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第2章 紡がれる希望

第63話 恋は戦

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 ロシア本部ツァリ・グラード 修練場

「見てるの飽きたから、私も二人に加勢するよ⭐︎」

 ヨハネを静止させたルアは、そう口にした瞬間に自身の倍以上の大きさを持つ淡紅色たんこうしょくの大鎌を金色の髪を揺らしながら勢い良く払った。

「遅い」

 自身に迫り来る大鎌を視認したヨハネは、左手に携えていた大刀で大鎌の一撃を防いだ。

「あれ?やっぱり塞がれちゃった⭐︎」

 ヨハネに紫色の瞳を向けていたルアは、大鎌による斬撃が塞がれると同時に、大刀からの追撃を回避する為に後方へと飛び退いた。

「流石ヨハネちゃん……力だけじゃなくて、反応の速さも化け物だね~⭐︎」

 満面の笑みを浮かべながら棘のある発言をしたルアは、片手で数度回転させながら左右で持ち替えた後に、大鎌の持ち手側を床に付ける形で携えた。

「と、突然どうしたんですか?」

「言ったでしょ?見ているだけは退屈なの⭐︎」

 突然の乱入に困惑するユウに対して笑顔で即答したルアは、茫然としている二人に視線を合わせた。

「私だって転生した後、力試ししてなかったし~。あっ!こっちを選んだのは、数的にはヨハネちゃんの方が不利だけど、実力的にはユ~ちゃん達の方が不利だからだよ⭐︎」

「ユ、ユーちゃん」

 初めて付けられたアダ名を耳にしたユウが自身の事を指差すと、ルアは笑顔で何度も力強く頷いた。

「ウ~ちゃんも宜しくねっ⭐︎」

「よろしく」

「……ユーちゃん」

 呆然としているユウを他所に、元気良く手を振りながら挨拶をしたルアに対して、ウトは頭の上に跳ねた髪を揺らしながら小さく頷いた。

「ルア……お前はツァリ・グラードに居残りだぞ」

 元気一杯の挨拶を終えたルアに対して、冷ややかな口調で告げたヨハネの瞳は真剣そのものだった。

「え~!なぁんでぇ~?」

 気怠そうに言葉を返したルアに苛立ちを覚えたヨハネだったが、右拳を口に当て、小さく咳払いをした後に向けられる視線に目を向けた。

「転生した私達の中で、最も弱体化しているのはお前だ。それは、お前自身が一番理解しているだろう」

「っ!……」

 先程まで明るい雰囲気をかもし出していたルアだったが、ヨハネの言葉を聞いた瞬間黙り込み、ゆっくりと俯いてしまった。

「お前が転生前に使用していた属性の二種類の水属性の内、変異していた属性は転生と共に元の状態へと戻り、通常の水のマイナス属性となっている。転生による属性力低下の影響を最も受けているお前は、ツァリ・グラードで支援に徹するべきだ」

 ルアの事を指導したヨハネは、転生後に変化したルアの属性について把握していた。

 指導後に気絶していた際に使用していた属性は回復のみが機能し、ふざけた際に使用されたプラスの水属性も、ヨハネが真正面から受けて平然としている程度の威力になっていた。

 その威力はクレイドルの主力よりも遥かに弱く、日本であれば転生以前のシュウよりも水属性が弱体化している事を意味していた。

「好きな人の為に命を掛けたいと思う事が、悪い事なの?」

 今まで発する事が無かった震えた声を発して顔を上げたルアは、涙目になりながらユウトの力になりたい意志をヨハネに伝えた。

「ルア……自分の命を軽んじるな。お前の命は奪って来た者達の命と、お前を転生させ償わせる道を選んだユウトの想いを背負っている。そして、転生したお前が弱体化しているとはいえ、お前にしか出来ない役割がある」

「私にしか出来ない事?」

「戦争は、その場にいる者だけで行なっている訳では無い。後方から戦地に立つ者達を支援する存在があるからこそ、私達は心置き無く戦場で全力を震えるというものだ」

 大刀の先端をルアに向けたヨハネは、今もクレイドルで自国の防衛を行なっているクライフ達の事を考えながら言葉を続けた。

「お前の持つ属性は、傷付いた仲間達を癒す事が出来る……ユウトも同じ事を言うと思うが、私達には無い力で皆を癒してやってくれ」

「ユウトも……そっか~♡」

 溢れそうだった涙を拭ったルアは、嬉しそうに笑顔を見せると再びヨハネに大鎌を構えた。

「それじゃあ、ヨハネちゃんを安心させる意味も込めて……私の支援力を魅せてあげちゃう⭐︎」

「はぁ、無茶はするなよ」

 ルアの言葉に合わせて大刀を構えたヨハネは、自身に向けられる紫色の瞳を見つめながら微かな微笑みを見せていた。

「行くよっ⭐︎ユ~ちゃん、ウ~ちゃん!」

「は、はいっ!」

「うん」

 戸惑いながら双刃を構えたユウと、冷静に刀を前方に構えたウトを他所に、ルアは正面に立つヨハネに向けて距離を詰める様に蹴り飛んだ。

 接近するルアを見つめていたヨハネは、大刀を左手のみで握ると〝模擬戦開始時〟から大刀を振るう際に行なっていた逆刃へと持ち替える機会をうかがっていた。

「さあ、お前はこの斬撃をどう避ける?」

 大刀を天高く掲げたヨハネは、ルアが大刀の届く位置まで接近した瞬間に逆刃へと持ち替えながら振り下ろした。

「て~い⭐︎」

 振り下ろされた大刀に向けて大鎌を突き出したルアは、鎌の部分で大刀を真正面から受け止めた。

「っ!ルア!」

 ルアの予想外の行動に驚愕したヨハネは、斬撃時に手加減して込めていた力を更に弱めた。

「へへへ……見直した?」

 ヨハネの力を正面から受け冷や汗を掻きながら笑みを浮かべたルアの腕は、大刀を受けた衝撃で小刻みに震えていた。

「私の力は、私と刃を交えたお前なら知っている筈だ。そんなお前が、私の大刀を真っ向から防ぐとは……正気なのか?」

 大刀に対抗する為に突き出した大鎌を両手で持つルアは、大刀を押し返す為に何度も両腕を前に突き出そうと力を加えていた。

「さっきヨハネちゃんも言ってたでしょ?戦争は、その場にいる人だけのモノじゃないって」

 そう告げた瞬間、ルアの左右の空間から突如として刀を構えたユウ達が現れた。

「なっ!」

 ヨハネに向けて接近していたルアは自身の属性を使い、転生以前にヨハネとの戦いで使用していた透過を自身の前方から作用する様に発生させていた。

 マジックミラーのようにヨハネの視界からユウ達の存在を隠したルアは、注意を自分に向ける為に一見無謀に見える行動を取った。

 そしてルアに意識が向いている隙に、属性によって隠されていた二人はヨハネに技を放つ準備を完了させ、二人同時に水の属性から飛び出していた。

「っ!」

 (まさか……最初に大鎌を回していた時には、既に水属性による透過を使用していたのか!属性力が低下している事を、一番理解しているのはルア自身だ……弱体化した力で、私に勝つ算段を立てているとは)

 左手に込められた力を完全に抜いたヨハネは、安堵の息を吐くルアに優しげな眼差しを向けた。

「属性力の低下を諭した直後に、属性量で一矢報いるとは」

 そう告げたヨハネは、二人が準備を完了している斬撃を回避するべく後方へと飛び退こうとした。

「っ!」

 その時ヨハネは、見えない何かに捕まっている事によって自身の動きが封じられている事に気が付いた。

「真っ向から受けたよ……私の武器がね⭐︎」

 不敵な笑みを浮かべたルアが透過を解除すると、修練場の床に斜めに埋まるように大鎌が大刀を受け止めていた。

 大鎌を両手で持っていた筈のルアは、ヨハネの握る大刀の持ち手をヨハネの左手と共に握り、後方への飛び退きを阻止していた。

 (大鎌の持ち手を支柱に斬撃を受け止めたのか……水属性で映し出した自身の幻影を用いて安全な対抗策で制し、私の隙を透過を用いて隠れた二人に突かせるとは)

「流石だな」

 微かに微笑んだヨハネに向けて刃の色と異なる属性を纏わせ刃を交差させていたユウと、刀身全体に蒼炎を纏わせたウトが同時に刃を振るった。

少女の大罪グレア・ディアシス

贖罪の炎エクスピアーティオ・フレイマ

 斬撃が放たれる瞬間、ヨハネの周囲に存在する床が紅蓮の光を放ち始めた。

 (属性を周囲に展開しただけの不出来なモノだが……仕方ない)

焔の大陸ムスペル

 互いの技が発揮されると思われた直後、ヨハネの背後に現れた少女の属性によって修練場内は、強烈な冷気に包まれた。

「そこまでだ」

空間凍結ジェラティム・クリスタリア

 放たれた属性は空中で結晶化すると同時に、跡形もなく砕け散った。

「えっ!」

「あれ?」

「寒~い……でも、綺麗~⭐︎」

 周囲に煌めく結晶を茫然と三人とは違い、背後に人の気配を感じたヨハネは身体を後ろへと向けた。

「……姫」

 発せられた冷気によって靡く絹糸のように艶のある黒髪を目にしたヨハネは、白い隊服を身に付けた少女に声を掛けた。

「ヨハネ……勝敗は、決したんだろう?」

 修練場で行なわれていた模擬戦に割って入り、属性を用いて戦闘を収束させたユウキは、身体の節々に付着した結晶を払いながら口にした。

「勝敗……そうですね。彼女達の意思は、強大な敵に臆することの無い……確固たるモノである事を痛感しました」

 ヨハネの言葉を聞いたユウキは優しく微笑み、修練場に発生させた結晶を徐々に解除していった。
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