創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

文字の大きさ
58 / 206
第1章 光の導き手

第54話 Bloody Flame

しおりを挟む
 絆、愛……その感情が私に見せてくれる物は、私には無いものだった。

 いつかの母子ぼしもそう……転がっている子供だった生ゴミを抱き寄せて、子供の命を奪った私から一切逃げようとしない母親もいた。

 イタリアの男女もそう……男を殺したら生かしてやるって言ったのに、泣きながら女が男に発したのは自分の失態しったいに対しての詫びと男の延命えんめいを望む言葉だった。

『ごめんね……私がドジだったから』

 みたいな事を言っていた気がするけど覚えていない。

 覚えているのは、女だった物を炭にした私に対して向けられた憎しみの眼差しだけ……そんな馬鹿な女を庇おうしたその男は生かしてあげた。

 女を失ったあの男が、この先どんな気持ちで生きるのか……興味があったから。

 人の最終的に取る物なんて自分の命でしょ?

 他人の命を守る事に何の意味があるの?

 生かした命なんて無価値でしょ?

 息をする人形と同じ……。
 
 自分の望む物を手に入れられるのは、この世で自分だけなのに。

―*―*―*―*―

「行くよ……ユウトっ!」

 (私に見せて。この世で一番大切な自分の命をしてまで守ろうとする意志の強さを……私には無い、光の人間だけが持っている想いを!)

 少女は再び黒刀を振るうと、黒炎は水滴の様に地面へと飛散し、付着した全ての黒炎は前方のユウト目掛け燃え広がり始めた。

 この攻撃に対して、ユウトは回避するのでは無く前方から迫り来る黒炎を周囲の地面諸共もろとも、凍結させる事で防いだ。

 (今のユウトに近づくのは危険……それなら)

黒刃こくじん

 黒刀の刀身全てに黒炎を纏わせた少女は、ユウトに向けて刃を力強く振るった。

 すると黒炎は、刀身と同じ形状を保ったまま前方のユウトに向けた斬撃が放たれた。

 黒炎が身体に付着する事を避ける為に、ユウトは全身を包み込む様に障壁を創造する事によって斬撃を防いだ。

 障壁の創造を確認した少女は斬撃を連続で放ち、障壁に全方位から黒炎を付着させる様に、不規則に斬撃を操作した。

 数秒後には、障壁に付着した黒炎がユウトを覆い隠す程に燃え広がっていた。

「ユウト……貴方の障壁は無敵じゃない、いずれは力に屈する張りぼて」

 少女の放った黒炎は、既存の黒炎と重なる度に威力を増していった。

 (ユウト……貴方はこの程度じゃないでしょ?光の導き手も認めた……光の人間達の希望なんだから)

―*―*―*―*―

 黒炎によって覆い包まれた障壁は、黒炎によってむしばまれ始めていた。

 (この黒炎……徐々に力を増しているのか?)

 時間が経つにつれて障壁はきしみ、所々にはヒビが入り始めていた。

 (障壁をもう一枚重ねて創り出して、周りの黒炎ごと押し広げて吹き飛ばすか?……いや、力で押し負けつつあるこの状態で、同じように障壁を創り出しても、力の上乗せが出来る技相手には通用しない)

 ユウトの障壁は重ねて創造しても耐久度が強化される訳では無い。

 障壁の下に障壁を創り出しても、障壁外の攻撃が耐久力を上回る場合、重ね合わせた障壁も同様に破壊されてしまう。

 (それなら……もう守りに徹するのは辞めだ)

