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第三章※その後

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ビスが話すことにぽつぽつと答えてじっと観察する。

あまりこっちは話さないのに。

たった二人の会話を人よがりにならず、話も上手いこと回す。

やはり頭も悪くない。

人当たりのいい優しげな風貌。

中身は真逆の変態だし、容赦のない冷酷さもある。

木の椀に時折、指輪をかつかつと当てて遊ぶ癖。

酒が進む。

一人ひと壺を飲んだ時と違い二人で飲むとちょうどほろ酔い。

最後の残りを俺のグラスに注ぐ。

程よく酔いながらそれをちびちび飲む。

どうやって誘うか、そればかり考えた。

あの頭が真っ白になる快感が欲しかった。

飲み終えて空のグラスを逆さにテーブルに置く。

ビスが空の壺を振っていた。

「空だね。」

「ああ。」

「摘まみも。」

「ああ、もうない。」

「残念。」

「そうだな。」

テーブルに頬杖をついて、ビスの持っていた椀をひっくり返す。

「僕も。」

どう答えようか。

しばらく黙った。

「もう夜、遅い。今日は泊めてよ。」

すぐに答えるのは癪で、黙ったままじっと睨んでから寝室を指差した。

頷くと、すっと立ち上がって俺が指した方へ。

「ムスタファもおいでよ。」

寝室から声が聞こえた。

しばらく間を置いて目の前のランタンを消した。

テーブルに寄りかかりながら立ち上がった。

暗闇の中、酔いのせいも混ざって思ったよりふらつく体を無理やり歩かせる。

暗い寝室に入る前に入り口の枠に手を置いて寄りかかり、あいつの動きに集中する。

「…飲むだけ、と言ったよな。」

「…そうだね。」

真横から声が聞こえてハッとした。

入り口の真横。

壁に隠れていた。

身構える間もなく枠にかけていた手を引かれて床に吹っ飛ばされた。

「い、てぇ。」

咄嗟の受け身もとれず転がされ、酔った頭は使い物にならないとだけ浮かぶ。

引かれたのも手の感触ではなかった。

俺を引いたそれを引き返せばしゅるっと衣擦れの音が聞こえ手応えがない。

半身を起こして柔らかい感触が顔を掠めたと思ったらぎゅっと二の腕を巻き込んで半身は動けなくなった。

急いで立とうと片ひざをつくが、前屈みになった肩にどんとかなり強い衝撃を受けた。

前方に崩れた所を首に幅広の布が巻かれ、受け止められた。

喉を圧迫された苦しさに喘ぐのに笑いが出た。

「うえ、げほっ、は、…はは。…すげぇ。」

首は緩んだが、二の腕に巻かれた布は解く気はないようだ。

床に転がってビスを探した。

「びっくりした?」

頭上から声が聞こえ、暗がりで顔を覗かれた気配を感じた。

「かなり。」

してやられたのに機嫌のいい声が出る。

「君は反応が悪いね。酒には気を付けた方がいいよ。」

「反省する。」

「いい心がけだね。いつも悔しそうにするのに。ふふ。」

「悔しいがな。こうまでやられりゃぁいっそ清々しい。お前はすげぇよ。」

妬ましかったはずなのに。

「単純な腕力なら君には負けるよ。ドル達の侍従らにさえ勝てない。」

「はは、そうか。」

声の位置、衣擦れの音から床に寝転んだ頭の上でしゃがみこんだと分かる。

長いひんやりとした手が俺の顔を撫でる。

「でも、もっと強くなってもらわなきゃ困るなぁ。君に何かあったらお嬢様が泣く。」

「ああ、そうだな。それを言われると弱い。」

さわさわと顎から首へと手が移動している。

止める気はなかったから何も言わない。

「それに、」

「あっ、くっ、」

「僕が楽しめない。」

首を撫でていた手が胸に移動し乳首を強めにつねられて体が跳ねた。

「ん、んん、」

つねりながらこりこりと捏ねられて体が揺れる。

咄嗟に寝そべった背中を軸に足で反動をつけて回転し、ビスの手から逃げた。

今なら狙えるとしゃがんでるであろうと思われたそこに蹴りを入れる。

ばん、と軽い細い手応えに失敗を悟る。

くるっと巻かれて足首を吊るされ、下げさせようと足首から伸びた紐に足をかけて引っ張ったが巻かれる気配に急いで足を引く。

吊るされた足を引くのにびくともしない。

もうどこかに引っかけたとわかった。

「今のは良かった。」

「はあ、…はあ、…どうも。」

声の位置からどこにいるのか探る。

少し距離をとったのは分かる。

俺が歩くと床が軋むのにこいつは足音がしない。

耳をそばだててるが、どこにいるのかわからない。

片足は真っ直ぐ吊るされて、両の二の腕は胴に巻き付けられ少し手が動くだけ。

足を揺らすと壁に当たる。

部屋の位置を頭に思い浮かべ、壁のこの位置にでかいフックがあったのを思い出した。

帽子やコートをかける奴だがそれなり頑丈なのが4つ程並んでいたはず。

「…最悪だ。」

そこに飾られる自分を簡単に想像ついた。

踏ん張れない今の体勢では壊すのも無理。

ぐん、と片足の紐が強く引かれて腰が上がった。

慌てて残った膝をついて宙吊りの腰を支える。

「苦しい?」

思ったよりかなり近くから聞こえる。

酔ってた上に体を激しく動かし、しかも今は上半身を床に転がした体勢。

低い位置とはいえ片足から腰まで宙吊り。

残された足で腰を支えてるが、大股開いて無防備だ。

息苦しくて答えるのがキツかった。

「ふ、う、…どう、すんだよ。…これ、」

押し潰されたような声が出た。

「抵抗できそう?」

「…もう、無理だな。…思い付かん。」

「残念。」

しゃっと指輪の音がした。

「服を、ダメにするのは、止めろ。」

何枚目だ、このやろう。

破いたあとはこいつが用意してくるがいい加減にしてほしい。

「脱がす前に縛っちゃったから。」

「ぬが、」

“脱がせてからやれ”

そう言いそうになって口をつぐむ。

俺が大人しく脱ぐわけがない。

びぃーっと裂く音がする。

「…また、か。」

ため息が出た。

ヤるつもりはあったが、こうも着るものをダメにされると疲れる。

「ん、あっ、」

刃先を服の上からなぞられ、竿を刺激されてたまらず声が出る。

ぐにぐにと揉まれて固くなると布を裂かれた。

「ふふ、やっぱりこういうのが似合うね。」

代わりにビスの弾む声が聞こえてきた。


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