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第1章 光の導き手
第42話 紡ぐ恋
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※心の中では「」と()の意味が逆転しています。
「」 心の声 () 会話
心の中
一切風が吹く事のない黒の世界に降り積もる黒き雪は、二人の少女の斬舞によって吹き荒ぶ風によって舞い上がられていた。
(防いでばかりか?随分と臆病な奴だなぁ、ユウト!)
(っ!)
ユウトはユキ?から払われる斬撃を見極められず、防ぐか避けるかの選択肢を選びながら対峙していた。
「右から来ていた筈の刃が左から……逆側からも同じような斬撃が来る。見える物だけに囚われていたら、この状況を変えられない」
ユウトは以前アンリ戦で心の中から見ていたユキとは、別格と感じる程の速度から繰り出される斬撃を前に創造の為の思考が間に合わず、障壁で身を守る事すらも出来ずにいた。
「くっ!一瞬の隙も無いままじゃ創造が間に合わない……頭では分かっていても、本能が見える刃を防ごうとしてしまう……それなら!」
ユウトはユキ?に気付かれない様に、炎の属性を結晶刀に送り始めた。
(反撃無しか?お前の力がこの程度なら、ユカリを殺せる日も近いな!)
数秒間繰り広げられた刃の競り合いの中、ユキ?は不適な笑みを浮かべた。
(……馬鹿野郎。俺とユカリを同等に見るんじゃねぇよ!今の俺はまだ、ユカリの足元にも及んじゃいない……俺が守る為に、これから超えるべき存在なんだっ!)
怒りを露わにしたユウトは、対峙するユキ?に向けて叫んだ。
(今のお前が、それで全力なら!高が知れてやがるんだよ!)
互いの想いが強くなればなる程に、両者の瞳の色は輝きを強めていった。
「炎の属性は十分入った!喰らえっ……即席爆烈結晶刀!」
突如、ユウトの携えていた結晶刀から紅の光が放たれ始めた。
(なっ!)
ユキ?は咄嗟にユウトから距離を取ろうとしたが、意識した時には既に手遅れであり、砕け散った結晶刀の内部から放たれた爆炎が二人を巻き込みながら爆発した。
(チッ!この程度で……俺が死ぬ訳ねぇだろ!)
爆煙を斬り裂いてユウトとの距離を詰め始めたユキ?だったが、煙の中からユウトを視認した瞬間、ピタリと行動を停止した。
(成る程な。その為の爆発か……ユウト)
ユウトの周囲には結晶の盾が複数創造され、緩やかに浮遊する盾は隙間なく覆い、守りを固めていた。
「速度は互角だった……俺自身が〝これ以上先を望む〟なら、やれる事は一つだけだ」
〝黒く染まった結晶刀〟を創り出したユウトの瞳は更に紅に染まり、盾と自身の間に火球を数個創り出した。
(俺自身が〝恐れていた〟領域に脚を踏み入れる意外に……ユキ、お前の想いを超える道は無い!)
(っ!あんたが私を超える日なんて来ない!)
その言葉に反応したユキは、怒りの眼差しをユウトに向けて叫んだ。
(こいつの言う通りだぜ?……俺がどれだけ力を抑えてやっていたと思ってんだ!)
冷静な表情へと変化したユキ?の周囲を冷気が覆うと同時に周辺に積もっていた黒い雪を、燃え広がった黒い炎が消滅させた。
(それに忘れてんな?お前の力は元々俺のモンだったんだぜ?最初からお前が俺に勝てる可能性なんて存在しないんだよっ!)
(だからどうした……自分の上にある存在さえも超えて行かなきゃ……脅威からは何も守れないだろうがっ!)
二人は同時に刀を構えて地面を力強く蹴り、一瞬で互いの距離を詰めた。
(その盾で防ぐにも、限界はあるだろ!)
雪月花に炎を纏わせたユキ?は、ユウトの周囲を浮かぶ盾に向けて無数の斬撃を浴びせ始めた。
(力も俺の方が優っているんだ!そんな盾じゃ俺の斬撃を防ぎ切る事は到底出来ないぜ?)
(……)
ユキ?からの斬撃を浴びた結晶の盾は、徐々にひび割れ始めていた。
(人型……終幕だ)
盾に守られていたユウトは小さく呟き、ゆっくりと目を閉じた。
すると、ユキの周囲を半透明な障壁が包み込み、盾の中に創り出されていた結晶爆弾に炎を纏わせた火球が瞬時に障壁内に移動した。
(チッ!ユウト……お前ぇぇぇえ!)
(これで、全て終わりだ)
『終焉の爆烈結晶』
(くそっったれがぁぁぁっ!!!)
障壁を壊そうとするユキ?よりも先にユウトが左手を握ると、障壁内に存在した数十個の結晶爆弾が同時に障壁内で爆発し、黒の世界に紅の輝きが放たれた。
―*―*―*―*―
心の中
「限界を……超え過ぎた。人型が消えても俺の心の闇として残り続ける」
ユウトは力を使い過ぎた反動で座り込むと、自身の両手を見つめながら悲痛な表情を浮かべた。
その瞳は、未だに紅の光を浴びていた。
「こんな時だって言うのに……何故か頭の中には、お前の笑顔が浮かぶよ……レン」
レンの笑顔を思い出し、自然と笑みを浮かべたユウトは、再び身体に力を込めてゆっくりと立ち上がった。
(人型とのケジメはつけた……こちらも、ケジメをつけよう……ユキ)
爆発後の黒煙によって黒く染まっていた障壁から二十メートル程離れたユウトは、漆黒の長い髪を揺らし、自身の周囲を防御していた結晶の盾を全て消滅させた。
それと同時に、ユキの周囲を覆っていた障壁が砕け散り、中に籠もっていた黒煙が周辺へと広がっていった。
(……)
煙の中には真っ白な衣服を身に纏い、雪の様に美しい白い髪を揺らした白藍色の瞳の少女が立っていた。
ユキは無言のまま右手に携えた雪月花を、ユウトに向けた。
(この〝雪月花〟は私自身……心そのものを映した刃は、私の心に呼応して数多の色へと変化する)
先程の戦闘を感じさせない程に静まり返った世界に、ユキの声が響き渡っていた。
(今の私は、私自身の意志であんたを殺したいと思ってる。これは負の感情からじゃない……〝決意〟……だからこそ、この刃は雪の様に白く輝くの)
(今の俺には、その言葉が嫌味に聞こえるぞ……ユキ)
ユウトは自身が携える、闇色に染まった結晶刀の切先をユキに向けた。
(それは、あんたの心とは違うでしょ?……あんたの意志は、さっきの競り合いの中で伝わって来たから。迷いの無い……本当の、あんたの意志)
(俺には……まだ解らない。この気持ちが、一体何なのか)
(それでも良いの。あんたの刃から、その想いが私に伝わっていれば……今は)
向けられたユキの表情から負の感情を感じる事はなく、その瞳から決意を秘めた強い意志を感じ取った。
(手加減はしないで。次の一撃にあんたの想い全てを込めて。私は、その想いを超えて……レンと共に生きる!)
(手加減なんてしない。俺にとってレンは……世界にたった一人しかいない大切な存在だから)
自身の抱いている想いを言葉にしたユウトの瞳には、ユキと同じ強い決意が秘めていた。
「それに……この戦いは、俺の意志だけの問題じゃない……レンの想いも、俺が背負って終わらせる。〝限られた時間〟の中で、ユキが望んだ……最後のケジメなのだから!」
ユウトは身体全体に紅の禍々しい炎を纏うと、結晶刀の刀身は紅蓮の炎に包まれた。
結晶刀に纏った炎は小さな爆発を繰り返し、更に紅蓮に染まり始めていた。
(その技は……分かった。私もあんたの意志に応える……そして〝あの時〟と同じように、私が勝つ!)
瞬間、ユキの周囲に冷気が広がりユキ自身と雪月花を包み込んだ。
『寂寞の雪』
雪月花を下段に構え、右脚を前に出すと目の前にいた筈のユキは、結晶と化してユウトの前から姿を消えた。
(ユキ……俺は、レンの言葉に救われた。そんなレンの言葉に応える為に……レンが信じてくれたユウトという存在の為に、この一撃に全ての意志を込めて勝つ!)
刀に纏った炎が爆発を繰り返し、紅蓮に輝いていた刀身をユウトは正面に向けて全力で振るった。
『少女が抱く真価の灯』
冷気を帯びた紅の斬撃は、地面を斬り裂きながらユキに向かって広がっていった。
(私だって……負けられないっ!)
斬撃の正面に現れたユキは、強力な冷気を帯びた雪月花を斬撃に向けて振るった。
両者の斬撃がぶつかり合った瞬間、轟音を響かせながら衝撃波が発生すると、周囲に積もっていた黒い雪を全て舞い上げた。
((負けられない……レンの為に!))
