創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第89話 機械仕掛けの神

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 ユウト達と共に階段を降りていたユカリは、突然階段を照らしていた照明玉の光が消滅した事でピタリと歩みを止めた。

「っ!」

 (一瞬で照明玉の光が消えた!?)

 周囲が暗黒に包まれた世界に立ち尽くしたユカリは、ツァリ・グラードで整理した情報を思い出していた。

 (本当に……ミールの報告で聞いていた通り、転移端末を使用した一定領域の転移エリアを発生させたという事ですか)

 闇の人間が使用する事の出来ない転移端末。

 暗闇を見つめながら茫然と立ち尽くしていたユカリは、本来不可能である筈の闇の人間が使用可能となった転移端末を、自身とユウト以外の他者によって〝創造〟されている事を推察し、一抹の不安を感じていた。

 (私やユウト以外に結晶の属性が使える?だとしたら、私が創造した障壁を無視して入り込む事が……)

 そこまで考えたユカリは、アメリカやロシアで起きた闇の人間達の侵入事例を思い出した。

 (まさか……アメリカに現れた障壁も、全て——)

 その時、ユカリの視界を覆っていた暗闇に一筋の光が射し込んだ。

 (この光は?)

 ユカリが白い光を認識すると、一筋だった光の線は一瞬にして左側に存在した暗闇を塗り替えるように広がって行き、世界は白と黒に二分された世界となった。

「なっ!?」

 (どうしてユウトを創造した時に見た世界が!?)

 次々と起こる予想外の事態に動揺し、周囲を見回していたユカリは、以前同じように動揺して犯した過ちを思い出した。

 (っ!……そうですよ。私は、もう二度と)

 自身の小さな不安から始まり、ユウトによって静止された負の連鎖を思い出したユカリは、精神を落ち着かせる為に数度の深呼吸を行なった。

 (ユウト達も私と同じ状況かもしれないのに、導き手の私が立ち止まってどうするの)

 まだ幼いユカリは、普段と同様に言葉で自身を奮起させた。

 (身体は、動かせますね)

 身体の状態を確認した後に、風も音も感じない無の世界を歩き始めた。

 (ユウト達と合流しなければいけないのに、出口が見当たらない)

 歩きながら思考を巡らせていたユカリは、ふと自身の掌に意識を向け、属性による白色の冷気が発せられる事を確認した。

 (属性は使える。この場を脱出する方法として使うのも良いですが、転移エリアが罠として仕掛けられた物であれば、隙をついて攻撃してくる可能性だって……)

 その時、黒の世界に人の気配を感じたユカリは、気配のする場所に視線を向けた。

「……貴女ですか」

 ユカリは、黒の世界に立ち自分と同じ衣服を身に付けた顔の見えない少女に声を掛けた。

「私と同じ服を着て、私と同じ動きをして、私と同じようにユウトを創造しようとした貴女は、私自身の中にある負の感情だと思っていました」

 白い世界を歩むユカリと同じ速度で黒い世界を歩む少女は、ユカリと同じ時期に速度を変え、同じ時期に立ち止まった。

「でも、私のそんな考えをユウトが消してくれた。純粋に平和を願い行動するユウトが、私自信を信じさせてくれたんです」

 黒い世界に立っている少女に顔を向けたユカリは、今までと異なる少女の動きに違和感を覚えた。

 今までは自分と同じ動きをしていた少女が、身体の向きを変え、視線を合わせる事なく黒い世界を見つめて立ち尽くしていた。

「……創造の世界では、光と闇がハッキリと二分されている。そして、創造の世界に入る事が出来るのは創造に関わる存在のみ」

 顔の見えない少女を見つめていたユカリは、言葉を重ねる度にゆっくりと此方に視線を向け始めている少女の存在に、微かな恐怖を感じていた。

「貴女が、闇の神……ですよね?」

 その言葉を聞いた少女は、黒く塗り潰された瞳から赤い涙を流し、耳元まで届く大きな口を開き、悪魔の様に口を歪めて笑った。

「ふふふ……全ての始まりを創った元凶は」

 〝貴女〟でしょ?

 その瞬間、ユカリと同じ衣服を身につけていた筈の少女の白い隊服は一瞬で黒く染まり、先程まで見えていなかった腰まで流れる白髪が露わになった。



「全ての——」

「そこまでだ。光の導き手」

忘却オブリヴィオン

「っ!」

 血涙に見える涙を流した〝紅の瞳〟でこちらを見つめる少女に問い掛けようとしたユカリは、背後から声が聞こえた瞬間に言葉を中断し、咄嗟とっさにその場から左方向へと飛んだ。

