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第1章 光の導き手

第43話 災禍領域

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 「」 心の声  () 会話

 心の中

 現実へと引き戻されながらも、ユウトは〝真っ白に染まった世界〟の中で、消えゆく少女に向けて腕を伸ばして叫んだ。

 (ユキっ!)

 伸ばした腕が、声が、少女に届く事は無く、ユウトは突如降り始めた白い雪をその身に受け、現実へと引き戻された。

―*―*―*―*―

「っ!」

 少女に伸ばしていた筈の腕は、薄暗い天井に向けて空虚に揺らめいた。
 
 家具が殆ど無い二人用の部屋は静寂に包まれており、空色のカーテンの隙間からは暖かな陽の光が差し込み、ユウトの頬を伝う涙を輝かせていた。

「……これで本当に……良かったのか?」

 ユウトは心の中で起きた出来事を思い出し、両手を強く握りしめた。

「……ユウト?どうかしたんですか?」

 既に身支度を済ませ、ユウトの起床を待っていたユウは、心配そうな顔をしながらユウトの顔を覗き込んだ。

「少し……夢を見てたんだ。俺にとって重要な選択をする夢を」

 上体を起こたユウトは、ユウの頬を撫でて苦笑いを浮かべた。

「……ユウト」

 数秒目を閉じていたユウは、目を開けると頬を撫でるユウトの手を握り、曇りのない真っ直ぐな瞳を向けた。

「どんな夢だったのか、私には解りませんが……たとえ選択の誤ちで、道を違えたとしても……私は貴方の進み行く道標を、共に歩み続けます」

 ユウトに向けられた微笑みから、ユウの抱いている純粋な意志が感じられた。

「ユウ……」

 (本当は、俺がユウの助けにならないといけない筈なのに……お前には助けて貰ってばかりだな)

 〝光の悪魔〟と呼ばれる様になっても、なお恐れる事なく隣を歩み励ましてくれるユウの気持ちに、ユウトは心から感謝を念を抱いていた。

 コンコン

 静寂に包まれかけた室内にノック音が響き渡り、二人は扉に視線を向けた。

「……また、あの人ですかね?」

「多分な」

 ルミナに戻って以来、来訪者が減少して行く中で二人の部屋への来訪者は一人しかいなかった。

「ユウト……起きてるかい?」

 二人の予想通りの聞き慣れた男性の声が、扉越しに聞こえた。

 (……レン)

 ユキの件を心の奥底に仕舞い込んだユウトは、重い足取りで扉へと向かった。

 扉を開けるとそこには、ルミナの隊服に身を包んだレンが立っていた。

 (レンの後ろにも誰かいるのか?)

 レンの背後に人の気配を感じつつも、目の前に立つレンに視線を戻した。

「いつも来るなって言ってるだろ?」

「ははは……君の可愛い顔を朝一番に見たくてね」

「はぁ……それから、さりげなく可愛い言うな」

 レンの言葉に頬を赤らめたユウトだったが、それを誤魔化すように呆れた表情を作り、小さな溜息を吐いた。

「……それで?どうしたんだよレン?」

「突然で申し訳ないんだけど、イタリアの光拠点シエラに僕らと一緒に行かないかい?」

「は?……なんでイタリアに?」

 ユウトが不思議そうに首を傾げていると、レンの背後から見覚えのある三人が顔を出した。

「「「おっす!ユウト!」」」

 笑みを浮かべながら同時に姿を表した三人は、以前ユウトの事を悪魔、化け物と言って非難していたラクト、サイガ、ナグスだった。

「なっ!……なんでお前らが!」

「彼らはイタリアの光拠点シエラの周辺調査をしていたんだけど、その時にシエラの代表から依頼を受けていたらしくてね。その依頼に僕が誘われたから、折角ならと思って君を誘ったんだよ」

「……お前が良くても、その三人は嫌だろ……俺みたいな〝悪魔〟と一緒じゃ」

 ユウトが俯きながら話をしていると、レンはユウトの頭を撫で始めた。

「大丈夫。彼らには、僕がしっかり指導しておいたから」

「……は?」

 レンに撫でられた事でボサボサになったユウトの髪からは一本の髪の毛が立っていた。



 (指導って何だよ)

