創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第13話 想いの暴虐

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 アメリカ中央拠点クレイドル 北部

創造の解放グラシャリオ・リレイズ

 怒りに染まった紅蓮の瞳を向けたユウキは、ヨハネを包み込む様にキューブ状の結晶を創造した。

「私に……通じると思っているのか?」

 閉じ込められたヨハネは、周囲を囲う結晶を左拳で殴りつけた。

 隕石の爆発さえも防いだ結晶の壁は、ヨハネの拳を受けると大きくひび割れた瞬間粉砕した。

「くそっ!……まだだ!」

 ヨハネに向けられたユウキの眼差しは怒りそのものだった。

 ヨハネの発言を引き金に始まった戦闘は、ユウキの無謀とも感じられる技の連続だった。

 技を放てば砕かれる又は跳ね返されるを繰り返し、軽々と無力化され続けながらもユウキは怒りによる力の暴走によって我を忘れていた。

対なる加速するツイン・アクセレイト ——」

 ユウキは両腕に創り出した結晶拳リフィスタを加速させ、ヨハネの懐に入ろうとした。

「無駄だ」

 急接近するユウキに向けて、ヨハネは右脚を蹴り上げた。

「っ!」

 咄嗟に加速を止めたユウキは、ヨハネの蹴りを防ぐ為に両腕を前面に交差させた。

 パキィィィィン

 蹴りを受けた結晶拳リフィスタは粉々に砕け散り、蹴りによって発生した風によってユウキは後方へと吹き飛ばされ、積み上げられていた瓦礫に激突し土煙を巻き上げだ。

「……」

 (これが……大切な人を失う怒りか)

 土煙で姿を確認する事が出来ないユウキに向けられた緑色の瞳は、光を灯した優しい瞳をしていた。

 (もしも私が、お前と同じ立場だったら……私も同じ様に怒り……悲しんだだろうか)

 ヨハネの視線の先には、白い軍服を見に纏った過去のヨハネ自身が立っていた。

 (クライフの尊敬とは違う……純粋な好意を抱き、私と同じ理想を抱き、私を最も理解していた存在)

 幻覚としてヨハネの前に現れた過去のヨハネは、静かに瞳を閉じた。

 (イシュト……お前が私ではなく……別の誰かに命を奪われていたら……私も同じ瞳で嘆き、憤怒しただろう)

 閉じていた瞳を開けた過去のヨハネは、一筋の涙を流していた。

 (だが……愚かな私はお前の好意にさえ気付かず……理解者だったお前に手をかけた)

 ヨハネが拳を握り締めると、過去のヨハネは苦悶の表情を浮かべて泣き叫んでいた。

 (私は……許されてはいけない、大罪を犯し……人々の想い全てを捻じ曲げた私は……悪魔であり続ける)

 大刀で過去の幻影を斬り裂いたヨハネの瞳は、先程までの光を失い、正面の瓦礫をじっと見つめていた。

 すると瓦礫の山が突然爆発を起こし、吹き飛ばされた瓦礫の中からは、空色の眩い光を口から漏らしたユウキが姿を現した。

「ふはえ!」(くらえ!)

結晶光線クリスタ・スタリオン

 その瞬間、ヨハネに向けて薄い結晶を帯びた紅蓮の光線が放たれた。

「……」

 脚を動かそうとしたヨハネは、自身の両脚が結晶によって地面に固定されている事に気付き、その場で右手に持った大刀を振りかぶった。

「無謀な戦術程……戦いに於いて無意味な物は無いな」

 ヨハネが大刀を振り下ろすと光線は縦に真っ二つにされると、剣圧によって再びユウキは後方へと吹き飛ばされた。

 光線を避ける事なく退けたヨハネは、結晶の付いた地面ごと脚を持ち上げ、脚に残された結晶と地面の一部破壊する為に地面を力強く踏みつけた。

 その衝撃で脚に付着した地面と結晶は砕け散り、地面に亀裂が走ると同時にヨハネの立っていた地面一帯が大きく陥没した。

 (怒りに身を任せる気持ちは分からなくは無い……だが、そんな見え透いた攻撃が通じる相手は私の知る闇の人間の中には存在しない……こんな奴を災禍が欲しているのか)

 ヨハネは大刀を肩に担ぎ、ユウキの飛ばされた方角へと歩み始めた。

―*―*―*―*―

 目を覚ましたユウキが倒れていた場所は無だった。

 微かな音も髪を揺らす程の風さえも、何一なにひとつ感じる事のない空虚な空間は、白色と黒色によって綺麗に二分にぶんされていた。

 そんな空間に横になっていたユウキは、身体を起こし周囲を見渡し始めた。

「どこだ……ここは?」

 見渡したユウキは、唯一聞き取る事が出来た自身の声を頼りに周囲を確認していた。

「ん?」

 (身体が……動かせない)

