―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター18:「Activate 〝Ravenholm〟」

18-6:「戦闘苛烈」

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 時系列は少し遡る。
 凪美の町を走る水路の、東側上流より4番目に位置する橋。
 その周辺一帯では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
 橋を挟んで上流側には、町の警備隊およそ2個小隊規模の警備兵が布陣していた。警備兵達は下流側に向けて、クロスボウによって矢を数多放ち、そして時折それに混ぜ、魔法を扱い鉱石針や火炎弾を放っている。
 対する下流側の一軒の家屋の近辺周囲では、峨奈率いる第1分隊各員が、警備隊の攻撃に晒されながらも応戦していた。
 各員は路地、あるいは近場にあった荷車など、遮蔽物に身を隠して応射を行っている。

「ッ、こちらも待ち伏せか」

 路地から視線を出して先の様子を観察し、忌々し気に零す峨奈。
 第1分隊はつき先程この場に到達し、そして踏み込むや否や、待ち構えていた警備隊の攻撃を受ける事となったのだ。
 上流側で広く展開し多数の攻撃を投射して来る警備隊に対して、身を隠し十分に展開出来ていない1分隊からの攻撃は、満足な物とは言えない。

「香故。易之の容態は?」

 峨奈は振り返り、路地の奥側に声を飛ばし尋ねる。
 そこには、壁に背を預けて脚を放り出し座り込む、女陸曹の易之。そして彼女の前でしゃがみ、彼女を見降ろす香故の姿があった。そして易之は、その顔に酷くつらそうな色を浮かべていた。
 先に、エルフの少女ルミナに行われた身体に異常を発生させる魔法は、第1分隊の方にもその影響範囲が及んでおり、魔法に耐性を持たない体質である易之が、影響を受けダウンを起こしていたのだ。そして、体格の良い町湖場によりここまで肩を貸され運ばれてきて、路地裏に押し込まれたのであった。

「まだダメそうだな」

 尋ねて来た峨奈に対して、香故は端的に答える。

「ッ、冗談じゃないよ……こんなモン……!」

 しかしそれに対して、易之は苦し気な声色で不服の声を上げる。そして無理やりその体を起こそうとした。

「ッぁ……!い――へびゅ!」

 しかし、女としては抜きんでたその体躯を支える事は叶わず、バランスを崩して倒れ、そして顔を地面に突っ込み尻を上げ、締まらない鳴き声を上げた。
 香故は小さなため息と共にそんな易之を、呆れの現れである冷たい眼で見降ろした。

「……」

 峨奈は顔を顰めつつ、そんな背後路地裏の光景から目を外して、視線を先の橋周り一帯へと戻す。

「峨奈三曹!敵警備隊は周辺広域に展開しています。対して、こちらの展開が不十分です!」

 そこへ、荷車を遮蔽物として身を隠し、応戦行動を取っている波原より進言の言葉が寄越される。他、策頼やウラジア等が装備火器で応射を行っている姿も見える。

「あぁ、分かっている。――仕方がない、この建物を押さえる」

 峨奈は発すると同時に、自身が身を隠していた家屋の壁を、ドンと拳で叩く。

「新好地、町湖場、超保、盃。用意しろ」

 そして峨奈は、分隊から四名をピックアップ。
 抽出を受けた四名と峨奈は、丁度路地裏側に設けられていた、その家屋の裏口に集結。突入態勢を取る。

「――やれ」

 峨奈が合図を下し、傍で控えていた新好地が裏口扉の施錠を、ショットガンで撃ち抜き壊す。そして扉がこじ開けられ、待機していた超保と町湖場が、流れるように突入した。
 峨奈も三番手で屋内に踏み込み、新好地と盃も続く。

「クリア」

 続き踏み込んだ峨奈へ、先手で突入した超保より、端的な報告が上げられる。

「えぇ、抵抗無し。――ですが……」

 しかし一方の同時に突入した町湖場からは、言葉尻を濁す声が上がった。
 その理由は峨奈にも分かっていた。
 踏み込んだ住宅家屋内は、食卓と台所が隣接した、おそらくこの世界でも一般的なのであろう構造空間が広がっている。
 肝心なのはその空間の奥側、隅の一角。そこに固まる、複数人の人の姿があった。
 中年の男性が、明らかな警戒の視線でこちらを睨んでいる。
 そしてその男性に庇われるように隠れ、身を竦め寄せる、中年女性と高齢の女性が。そして女性達の腕に抱き寄せられた、男の子と女の子の姿が見えた。
 この家屋の住人、それも一家である事は明らかであった。