競り合いが続く中、ユウトが放った斬撃から伝わるユウトの意志と共に、レンの想いを感じ取ったユキの瞳から自然と涙が流れていた。
『ははは、君に伝える事が出来たなら……僕は少しだけ成長する事が出来たのかな』
以前手合わせをした際に、レンから伝えられた言葉とレンの笑顔を思い出し、涙を流しながらユキは優しく微笑んだ。
「レン……貴方の意地……私にしっかり届いていたわよ」
瞬間、雪月花は力なく砕け散ると同時に、ユキは紅の斬撃へと呑み込まれた。
(あんたに……託したから。私の想い……全てを)
「だからどうか……レンと生きて。最後の、その時まで」
(ユキの意志は、俺が必ず……っ!な、なんだ!)
ユキとの競り合いに勝利すると同時に、ユウトは強力な引力によって世界から強制的に弾き出された。
(ユキっ!)
(……さようなら。〝ユウト〟)
ユウトがその世界で最後に見たものは、ユキの屈託のない笑顔だった。
―*―*―*―*―
心の中
(……ユキ)
ユウトがいなくなり、数秒続いた静寂を破ったのは寂しげな表情を浮かべたユウト(女)だった。
(……)
斬撃によって傷付いていた部分の修復を終えたユキは、降り積もった黒い雪の上に横になったまま〝自身の終焉〟を待っていた。
(僕にも、何か受け継げるものは無い?)
(……何も無いわよ。だって、私の想いは全部ユウトに託したから)
(……そっか)
(でも、ユウトに比べたら小さいかもしれないけど……託せる〝想い〟が、一つだけ)
ユウト(女)はユキの最後の言葉を聞いて少しだけ目を見開いた後、瞳を閉じていたユキの手を握って頷いた。
(解った。約束するよ)
ユウト(女)が告げた頃には、ユキは安らかな眠りについており、返事が返ってくる事は無かった。
「…………お休み。ユキ」
ユキの表情は、ユウト(女)の言葉を聞いていたかの様に安らかに微笑んでいた。
―*―*―*―*―
もし、生まれ変わる事が出来るなら。
今度は、素直に想いを伝えられる……一人の女の子として。
貴方の隣で、共に歩めます様に。
眠りについたユキの身体は、真っ白な雪へと変わっていき、黒く染まっていた世界を白く染め上げていった。
「」 心の声 () 会話
心の中
一切風が吹く事のない黒の世界に降り積もる黒き雪は、二人の少女の斬舞によって吹き荒ぶ風によって舞い上がられていた。
(防いでばかりか?随分と臆病な奴だなぁ、ユウト!)
(っ!)
ユウトはユキ?から払われる斬撃を見極められず、防ぐか避けるかの選択肢を選びながら対峙していた。
「右から来ていた筈の刃が左から……逆側からも同じような斬撃が来る。見える物だけに囚われていたら、この状況を変えられない」
ユウトは以前アンリ戦で心の中から見ていたユキとは、別格と感じる程の速度から繰り出される斬撃を前に創造の為の思考が間に合わず、障壁で身を守る事すらも出来ずにいた。
「くっ!一瞬の隙も無いままじゃ創造が間に合わない……頭では分かっていても、本能が見える刃を防ごうとしてしまう……それなら!」
ユウトはユキ?に気付かれない様に、炎の属性を結晶刀に送り始めた。
(反撃無しか?お前の力がこの程度なら、ユカリを殺せる日も近いな!)
数秒間繰り広げられた刃の競り合いの中、ユキ?は不適な笑みを浮かべた。
(……馬鹿野郎。俺とユカリを同等に見るんじゃねぇよ!今の俺はまだ、ユカリの足元にも及んじゃいない……俺が守る為に、これから超えるべき存在なんだっ!)
怒りを露わにしたユウトは、対峙するユキ?に向けて叫んだ。
(今のお前が、それで全力なら!高が知れてやがるんだよ!)
互いの想いが強くなればなる程に、両者の瞳の色は輝きを強めていった。
「炎の属性は十分入った!喰らえっ……即席爆烈結晶刀!」
突如、ユウトの携えていた結晶刀から紅の光が放たれ始めた。
(なっ!)
ユキ?は咄嗟にユウトから距離を取ろうとしたが、意識した時には既に手遅れであり、砕け散った結晶刀の内部から放たれた爆炎が二人を巻き込みながら爆発した。
(チッ!この程度で……俺が死ぬ訳ねぇだろ!)
爆煙を斬り裂いてユウトとの距離を詰め始めたユキ?だったが、煙の中からユウトを視認した瞬間、ピタリと行動を停止した。
(成る程な。その為の爆発か……ユウト)
ユウトの周囲には結晶の盾が複数創造され、緩やかに浮遊する盾は隙間なく覆い、守りを固めていた。
「速度は互角だった……俺自身が〝これ以上先を望む〟なら、やれる事は一つだけだ」
〝黒く染まった結晶刀〟を創り出したユウトの瞳は更に紅に染まり、盾と自身の間に火球を数個創り出した。
(俺自身が〝恐れていた〟領域に脚を踏み入れる意外に……ユキ、お前の想いを超える道は無い!)
(っ!あんたが私を超える日なんて来ない!)
その言葉に反応したユキは、怒りの眼差しをユウトに向けて叫んだ。
(こいつの言う通りだぜ?……俺がどれだけ力を抑えてやっていたと思ってんだ!)
冷静な表情へと変化したユキ?の周囲を冷気が覆うと同時に周辺に積もっていた黒い雪を、燃え広がった黒い炎が消滅させた。
(それに忘れてんな?お前の力は元々俺のモンだったんだぜ?最初からお前が俺に勝てる可能性なんて存在しないんだよっ!)
(だからどうした……自分の上にある存在さえも超えて行かなきゃ……脅威からは何も守れないだろうがっ!)
二人は同時に刀を構えて地面を力強く蹴り、一瞬で互いの距離を詰めた。
(その盾で防ぐにも、限界はあるだろ!)
雪月花に炎を纏わせたユキ?は、ユウトの周囲を浮かぶ盾に向けて無数の斬撃を浴びせ始めた。
(力も俺の方が優っているんだ!そんな盾じゃ俺の斬撃を防ぎ切る事は到底出来ないぜ?)
(……)
ユキ?からの斬撃を浴びた結晶の盾は、徐々にひび割れ始めていた。
(人型……終幕だ)
盾に守られていたユウトは小さく呟き、ゆっくりと目を閉じた。
すると、ユキの周囲を半透明な障壁が包み込み、盾の中に創り出されていた結晶爆弾に炎を纏わせた火球が瞬時に障壁内に移動した。
(チッ!ユウト……お前ぇぇぇえ!)
(これで、全て終わりだ)
『終焉の爆烈結晶』
(くそっったれがぁぁぁっ!!!)
障壁を壊そうとするユキ?よりも先にユウトが左手を握ると、障壁内に存在した数十個の結晶爆弾が同時に障壁内で爆発し、黒の世界に紅の輝きが放たれた。
―*―*―*―*―
心の中
「限界を……超え過ぎた。人型が消えても俺の心の闇として残り続ける」
ユウトは力を使い過ぎた反動で座り込むと、自身の両手を見つめながら悲痛な表情を浮かべた。
その瞳は、未だに紅の光を浴びていた。
「こんな時だって言うのに……何故か頭の中には、お前の笑顔が浮かぶよ……レン」
レンの笑顔を思い出し、自然と笑みを浮かべたユウトは、再び身体に力を込めてゆっくりと立ち上がった。
(人型とのケジメはつけた……こちらも、ケジメをつけよう……ユキ)
爆発後の黒煙によって黒く染まっていた障壁から二十メートル程離れたユウトは、漆黒の長い髪を揺らし、自身の周囲を防御していた結晶の盾を全て消滅させた。
それと同時に、ユキの周囲を覆っていた障壁が砕け散り、中に籠もっていた黒煙が周辺へと広がっていった。
(……)
煙の中には真っ白な衣服を身に纏い、雪の様に美しい白い髪を揺らした白藍色の瞳の少女が立っていた。
ユキは無言のまま右手に携えた雪月花を、ユウトに向けた。
(この〝雪月花〟は私自身……心そのものを映した刃は、私の心に呼応して数多の色へと変化する)
先程の戦闘を感じさせない程に静まり返った世界に、ユキの声が響き渡っていた。
(今の私は、私自身の意志であんたを殺したいと思ってる。これは負の感情からじゃない……〝決意〟……だからこそ、この刃は雪の様に白く輝くの)
(今の俺には、その言葉が嫌味に聞こえるぞ……ユキ)
ユウトは自身が携える、闇色に染まった結晶刀の切先をユキに向けた。
(それは、あんたの心とは違うでしょ?……あんたの意志は、さっきの競り合いの中で伝わって来たから。迷いの無い……本当の、あんたの意志)
(俺には……まだ解らない。この気持ちが、一体何なのか)
(それでも良いの。あんたの刃から、その想いが私に伝わっていれば……今は)
向けられたユキの表情から負の感情を感じる事はなく、その瞳から決意を秘めた強い意志を感じ取った。
(手加減はしないで。次の一撃にあんたの想い全てを込めて。私は、その想いを超えて……レンと共に生きる!)
