9 / 192
第1章 光の導き手
第8話 心の意思
しおりを挟む
ユウトがレンの忠告を無視し、鍛錬を始めてから三日が経った頃、修練場には三人の姿があった。
勉強をしながらこっそり鍛錬をしている事がバレて、全力で惚けているユウト。
ユウトに忠告を無視され、かなり不服そうなレン。
そしてレンの背後にいるヒナは、何故か山盛りの野菜を抱えてニコニコしている。
レンは背後のヒナに少しだけ視線を向けた後、ユウトに鋭い眼光を向ける。
「背後の野菜姫はさておき……ユウト、君は僕の忠告を聞いていなかったみたいだね」
背後から『美味しい野菜が出来たので食べませんか?』と野菜の押し売りをしてくるヒナを華麗に無視しユウトとの話を続ける。
(さっき背後に付いて来ていた時には持っていなかったのに、何処から出したんだろう?)
「確かに三日間で、僕の想像していた以上の成長をしているみたいだね……誰かに教えて貰っていたのかな」
レンはユウトから伝わる雰囲気が、依然と比べ物にならない程変化していること、修練場の様子からユウトの成長を推測した。
(ユカリの創り出した、壊れることのない壁に少し傷が付いている)
レンは先程修練場に入ってきた時に、視界に入った傷のついた壁を見た。
ユカリの創り出した壁は、傷が付いても数秒で元に戻るにも関わらず、ユウトが付けたであろう傷の修復には数分の時間がかかっていた。
その現状から、ユウトが修復に時間が掛かる程の大きな損傷を与えたのだろうと考えた。
(どれ程強くなっても、実験で創り出された彼を見た時の失望感がまだ拭い切れていない……それなら)
「……ユウト、僕に君を信用させて欲しい。例えどれ程の力を身に付けても今のままでは、僕は君の事を完全に信用する事は出来ない」
現在のユウトがどれ程成長したのかを知る為に、ユウトに向けて手合わせを志願した。
「僕に今の君の全力を見せて欲しい。もし僕の予想を超える力を君が持っているとしたら、恐らくカイと一緒にいた男と戦う事になるだろう」
カイと共にいた男を思い出したレンは、拳を強く握り締めた。
光の戦力で、最も力を持つユカリがカイと戦う事が必然となる現状で、二番目に強いと考えられる男と戦う人物はユカリの次に強い人物になると予想出来た。
「完全に不意を突かれたとは言え、僕とヒナを倒した相手だ、生半可な実力で戦える相手じゃないだろう」
仮にも主力と呼ばれていた二人を倒した男は、右腕だったカイに近い実力を有していると考えられた。
主力級の人物と戦える存在になったかを判断する為に、レンはユウトに近づき拳を突き出した。
「ユウト、君の力で僕を……仲間を信用させて見せてくれ!」
ユウトは何も言わず振り返り、レンから距離を取るように歩み始めた。
「ああ、見せてやる。俺がユカリの為に身につけた……この力を!」
以前のユウトのぎこちなさは殆ど無く、一定の距離を取ったユウトはくるりと振り返ると、レンに向けて拳を突き出しながら力強く返答をした。
「怪我したら私が治してあげますからね~」
ヒナはそう言いながらレンの背後から距離を取り、離れた場所で属性を使いじゃぶじゃぶと音を立てて野菜を洗い始めた。
(ははは……全くヒナは、相変わらずだね)
いつも通りのヒナを横目に、レンはユウトの方を向いて身構えた。
レンが右手を握ると、紅蓮の炎が渦を巻くように纏わり始めた。
「さぁ、行くよ!ユウト!」
レンは一気にユウトとの距離を詰めると、ユウトを炎を纏った拳で殴りつけた。
パキィィィィン
放たれた拳は、ユウトに届く前に雪の結晶の形をした半透明な盾に阻まれ甲高い音を立てた。
(くっ!ユカリと同じ盾を創造したのか!)
レンが盾に阻まれた瞬間、ユウトは盾越しに次の創造を始めていた。
(創造するのは……炎を纏っていないレンの拳!)
ユウトが創造すると、レンが拳に纏わせていた炎は一瞬で半透明な結晶へと変化した。
「なっ!これは!」
レンが自分の身に起きた事を確認する前に、ユウトの拳がレンの腹部に直撃した。
「がはっ!」
レンは後方に吹き飛び、壁に勢い良く激突すると修練場内に轟音が響き渡った。
(ぐっ!そ、そういう事か……)
レンの拳についていた結晶は、先程の衝撃で砕けると内側にレンが纏っていた炎が揺らめいていた。
拳に付着した結晶は炎を覆う様に生成され、属性の効果を無力化していたのだ。
(成る程……確かにこれなら属性の効果は意味を失う、けど……これなら!)
