鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

文字の大きさ
上 下
83 / 105

83,気の抜けた先輩ふたり

しおりを挟む
そしてやっと応接室に案内された。

まさかのここは控え室だった。

なにそれ。

意味わかんねぇ。

あれだけ待たせた上にこっちに出迎えさせる。

ひどすぎん?

「……ナメとるわ」

「……ですね」

だから貴族は嫌いなんだとフード男が静かにぶちギレ。

「いいのよこれで。貴族にも意味があるから」

「どんな意味あんだよ」

「対等なら意味がないわ。ある程度権威がなくちゃぁね」

「お前は政治家向きだわ。年のこ、う」

「エルフだから年齢は当たり前よ。青二才。お黙り」

「ラオ、こいつはごひゃく、いでっ」

「お黙りっ」

「いてぇな。叩くなよ。エルフなんだから年食ってても良いじゃん」

「あんたはバカにしてるから嫌なのよ。乙女に、」

「はは、偽乙女」

「あ"ぁ"?」

「こわぁい。本性丸だしぃ」

「……緊張感は?」

さっきまでのシリアスはどこ行ったよ?

「いる?そんなの。お前は大丈夫だろ?」

「ラオは怖いのね。お母さんと呼んで頼って良いのよ?」

「呼ばない」

隙あらば突っ込んでくんな。

「こいつはロクロにだけアホなんだよね」

「あんな良い男いないものぉ。はぁん、好きぃ」

「鬼人族の割りに頭回る奴だもんね。普通はもっと欲望に忠実なのに。あいつが一番仕事しやすいわ」

「違うわよ。彼って紳士なのよ」

「あ?紳士?はぁ?普通に鬼人の下半身じゃん」

「ぶふっ」

ちょっとウケた。

どっちも本当なら紳士な下半身。

俺には子煩悩な親父だし。

迷走しすぎて笑える。

「あんたと違って乙女として扱うからよ。私達のこと」

「私達?」

だれ?

「こいつのコミュニティー」

「へぇー」

「何人くらいいたっけ?100?200?」

「ギルド関係だけで300くらいいるわ。ギルドと一般人含めるなら小さな街がひとつ出来るくらいかしら」

「わお」

「こいつは見た目がエルフだから違和感少ないけどメンバーにゴブリンとかゾンビとかすげぇよ」

「全種族いるわよ」

「見た目が見れるの一部よ?人種何でもあり。かなりモンスター勢揃い」

「おふ」

「失礼ね。あんた。だから嫌われてんのよ。モテないわよ」

「オカマは趣味じゃねぇもん。別に良い。てか、俺は霞の精霊族だから無性だしそういうの関係ない。でさぁ、最年長で面倒見いいからオカマはこいつに挨拶するって感じ。仲間内で長老扱い」

「女神よ」

「はは、女神様かよ。お前の親父は女神様に惚れられてんだってよ」

「……エルフと鬼人は合わないんじゃ?」

無性欲と性豪。

体質が向かない。

「エルフは一途なのよ。愛する人のためなら何でもするのよ」

「良いように言うねぇ。エルフは好きなことしかしねぇの。特定の相手とならマジでバカ。行き当たりばったり昼日中、野外でヤり放題。変態でストーカー、執着質。プライドの化け物、人見知りの引きこもりでそうそう惚れねえってだけ」

「言い換えればね。でも言いすぎよぉ。おほほ」

「こっちが真実」

「……えーと、ローラさんは純血エルフの割りに気さくってことですか?けっこうオープンですよね?」

頭よりもうんと長く伸びた耳は純血に近いエルフのはず。

エルフのグラナラさんもここまで長くない。

「ああ、そうだな。普通のエルフよりまともな会話が出来る。あいつら、マジで自分以外は石ころって思ってっから。生き物のくせに繁殖に興味なさすぎ。狩られたからってより、もとから仲間内で助け合い精神も少ないし減少するのが当たり前なんだよね」

目を細めて納得に頭を揺らすローラさんを見て事実なんだと実感した。

「どの種族でも群れが苦手だと減少しやすいわよねぇ」

その点、人族はと二人で話が弾む。

短命で個としては弱いけど繁殖力と群れとしての繁栄は面白いと続いた。

そのなかで王政、経済、通貨制度など。

発展が早く刺激的だと言う。

「私ももとは普通のエルフだったわよー。森の中だけで細々と暮らすならずっとそうだったでしょうね。魔法だって原始的なものしかなかったし。生きてるのか死んでるのか分からない感じだったわぁ」

「俺もかな。偶然、霞に魔力溜まりが重なってできたんよー。気づいたら100年くらいフワフワ生きてたわ」

人族のか弱さと短くて熱い生き方が好きだとフード男は言うとローラさんは頷く。

「貴族と関わるのは嫌いだけどな。でもどうせ短命だ。短い期間付き合ってやるよって感じ。でも逆にさ、お前みたいなのがいると惜しいんだよね」

「うお」

唐突に頭を掴まれてぐしゃぐしゃと混ぜられた。

「俺が担当になっちゃる。早めに呼べよ。いいよな?分かったよな?返事は?」

手のひらを見せて、指でピッと直線を引いて見せた。

「あ、はい。え、とお願いします?ありがとうございます?え?あっ!…………まぁ、いいか」

これ魔法使う奴の誓約だって気づいたけど問題ない気がする。

「おけ、おけ言霊ゲット。知らせとこ」

手のひらにフーッと息をかけると球体のモヤが産まれてそれを握ると消えてしまった。

「申請おわりー。これで問題なく許可おりるっしょ」

「手が早いわね」

「俺は仕事が早いの。お前なんか会う前から担当の申請だしてたじゃん。フライングすぎん?」

「えー?書類を受付に預けてただけよ?会ってから提出扱いに変更したの」

「当日に行ってすぐだったじゃん。気が早くね?」

「え?当日?いつの間に」

知らんぞ。

「試験中に。てかあんただって即日申請じゃない。人のこと言えるの?」

「まぁね。でも急がないと面倒みやすい奴って取り合いになるじゃん?シーダの担当はミスった。ロクロの娘なら楽と思ったのにあいつ、何なの?マジ怖い。でもこいつがいたら楽になりそうじゃね?ロクロとチサキは忙しくてなかなか捕まらないし、身内のなかでお前の言うことを聞くらしいし。て、訳でよろしくー」

「あー、そういうことね。分かるわー」

「……あ、姉が、ご迷惑をおかけしてます」

「あのランクじゃなかったら本当にただの犯罪者だからな、あいつ。バカとハサミは使いようで、あいつはバカ寄りよ?」

何しやがった、ダイネェ。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...