(手加減なんてしない。俺にとってレンは……世界にたった一人しかいない大切な存在だから)
自身の抱いている想いを言葉にしたユウトの瞳には、ユキと同じ強い決意が秘めていた。
「それに……この戦いは、俺の意志だけの問題じゃない……レンの想いも、俺が背負って終わらせる。〝限られた時間〟の中で、ユキが望んだ……最後のケジメなのだから!」
ユウトは身体全体に紅の禍々しい炎を纏うと、結晶刀の刀身は紅蓮の炎に包まれた。
結晶刀に纏った炎は小さな爆発を繰り返し、更に紅蓮に染まり始めていた。
(その技は……分かった。私もあんたの意志に応える……そして〝あの時〟と同じように、私が勝つ!)
瞬間、ユキの周囲に冷気が広がりユキ自身と雪月花を包み込んだ。
『寂寞の雪』
雪月花を下段に構え、右脚を前に出すと目の前にいた筈のユキは、結晶と化してユウトの前から姿を消えた。
(ユキ……俺は、レンの言葉に救われた。そんなレンの言葉に応える為に……レンが信じてくれたユウトという存在の為に、この一撃に全ての意志を込めて勝つ!)
刀に纏った炎が爆発を繰り返し、紅蓮に輝いていた刀身をユウトは正面に向けて全力で振るった。
『少女が抱く真価の灯』
冷気を帯びた紅の斬撃は、地面を斬り裂きながらユキに向かって広がっていった。
(私だって……負けられないっ!)
斬撃の正面に現れたユキは、強力な冷気を帯びた雪月花を斬撃に向けて振るった。
両者の斬撃がぶつかり合った瞬間、轟音を響かせながら衝撃波が発生すると、周囲に積もっていた黒い雪を全て舞い上げた。
((負けられない……レンの為に!))
競り合いが続く中、ユウトが放った斬撃から伝わるユウトの意志と共に、レンの想いを感じ取ったユキの瞳から自然と涙が流れていた。
『ははは、君に伝える事が出来たなら……僕は少しだけ成長する事が出来たのかな』
以前手合わせをした際に、レンから伝えられた言葉とレンの笑顔を思い出し、涙を流しながらユキは優しく微笑んだ。
「レン……貴方の意地……私にしっかり届いていたわよ」
瞬間、雪月花は力なく砕け散ると同時に、ユキは紅の斬撃へと呑み込まれた。
(あんたに……託したから。私の想い……全てを)
「だからどうか……レンと生きて。最後の、その時まで」
(ユキの意志は、俺が必ず……っ!な、なんだ!)
ユキとの競り合いに勝利すると同時に、ユウトは強力な引力によって世界から強制的に弾き出された。
(ユキっ!)
(……さようなら。〝ユウト〟)
ユウトがその世界で最後に見たものは、ユキの屈託のない笑顔だった。
―*―*―*―*―
心の中
(……ユキ)
ユウトがいなくなり、数秒続いた静寂を破ったのは寂しげな表情を浮かべたユウト(女)だった。
(……)
斬撃によって傷付いていた部分の修復を終えたユキは、降り積もった黒い雪の上に横になったまま〝自身の終焉〟を待っていた。
(僕にも、何か受け継げるものは無い?)
(……何も無いわよ。だって、私の想いは全部ユウトに託したから)
(……そっか)
(でも、ユウトに比べたら小さいかもしれないけど……託せる〝想い〟が、一つだけ)
ユウト(女)はユキの最後の言葉を聞いて少しだけ目を見開いた後、瞳を閉じていたユキの手を握って頷いた。
(解った。約束するよ)
ユウト(女)が告げた頃には、ユキは安らかな眠りについており、返事が返ってくる事は無かった。
「…………お休み。ユキ」
ユキの表情は、ユウト(女)の言葉を聞いていたかの様に安らかに微笑んでいた。
―*―*―*―*―
もし、生まれ変わる事が出来るなら。
今度は、素直に想いを伝えられる……一人の女の子として。
貴方の隣で、共に歩めます様に。
眠りについたユキの身体は、真っ白な雪へと変わっていき、黒く染まっていた世界を白く染め上げていった。
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