 レンの言う通り三人からは、以前のような敵意を一切感じなかった。

「……分かった」

 ユウトは一言だけ答えると、自身の背後に隠れていたユウに視線を向けた。

「ユウ……悪いんだが、少しだけこの部屋で待機して貰っても良いか?」

「私の事は、気にしないで下さい。ユウト……お身体に気を付けて」

 レン達がいる為、ユウは表情を変えずに小さく呟くと、顔を隠すように五人に背を向けてしまった。

「行ってくるよ……ユウ」

 ユウトの言葉に小さく頷いたユウを背に、ユウト達は部屋を後にした。

―*―*―*―*―

「……ところでお前ら、どうしたんだ?目の下にあるクマ」

 ボサボサになった髪を整えていたユウトは、背後を歩く三人の顔を見つめて、全員についたクマの理由についてラクトに問い掛けた。

「あぁこれか、レンに徹夜で指導を受けてたからな」

「そう言えばレンが言ってたな……指導って何の指導を受けてたんだ?」

 頭上に一本だけ跳ねた髪を揺らしながら首を傾げるユウトに、ラクトは呆れた顔で溜息を吐いた。



「はぁ……昨日の今日だぞ?……お前のだよ」

「…………は?」

 目を点にして硬直したユウトは数秒の間を開けた後、レンに視線を向けた。

「俺についての指導って……お前もそこまで俺のこと知らないだろうが」

「知らなくても、君の良さを話す事は幾らでも出来るよ?」

「男のユウトに関しては真面目だったんだが……今のユウトに関しては、レンの願望も入っていた気がするな」

 ラクトの言葉を聞いたユウトは、小さく溜息を吐いた。

「はぁ……それはそうと依頼って何だよ、急にイタリアなんて」

 ユウトは満更でもない気持ちを隠しつつ、先程のレンが話していた依頼に関して問い掛けた。

「最近、イタリア北部に〝災禍領域カタストロ・フィード〟が出現したらしくてよ」

「災禍領域?」

 ユウトは、ラクトの発した聞き慣れない単語に首を傾げた。

「知らないのか?三年前から発生し始めた正体不明の現象の事だよ」

 ラクトの背後に隠れていたサイガが、顔を出して話し始めた。

「その領域に足を踏み入れたが最期……生き物は全て死に絶えると言われる天災だよ」

 説明していたサイガの青ざめた表情は、その現象の恐ろしさを物語っていた。

「は?死ぬのは人間だけで、生き物全てじゃないだろ?俺の聞いた話だと、人間以外の動物は生存していたって聞いたぜ?」

 サイガと同じように、ラクスの後ろを歩いていたナグスは、サイガに不思議そうな顔を向けて自身の聞いた情報を話し始めた。

「お前らな……人の後ろに隠れながら話をするんじゃねえよ!」

 ラクトは二人の首根っこを掴み、ユウトの前に晒した。

「わ……悪い、まだお前に慣れなくて」

「レンの説明聞いてイメージは変わったんだが……まだちょっとな」

 二人はユウトに向けて苦笑いを浮かべ、隠れていた理由を打ち明けた。

「気にするな……最初の頃に比べたら、これくらいなんて事ない」

「マジで悪かったよ。最初の頃は、噂にばかり気を取られちまって」

「ホントだよ。噂なんてあてにならないな」

 三人がようやくユウトに打ち解け始めた頃、一行は向かっていた転移エリアに辿り着いた。

「久し振りだ……転移エリアに来たのは」

「君とユウは、転移エリアを使わないもんね」

 (使わないんじゃなく……使えなかったんだがな)

 二人は光の人々から恐れられていた為、光の人々が日常的に使用する設備の使用を避けていた。

「それじゃあ行こうぜ!イタリアの光拠点シエラに!」

 ラクトの声に全員が頷くと同時に、五人は白い光に包まれた。
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