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松編 ③
20 ソルト ②
しおりを挟む「ソルトさん、まだです!」
「はい!」
木剣で打ち合う二人は汗を流しながら稽古をしていた。魔物退治の稽古場はいつでも好きな時間に解放されており沢山の護衛が日々汗を流している。その中の数回はフィグやクラムも混ざって特訓をする事もあるが今日はクラムが皆の稽古をつけていた。
クラムの動きに負け倒されたソルトは次の人と交代した。タオルで顔を拭きながら自分の弱さに悔しい思いをしていた。
「今日はここまでです。皆さんお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい」
ぞろぞろと皆が帰っていくとソルトは一人で自主練習をした。それに気がつきクラムが戻ると相手をしたのだった。
「ソルトさん、もう少し力を入れないと剣を飛ばされます」
「はい!」
最近自分がいる稽古の時間はいつもソルトが残っているとクラムは思った。自主練習はとても良いことだし強くなる為の近道だとクラムも思い感心した。ただ、ソルトの表情が固いのが気になっていた。
「ここ迄にしましょう。やり過ぎも良くないですから」
「はい、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる。
「ソルトさん、あまり根を詰めないようにしてくださいね」
「はい。わかりました」
そう言うとクラムはにこやかに誰かに手を振った。振り返るとビタが手を振っていた。
二人の仲の良い姿は今の自分には目の毒だった。楽しく話しながら歩く姿はもう自分には一生出来ない事だなと思い足早に部屋に帰るとシャワーを浴びて軽く食事を済ませて寝ることにした。
横を向きながら訪れない松をずっと待っている自分がいてまだ期待しているのが嫌でぎゅっと目をつむる。
とら様とのあの関係は終わってしまった。
やまと様と時間を過ごした後、私の部屋で今後の対策を話していた時だった。とら様は必要ないと言い帰られてしまわれた。こちらには当分来ない。帰るのは当然だ、私が無理に抱いたのだから…罪悪感しかない。
とら様はいつもあの一線だけは越えなかったのに…私はなんて事をしてしまったんだ。信頼を獲得できなかった上に無理にとら様の本音を引き出そうとしてしまった。
私だけには正直に胸を内を話してもらえるぐらいの信頼関係はあると自分で勝手に思っていた。だけど違った。赤い首筋の痕を見てとら様が私にだけ話してくれたあそこで止めておけば良かった。なのに私はそれ以上のとら様の内心を欲張ってしまった。
もうあの日には戻れない。
それから暫くたったある日。松が久しぶりにソルトの部屋に訪れた。お互い何事もなく普通に会話をする。ソルトは松が自分の為に会いに来たわけではないとわかっていたため会えたのにも関わらず気分は浮かなかった。目にした松を見てその辺の護衛のような振る舞いができたのは自分でもよくやったといいたかった。
「ソルト、河口君に頼まれたものを渡しに来た」
「かしこまりました」
廊下を歩くも二人に会話は無い。
コンコンコン
「河口君、遅くなってごめん。これ頼まれたやつ」
「松君いつもありがとう!!これこれ!」
「やまと、何だそれは」
部屋にはいつも通りの二人。
「塩昆布!お昼にこれ食べてた。後でおにぎり作ってあげる~」
「わかった」
「松君、お米までありがとう!こっちで作れるってわかったから凄い嬉しい!お金払うよ!」
「いいよ、大した金額じゃないし。お世話になってるしね」
そう言ってソファーに座った。塩昆布片手に喜びのダンスをしているやまとを見てクスッと笑う松。
それを見て久しぶりの笑顔を目に焼き付けたソルトだった。そんな姿を見てまた考えてしまった。
とら様はなぜあの時唇に口づけしようとしたのだろう…私と婚姻しないのに。あの時…私は避けなければと思った。あちらでは口づけは婚姻とはならないがナグマではなってしまう。とら様の事です、気分…だっかかもしれない。今さら考えても仕方のないこと。最後の願いだった口づけは例えその場かぎりだとしてもこんな事になるならしてしまえば一時の夢を見れたのに馬鹿だな…私は。
そしてやまととの会話を終えると松は再び帰って行った。次はいつ松の姿が見れるのだろうと考えてしまうのもやめにしなければと思いソルトは見送った。
「フィグ、そーいや松君、紐持って無かった」
「ああ」
「何かあったのかな?」
「二人にしかわからないことだろう」
「そっか。松君大丈夫かな。ちょっと元気がない気がした。最近こっちにあんまり来なくなったし」
「そうだな。松君さんにも事情があるのだろう。それより、それを食べたい」
「塩昆布?いいよ!はい」
手に少し分けるとフィグは食べた。
「しょっぱい」
「塩昆布ですから」
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