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第2章 紡がれる希望
第62話 双星
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ロシア本部ツァリ・グラード 修練場
ヨハネとの距離を同時に詰めた二人は、互いに持つ刀をヨハネに向けて上から振るった。
「フッ!」
二人が振るった三本の刃を左手に持つ紅蓮の大刀を前に出して受け止めたヨハネは、衝撃によって発生した風で髪を靡かせながら対峙している二人に視線を向けた。
「二人同時に斬り掛かれば、私に力で勝ると思ったのか?」
そう告げたヨハネは、徐々に押し返す力を強めていった。
「相手の力を見誤るな」
ピキッ
(っ!折れる!)
ヨハネが加え続ける力に対して、真向から勝負に出た二人の身体は、強大過ぎる力に悲鳴を上げていた。
痛みに顔を歪めたユウは、腕を伸ばした勢いを利用しながら大刀から距離を取るように後方へと飛び退くと、ウトも同時にヨハネから距離を取った。
「フヤッ⭐︎」
二人が離れた瞬間に振るわれた大刀によって放たれた衝撃波は、修練場の壁付近に座っていたルアにまで届いていた。
「刃よりも先に……私の身体が保たない」
三十メートル程離れたユウは、刀を握る両腕の震えを感じながら冷や汗を流していた。
「あの大刀に真っ向から挑むのは無謀。斬撃を受け流して、下から狙うのは?」
隣に立っていたウトの言葉に対して、数秒沈黙したユウは小さく首を横に振った。
「……駄目です。ヨハネさんは、右手を使わない状態で私達二人の力を退けた。懐に潜り込む事が出来ても、侵入箇所が限定される方法では、右拳の直撃は避けられないと考えるべきです」
日本刀と同じ速度で振るわれる大刀を辛うじて避けたとしても、自由な右腕で対処されてしまう。
もし右拳の攻撃をまともに受けてしまった場合、絶命及び重篤に陥る損傷は避けられず、戦線に復帰する事は不可能になってしまう。
(考えるだけで、恐ろしい……でも私達が向かう場所は、誰が死んでも不思議じゃない戦場。立ち塞がる相手が世界最強と同等だと予想されている以上、この恐怖と向き合う覚悟が……この先の闘いには必ず必要になる)
紅緋と紺碧の双刃を震わせながらヨハネを見つめているユウを静かに見つめていたウトは、数度深呼吸をした後に勢い良くヨハネに向けて駆け出した。
「っ!待ってウトッ!!」
瞬く間に距離を詰めたウトは、紅桔梗の瞳でヨハネを凝視しながら、右手に握る白色の刀身に蒼炎を纏わると同時に、自身の正面に向けて炎の円を描いた。
『蒼壁』
次の瞬間、ウトの姿を隠すように蒼炎が拡散し円状の壁が出来上がった。
「それで隠れたつもりなのか?」
そう告げたヨハネは、正面に作り出された蒼い壁を大刀で斬り裂いた。
しかしヨハネが壁を斬った時には、既に壁の向こう側にはウトの姿は無かった。
『炎刃』
蒼壁によって身を隠していたウトは、斬撃が当たらない位置まで身を屈め次の攻撃を放つ準備をしていた。
刀身全てに蒼炎を纏わせていたウトは、大刀を振るった事で無防備になっていたヨハネ目掛けて、勢い良く刃を振るった。
「肝の据わった奴だ」
刀身と同じ形状を保ったまま放たれた蒼炎を視認したヨハネは、何も持っていない右手を強く握り締めた。
すると、ヨハネの右拳に紅蓮の炎が纏わり付き、烈火の如く輝き始めた。
『烈火の槍』
左手で振るった大刀の勢いを利用して突き出された右拳からは、槍の形状へと変化した炎の属性が放たれた。
(ユウの予想通り……ヨハネは、防衛手段として右手を残してた)
ウトの放った炎刃に烈火の槍が衝突した瞬間、眩い光と熱風を周囲に放った。
「くっ!」
放たれた光に意識を取られたウトは、正面から迫る烈火の槍に気が付かなかった。
「危ないっ!」
次の瞬間、ウトの身体目掛けて左側から勢い良く飛び、ユウを抱き寄せながら強制的にその場から移動させた事で、烈火の槍の軌道からウトを外す事に成功した。
ズガァァァァン