 ユウトは結晶刀クリスタリアを消滅させると右手に結晶拳リフィスタを身に着けた。

「この戦いは、俺一人としてじゃない……ユカリの意志も背負った戦いなんだっ!」

 ユウトは結晶拳リフィスタを創造した後に横方向に高速回転させた結晶爆弾エクスプローリアを少し離れた場所に創造した。

 そして、回転している結晶爆弾目掛けて結晶拳リフィスタを加速させて殴り付けた。

 ユウトが結晶爆弾を殴ると炎の核を覆っていた結晶が砕け散り、中に含まれていた爆炎はユウトの右腕にネジ巻くように纏わり付いた。

「障壁ごと……黒炎を吹き飛ばすっ!」

 ユウトは結晶拳を更に加速させ、小さな爆発を繰り返している結晶拳リフィスタを障壁目掛けて全力で放った。

氷結爆撃バラス・インパクト

 ユウトの放った拳が障壁を吹き飛ばすと同時に、付着していた黒炎も周辺の地面に飛散した。

 黒炎を吹き飛ばすのみに留まらず、纏わり付いた爆炎は闇のボスに向けて拳から勢い良く放たれた。

「……私の力を理解したつもりなら、それはおごりだよ?」

 地面に飛散した黒炎は、再びユウトの足元まで燃え広がった。

「なっ!」

 ユウトの足場全体まで燃え広がると同時に、黒炎は柱の様にユウトの身体全体を包み込み、天井を突き破る程に燃え上がった。

 少女も氷結爆撃バラス・インパクトの直撃を受け、後方へと吹き飛ばされた。

 爆発によって階層内には土煙が舞い、衝撃によって壁の所々には亀裂が走っていた。

「……液体の様な炎だと思ってはいたが、飛散した炎まで操作出来るとは思わなかった」

 ユウトは身体を包む障壁を創造したが間に合わず、身体の節々ふしぶしが黒く焼けただれていた。

 全身に燃え広がる事を阻止する為に、ユウトは黒炎の付着してしまった部分を凍結させた。

 (よしっ!これで身体を動かせる)

 自身の身体状態を確認し終えると、少女の吹き飛ばされた方向に視線を向けた。

 少女は黒炎によって防御する事は出来ないらしく、氷結爆撃バラス・インパクトの直撃を受けて後方へと吹き飛ばされ、少女の座っていた黒色の玉座は後方の壁諸共消し飛んでいた。

 床に倒れていた少女は、揺めきながら立ち上がると再び身体に黒炎を纏わせ始めた。

 足を震わせながら立っている少女だったが、その表情は子供のように無邪気な笑顔を浮かべながら、ユウトを見つめ続けていた。

「流石ユウト……私の身体も殆ど動かなくなった」

 そう言うとゆらりと刀を両手で構えた少女は、これまで使用していた火力以上の黒炎を刀身に纏わせた。

「でも、勝つのは私……ユウトに勝ってあの女を殺さないといけないから」

 少女に呼応する様に、ユウトも結晶刀クリスタリアを創造すると、紅蓮の炎を刀身に纏わせた。

「俺も、負けられない。導き手と同じ存在として……勝って導く……誤った日常を進んでしまったお前さえっ!」

 結晶刀クリスタリアの刀身に纏っている炎に次いで、周囲に雪の結晶を纏い始めていた。

 炎は小さな爆発を繰り返し、刀身付近で舞っていた雪の結晶は、その爆発によって砕かれると小さな宝石の様に輝いていた。

 少女は自身の行動に合わせて結晶刀クリスタリアを構えたユウトの姿を見ると、小さな笑みを浮かべた。

 (やっぱりユウトは、私が思っていた通りの存在だった。だからこそ私は……ユウトに惹かれていた)

 少女の握り締める柄は黒炎によって変色し、握る両手は共に焼け爛れていた。

 しかし少女は、激痛に対して表情を変える事はなく、常に同じ人物の事を考えていた。

「繋いでみせる……」

 右手のみで構えられた結晶刀クリスタリアからは、爆発の激しくなった刀身から結晶の粒が舞っていた。

「根絶してあげる……」

 黒炎が身体全体を包むと同時に、少女は燃え盛る刃を大きく振りかぶった。

「光に満ち溢れた未来をっ!」

導きの炎氷結ラディアーテ・フレイス

 ユウトによって振われた刃から、炎によって紅蓮に染まった斬撃が放たれ、地面を切り裂きながら少女に進み続けた。

 炎によって形成された斬撃は、高温を帯びていながらも周囲には雪の結晶が舞っていた。

すがる希望さえもっ!」

血染めの炎カレント・フレイマ

 少女の放った斬撃は、ユウトよりも赤黒く染まっており、地面を切り裂くのではなく黒炎によって急速に溶解させながらユウトに向かって進んでいった。

 衝突した斬撃同士は轟音と共に、周囲に熱風と衝撃波を放つと、ルクスの壁は衝撃により耐久度の限界を迎え、決壊し始めていた。

 パキパキ

 小さな音が繰り返されている事に気付いた少女は、自身の放った斬撃を見て驚愕きょうがくした。

 赤黒く染まっていた筈の斬撃が、徐々に凍結していたのだ。

 (ユウトの刀身を舞っていた雪の結晶……あれの影響?)

 少女は自身の最後を悟ると、斬撃の先に立つユウトに視線を向けた。

 斬撃によってよく見えない少女であったが、向こう側に立つユウトも少女を見ている気がしていた。

「ユウト……私は楽しかった。またいつか、私と——」

 相手に届く事のない小さな呟きを、互いの技がぶつかり合う中で少女は安らかな顔でささやいていた。

 ユウトも同様に少女から放たれた斬撃ではなく、向こう側にいる筈の少女に意識を向けていた。

 (最後の斬撃を放つ時、あいつの身体は既に限界だった。凍結を防ぐ為の力すら残っていない事は、状態から見ても明らかだった)

 ユウトの放った斬撃は、少女の斬撃を完全に結晶化すると同時に跡形もなく砕け散り、向こう側にいた少女は紅蓮の斬撃の中へと飲み込まれていった。

 その後、斬撃はルクスの壁にぶつかると同時に消失し残された雪の結晶によって階層の壁が凍結し、ユウトと闇のボスとの対決は終結した。

―*―*―*―*―

 アメリカ中央拠点クレイドル

「コイツらの相手は僕がする。だから君は早く転移エリアへ向かうんだっ!」

 少年は、その場に座り込む少女の身を隠しながら声を上げた。

「そんな……貴方には待っている人がいます!私はもう……好きだった人との未練を断っています……だから私が!」

 少女は目に涙を浮かべながら、必死に少年に訴えた。

「僕はね……好きな人を一途に想う女の子を犠牲に生き残ろうとする様な男にはなりたくないんだ。君には未来がきっとある……この状況を伝えるまでは、二人とも死ぬ訳にはいかないっ!」

 少年は視線を合わせる事無く、自身の胸の内を訴えた。

「…………分かりました。私が救援を呼んできます……すぐに救援を呼んで来ますから、それまで……必ず生きていて下さい」

 少女が転移エリアへと駆ける姿に、少年は目を向ける事は出来なかった。

 少年の視線の先には、数十人の同じ容姿の女性が浮遊していた。

 (悔いは無い……いや、あるとすれば……一つだけ)

 少年に向けられた無数の銃口のような物からは、眩い光を放った赤黒い雷が走っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

我らダンジョン攻略部〜もしも現実世界にダンジョンができて、先行者利益を得られたら〜

一日千秋
ファンタジー
昨今、話題の現実にダンジョンができる系の作品です。 高校生達のダンジョン攻略と日常の学校生活、ビジネス活動を書いていきます。 舞台は2025年、 高校2年生の主人公の千夏将人(チナツマサト)は 異世界漫画研究部の部長をしています。 同じ部活の友人たちとある日突然できたダンジョンに できてすぐ侵入します。 オタクは知っている、ダンジョンには先行者利益があることを。 そして、得たスキルでこつこつダンジョンを攻略していき、日本で影響力をつけていった先に待ち受ける困難とは!? ダンジョンの設定はステータス、レベル、スキルあり、ダンジョン内のモンスターの死体はしっかり消えます。 一話につき1000〜2500文字くらいの読みやすい量になっているので初心者には読みやすい仕様になっております。 キャラクターはところどころ新キャラが出てきますがメインストーリーは主に3人なので複雑になりすぎないように心がけています。 「いいね」頂けるととても嬉しいです! 「お気に入り」登録も最高に嬉しいです! よろしくお願いします! ※契約書、経済システムの書式、掲示板テンプレはAI生成を活用して制作しております。修正、加筆は行っております。ご了承下さい。

処理中です...