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インセット編
5 迎え
しおりを挟む「マント取りに来たよ~」
窓の外で手を振るにこやかなインセットに二人はビックリする。突然アビサルの家に現れたのだった。
「おい、何しに来たんだよ」
「だから、マント取りに。ソードに貸したままだ」
「今はソードに会わないで下さい」
ソードを隠すように前に一歩でるロキ。お構いなしに視界に入りソードを覗く。目の合ったソードはインセットを見ると駆け足で書斎に行きマントを取りに行った。二つ持ってくるも、この間のだけで良いよと言われアビサルで借りた方を持った。窓を開けベランダに出るとインセットのいる方へ行きマントを手渡す。
じっと見つめながら瞬きはするものの何も言葉を発しないソード。そんな様子を見て頬をさわり優しく撫でた。
「だいぶだね、遅くなった」
「用は済んだだろ、帰れよ」
ソードの後ろからレイが声をかけインセットに近づき頬を触る手を外させた。インセットは払われた手を見たあとソードの顔をニコニコしながら見た。
「まぁまぁ、久しぶりなんだし少し話させてよ」
その発言にレイとロキは敏感に反応をした。
「必要ない!」
「帰ってください!」
この焦りからソードに異変が起きていると二人も気がついているとわかった。それが隠したくなるぐらい重症だと言う事も。
ソードはというとインセットを前に一言も言葉を発っせないでいた。マントのお礼もこの間届けてくれたお礼も言いたかったが言えなかった。ただただインセットの目だけじっと見つめて訴えていた。
「待たせたね。約束通り迎えにきた。俺と一緒に来ない?」
「ふざけんな!」
「ソードは行きません!」
思わずインセットからソードを守ろうと腕を引っ張ろうとした。
「まだ、話の途中だ」
そう言うとインセットの周りを黒いオーラが這いつくばり体を囲んだ。手を軽く前に出すと二人の体は全く動けなくなった。
「ソードの可愛い声はどこかいっちゃった?」
黙ったままインセットを見るソード。
「お前は助けて欲しいのに声が出せないでいる。誰に助けて欲しいかもわかってるはずだ。声に出していいんだよ」
首を振るソード。
「大丈夫、怖くない。誰も責めない」
首を振る。
「ソードは二人が好き?」
頷く。
「じゃあ、俺といるのは好き?」
二人の顔を見てから首を振る。
「そう、じゃあ俺の話は好き?」
頷く。
「俺と会えて嬉しくない?」
二人の顔を見て頷く。
「俺の名前を言えるか?」
名前を言おうとするが口をパクパクするだけで一向にでない。
「言わなくていいよ」
にこりと笑い頭を優しく撫でた。
動けない二人を冷静な目で見て言いはなった。
「このままいくとソードが壊れる。お前らもわかってるだろ。廃人にするつもりか」
「くっ…お前に何ができんだよ」
「お前らにできないことだよ」
「俺らだって散々試したんだ!それでも治らない!」
「当たり前だ。お前らには無理なんだよ。これは仕方のない事でお前らが悪いわけじゃない」
「お前なら治せるのかよ!」
「俺以外いない。お前ら助けんだよ」
二人は戸惑った。てっきりインセット自身の為にソードを治すと思っていたが意外にも自分達を助けると言うのだ。自分で言っていて不本意だと言わんばかりのインセットに訳がわからなかった。
「何言ってんだよ!」
「知らねぇよ、今からソード治してお前らに返すって言ってんだよ」
「なら、ここで治して下さい!」
「無理だ、時間がかかる。見ただろ、お前らの顔色ばかり伺ってる。言葉すら出てこない。俺といてはいけない縛りを強化してる。最後の砦のお前らに嫌われまいと必死だよ。見るに耐えない、縛りは些細なことから始まる。ソードの拠り所を無くすな。今は俺に助けて欲しいと訴えている。お前らじゃソードの師にはなれない」
「「……。」」
「俺が必ず助ける」
インセットはソードに何が起きているかわかっていて、それが治るといった。そして、必ず助けると言った彼の言葉に今までの誰よりも心強く信用できてしまい二人は黙った。
「ソード、この間の続き聞きたくないか?」
悩むソード。
「二人の元へは帰りたいときに帰す。約束する。だから一緒にこないか?」
二人を見る。
オーラを解くと二人は脱力して床に膝をついた。
「……ソード、自分で決めろ。俺達は気にするな」
「……うん、ソードが行きたい方へ」
二人は自分に笑いかけてくれた。そしてインセットの顔を見るとにこりと手を差しのべられた。その手をゆっくり掴む。インセットは軽々ソードを抱き上げた。
掠れた小さな声で絞り出して言った。
「ろ、ロ…き、れ…ぃ、って、くる」
「わかった」
「うん」
そう言うとソードはインセットに抱えられいなくなった。部屋には置いてかれた二人が残った。
「残念だが俺らには今は何もできない」
「はい、いくら望んでも無理ですね」
「ああ」
「ソードを追い詰めてしまったんですか?」
「わかんねぇ……だがインセットも言っていた。俺達が悪いわけじゃないと。どちらにせよ俺達じゃ解決法が今は見つからない」
「何か方法がある様子でした…すがるしかないんですね」
「ああ。ソードの師にはなれないか……また、俺達は助けれないのか。クソッ」
「はい…」
窓の空いた部屋は冷たい風が通り二人の肌をすり抜けていった。
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