標的を無くした烈火の槍は、二人の後方に存在する壁に突き刺さると、轟音と共に紅く発光しながら周囲に熱風を放った。
「さあ、立って」
地面に倒れたユウは、覆い被さっていたウトに向けて声を掛けながら手を伸ばした。
「うん」
差し伸べられた手を掴み立ち上がったウトと共に、二人は再び後方へと飛び退いた。
距離を取った二人に追撃する事なく立ち尽くしていたヨハネは、大刀を肩に背負って二人の出方を伺っていた。
「やっぱり、ユウの言った通りだった」
小さく呟いたウトに視線を向けたユウは、隣に立っていたウトに紺碧の刀を握る右手を突き出した。
「ウト……私を、信じて」
「っ!」
その言葉を聞いたウトは、視線を下に向けたまま少しだけ目を見開いた。
(違う……信じて欲しいのは、私の方)
目を細めたウトは、転生前に自身が犯してきた幾多の罪を思い出していた。
「信じてる。さっき私が飛び出したのは、怖がってるユウよりも先にヨハネを打ち負かそうとしただけ……私は自分の無力で死ぬ事よりも、取り残されて闇夜を彷徨う孤独の方が恐ろしいから」
真っ直ぐに向けられた眼差しと、突き出した右手に左手を当てながら告げられた言葉に共感を覚えたユウは、ウトに向けて力強く頷いて、正面に立つヨハネに視線を向けた。
「……そうですね。私達は、先の未来を示してくれるユウトと共に歩き続ける為に、世界最強と呼ばれたヨハネさんに模擬戦を頼んだんですから」
そう口にしたユウは、再び紅緋と紺碧の双刃をヨハネに向けて構えた。
「もう一度私から行く……今度は合わせて」
「任せて」
ユウの返答に頷いたウトは、もう一度ヨハネとの距離を詰める為に駆け出した。
「話し合いが漸く終わったと思えば……」
ヨハネを凝視していたウトは、右手に握る白色の刀身に蒼炎を纏わると同時に、先程と同様に自身の正面に向けて炎の円を描いた。
『蒼壁』
そして再びウトの姿を隠すように蒼炎が拡散し、円状の壁がヨハネの正面に作り出された。
「二度も同じ手を講じるとは、愚策にも程がある」
肩に担いでいた大刀を高らかに掲げたヨハネは、蒼炎で作られた壁を上から真っ二つに斬り裂いた。
ヨハネの大刀によって蒼炎の盾は軽々と斬り裂かれたが、盾の背後にウトの姿は無かった。
「……残念」
盾によって姿を隠していたウトは、三十メートル程後方に構えていたユウの元まで後退していた。
「一人で愚策なら、二人で良策にしてみせる……私達で貴女を打ち倒して」
そう告げたユウは双刃を逆手に持ち帰え、周囲に浮かぶ二種の火球を、紅蓮の炎は紺碧の刃、蒼の炎は紅緋の刃に其々取り込み、同時に刃の色と異なる属性を纏いながら発光し始めた。
『少女の大罪』
再び刃を交差させたユウは、ヨハネに向けて全力で双刃を払い、刃に纏った属性を全て込めた交差する巨大な斬撃が放った。
ユウが双刃を構えた同時期に刀を両手で構えたウトは、蒼く輝く炎を刀身に纏わせた。
(私自身に宿る属性……存在を操作する力が使えて良かった)
ウトが握り締める柄に蒼炎は届いていたが、転生以前のように握る両手が焼け爛れる事は無かった。
「私の抱えた想いを乗せて……世界最強を超える」
蒼炎が身体全体を包むと同時に、ウトは燃え盛る刃を大きく振りかぶった。
『贖罪の炎』
ウトが放った蒼く輝く斬撃は、同時期に放たれたユウの斬撃と重なって三本の斬撃となり、ヨハネに向けて凄まじい速度で接近していた。
「姿を隠す盾を案山子に使ったか……大したものだ」
接近する斬撃を目にして微かな笑みを浮かべだヨハネは、蒼炎の盾を斬った際に振り下ろした大刀を両手で握り締めた。
そして大刀を握る両手の力を強めたヨハネは、紅蓮の炎を刀身に纏わせた。
徐々に注ぎ込まれた属性が荒々しさを増すと同時に、ヨハネは接近する斬撃に向けて勢い良く振り上げた。
『業火の剣』
大刀が振り上げられた瞬間に放たれた紅蓮の斬撃が、二人の視界を包み込む程に広がると同時に、互いの斬撃が接触し、修練場の壁を軋ませる程の衝撃波と高温の熱風を室内に放ち始めた。
「ぐっ!」
「……アヅい」
まるで大爆発でも起きた様に発せられる轟音と、燃え盛る炎を眼前に置かれた様な高温を感じた二人は、両手で顔を覆いながら床に膝を付いた。
(全身を打たれるような衝撃波が……とても立っていられない)
後方へと吹き飛ばされそうな衝撃波に吹き飛ばされない様にしゃがみ込んでいた二人は、徐々に収まっていく光景を静かに見守っていた。
「なっ!」
「……流石」
両者が放った斬撃が相殺され、徐々に元の状態へと戻って行った修練場内に、一人平然と立ち尽くしていたヨハネの姿を見たユウは、目の前の光景に驚愕の色を見せていた。
「あれ程の衝撃波と熱風の中で、平然と立っていられるなんて」
「何処かの誰かさんが言ってた通り……世界最強を倒すなら小さな国一つ滅ぼせるぐらいの爆弾でも使わないと駄目なのかも?」
そう口にしたウトは、転生前に小言で聞いたチェルノボグの言葉を思い出していた。
「ふむ……確かに強力な一撃だったが、二人とも属性が安定していない。転生して以降、全力で属性を解放する機会が無かったと見える」
ヨハネの言葉を聞いた二人は、互いに握り締めた刀に目を向けた。
(確かにウトは、転生してから三日と経っていない。それに……私も、操られていた時に身に付いた技の練習と、属性の扱いに付いての練習に励んでいた時間が長かった影響で、まともに属性を解放出来ていなかった)
転生後の行動を振り返っていたユウは、これまでに起きた出来事の多さと、それに反比例しているかの様に感じる短い期間で現在に至る事を再認識していた。
「属性さえ扱えない人間が、これから先の最前線に立つなど……誰の目にも、自殺行為に見えるだろう。二人の覚悟は認めるが、実力に見合わない覚悟は無価値と言っても良い」
「っ!そんな事……」
否定しようとしたユウだったが、自身の決意とは裏腹に世界最強との実力差を身を持って痛感したユウは、世界最強と同等の力を有すると想定される闇の人間達との戦いに不安を感じていた。
「努力は必ず報われるというコトワザが存在するが、成果や結果を出せずに終わる努力は努力では無い。報われる為に人は努力し続ける……努力が報われないと口にする愚か者の努力は努力では無く、ただ行動していたに過ぎない」
そう口にしたヨハネは大刀を肩に背負うと、二人に背を向けて距離を取り始めた。
「お前達の覚悟は、命を賭ける程のモノなのだろう?私に模擬戦を挑んだ時の覚悟に報いて見せろ。それが、大罪を背負うお前達の……いや、私達の選んだ道だろう」
言葉を言い終えたヨハネは、その場でピタリと立ち止まり、再び視線を二人に向けた。
「時間は限られているんだ。私との模擬戦で結果を出せ!未来に不安を感じずに済む程の成果を、死に物狂いで掴み取って見せろ!」
ヨハネの言葉に背中を押された二人は、ゆっくりと立ち上がり互いの持つ刀を構えた。
「勿論、勝つ」
「私達が選ぶ選択は、一つしか在りませんから」
二人は互いの決意を言葉にしながら、身体の中に眠る属性を解放し始めた。
(後の事を考えている場合じゃない……今を、ヨハネさんが力を貸してくれている今を乗り越える為に、私の全てを尽くして)
(ヨハネに勝って大切な人達を護る力を、大切な人達と共に歩く権利を、犯し続けた罪を償う勇気を)
「「勝ち取ってみせる!!」」
覚悟を決めた瞳を向けた二人は、三本の刀に其々の属性を纏わせた。
「決意が固まったか……ならば、〝行くぞっ〟!」
第二回戦の開始を宣言し二人との距離を詰めたヨハネの前に、白い軽装を身に付けた一人の少女が滑り込んで来た。
「見てるの飽きたから、私も二人に加勢するよ⭐︎」
自身の倍以上の大きさを持つ淡紅色の大鎌を携えたルアは、金色の髪を揺らしながら紫色の瞳でヨハネを捕捉していた。
ヨハネとの距離を同時に詰めた二人は、互いに持つ刀をヨハネに向けて上から振るった。
「フッ!」
二人が振るった三本の刃を左手に持つ紅蓮の大刀を前に出して受け止めたヨハネは、衝撃によって発生した風で髪を靡かせながら対峙している二人に視線を向けた。
「二人同時に斬り掛かれば、私に力で勝ると思ったのか?」
そう告げたヨハネは、徐々に押し返す力を強めていった。
「相手の力を見誤るな」
ピキッ
(っ!折れる!)
ヨハネが加え続ける力に対して、真向から勝負に出た二人の身体は、強大過ぎる力に悲鳴を上げていた。
痛みに顔を歪めたユウは、腕を伸ばした勢いを利用しながら大刀から距離を取るように後方へと飛び退くと、ウトも同時にヨハネから距離を取った。
「フヤッ⭐︎」
二人が離れた瞬間に振るわれた大刀によって放たれた衝撃波は、修練場の壁付近に座っていたルアにまで届いていた。
「刃よりも先に……私の身体が保たない」
三十メートル程離れたユウは、刀を握る両腕の震えを感じながら冷や汗を流していた。
「あの大刀に真っ向から挑むのは無謀。斬撃を受け流して、下から狙うのは?」
隣に立っていたウトの言葉に対して、数秒沈黙したユウは小さく首を横に振った。
「……駄目です。ヨハネさんは、右手を使わない状態で私達二人の力を退けた。懐に潜り込む事が出来ても、侵入箇所が限定される方法では、右拳の直撃は避けられないと考えるべきです」
日本刀と同じ速度で振るわれる大刀を辛うじて避けたとしても、自由な右腕で対処されてしまう。
もし右拳の攻撃をまともに受けてしまった場合、絶命及び重篤に陥る損傷は避けられず、戦線に復帰する事は不可能になってしまう。
(考えるだけで、恐ろしい……でも私達が向かう場所は、誰が死んでも不思議じゃない戦場。立ち塞がる相手が世界最強と同等だと予想されている以上、この恐怖と向き合う覚悟が……この先の闘いには必ず必要になる)
紅緋と紺碧の双刃を震わせながらヨハネを見つめているユウを静かに見つめていたウトは、数度深呼吸をした後に勢い良くヨハネに向けて駆け出した。
「っ!待ってウトッ!!」
瞬く間に距離を詰めたウトは、紅桔梗の瞳でヨハネを凝視しながら、右手に握る白色の刀身に蒼炎を纏わると同時に、自身の正面に向けて炎の円を描いた。
『蒼壁』
次の瞬間、ウトの姿を隠すように蒼炎が拡散し円状の壁が出来上がった。
「それで隠れたつもりなのか?」
そう告げたヨハネは、正面に作り出された蒼い壁を大刀で斬り裂いた。
しかしヨハネが壁を斬った時には、既に壁の向こう側にはウトの姿は無かった。
『炎刃』
蒼壁によって身を隠していたウトは、斬撃が当たらない位置まで身を屈め次の攻撃を放つ準備をしていた。
刀身全てに蒼炎を纏わせていたウトは、大刀を振るった事で無防備になっていたヨハネ目掛けて、勢い良く刃を振るった。
「肝の据わった奴だ」
刀身と同じ形状を保ったまま放たれた蒼炎を視認したヨハネは、何も持っていない右手を強く握り締めた。
すると、ヨハネの右拳に紅蓮の炎が纏わり付き、烈火の如く輝き始めた。
『烈火の槍』
左手で振るった大刀の勢いを利用して突き出された右拳からは、槍の形状へと変化した炎の属性が放たれた。
(ユウの予想通り……ヨハネは、防衛手段として右手を残してた)
ウトの放った炎刃に烈火の槍が衝突した瞬間、眩い光と熱風を周囲に放った。
「くっ!」
放たれた光に意識を取られたウトは、正面から迫る烈火の槍に気が付かなかった。
「危ないっ!」
次の瞬間、ウトの身体目掛けて左側から勢い良く飛び、ユウを抱き寄せながら強制的にその場から移動させた事で、烈火の槍の軌道からウトを外す事に成功した。
ズガァァァァン
標的を無くした烈火の槍は、二人の後方に存在する壁に突き刺さると、轟音と共に紅く発光しながら周囲に熱風を放った。
「さあ、立って」
地面に倒れたユウは、覆い被さっていたウトに向けて声を掛けながら手を伸ばした。
「うん」
差し伸べられた手を掴み立ち上がったウトと共に、二人は再び後方へと飛び退いた。
距離を取った二人に追撃する事なく立ち尽くしていたヨハネは、大刀を肩に背負って二人の出方を伺っていた。
「やっぱり、ユウの言った通りだった」
小さく呟いたウトに視線を向けたユウは、隣に立っていたウトに紺碧の刀を握る右手を突き出した。
「ウト……私を、信じて」
「っ!」
