する事など出来ないと言いました」

「ああ、それがどうした?」

「貴方が過去に体験した事も、感じた事も、僕には分かりません……でも、伝える事で感じた事に共感して、理解しようと努力する事は出来ます」

「何を言い出すかと思えば、共感だと?上部だけの理解に何の価値がある?」

 属性によって空中に固定していたメスを、周囲に迸る属性で両手に引き戻したチェルノボグは、自身の質問に対するミールの応えを待った。

「その人しか感じる事の出来ない想いは、その人だけの大切なモノです。世界に一つしか無いモノを、完全に理解出来る人間なんていません」

「だからこそ、この世では己の意志が全てなんだ。他者からの同情など、何の意味も持たない」

「共感と理解に対する行動の結果が、導き手であるユカリさんの功績です。貴方は、過去に自分に起きた全てを、胸の内に仕舞い込む理由を作っているだけです……さっき貴方が僕に言った様に、目にした事だけが、全てだと決め付けて」

 導き手の名前が出た瞬間、チェルノボグの脳裏には現在の導き手であるユカリでは無く、先代の導き手である二人の顔か浮かんでいた。

「理解だと?戦争で何の役にも立たなかった人間が、誰を理解したと言うんだ?」

「戦争?……まさか、先代の導き手の事を言ってるですか?」

 全身から荒々しく属性を迸らせ怒りを露わにするチェルノボグに対して、ミールは過去にソーンから聞いた出来事を思い出していた。

「昔、姉さんから聞きました。当時のロシア主力程の力だった導き手は、前線で戦っている父からの提案で、前線部隊の負傷兵を救助する任に就いていたそうです」

「……奴等はロシアにいたのか。だがそれならば尚の事、隣国への救援は遅れたのは何故だ?」

「世界最強の死という、その場に居た誰にとっても予想外の出来事が起きたからです。導き手が父の立場を引き継ぎ、体制を立て直した事で、負傷者を減らす事が出来たんです……隣国からの支援要請も、戦況が優勢になった頃だったそうです」

 会話の中で、最初は虚偽の発言だと考えていたチェルノボグだったが、ウクライナの前線部隊が南側の拠点付近まで追い詰められていた事や、ロシアに派遣された支援部隊が戦場で壊滅していた事から、救援要請をした人間が、ウクライナから避難した市民か、チェルノボグから離れた医療部隊の人間である事を推察した。

「……どんな理由があろうと、奴等の行動によって死んだ人間が存在した事も事実だ」

「どんなに先を視ても、変えられない事だってあります……僕だって、戻りたい過去も、変えたかった過去も沢山あります。でも、どれだけ後悔しても過去は変えられない……だから僕は、大切な過去を遺す為に、未来を生きる」

 白刃に激しく電撃を迸らせながら身構えたミールの姿は、まるで過去の世界最強であるスラーヴァの面影を感じさせる程の威圧感を発していた。

「目にした一部の過去に縛られ続ける俺と、一部の過去を広い未来に繋ぐ意志を持つお前とでは、問答も無意味……いや、互いに最初から、時間稼ぎの問答だったか」

 チェルノボグが視線を向けた先には、宙に浮かぶ大きな結晶の塊を見つめるシュウの姿があった。

「お前の言うように、俺の考えは一部の人間だけを見た歪んだ価値観かもしれん。だが、俺にとっては過去に見た現実だけが全て……真実がどうであれ、俺はこの道を選んだ事を後悔するつもりは無い」

「僕も、後悔はしません」

 その言葉を発したミールの脳裏には、出発前のアーミヤとの会話が再生されていた。

 出発前の挨拶に訪れた二人は、決して誰かの前で涙を見せる事のなかったアーミヤが涙を流している姿を目にしてしまった。

『この役職は、嫌な役職だ。国の防衛の為とはいえ…………不甲斐無い私を、許してくれ』

 滝の様な涙を流すアーミヤに困惑する二人を他所に、アーミヤは二人の生存を心の底から願い、隊服に流れ落としながら二人を抱き締めた。

『お前達の事は、必ず私が護る……だから』

 両腕で二人を強く抱き締めたアーミヤの身体は、恐怖と不安で小刻みに震えていた。

『どうか……どうか、生きて帰って来てくれ』

 全ての思いが込められた言葉を聞いた二人は、改めて生きて帰ることを決意し、『はい』と力強く返事を返した。

 パキィィィィン

 その時、アーミヤの言葉を思い出していたミールの背後で、結晶の砕ける甲高い音が響き渡った。

「戻って来たぞ、シュウ」

「……おかえり、お兄ちゃん」

 砕け散った結晶の中から現れ地上に降り立ったのは、偽物のアンリエッタによって命を奪われ消滅したカイだった。

 笑みを浮かべるカイの右手には、半透明の刃を有する九十センチ程の日本刀が握られており、衣服は生前と同様に白い隊服を身に纏っていた。

「ここまで細かく創造出来るなんて、流石は俺の弟だ」

「えへへ……だって、世界一大好きな、僕の自慢のお兄ちゃんだもん」

 二度と会う事が出来ないと考えていたシュウは、夢や幻では無い、現実のカイに再び会う事が出来た喜びで涙を流していた。

「まさか、命の創造に成功したのか?……いや、あれは一時的なモノか」

 目にした光景に驚愕したチェルノボグだったが、創造されたカイの姿が微かに薄く、完全に元の状態として形成されていない事から、属性が足りずに不完全な状態で創造された事を予想した。

 (創造された直後は動けない筈。ならば、最も脅威となるであろうミールを先に始末し、その後に二人を始末するのが得策か)

「終焉の時だ、ミール」

 両腕を広げたチェルノボグは、二つのメスに纏わせていた赤黒い雷属性を細く凝集し、無数の細い糸の様に変化した属性を、メスの切先に集め始めた。

「姉さん、みんな……僕に力を」

 ミールの身体を迸っていた黄金の光が、再び微かに白く変化し始めた瞬間、瞳に灯った光と雷鳴を置き去りに、ミールは霧の様に姿を消した。

「これで、終わりだっ!」

 両脚に集中させた属性を利用して加速したチェルノボグは、接近するミールと同様に正面へと蹴り飛び、メスの切先を前へと向けた。

 すると、切先に集まった赤黒い糸がチェルノボグの正面で網目状に展開された。

縫合糸ショヴィニ・マテリアル

 身体の前で両腕を交差させ、正面の糸を勢い良くメスで斬り裂いた瞬間、分離した糸の断面から暴発した属性が溢れ出し、断面の向いたミールの方向へと無数の光線となって放たれた。

刻の皇帝ツァーリ・ヴリエーミァ

 正面に放たれた光線は、突如として同時に方向を変え、上下左右に展開されていた雷の皇帝グロム・ツァーリに直撃し、雷の壁に無数の穴を開けた。

 (馬鹿な……一瞬で、全て軌道を逸らしたのかっ!?)

 刹那、正面に現れたミールと視線を交えたチェルノボグは、事前に両腕に溜めていた自身の属性をメスの切先に向けて解放した。

『チェルノボグに殺されてしまえ』

 赤黒い糸を斬り裂いたメスの切先を上に向け、振り下げていた両腕を再び交差させるように振り上げた。

 その瞬間、ミールの払っていた属性の迸る白刃と、チェルノボグの属性を纏わせた二つのメスの切先がぶつかり、島中に雷鳴が轟いた。

「僕は、負けられっ、ないんだぁぁぁぁあっ!!」

 強大な属性の衝突によって互いの属性が周囲に飛び散り、電撃によって互いに皮膚に火傷を負いながら、二人は渾身の力と属性を刃に込めた。

「俺も、ここで死ぬ訳には……いかないっ!」

 顔を叩かれたような電撃を皮膚に感じながら、離れた位置で準備を整えたシュウ達は、巨大な雷の球となった二人に視線を向けた。

「やるぞ、シュウ」

「うんっ!」

 背中合わせに立った二人は、互いに両手で構えた刃の切先を正面に向け、同時に地面を蹴った。

「くっ!」

 属性を衝突させていたチェルノボグは、時間が経つにつれて徐々に膨れ上がるミールの属性力に圧倒され始めていた。

「砕けろぉっ!!」

 パキィィィン

 その瞬間、属性を纏ったメスの刃は、より強大な属性力を有するミールの白刃に敗れ、甲高い音を発しながら二つ同時に砕け折れた。

「なんだ……と」

 属性を集中させていたメスが砕けた事で属性衝突が終わり、雷属性で作り出された球体が消滅し、中から二人が姿を現した瞬間、外側から接近していたシュウ達がチェルノボグを捉えた。

「「これで、終わりだっ!」」

創穿水焔刃そうせんすいえんじん

 カイが向けた切先には二色の炎、シュウが向けた切先には緑色の水流が渦巻いた状態で刀身に付与されていた。

「後は……頼んだよ」

 衝突によって属性を消費し尽くしたミールは、その場で意識を失って倒れ込んだ。

「くっ、こんな事で」

 そして、属性力で敗北したチェルノボグは、自身の属性力を使い果たした上に、事前に注入した属性によって意識が朦朧としていた。

「「はあぁぁぁぁぁあっ!!」」

 同時に前へと突き出された切先は、隣接した互いの属性を受け入れる様に混ざり、緑色の水が二色の炎を纏う形へと混合した。

「こんな……所でぇっ!」

出来損ないの皇帝ボーフスディアラナ・ツァーリ

 雷の皇帝グロム・ツァーリの外側で解除された出来損ないの皇帝ボーフスディアラナ・ツァーリを再び起動し、属性を再充填しようと画策したチェルノボグだったが、属性を通じてアーミヤが雷の皇帝グロム・ツァーリで周辺の残留物を消滅させた事によって再起動を阻止させた。

凋落ちょうらくの女帝風情がぁっ!」

 怒りの言葉を発すると同時に、シュウ達が向けていた切先がチェルノボグの胸部を貫き、体外と体内から属性による追撃を受けた。

「ゴハッ……」

 (属性と共に、記憶が流れていく。頼む、消えるな……消えないでくれ)

 二人の攻撃を受けたチェルノボグは、二色の炎に身体を焼かれながら、体内に流れ込んだ水のマイナス属性によって体内に残された属性が暴発し始めていた。

 激痛によって脚の力が抜けたチェルノボグは、地面に向けて前のめりに倒れ込んだ。

「が……あぁ……」

『もしも私に何かあった時は、エリーの事をお願いね?』

 属性の暴発によって二人の記憶が消えゆく中、自身の記憶に残された言葉を思い出したチェルノボグは、炎上する身体に鞭を打ち、白衣に内蔵されていた小型の転移端末に意識を向けた。

「まだ……死ぬ訳には、いかない」

 その瞬間、チェルノボグの下に発生した黒い渦が全身を呑み込み、チェルノボグは一瞬の内に姿を消した。

「に、逃げられ……た?」

「いや、奴の身体は属性の暴発で崩壊し始めていた。奴自身が、死に場所を決めていたんだろう」

 属性を使い切ったシュウを支えたカイは、不安に駆られている弟を安心させる為に、自身の見解を言葉にして伝えた。

「そっか、良かった」

「ああ、俺も……お前に、また会えて良かった」

「お兄ちゃん……ありがとう」

 属性の過剰な消耗によって意識を失う寸前、シュウは短く言葉を交わした兄の、人生最後の優しさを心の底から感じ、安らかな眠りについた。
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