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82,回廊を周回
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あれは魔法で生まれた石の人形だと言っていた。
こちらは本物の人間。
だけどどっちも同じ無機質。
あっちが人間でこっちが石なんじゃないかと思うくらい。
本物の貴族の使用人。
何も人間味が伝わらなくてあの石のメイドと目の前のメイドと区別つかない。
うーん。……気持ちわりぃ。
本で読んだことしかないようなバカでかい豪華な屋敷に到着して、ローラさん達の付き添いのもと、屋敷の使用人が俺達を案内してる。
区画ごとに担当が違うみたいで使用人が交代していくんだけどどれも本部で見た石人形みたいだ。
こっそりローラさんにこれも本部のメイドと同じかと尋ねたら生きた人間だと教えられた。
「これが貴族に仕える使用人の標準よ」
マジかよ。
「これが貴族のお屋敷で普通なんですか?」
屋敷と使用人、回廊の派手さ。
全部、初めて見た。
「お口が軽くなってるわよ」
「すいません」
黙っておけってことかと理解して口をつぐむ。
だけど好奇心と警戒心はいつも通り。
案内の使用人がぐるぐると見た目がそっくりな回廊を回って無駄足を踏ませてることも気づいた。
見栄で屋敷を広く見せるためか、屋敷の作りを分かりづらくさせるためか。
三回目に通る回廊を見つめ、後者なら用心深い貴族だなとよぎる。
そうするとどこからか見てるのかもしれないと五感を研ぎ澄ます。
ドリアドスさんなら臭いと音で察したろうなぁ。
オルカさんなら魔法かな。
親父なら、チイネェ達なら。
ロブさんなら。
皆ならどうするかな。
非力で経験が浅い俺はどうする?
どう動くのが最適かな。
こうやって歩く間もじっくり考えた。
そしてやっとたどり着いた広い応接室。
俺んちくらいある。
屋敷の主人はあとから来るらしいけどどうかな。
どうせしばらく来ない。
待たせて身分を見せつけるつもりな気がする。
取引でこういうことは何だかあった。
案の定お茶が冷めても来ない。
ローラさんは涼しい顔をしてるが、フード男は2杯めの冷めたお茶を飲みながらイライラし始めた。
「……おそ」
静かな部屋にこいつのいら立った呟きが溶けた。
別に構わない。
こっちは構える時間ができた。
「ふふ」
ローラさんの笑みに視線を向けた。
「あげる」
「なんですか?これ」
渡された小さな木の輪っか。
服についてた装飾の一つ。
一瞬、指で擦って何かしてた。
「指にはめてそれにかざしてみなさい」
指すのは俺のお茶。
飲みたくなくて手をつけてない。
言われた通り小指にはめて手をかざした。
「……なんも起きませんけど」
「飲んで大丈夫よ」
「は?」
「次から使いなさい」
「……はい。良いものをありがとうございます」
「用心深いくせに私には素直ね。ふふ、かわいい」
「どうも」
「おかあ、」
「呼ばない」
「あぁん、かわいくない」
文句言いつつ楽しそうに笑っていた。
「それあげちゃうんだ。気にいってんなぁ」
「あなたもね」
「ふん」
ローラさんの返答に腕を組んでそっぽを向く。
図星かよ。
「おい」
不機嫌そうに呟く。
おそらく俺に呼び掛けた。
黙って視線を向ける。
「殺さないなら大概はギルドがどうにかする。覚えておけ」
「はぁ」
何のことか分からなくて気の抜けた返事がこぼれる。
「チサキさぁ、あいつはギリギリだったんだよね。正当防衛だけど相手の腹に穴あけて虫の息だった。なんとか間に合ったからいいけどさ。死なせてたらヤバかった」
「時間はかかるけどね。私達は仲間を守るのよ。目を潰して針山にするくらいしていいわよ。四肢の切断や大穴より回復が楽だから」
「くふふ、そうだなぁ」
手のひらを俺に向ける。
「お前の証は右手か?どっちでも良いけどいざとなれば直線に引っ掻け。爪でもなんでもいい」
「もう少し魔力があるなら一時的な念波がこっちに届くんだけどぉ」
何かしらの外因性ショックを受けると魔力が体内で爆発するらしい。
そういうことが起きたら刻印から誰の、どこでという情報が分かるそうだ。
本部で管理してると話してくれた。
俺みたいな魔力無しは刻印が消えてから発覚するって。
簡単に言うと手に刻印してるから、それが体から千切れるか死んだら分かるって。
そうなる前に知らせろってことらしい。
「あ、でも悪さをしたら分かるからな。サイクロプスの鑑定。あれは記憶を覗くんよ。脳ミソ抉る感じで普通は痛すぎてすぐ失神するの。でもお前は魔力耐性が強いから痛みが長引いたっぽいよ」
あれがそうかよ。
俺の渋面にすぐ気づいて手を横に振る。
「いつもじゃない。訴えがあればだ。シーダは定期だけど」
あいつは悪さしすぎと笑った。
「上級のルールを教える暇がねぇ。でもお前なら大丈夫だろ。お行儀いいし一般人や貴族相手に無駄な揉め事起こさなそう。それより自分守れよ。死んだらバカだ」
「ふふ、やっぱり気に入ってる。助言してあげるんだぁ」
「わがままなシーダよりはな。でもあいつは簡単には死なねぇから楽じゃん。お前は違うけど。気ぃ弱すぎ。遣いすぎ。まわり庇ってすぐ死にそう。手間増やすなよ。遺体の捜索も俺らの仕事だから。大事な仕事って言われるけど俺はその仕事が一番嫌いなんだよね」
良い奴かよ。
死ぬなと言うこいつになんだかむず痒い。
かなり糞みたいな出会い方したけどな。
こちらは本物の人間。
だけどどっちも同じ無機質。
あっちが人間でこっちが石なんじゃないかと思うくらい。
本物の貴族の使用人。
何も人間味が伝わらなくてあの石のメイドと目の前のメイドと区別つかない。
うーん。……気持ちわりぃ。
本で読んだことしかないようなバカでかい豪華な屋敷に到着して、ローラさん達の付き添いのもと、屋敷の使用人が俺達を案内してる。
区画ごとに担当が違うみたいで使用人が交代していくんだけどどれも本部で見た石人形みたいだ。
こっそりローラさんにこれも本部のメイドと同じかと尋ねたら生きた人間だと教えられた。
「これが貴族に仕える使用人の標準よ」
マジかよ。
「これが貴族のお屋敷で普通なんですか?」
屋敷と使用人、回廊の派手さ。
全部、初めて見た。
「お口が軽くなってるわよ」
「すいません」
黙っておけってことかと理解して口をつぐむ。
だけど好奇心と警戒心はいつも通り。
案内の使用人がぐるぐると見た目がそっくりな回廊を回って無駄足を踏ませてることも気づいた。
見栄で屋敷を広く見せるためか、屋敷の作りを分かりづらくさせるためか。
三回目に通る回廊を見つめ、後者なら用心深い貴族だなとよぎる。
そうするとどこからか見てるのかもしれないと五感を研ぎ澄ます。
ドリアドスさんなら臭いと音で察したろうなぁ。
オルカさんなら魔法かな。
親父なら、チイネェ達なら。
ロブさんなら。
皆ならどうするかな。
非力で経験が浅い俺はどうする?
どう動くのが最適かな。
こうやって歩く間もじっくり考えた。
そしてやっとたどり着いた広い応接室。
俺んちくらいある。
屋敷の主人はあとから来るらしいけどどうかな。
どうせしばらく来ない。
待たせて身分を見せつけるつもりな気がする。
取引でこういうことは何だかあった。
案の定お茶が冷めても来ない。
ローラさんは涼しい顔をしてるが、フード男は2杯めの冷めたお茶を飲みながらイライラし始めた。
「……おそ」
静かな部屋にこいつのいら立った呟きが溶けた。
別に構わない。
こっちは構える時間ができた。
「ふふ」
ローラさんの笑みに視線を向けた。
「あげる」
「なんですか?これ」
渡された小さな木の輪っか。
服についてた装飾の一つ。
一瞬、指で擦って何かしてた。
「指にはめてそれにかざしてみなさい」
指すのは俺のお茶。
飲みたくなくて手をつけてない。
言われた通り小指にはめて手をかざした。
「……なんも起きませんけど」
「飲んで大丈夫よ」
「は?」
「次から使いなさい」
「……はい。良いものをありがとうございます」
「用心深いくせに私には素直ね。ふふ、かわいい」
「どうも」
「おかあ、」
「呼ばない」
「あぁん、かわいくない」
文句言いつつ楽しそうに笑っていた。
「それあげちゃうんだ。気にいってんなぁ」
「あなたもね」
「ふん」
ローラさんの返答に腕を組んでそっぽを向く。
図星かよ。
「おい」
不機嫌そうに呟く。
おそらく俺に呼び掛けた。
黙って視線を向ける。
「殺さないなら大概はギルドがどうにかする。覚えておけ」
「はぁ」
何のことか分からなくて気の抜けた返事がこぼれる。
「チサキさぁ、あいつはギリギリだったんだよね。正当防衛だけど相手の腹に穴あけて虫の息だった。なんとか間に合ったからいいけどさ。死なせてたらヤバかった」
「時間はかかるけどね。私達は仲間を守るのよ。目を潰して針山にするくらいしていいわよ。四肢の切断や大穴より回復が楽だから」
「くふふ、そうだなぁ」
手のひらを俺に向ける。
「お前の証は右手か?どっちでも良いけどいざとなれば直線に引っ掻け。爪でもなんでもいい」
「もう少し魔力があるなら一時的な念波がこっちに届くんだけどぉ」
何かしらの外因性ショックを受けると魔力が体内で爆発するらしい。
そういうことが起きたら刻印から誰の、どこでという情報が分かるそうだ。
本部で管理してると話してくれた。
俺みたいな魔力無しは刻印が消えてから発覚するって。
簡単に言うと手に刻印してるから、それが体から千切れるか死んだら分かるって。
そうなる前に知らせろってことらしい。
「あ、でも悪さをしたら分かるからな。サイクロプスの鑑定。あれは記憶を覗くんよ。脳ミソ抉る感じで普通は痛すぎてすぐ失神するの。でもお前は魔力耐性が強いから痛みが長引いたっぽいよ」
あれがそうかよ。
俺の渋面にすぐ気づいて手を横に振る。
「いつもじゃない。訴えがあればだ。シーダは定期だけど」
あいつは悪さしすぎと笑った。
「上級のルールを教える暇がねぇ。でもお前なら大丈夫だろ。お行儀いいし一般人や貴族相手に無駄な揉め事起こさなそう。それより自分守れよ。死んだらバカだ」
「ふふ、やっぱり気に入ってる。助言してあげるんだぁ」
「わがままなシーダよりはな。でもあいつは簡単には死なねぇから楽じゃん。お前は違うけど。気ぃ弱すぎ。遣いすぎ。まわり庇ってすぐ死にそう。手間増やすなよ。遺体の捜索も俺らの仕事だから。大事な仕事って言われるけど俺はその仕事が一番嫌いなんだよね」
良い奴かよ。
死ぬなと言うこいつになんだかむず痒い。
かなり糞みたいな出会い方したけどな。
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