 ユウキが確認の為に脚を動かそうとした瞬間、ユウキは自身の身体が上半身以外動かす事が出来ない事に気が付いた。

「ユウト?」

 自身の声だけが聞こえていた空間に聞き慣れない声が聞こえたユウキは、視線を正面に向けた。

 その場所に立っていたのは、顔が黒く塗り潰された〝白髪の少女〟だった。

 ユウキは正面に立つ人物の声と容姿から、女性だと認識していた。

 顔を鉛筆で黒く塗り潰された様な少女は、白いワンピースを見に纏って二分されていた空間で〝黒側〟に立ち尽くしていた。

「……誰だ」

 ユウキは、少女から感じる〝違和感〟に警戒心を強めた。

「やっぱり……ユウトなんですね?」

「ああそうだ。だから俺の質問に答えてくれ」

 ユウキの返答を聞いた少女は俯くと、身体を小刻みに震わせ始めた。

 そんな少女の顔から、何かが滴り落ちていた。

 (何だ?)

 ユウキが視線を向けると、赤色の液体は一滴に留まらずに何滴も滴り落ち始めた。



「まさか……」

 (血液なのか)

 嗅覚すらも遮断された空間内では赤い液体という事しか分からなかったが、ユウキは液体の外観から血液なのではないかと想像し不気味に感じていた。

 血?を流していた少女は、ユウキに歩み寄ると黒い空間内でユウキに一番近い場所まで来ると、ユウキに左手を差し出した。

「ふふ……ユウト、早く私の元へ来て?……私を」

 ひとりにしないで?

―*―*―*―*―

「はっ!」

 ユウキが身体を起こすと、大刀を担いだヨハネが視線を向け続けていた。

 (今のは……何だったんだ)

 ユウキは身体の痛みによって我に帰ると、素早く立ち上がり右手に創り出した結晶刀クリスタリアをヨハネに向けた。

「……覚悟する事だな」

 大刀の切先をゆっくりとユウキに向けたヨハネは、真剣な眼差しで見つめていた。

「お前が今抱いている想いは負の感情だ。闇の人間がどれだけ正の感情を抱こうとも光の人間になる事はないが、その逆は存在する」

「……」

「お前の怒りに任せた行動は、全て私に軽くあしらわれる程度のものだった。お前の抱いた想いは、所詮その程度の物なんだろう」

「っ!」

 ヨハネの言葉を聞いたユウキの周囲には冷気が広がり始め、周囲に散らばっていた瓦礫は瞬時に結晶化すると同時に砕け散っていた。

 (レンは……俺にとって全てだった……告白した時に気付いたこの感情は、男の時の〝親友〟とは違う……暖かい〝光〟のような感情だった)

「お前に……何が分かるんだよ」

 ユウキの瞳からは溢れた涙は止め処なく流れ続け、灯っていた光が徐々に霞み始めていた。

 (側にいてくれるだけで良かった。隣に立って……同じ道を歩いてくれるだけで良かった。俺の全てを変えてくれた、たった一人の〝希望〟だから)

「レンのいない世界で生きる事は……俺には出来ない」

 ユウキが力なく膝を付くと、先程まで広がっていた冷気が収まり右手に携えていた結晶刀も砕け散った。

 ユウキが解放した力は、制限されていた影響で不安定な状態であり、ヨハネの言う様に負の感情によって強化されていく属性への拒否反応で精神的にも不安定であった。

「……馬鹿が」

 ヨハネは小さく息を吐くと、大刀を地面に突き刺すと同時にユウキに接近し、俯いていたユウキの頬を平手打ちした。

 ヨハネの平手打ちを受けたユウキは、吹き飛ばされながらも受け身を取る事なく地面を転がり、地面に顔をつけた状態で身動き一つしなくなった。

「お前にさっき言ったな。お前の想いはその程度だと……私は、お前の泣き言が聞きたくて言った訳では無い」

 ヨハネは過去の自分自身と重なる、ユウキの表情に耐えられなかった。

「光の人間が闇の人間に殺された場合どうなるか……お前なら分かる筈だ」

 ヨハネの言葉を聞いたユウキは、身体をピクリと動かした。

「お前が死ねない理由は山程ある筈だ……ユカリとしてでは無く、お前自身として……〝運命〟から目を背けるな」

 ヨハネの言葉に反応する様に、ユウキの周囲には再び冷気が広がり始めた。

「お前が人生を投げ捨てたいと願う程、恋焦がれた者の仇を討ってみせろ!」

 パキィィィィン

 ヨハネが叫んだ瞬間、ユウキの身体を結晶が包み込んだ。

 〝単結晶化〟したユウキが直立になり、浮遊し始めた瞬間に結晶は甲高い音を立てて砕け散った。

 中から現れたのは黒衣を身に纏い〝白い髪〟を靡かせ、紅蓮の瞳でヨハネを見つめる少女だった。



「俺は、契約した人に報いる為に……少しの間〝悪魔に魂を売る〟」

 そう告げた少女の手に握られた武器は、少女の二倍以上の刃を持つ黒色で歪な形状をした巨大な大剣であった。
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