修練場に着地したレンは、再び右手に炎を纏わせると再度ユウトとの距離を縮めた。
「確かに効果を無効化する事は出来るだろう……だけど、それだけだよっ!」
レンは先程と同様にユウトを攻撃するとユウトは同じ様に結晶の盾を生み出して防御すると、続けてレンの属性を結晶化させて無効化した。
「その戦法に、二度目は無いよ!」
レンは素早くユウトの正面から右側に避け、盾を防御範囲から外れるとそのまま前進しユウトに接近すると、結晶の付いたままの右拳でユウトを殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
拳を顔面に受けたユウトは、レンと同様に左後方へと吹き飛んだ。
(ぐっ!このままだと壁にぶつかる!)
ユウトは吹き飛びながら、次の創造を開始した。
(創造するのは!衝突の衝撃を吸収する球体!)
すると激突する筈の壁に透明な球体が現れ、ユウトはその球体に受け止められた後、何事もなかったかのように立ち上がった。
「レンっ!」
立ち上がったユウトは、突然レンに向かって叫んだ。
「もうすぐユカリの回復が終わる気がする……確証は無いが、そんな気がするんだ。時間が無い……次で終わりにする!」
不思議な事を口にしたユウトだったが、その表情は真剣そのものだった。
(もしかしたらユウトは、ユカリの状況を察知する事が出来るのか?……流石ユカリと同じ存在ってだけはあるね)
「それもそうだね。これからの戦いに備える時間も欲しいし……次の一撃で君の力を見極めるしよう!」
そう告げたレンの周囲には、突如荒々しく燃える紅蓮の炎が漂い始めた。
その炎は先程と違い、ゆっくりと両腕に纏わり付くと周囲に漂っていた炎が、一気にレンに集まり両腕は今まで以上に紅く炎上し始めた。
「これが資料に載っていた主力の力……息をすると喉が火傷しそうな程の暑さだ」
レンが全身に炎を纏っている姿から自然と言葉を漏らしたユウトは、流れてくる熱風を感じながら鍛錬の成果である創造を始めた。
(レン……お前に見せてやる。俺に出来る……今の全力を!)
その時、ユウトの右腕に結晶によって少しずつ何かが形成され始めた。
(あれが……ユウトの全力)
ユウトは自分の拳に、グローブのように半透明な結晶を纏い、膝から先は後部に少し突き出た竜の爪のような形になっていた。
(竜の爪のように見える部分の中央にあるのは、炎の塊か?それに……両腕ではなく右腕だけに創造したのか)
「行くぞレンっ!俺の全力を、その目で見定めろ!」
ユウトの周囲には、レンとは対照的に冷たい冷気が広がり修練場の床にパキパキと音を立て沢山の小さな氷の柱を創り出していた。
「さぁ来なよ!そして僕に……仲間に証明して見せろ!ユカリの心の強さ……いや……ユウト、君の意志の強さを!」
レンの言葉を最後にユウトとレンは、同時に力強く地面を蹴り飛んだ。
「俺の!」
「僕の!」
「「全力を喰らえ!!」」
両者の拳がぶつかり合った瞬間、修練場内に衝撃波と共に轟音が響き渡った。
(二人共、室内で本気出し過ぎです)
ヒナは離れた場所から、飛ばされないように二人を見守っていた。
両者の拳は、互いに動く事は無く二人の力は拮抗しているかに思われた。
「これで……終わりだっ!」
ユウトがそう叫ぶと、創り出されたグローブに付いた竜の爪がある部分が突如赤く発光した。
『加速する結晶拳』
すると目の前にいた筈のユウトは忽然と姿を消し、レンの拳は勢い良く空振りした。
「なっ!」
レンは、突然目の前から消えたユウトの姿を探し始めた次の瞬間、レンは顔面の激痛と共に後方へと吹き飛ばされ修練場の壁に減り込んだ。
「………がはぁっ………!」
壊れる筈の壁には、レンが激突した衝撃によって大きなクレーターが出来ていた。
(な、何が起きたって言うんだ——)
突然起こった出来事に思考を巡らせる前に、レンは衝撃によって意識を失った。
どさっ、という音と共にレンが地面に落下すると、ユウトは急いで拳の武装を解除してレンに駆け寄り手を翳した。
(創造するのは、傷付いていないレン!)