 その瞬間、声の主から放たれた〝黒い光線〟によって白と黒の境界線をなぞる様に創造の世界は大きく抉り取られた。

 パリィィィィン

 そして、遥か遠くに存在しているかに思われた空間に直撃した光線は、甲高い音と共にガラス窓が砕かれた様な凹凸おうとつの巨大な穴を開けた。

 開けられた巨大な穴から見える景色は、クレメンテ島に存在する廃墟の内部だった。

 黒の世界に立っていた白髪の少女は、広範囲に広がる光線に呑み込まれ、創造の世界から姿を消した。

 (今の一撃で、創造の世界が崩れてゆく)

 光線によって大穴を開けられ、雪が降る様に静かに崩れ始めた創造の世界に視線を向けていたユカリは、光線を放った声の主へと視線を合わせた。

「この声、やっぱり貴女でしたか……アンリエッタ」

 視線の先には黒い電撃を身体に迸らせ、身の丈以上の巨大な白い銃身を左右に浮かべた黄金色こがねいろの髪の女性の姿があった。

「久方振りと云うべきか?光の神ユカリよ」

 黒い衣服に身を包んだアンリエッタは、両方とも白藍しらあいへと変化した瞳でユカリを見つめていた。

「そうですね、アンリエッタ。貴女は私とあまり会話してくれませんでしたから……以前クレイドルで会って以来ですね」

 クレイドルに所属していた頃のアンリエッタは、国民に親しく、他国には無関心といった性格だった。

 他国の人間と話す時は、基本的に最低限の会話のみで、それ以上の会話をする事が殆ど無い。

 例外として、何かと押しの強いヒナとは国民と同様に接する事が多かった。

 最初は無視していたアンリエッタだったが、諦めずに接してくるヒナに根負こんまけした事を切っ掛けに、いつしか気兼きがねなく会話する存在になっていた。

 しかし、アンリエッタに特に毛嫌いされていたユカリは、個人で会話した事が一度も無く、ケフィやクライフと行動を共にしている時や、作戦行動等で必要になった際に会話をする程度だった。

「ケフィから全て聞きました……貴女が光の人間だと偽ってクレイドルに入隊した事も、闇の神に近い存在である事も」

問答もんどうをする暇があるのか?仲間が危険にさらされている状況下に」

「アンリエッタ……残念です」

 アンリエッタの言葉に表情を曇らせたユカリは、ケフィから聞かされていたアンリエッタに対する言葉を告げた。

「さあ、見せて貰おう」

 両手を大きく広げたアンリエッタの両脚に黒い電撃が集まると、アンリエッタの肉体がゆっくりとその場から宙へと浮かび始めた。

「我と同じように神と称された存在が、人間のまま……その領域へと到達しているか否か」

 浮遊するアンリエッタの姿を見たユカリは、アメリカ南部で対峙した黄金色こがねいろの髪と紅掛空色べにかけそらいろの瞳をした女性の事を思い出していた。

 (あの女性達は、アンリエッタをモデルに創造された存在だったという事ですか)

 ユカリは、自分自身がツァリ・グラードを創った際に資料を参考にして創造した経験から、アメリカ南部に現れた女性達も同様の方法で創造された事を推察した。

「貴女がどれ程強くても……私には、時間がありませんから」

 そう告げたユカリは、ゆっくりと瞳を閉じた。

『領域覚醒』

 金色の瞳が開眼された瞬間、ユカリの周囲を凍てつかせる程の冷気が放たれた。

「やはり到達していたか……いや、当然と云うべきか?」

 不敵な笑みを浮かべたアンリエッタの視線の先には、以前の蒼に近い半透明な結晶とは異なる、純白に近い色彩の結晶で形成された結晶刀クリスタリアだった。

「ユウトとの契約エンゲージで、一段階進化した私の結晶です」

『ユカリ。正と負の属性には、段階……簡単に言うと色の違いで強さが変わるとされていたんだ。正の属性は白に近くなり、負の属性は黒に近くなるんだ』

『白と黒の属性を使う事が出来たのは、神話に登場する神様達だと言われているんですよ?』

 (まさか、お父さん達が話していた属性を見る日が来るとは思いませんでしたけど)

 その時ユカリは、過去に両親から聞いていた属性の変化に関する逸話いつわを思い出していた。

「ふっ、我が直々に対手をするのだ……暇潰しになる相手でなければ笑い話にもならん」

 光線を放った白色の巨大な銃身を大刀の様に鋭利に変化させていたアンリエッタは、前方へ向けていた銃口を後方へと向け、トンファーの持ち手の様に突出した部分を両手で握った。

「始めるとしよう。この世の行く末を左右する戦いの……前哨戦ぜんしょうせんを」

 ユカリの金色に染まった瞳を見つめたアンリエッタは、後部に向けた銃口から光線を放ちユカリに急接近すると、同時に白色の刃を勢い良く振るった。

 キィィィィン

 音が置き去りにされる程の速度から放たれた刃を結晶刀クリスタリアが防いだ瞬間、島全体を震動させる程の衝撃波が周囲に放たれた。
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