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第2章 紡がれる希望

第10.5話 髒造

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 ユウトがルクスにて闇のボスを打ち倒した頃、一人の男はある場所へと赴いていた。

 上下共に黒を基調とした服に身を包み、両手をポケットに入れた男は今にも倒壊しそうな程古びた建物内に入って行った。

 男は右眼は水晶の様な白色に染まり、左眼は血に染まったかの様な紅の瞳をしていた。



「外見だけは……相変わらずクソみたいだな」

 男は不機嫌そうな表情を浮かべながら砂埃の舞う建物内の奥へと足早に進み始めた。

 薄暗い部屋の中を少し進むと一箇所だけ色が多少変化した床のある場所に来た。

「俺だ……早く開けろ……頭を吹き飛ばされたくなかったら」

 男が床に向けて言葉を発すると、木材で作られていた床の中で、色の変化していた床だけが一瞬で消滅した。

 床の下には終わりの見えない程続いている階段が隠されていた。

「……」

 漆黒の髪をした男は、無言のまま階段を降り始めた。

 階段を降り始めてから数分後、男の前には透明な扉が存在した。

「俺だ」

 男の声に呼応する様に、正面に存在した扉が開かれると男の前には先程の景色とはまるで違う景色が広がっていた。

 床は一面金属のような〝何か〟で黒く染められ、節々に緑色の線が走り、薄暗い空間内で緑色の線が不気味に光る事で周囲を照らしていた。

 空間内には人が一人入れる大きさの透明な器が幾つもあり、器の中には黄金色こがねいろの髪をした女性が衣服を纏っていない状態で緑色の液体に浸かっていた。

「お疲れ様です」

 そんな薄暗い空間の中からゆっくりと男に近付いて来たのは、紅掛空色べにかけそらいろのツインテールを揺らした白色の瞳の少女だった。



「ああ……お前か」

 左目に眼帯を付けた少女の声を聞いた男は、右ポケットの内から黒いガバメントを取り出し近付いてくる少女の側頭部を弾倉部分で殴り付けた。

「っ!」

 左側頭部を殴打された少女は、咄嗟に側頭部を抑えたが、男は少女の後頭部を掴み地面に勢い良く叩き付けた。

「馬鹿かお前は……痛くないだろ?……お前は、もう人間じゃ無いのだから」

「う……うぅ」

 床にうずくまりながら声を上げた少女の頭を踏み付けた。

「数秒砂埃を吸った……壊されない事を奇跡だと喜ぶんだな」

 男はそう言うと、壁に向けて少女の腹部を右脚で蹴り飛ばした。

「かはっ!」

 蹴り飛ばされた少女はその場にへたり込んだ。

「……俺が来た事を察知できるように〝改造〟するか」

 小さな声で呟いた男は、少女を無視して部屋の奥へと消えて行った。

「……痛い……痛いよ」

 一人取り残された少女は、感じる事が出来ない痛みに苦しみの声を上げながらも立ち上がろうと努力したが、腕が震えて上手く立ち上がる事が出来ずに床に倒れ込んだ。

「早く……会いたいよ……〝シア〟」

 顔を歪めた少女は微かに動かせる左腕で一枚の写真を見つめると、安心したように微笑んだ。

 その写真には今よりも少しだけ幼い頃の少女と共に、笑顔で映る〝蒼いツインテールの少女〟が写真に収められていた。

―*―*―*―*―

 男は、再び視界に現れた扉を開けた。

「……ここに来られるのも、これが最後だろう」

 男の視線の先には、透明な器の中で衣服を纏わず安らかに緑色の液体内で眠る黒髪の少女がいた。



「ユウトが勝ったらしいぞ」

 男の言葉を聞いた少女は、ピクリと眉を動かした。

「はぁ……あいつが羨ましい……俺には反応しない彼女が、あいつの名前には反応する」

 男は溜息を吐くと近場にある椅子に腰掛け、少女を見つめていた。

「〝あの人〟のお陰でお前を〝創る〟事が出来た……これで俺の目標は〝二つ共〟達成された訳だ」

 黒服の男は、懐から取り出した〝オセロの石〟を見つめて笑みを浮かべた。

「お前が目覚めるのはもっと先だ。その頃には、俺がどうなっているか分からないが……」

 男は透明な器に手を当て、瞳を閉じた。

「俺の生涯は研究の為にあった……後悔する事は何一つ残されてはいない」

 そう言い残した男は、ゆっくりと振り返り入り口の扉を開けた。

「俺が終わらせる事が出来なかった時は……お前に任せたぞ……〝ユカリ〟」

 男は黒衣を揺らしながら、先の見えない暗闇へと姿を消した。
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