ユウトが創造すると、意識を失っていたレンの傷が徐々に回復し、数秒後には完全に傷が無くなっていた。
「ユウトもユカリと同じ事が出来るんですね」
ヒナは傷付いたレンを回復する為に、野菜も持たずに急いで駆け寄って来た。
「………うっ!あれ……僕は、一体」
傷を手当した直後、気を失っていたレンが意識を取り戻し、先程自身に起きた事を思い出していた。
「ユウト……最後のあの技、竜の爪の中央にあった炎の塊が鍵なんだろう?」
「あぁ、その通りだ」
ユウトはこくりと頷くと、再び結晶のグローブを創り出すと竜の爪がある部分を見せながら説明を始めた。
「この爪がある部分の中央にある炎の塊を、任意のタイミングで結晶で覆った後、中心にある炎を膨張させて破裂寸前まで溜める事が出来るんだ。そして結晶の一部に穴を開け、膨張した炎を放出する事で自由に調整する事が出来るんだ」
レンはユウトの説明を聞くと、納得したように笑みを浮かべた。
「成る程……それであの時、一瞬でユウトの姿を見失ったのか」
「速度は穴の開け具合で調整して、速度を上げるタイミングや方向は結晶に開いた穴を閉じたり開けたりすれば自由に出来るからな」
ユウトの説明を聞き終えたレンは、ゆっくり立ち上がりユウトに手を差し出した。
「……ユウト。最初に君と会った時は、実験は失敗したんだと思って絶望していたんだ。でも、やっぱり君はユカリの全てをしっかり受け継いでいた。戦ってみて分かったよ、君の強さとユカリと同じ優しさを」
レンは戦う前とは、違う優しい目をユウトに向けていた。
「試すような事をしてすまなかったね。でも、これで君の事を心から信頼する事が出来るよ……ありがとうユウト」
謝罪の言葉を口にしたレンは、ユウトに手を差し出した。
「気にするな。俺だって今出せる全力を確認出来て満足してるからさ」
優しく微笑んだユウトは、レンから差し出された手を握った。
「ふふっ♪これで本当の意味で私達の仲間になれましたね、ユウト」
ヒナは、握手を交わしている二人を見て嬉しそうに笑っていた。
「二人共ゆっくり休んでくださいね!ユウトの話ではユカリもそろそろ起きるみたいですから、戦いの準備はしっかりしておかないといけませんからね」
ヒナの言葉に頷いた二人は、これから来る戦いに備え準備を開始した。
勉強をしながらこっそり鍛錬をしている事がバレて、全力で惚けているユウト。
ユウトに忠告を無視され、かなり不服そうなレン。
そしてレンの背後にいるヒナは、何故か山盛りの野菜を抱えてニコニコしている。
レンは背後のヒナに少しだけ視線を向けた後、ユウトに鋭い眼光を向ける。
「背後の野菜姫はさておき……ユウト、君は僕の忠告を聞いていなかったみたいだね」
背後から『美味しい野菜が出来たので食べませんか?』と野菜の押し売りをしてくるヒナを華麗に無視しユウトとの話を続ける。
(さっき背後に付いて来ていた時には持っていなかったのに、何処から出したんだろう?)
「確かに三日間で、僕の想像していた以上の成長をしているみたいだね……誰かに教えて貰っていたのかな」
レンはユウトから伝わる雰囲気が、依然と比べ物にならない程変化していること、修練場の様子からユウトの成長を推測した。
(ユカリの創り出した、壊れることのない壁に少し傷が付いている)
レンは先程修練場に入ってきた時に、視界に入った傷のついた壁を見た。
ユカリの創り出した壁は、傷が付いても数秒で元に戻るにも関わらず、ユウトが付けたであろう傷の修復には数分の時間がかかっていた。
その現状から、ユウトが修復に時間が掛かる程の大きな損傷を与えたのだろうと考えた。
(どれ程強くなっても、実験で創り出された彼を見た時の失望感がまだ拭い切れていない……それなら)
「……ユウト、僕に君を信用させて欲しい。例えどれ程の力を身に付けても今のままでは、僕は君の事を完全に信用する事は出来ない」
現在のユウトがどれ程成長したのかを知る為に、ユウトに向けて手合わせを志願した。
「僕に今の君の全力を見せて欲しい。もし僕の予想を超える力を君が持っているとしたら、恐らくカイと一緒にいた男と戦う事になるだろう」
カイと共にいた男を思い出したレンは、拳を強く握り締めた。
光の戦力で、最も力を持つユカリがカイと戦う事が必然となる現状で、二番目に強いと考えられる男と戦う人物はユカリの次に強い人物になると予想出来た。
