夜の目も寝ず見える景色は

かぷか

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インセット編 

4 ベル

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「じゃあ、ベルそういう事だから」

 久しぶりの集合会議。
 何かと思えばインセットの引退だった。

 正直、あいつがするとはこれっぽっちも思ってなかった。皆、最後まで伝術士をなんだかんだ続けていくものだと俺は思っていた。

 何人かは止めたがインセットは頑なに決めていた。引き継ぎをできるだけ早くしたいと言い選出された次の伝術士は俺の教え子だった。

 あいつの後で荷が重いだろうがインセットは丁寧に教えた。あいつはやはり伝術士の中でも策略、強さ、情報、どれをとっても過去最高の奴だったと俺は思っている。そんな奴がいなくなるのは正直寂しい。

 アヤとはあまり話さなかったがこの時ばかりは声をかけた。

「インセット、引退するんだな」

「ああ」

「正直、寂しい」

「決めてたからな」

「いつ!?知ってたのか!?」

「ソードに会った時からあいつが辞めるのはその時だとわかっていた」

「ああ~昔から好きだもんな。レイ様とロキ君いるのにな」

「俺的にはあいつとお似合いだと思う」

「は?レイ様のだ。レイ様が傷つくのは認めれない」

「まぁ、そうだが。あいつには幸せになってもらいたい」

 アヤの意外なまでの真剣な返しに心からそう思っていると感じた。アヤとインセットは昔から何となくだが仲が良いというか信頼関係ができていると思った。俺とは違うって言うか…

 インセットはソードに会ってから変わった。楽しそうにしている。あいつはいつも楽しそうだったがソードといる時は本当に素が出せてる気がする。良いことなんだけど俺には心配があった。

「アヤ、禁じ手…大丈夫だよな?」

「ああ。やっと会えた奴がいるんだ暴走はしないだろ」

 俺達の伝術士の中で禁じ手と言う術が幾つかある。
 中でも最大の禁忌は蘇生術。これは最後の手段。教えてはあるが誰一人今まで使ってきた者はいないと言われている。俺達は人の寿脈には逆らってはいけない。そしてそれを自分の私利私欲…すなわち愛する人へは決して使ってはいけない。これが掟で決まり事だ。

 では、なぜ使わないのに教えられるかと言うとそれもまた伝術に入るかららしい。この最後の禁じ手は伝術士会議に選ばれた者のみが使える技だ。勿論、俺もアヤも知ってるが俺はその術を伝術士でないレイ様に教えた。それがバレたのは言うまでもない。

 レイ様が使ったからだ。

 あの時もインセットは何も言わなかった。ソードの魔力を抜き取りレイ様が代用し、レオナルドを生き返らせた。それがソードの指示であったこともわかっていた。レイ様は伝術士ではないのにあの技を使えた事ははっきりいって異例中の異例だった。

 覚悟の上で俺は教えた。

 伝術士の剥奪を当然されると思った。いつもの多数決を取るはずだったがインセットが一番に口を開いた。

「失われるはずの無かった命が救われた。しかもベルは伝術士より優秀な人にあの術を教えたわけだ。ベルは正しい判断をした。罰なんてないだろ。異論は俺に」

 その場の誰も俺を責めなかった。あのアヤでさえも嫌味の一つ言うかと思っていたが無かった。

 インセットは伝術士の在り方を少しずつだが変えようとしていた。古いルールもあるからこそ守られる組織でもあったが俺はその一言で救われた。禁じ手は使わないのではなく生かすものだと。それが伝術士だろうとなかろうとその資格に至るものが使うべきだと俺は思う。

 だが俺の言う禁じ手はレイ様が使った蘇生術ではない……

 俺は昔、アヤからインセット自体が禁じ手になった話をきいた。まだ、二人が若い頃にインセットが黒いオーラを出した。それを知った伝術士達は戦々恐々としたらしい。すぐに多数決を取り処罰や剥奪を考えたが結局、伝術士同士には出すなと禁止をしただけだった。アヤは納得いかず、なぜ伝術士同士だけなのかと言ったそうだ。

 答えはわかっていた。インセットを利用しようとしたんだ。黒いオーラはあらゆる者を押さえ込め、巨大な力と凶器になる。伝術士達は剥奪した所で何の効力もないならせめて自分達の中で使おうとなったんだ。

 だがそんな裏などインセットが勘ずかないわけない。わかっていて従っていたんだ。この時はまだ利用しようとしていたらしがインセット自体が禁じ手と言われるような出来事が起こってしまった。

 伝術士の一人がインセットに恋をして彼を刺した。幸い命に別状もなくすぐに復帰したんだが刺した伝術士は会議にかけられた。
インセットは意外にも相手を庇った。それを見ていた年配伝術士が許さなかった。

「奴のようにする気かって」

 それを聞いたインセットは黒いオーラを出し発言相手を意図も簡単にねじ伏せた。アヤが止めに入ったが凄い力だったらしい。勿論、インセットは処罰で剥奪対象になったが彼の力に恐れをなした者が報復を恐れおとがめ無し。代わりにアヤとアヤの師匠が監視に入る事によりおさめた。

 俺はインセットは報復などしないしオーラを出す時は彼のプライドに触れた時だと思う。間違った事などしないはずだ。随分前にソード達に出したきりだがあれもただの脅し…いや、本気だったか。

 それ以来インセットは禁じ手そのものになった。つまり、我々で管理する取り扱い注意人物になった。引退となるとそれを見張る者がおらずソードの為に出してしまうのではと心配な所だった。

「俺がたまに会いに行くよ。それに正直、あいつがいない組織は不安だ。はぁ…駄目だな、素直にお疲れ様だと言わないと」

「ああ。俺もあいつを見届けたらおさまるかな」

「は?は?誰と!」

「さぁな、お前こそさっさとしないと俺に先こされるぞ」

「な!?」

 だ、ど、どうしてバレた!

 まさか、自分の恋愛事情がアヤに知られていたとは…流石伝術士。
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