その言葉を聞いたウトは、視線を下に向けたまま少しだけ目を見開いた。
(違う……信じて欲しいのは、私の方)
目を細めたウトは、転生前に自身が犯してきた幾多の罪を思い出していた。
「信じてる。さっき私が飛び出したのは、怖がってるユウよりも先にヨハネを打ち負かそうとしただけ……私は自分の無力で死ぬ事よりも、取り残されて闇夜を彷徨う孤独の方が恐ろしいから」
真っ直ぐに向けられた眼差しと、突き出した右手に左手を当てながら告げられた言葉に共感を覚えたユウは、ウトに向けて力強く頷いて、正面に立つヨハネに視線を向けた。
「……そうですね。私達は、先の未来を示してくれるユウトと共に歩き続ける為に、世界最強と呼ばれたヨハネさんに模擬戦を頼んだんですから」
そう口にしたユウは、再び紅緋と紺碧の双刃をヨハネに向けて構えた。
「もう一度私から行く……今度は合わせて」
「任せて」
ユウの返答に頷いたウトは、もう一度ヨハネとの距離を詰める為に駆け出した。
「話し合いが漸く終わったと思えば……」
ヨハネを凝視していたウトは、右手に握る白色の刀身に蒼炎を纏わると同時に、先程と同様に自身の正面に向けて炎の円を描いた。
『蒼壁』
そして再びウトの姿を隠すように蒼炎が拡散し、円状の壁がヨハネの正面に作り出された。
「二度も同じ手を講じるとは、愚策にも程がある」
肩に担いでいた大刀を高らかに掲げたヨハネは、蒼炎で作られた壁を上から真っ二つに斬り裂いた。
ヨハネの大刀によって蒼炎の盾は軽々と斬り裂かれたが、盾の背後にウトの姿は無かった。
「……残念」
盾によって姿を隠していたウトは、三十メートル程後方に構えていたユウの元まで後退していた。
「一人で愚策なら、二人で良策にしてみせる……私達で貴女を打ち倒して」
そう告げたユウは双刃を逆手に持ち帰え、周囲に浮かぶ二種の火球を、紅蓮の炎は紺碧の刃、蒼の炎は紅緋の刃に其々取り込み、同時に刃の色と異なる属性を纏いながら発光し始めた。
『少女の大罪』
再び刃を交差させたユウは、ヨハネに向けて全力で双刃を払い、刃に纏った属性を全て込めた交差する巨大な斬撃が放った。
ユウが双刃を構えた同時期に刀を両手で構えたウトは、蒼く輝く炎を刀身に纏わせた。
(私自身に宿る属性……存在を操作する力が使えて良かった)
ウトが握り締める柄に蒼炎は届いていたが、転生以前のように握る両手が焼け爛れる事は無かった。
「私の抱えた想いを乗せて……世界最強を超える」
蒼炎が身体全体を包むと同時に、ウトは燃え盛る刃を大きく振りかぶった。
『贖罪の炎』
ウトが放った蒼く輝く斬撃は、同時期に放たれたユウの斬撃と重なって三本の斬撃となり、ヨハネに向けて凄まじい速度で接近していた。
「姿を隠す盾を案山子に使ったか……大したものだ」
接近する斬撃を目にして微かな笑みを浮かべだヨハネは、蒼炎の盾を斬った際に振り下ろした大刀を両手で握り締めた。
そして大刀を握る両手の力を強めたヨハネは、紅蓮の炎を刀身に纏わせた。
徐々に注ぎ込まれた属性が荒々しさを増すと同時に、ヨハネは接近する斬撃に向けて勢い良く振り上げた。
『業火の剣』
大刀が振り上げられた瞬間に放たれた紅蓮の斬撃が、二人の視界を包み込む程に広がると同時に、互いの斬撃が接触し、修練場の壁を軋ませる程の衝撃波と高温の熱風を室内に放ち始めた。
「ぐっ!」
「……アヅい」
まるで大爆発でも起きた様に発せられる轟音と、燃え盛る炎を眼前に置かれた様な高温を感じた二人は、両手で顔を覆いながら床に膝を付いた。
(全身を打たれるような衝撃波が……とても立っていられない)
後方へと吹き飛ばされそうな衝撃波に吹き飛ばされない様にしゃがみ込んでいた二人は、徐々に収まっていく光景を静かに見守っていた。
「なっ!」
「……流石」
両者が放った斬撃が相殺され、徐々に元の状態へと戻って行った修練場内に、一人平然と立ち尽くしていたヨハネの姿を見たユウは、目の前の光景に驚愕の色を見せていた。
「あれ程の衝撃波と熱風の中で、平然と立っていられるなんて」
「何処かの誰かさんが言ってた通り……世界最強を倒すなら小さな国一つ滅ぼせるぐらいの爆弾でも使わないと駄目なのかも?」
そう口にしたウトは、転生前に小言で聞いたチェルノボグの言葉を思い出していた。
「ふむ……確かに強力な一撃だったが、二人とも属性が安定していない。転生して以降、全力で属性を解放する機会が無かったと見える」
ヨハネの言葉を聞いた二人は、互いに握り締めた刀に目を向けた。
(確かにウトは、転生してから三日と経っていない。それに……私も、操られていた時に身に付いた技の練習と、属性の扱いに付いての練習に励んでいた時間が長かった影響で、まともに属性を解放出来ていなかった)
転生後の行動を振り返っていたユウは、これまでに起きた出来事の多さと、それに反比例しているかの様に感じる短い期間で現在に至る事を再認識していた。
「属性さえ扱えない人間が、これから先の最前線に立つなど……誰の目にも、自殺行為に見えるだろう。二人の覚悟は認めるが、実力に見合わない覚悟は無価値と言っても良い」
「っ!そんな事……」
否定しようとしたユウだったが、自身の決意とは裏腹に世界最強との実力差を身を持って痛感したユウは、世界最強と同等の力を有すると想定される闇の人間達との戦いに不安を感じていた。
「努力は必ず報われるというコトワザが存在するが、成果や結果を出せずに終わる努力は努力では無い。報われる為に人は努力し続ける……努力が報われないと口にする愚か者の努力は努力では無く、ただ行動していたに過ぎない」
そう口にしたヨハネは大刀を肩に背負うと、二人に背を向けて距離を取り始めた。
「お前達の覚悟は、命を賭ける程のモノなのだろう?私に模擬戦を挑んだ時の覚悟に報いて見せろ。それが、大罪を背負うお前達の……いや、私達の選んだ道だろう」
言葉を言い終えたヨハネは、その場でピタリと立ち止まり、再び視線を二人に向けた。
「時間は限られているんだ。私との模擬戦で結果を出せ!未来に不安を感じずに済む程の成果を、死に物狂いで掴み取って見せろ!」
ヨハネの言葉に背中を押された二人は、ゆっくりと立ち上がり互いの持つ刀を構えた。
「勿論、勝つ」
「私達が選ぶ選択は、一つしか在りませんから」
二人は互いの決意を言葉にしながら、身体の中に眠る属性を解放し始めた。
(後の事を考えている場合じゃない……今を、ヨハネさんが力を貸してくれている今を乗り越える為に、私の全てを尽くして)
(ヨハネに勝って大切な人達を護る力を、大切な人達と共に歩く権利を、犯し続けた罪を償う勇気を)
「「勝ち取ってみせる!!」」
覚悟を決めた瞳を向けた二人は、三本の刀に其々の属性を纏わせた。
「決意が固まったか……ならば、〝行くぞっ〟!」
第二回戦の開始を宣言し二人との距離を詰めたヨハネの前に、白い軽装を身に付けた一人の少女が滑り込んで来た。
「見てるの飽きたから、私も二人に加勢するよ⭐︎」
自身の倍以上の大きさを持つ淡紅色の大鎌を携えたルアは、金色の髪を揺らしながら紫色の瞳でヨハネを捕捉していた。
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2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
狂気の姫君〜妾の娘だと虐げられますがぶっ飛んだ発想でざまぁしてやる話〜
abang
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国王の不貞で出来た、望まれぬ子であるアテ・マキシマは真っ白な肌に殆ど白髪に近いブロンドの毛先は何故かいつも淡い桃色に染まる。
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