「完全に不意を突かれたとは言え、僕とヒナを倒した相手だ、生半可な実力で戦える相手じゃないだろう」
仮にも主力と呼ばれていた二人を倒した男は、右腕だったカイに近い実力を有していると考えられた。
主力級の人物と戦える存在になったかを判断する為に、レンはユウトに近づき拳を突き出した。
「ユウト、君の力で僕を……仲間を信用させて見せてくれ!」
ユウトは何も言わず振り返り、レンから距離を取るように歩み始めた。
「ああ、見せてやる。俺がユカリの為に身につけた……この力を!」
以前のユウトのぎこちなさは殆ど無く、一定の距離を取ったユウトはくるりと振り返ると、レンに向けて拳を突き出しながら力強く返答をした。
「怪我したら私が治してあげますからね~」
ヒナはそう言いながらレンの背後から距離を取り、離れた場所で属性を使いじゃぶじゃぶと音を立てて野菜を洗い始めた。
(ははは……全くヒナは、相変わらずだね)
いつも通りのヒナを横目に、レンはユウトの方を向いて身構えた。
レンが右手を握ると、紅蓮の炎が渦を巻くように纏わり始めた。
「さぁ、行くよ!ユウト!」
レンは一気にユウトとの距離を詰めると、ユウトを炎を纏った拳で殴りつけた。
パキィィィィン
放たれた拳は、ユウトに届く前に雪の結晶の形をした半透明な盾に阻まれ甲高い音を立てた。
(くっ!ユカリと同じ盾を創造したのか!)
レンが盾に阻まれた瞬間、ユウトは盾越しに次の創造を始めていた。
(創造するのは……炎を纏っていないレンの拳!)
ユウトが創造すると、レンが拳に纏わせていた炎は一瞬で半透明な結晶へと変化した。
「なっ!これは!」
レンが自分の身に起きた事を確認する前に、ユウトの拳がレンの腹部に直撃した。
「がはっ!」
レンは後方に吹き飛び、壁に勢い良く激突すると修練場内に轟音が響き渡った。
(ぐっ!そ、そういう事か……)
レンの拳についていた結晶は、先程の衝撃で砕けると内側にレンが纏っていた炎が揺らめいていた。
拳に付着した結晶は炎を覆う様に生成され、属性の効果を無力化していたのだ。
(成る程……確かにこれなら属性の効果は意味を失う、けど……これなら!)
修練場に着地したレンは、再び右手に炎を纏わせると再度ユウトとの距離を縮めた。
「確かに効果を無効化する事は出来るだろう……だけど、それだけだよっ!」
レンは先程と同様にユウトを攻撃するとユウトは同じ様に結晶の盾を生み出して防御すると、続けてレンの属性を結晶化させて無効化した。
「その戦法に、二度目は無いよ!」
レンは素早くユウトの正面から右側に避け、盾を防御範囲から外れるとそのまま前進しユウトに接近すると、結晶の付いたままの右拳でユウトを殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
拳を顔面に受けたユウトは、レンと同様に左後方へと吹き飛んだ。
(ぐっ!このままだと壁にぶつかる!)
ユウトは吹き飛びながら、次の創造を開始した。
(創造するのは!衝突の衝撃を吸収する球体!)
すると激突する筈の壁に透明な球体が現れ、ユウトはその球体に受け止められた後、何事もなかったかのように立ち上がった。
「レンっ!」
立ち上がったユウトは、突然レンに向かって叫んだ。
「もうすぐユカリの回復が終わる気がする……確証は無いが、そんな気がするんだ。時間が無い……次で終わりにする!」
不思議な事を口にしたユウトだったが、その表情は真剣そのものだった。
(もしかしたらユウトは、ユカリの状況を察知する事が出来るのか?……流石ユカリと同じ存在ってだけはあるね)
「それもそうだね。これからの戦いに備える時間も欲しいし……次の一撃で君の力を見極めるしよう!」
そう告げたレンの周囲には、突如荒々しく燃える紅蓮の炎が漂い始めた。
その炎は先程と違い、ゆっくりと両腕に纏わり付くと周囲に漂っていた炎が、一気にレンに集まり両腕は今まで以上に紅く炎上し始めた。
「これが資料に載っていた主力の力……息をすると喉が火傷しそうな程の暑さだ」
レンが全身に炎を纏っている姿から自然と言葉を漏らしたユウトは、流れてくる熱風を感じながら鍛錬の成果である創造を始めた。
(レン……お前に見せてやる。俺に出来る……今の全力を!)
その時、ユウトの右腕に結晶によって少しずつ何かが形成され始めた。
(あれが……ユウトの全力)
ユウトは自分の拳に、グローブのように半透明な結晶を纏い、膝から先は後部に少し突き出た竜の爪のような形になっていた。
(竜の爪のように見える部分の中央にあるのは、炎の塊か?それに……両腕ではなく右腕だけに創造したのか)
「行くぞレンっ!俺の全力を、その目で見定めろ!」
ユウトの周囲には、レンとは対照的に冷たい冷気が広がり修練場の床にパキパキと音を立て沢山の小さな氷の柱を創り出していた。
「さぁ来なよ!そして僕に……仲間に証明して見せろ!ユカリの心の強さ……いや……ユウト、君の意志の強さを!」
レンの言葉を最後にユウトとレンは、同時に力強く地面を蹴り飛んだ。
「俺の!」
「僕の!」
「「全力を喰らえ!!」」
両者の拳がぶつかり合った瞬間、修練場内に衝撃波と共に轟音が響き渡った。
(二人共、室内で本気出し過ぎです)
ヒナは離れた場所から、飛ばされないように二人を見守っていた。
両者の拳は、互いに動く事は無く二人の力は拮抗しているかに思われた。
「これで……終わりだっ!」
ユウトがそう叫ぶと、創り出されたグローブに付いた竜の爪がある部分が突如赤く発光した。
『加速する結晶拳』
すると目の前にいた筈のユウトは忽然と姿を消し、レンの拳は勢い良く空振りした。
「なっ!」
レンは、突然目の前から消えたユウトの姿を探し始めた次の瞬間、レンは顔面の激痛と共に後方へと吹き飛ばされ修練場の壁に減り込んだ。
「………がはぁっ………!」
壊れる筈の壁には、レンが激突した衝撃によって大きなクレーターが出来ていた。
(な、何が起きたって言うんだ——)
突然起こった出来事に思考を巡らせる前に、レンは衝撃によって意識を失った。
どさっ、という音と共にレンが地面に落下すると、ユウトは急いで拳の武装を解除してレンに駆け寄り手を翳した。
(創造するのは、傷付いていないレン!)
ユウトが創造すると、意識を失っていたレンの傷が徐々に回復し、数秒後には完全に傷が無くなっていた。
「ユウトもユカリと同じ事が出来るんですね」
ヒナは傷付いたレンを回復する為に、野菜も持たずに急いで駆け寄って来た。
「………うっ!あれ……僕は、一体」
傷を手当した直後、気を失っていたレンが意識を取り戻し、先程自身に起きた事を思い出していた。
「ユウト……最後のあの技、竜の爪の中央にあった炎の塊が鍵なんだろう?」
「あぁ、その通りだ」
ユウトはこくりと頷くと、再び結晶のグローブを創り出すと竜の爪がある部分を見せながら説明を始めた。
「この爪がある部分の中央にある炎の塊を、任意のタイミングで結晶で覆った後、中心にある炎を膨張させて破裂寸前まで溜める事が出来るんだ。そして結晶の一部に穴を開け、膨張した炎を放出する事で自由に調整する事が出来るんだ」
レンはユウトの説明を聞くと、納得したように笑みを浮かべた。
「成る程……それであの時、一瞬でユウトの姿を見失ったのか」
「速度は穴の開け具合で調整して、速度を上げるタイミングや方向は結晶に開いた穴を閉じたり開けたりすれば自由に出来るからな」
ユウトの説明を聞き終えたレンは、ゆっくり立ち上がりユウトに手を差し出した。
「……ユウト。最初に君と会った時は、実験は失敗したんだと思って絶望していたんだ。でも、やっぱり君はユカリの全てをしっかり受け継いでいた。戦ってみて分かったよ、君の強さとユカリと同じ優しさを」
レンは戦う前とは、違う優しい目をユウトに向けていた。
「試すような事をしてすまなかったね。でも、これで君の事を心から信頼する事が出来るよ……ありがとうユウト」
謝罪の言葉を口にしたレンは、ユウトに手を差し出した。
「気にするな。俺だって今出せる全力を確認出来て満足してるからさ」
優しく微笑んだユウトは、レンから差し出された手を握った。
「ふふっ♪これで本当の意味で私達の仲間になれましたね、ユウト」
ヒナは、握手を交わしている二人を見て嬉しそうに笑っていた。
「二人共ゆっくり休んでくださいね!ユウトの話ではユカリもそろそろ起きるみたいですから、戦いの準備はしっかりしておかないといけませんからね」
ヒナの言葉に頷いた二人は、これから来る戦いに備え準備を開始した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる