12 / 12
エピローグ
しおりを挟む初夏の熱い日差しが照りつける。
その熱が籠った砂浜に跪き、僕は母なる海に向かって祈りを捧げた。
海なんて、ここに来るまで本でしか見たこと無かった。
海は僕に、「この世界を包括している大きな存在」を強く感じさせた。
昔奈都くんが、学校の修学旅行で行った海の話をしてくれたっけ。
いくら語彙力のある奈都くんでもこの凄さは説明できなくて、どんなに綺麗で壮大だったか言われても僕はよくわからなかった。
……でもやっとわかったよ。奈都くん。
「ママ!! 」
……お気に入りの白いワンピースを着た娘が走ってこちらにやってくる。
「......明日果」
千歳ちゃんのような勇気ある人になってほしい、明るい未来があるようにという願いを込めて「明日果」と名付けた。
運命の番から生まれる子どもは6割以上の確率でアルファだという。
千歳ちゃんと同じ香りの子が生まれるかな、なんてちょっと期待したけど、明日果の香りはジャスミンだった。
……でも全然怖くなんてない。
「ねーねー、パパ、あっち? 」
明日果が沖の方を指さして言った。
「そうだよ」
「パパー!!」
明日果が沖に向かって嬉しそうに手を振る。
「……そろそろ帰ろう。おばあちゃんが疲れちゃうから」
「うん! 」
「真琴さん……」
お義母さんが日傘を差してやってきた。
「お義母さん」
「千歳はいつになったら帰ってくるの? 」
その虚ろな目は一体どこを見ているのか。
「……お義母さん、家に戻りましょう」
僕は明日果と手を繋ぎ、お義母さんの肩を支えて砂浜をあとにしようとした。
そのとき
「……! 」
あのラベンダーの香りが海風に乗ってふわりと香ったような気がした。
「……千歳ちゃん」
振り返ると
そこにはただ、青い海と、眩しい太陽があるだけだった。
✝︎ fin.
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる