創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

文字の大きさ
86 / 206
第2章 紡がれる希望

第27話 露から召集されし魯

しおりを挟む
 むかしむかしあるところに、ふたりのだんじょがおりました。

 二人は、たがいに愛しあっていました。

 男は愛するかのじょのために、女は愛するかれしのためにたたかっていました。

 そんなある日かのじょは、ひとつのミスを犯しました。

 一人の少女にほばくされたふたりは、おたがいを庇うように叫びあばれました。

 そんなふたりをみていた少女は、ひとつの提案をしました。

『おとこにこの林檎をくわせたらおまえは解放してやる』

 少女はそうつげると、美味しそうな一玉の赤いりんごを手渡しました。

 何かをさとったかのじょは、しんぱいそうにかのじょをみていた男をみつめ涙を流すとこう告げました。

『ごめんね……私がドジだったから』

 笑みを浮かべた彼女は、手に持った林檎を男に渡す事なくかじり付きました。

 すると彼女の身体は、突如黒い炎に包まれてしまいました。

 炭となり姿を消した彼女の足元には黒ずんだ林檎が落ちていました。

 少女に見逃された男は、涙を流しながら黒い林檎を胸に抱き決意しました。

『君を一人にはしない』

 男は涙ながらに告げた後、黒く染まった林檎に齧り付きました。

―*―*―*―*―

 アメリカ中央拠点クレイドル 北部

「これが……全てを捧げても愛すると誓った女の最後か」

 戦闘を終え属性を使い果たしたヨハネは、大刀を地面に倒し身体をふらつかせながらユウトに近付いた。

「大丈夫か?……ユウト」

 近付いて来たヨハネは、座り込むユウトに手を差し伸べたがバランスを崩しユウトを押し倒し覆い被さってしまった。

「「あっ!」」

 ルアの行動に衝撃を受けて硬直していた二人は、目の前で起きた出来事に驚き正気を取り戻した。

「だ、大丈夫ですか?」

「……」

 心配して座り込んだユウに対しウトは、少しだけ頬を膨らませて視線を逸らしていた。

「大丈夫じゃないのはお互い様だ……ヨハネ」

「……その通りだ……押し倒してすまない」

 先に起き上がったヨハネは、ユウトに手を差し伸べ起き上がらせると向き合うように座り込んだ。

「狂愛……ルアと私は、相性が良かったようだ」

 座り込んだヨハネは、自身の両手を見つめて話を始めた。

「奴は私の攻撃を防ぐ際に、必ず異質な属性を纏っていた。あの属性には相手の属性を奪うだけでなく身体能力を低下させる効果もあったようだ」

 ヨハネが片手で地面を軽く何度か叩くと、小さな亀裂が徐々に大きくなっていた。

 その光景は、ヨハネの吸収されていた力が徐々に回復している事を物語っていた。

「奴に私の力を防ぐだけの力は無いが、属性によって力を奪えば対等の力で戦う事が出来ると考えたんだろう。奴の思惑通り私は、全力の半分程しか力を発揮出来なかった」

「あれで半分だったのか?」

「転生を経ても私の属性は、転生以前と殆ど変化が無かった……ユウト……転生前の私と刃を交えたお前は、よく知っているだろう?」

 実際ヨハネと対峙したユウトは、ヨハネの常人離れした力を目の当たりにしていた。

 ユウキの状態で歯が立たず、レンとの約束を破り暴走した挙句、闇に堕ちる寸前まで力を暴走させる事でようやく勝利する事が出来た事を思い出したユウトは、無言のまま頷いた。

「実際に、属性は身体能力に関連している。光の導き手であるユカリもロシアで世界最強と呼ばれるソーンも開花する事で常人では考えられない程の身体能力を得ている」

 ヨハネの言う通り属性と人体には、関係があるとされている。

 属性開花で最も変化があったのは世界最強の一人ソーンで、百メートルの記録は一秒掛からない速度を叩き出している。

 最強だけでなく最速とも称されている彼女だが、基本的に眠っている時間が多い猫のような性格は国民から愛される理由の一つである。

「ルアとの戦闘を終えた事で、一先ず戦闘は小休止だ。第一に、ユウトが属性を使い切っている状態での戦闘は困難だろうからな」

「そうですね……」

「ユウトは回復するまで安静にしてて」

 周辺を警戒していた二人が、座り込んだユウトに視線を向けて言葉を発すると、ユウトは俯きながら何度か頷いた。

 (小休止か……恐らくあの男がロシアの情勢を知り尽くしている辺りロシアでの戦争が本命だと思うが……属性を使い尽くしている今のユウトには伝えられんな)

 ユウトの回復までは自身の憶測に関して口を閉ざす事を誓ったヨハネは、晴天の中遠方に聳え立つクレイドルを静かに見つめていた。

―*―*―*―*―

 アメリカ中央拠点クレイドル支援部隊本部

「急な要請に対応して頂いて有難うございます」

 要請を受け転移エリアではなく転移端末を使用し、支援部隊の本部へと転移して来た〝二人〟の男性にクライフは感謝の言葉を口にした。

「気にしないで下さい。僕は、『皇帝の住まう街ツァリ・グラード』に無理言ってお世話になっている居候の身なんですから」



 クライフの正面に立った眼鏡をかけた不言色いわぬいろの髪をした男性は、苦笑いを浮かべながら返答した。

 (フィアの話に疑いを抱く事は無いけど……少なからず転移用の端末は、あの障壁周辺に創造されていた端末にのみ影響を与えている事は確認出来た)

 クライフの背後に立っていたファイスは、腕を組みながら転移して来た二人とクライフが身に付けていた機能しない転移端末を見て考察していた。

「挨拶が遅れましたが、僕はイタリアの光拠点シエラに所属している……いや、所属していたアダムと言います」

 自己紹介をしたアダムは、クライフに向けて右手を差し出した。

「私は、アメリカ中央拠点クレイドルの副長を務めさせて頂いているクライフと申します」

 同様に自己紹介をしたクライフは、差し出された手を握った。

「そちらの方も、初めてお会いしましたよね?」

 クライフは、アダムの背後に立っていた褐色の男性に視線を向けた。

「おっと!申し遅れました……私はムスリムと言います」



 笑顔を向けたムスリムは、アダムの隣に立ちクライフに右手を差し出しクライフは、アダムの時と同じように差し出された手を握った。

「彼はロシアの現状報告をするようにと指示を受けていたので同行して貰ったんです」

 その言葉を聞いたムスリムは、小さく頷いた。

「彼の事を宜しくお願いします」

 深々とお辞儀をしたアダムを隣で見ていたムスリムは、アダムの背中を少し強めに叩いた。

「アダムこそ頑張れよ!待ち焦がれた恋人との再会なんだ……しっかりな」

 最初は笑みを浮かべていたムスリムだったが、最後の一言だけは真剣な眼差しでアダムに告げていた。

「ありがとう……ムスリム……ロシアのみんなにも帰ったら伝えて欲しい」

 背中を叩かれ少しよろけたアダムは、苦笑いを浮かべてムスリムの言葉に応えた。

「ではアダムは、あそこにいる支援部隊総長から指示を受けて指定の場所へ向かって下さい」

 クライフは、上層で忙しそうに情報整理をしているケフィを指差した。

「分かりました」

 ケフィの元へと向きを変え歩み始めたアダムの背中を見つめ表情を曇らせていたムスリムは、アダムの後を追い呼び止めると、軽いハグをして笑い合っていた。

「ファイス様……彼は本当に傷心しているのでしょうか?」

 二人の様子を見ていたクライフは、背後に立っているファイスに向けて小声で問いかけたが、ファイスから言葉が返ってこなかった。

「…………ファイス様?」

 背後に視線を向けると、ファイスは真剣な眼差しでケフィの元へと向かうアダムを見つめていた。

「クライフ……彼は全てを知った上でこの場所にやって来た。どれ程残酷な未来が待ち受けていると聞かされても」

 (彼の瞳は、転生したヨハネと同じ瞳をしていた)

 ファイスは、転生したヨハネから向けられた決意を秘めた瞳を思い出していた。

「全てを覚悟した上で、この場所に来ているの」

 ファイスの言葉を聞いたクライフは、ヨハネの言葉を思い出し表情を曇らせた。

 そしてアダムとの会話を終えたムスリムは、ファイスの元へと歩み寄り小声で〝ある報告〟をした。

「実は——」

 ムスリムからの報告を聞いたファイスは、目を見開いた。

「…………そう」

 そして安らかに瞳を閉じ俯いたファイスは、一筋の涙を流していた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます! 〜王子の機転が国家を救う!?〜

婚后 清羅
ファンタジー
子供たちはただ遊んでいるだけなのに?王子の機転が国家を救う!?痛快ファンタジー!  平和な田舎町コレットに住む少女キスティーは、全属性の魔法を極めた規格外の魔力を持っていた。しかし彼女にとって魔法は「家事があっという間に終わってしまい、毎日の楽しみを奪うもの」でしかなく、その力を使うのはもっぱら幼馴染のアリシア(精密な無詠唱魔法の使い手)、ギルバート(規格外の強靭な肉体の持ち主)との「遊び」の中だけだった。  そんな彼女たちの前に、視察団として身分を隠した第三王子レイエスが現れる。王子は、三人が国家級の脅威である魔獣たちを、ただの「遊び」の延長で、一撃のもとに仕留める光景を目の当たりにし、驚愕する。この国の常識を遥かに超えた彼女たちの力は、本人たちにとってはあくまで「日常の遊び」に過ぎなかったのだ。  王子に同行している騎士団長は、自らの部隊が命懸けで挑む難敵を、遊び感覚で仕留める彼女たちの振る舞いに、常に顔を青ざめさせ、胃を痛め、絶叫に近いツッコミを入れ続ける。  レイエスは確信する。各地で活発化する魔獣の脅威を退け、王国の平和を守る鍵は彼女たちの力にあると。しかし、義務や名誉に興味がない自由奔放な彼女たちを、騎士団などの堅苦しい枠に閉じ込めることは不可能だ。そこでレイエスは、一石二鳥の妙案を思いつく。それは、彼女たちを「働かせる」のではなく、討伐対象がいる危険地帯へ「遊び」という名目で誘い出すことだった。  レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。  こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】 ・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?

処理中です...