「――超保、町湖場。二階を押さえ、展開しろ」
「了」

 峨奈はまず、超保と町湖場に二階に上がるよう指示。それを受けた両名は、二階に続く階段を見つけ、駆けあがって行く。
 それから峨奈はこの家屋の住民であろう人々に向き直り、歩み距離を詰める。
 近寄る峨奈を前に、おそらく家主であろう中年男性は身構え、背後の家族であろう女子供はより強く抱き合う。

「あんた等……警備隊が言っている侵入者だな?一体うちに何の用だ!?」

 そして家主であろう男性は、峨奈に向けて荒げた声をぶつけた。

「私達は日本国陸隊です。この家屋の所有者の方ですね?申し訳ありませんが、お宅を陣地として一時的にお借りさせていただきます」

 それに対して峨奈は最低限の名乗りと、そして用件だけを端的に、冷淡な声色ではっきりと告げた。

「な、なんだって……!?な、何を勝手なことを――」
「申し訳ありませんが、拒否は受け付けません。安全のため、そのままこの場から動かないよう願います」

 中年の男性は、峨奈の発した要求に対して、抗議の声を上げかける。しかし峨奈はそれを途中で遮り、ピシャリと言い放ち、最後に警告の言葉を添えた。

「新好地、この人たちを見ているんだ」
「――了」

 そして峨奈は新好地に指示を出す。対する新好地は、少し渋い表情でそれを了承する。

「盃。行くぞ」

 峨奈と盃は、先に上がった二名を追って、家屋の階段を駆け上がった。



 先んじて家屋の階段を駆け上り、二階へと上がった超保と町湖場。
 両名は二階の角部屋に踏み込み、そして分隊支援火器射手である町湖場は、部屋の窓を荒々しく開け放って、そこにMINIMI軽機を据え置く。
 そこからは水路に架かる橋を中心に、周辺一帯の様子が一望できる。そしてそこかしこに、配置布陣した警備兵の姿が見えた。
 そして橋の向こう、対角線上に見える建物からは、地上に残った第1分隊に向けて矢がひっきりなしに打ち込まれている。
 それを見止めた町湖場は、対角線上の建物に銃口を雑把に向け、迷わず引き金を引いた。
 橋の向こうの家屋に無数の5.56mm弾が線を描く様に撃ち込まれてゆき、それが警備隊側の弓兵を牽制、あるいは撃ち倒したのだろう、警備隊側の攻撃が若干の減退を見せる。
 一方傍ら。超保は同様に開け放った窓に陣取っていたが、町湖場と比較して、カバーから時折身を出して小銃を撃つに留まる、慎重な攻撃姿勢を見せていた。

「超保さん。火力が必要なんだ、もっと積極的に撃つんだッ」

 そんな超保に向けて、町湖場は軽機の引き金を引き続けながらも訴える。

「了」

 しかし対する超保は端的な返事を寄越しながらも、その様子は依然、自分のペースを保った慎重な物に終始していた。

「……」

 年上の新隊員である超保のどこか真剣みに欠ける姿。それに町湖場は顔を顰めたが、気を取り直して意識を外に戻し、射撃行動を続ける。

「町湖場、超保」

 そんな所へ、峨奈と通信員の盃が、追いつき角部屋内に踏み込んで来た。

「どうだ?」

 峨奈は町湖場の隣の窓際にカバーし、外へと視線を覗かせながら、町湖場へ状況を尋ねる。

「向こうさん、結構な数がいるようです。押して突破するには、ちとこっちが不利かと」

 町湖場は軽機による制圧射撃を続けながら、峨奈に返す。
 その直後、上流側より魔法により生み出されたのであろう、数多の鉱石の針が飛来した。
 鉱石はこちらの家屋外側に多数突き刺さり、いくつかは窓より飛び込み各員の傍を掠めた。

「ッ、また支援が必要か――盃」
「どうぞ」

 峨奈は顔を険しく歪めつつ、横に居る盃に促す。盃はすかさず無線機のマイクを峨奈に寄越して渡す。

「ライフボートへ、こちらジャンカー1!こちらは、上流より4番目の橋で、2個小隊規模の敵と対峙中!」

 峨奈はマイクを口元に寄せると、支援要請の言葉を発し上げた。

「敵は防衛体勢は強固!こちらだけでの突破、無力化は困難!再びの航空火力支援を要請するッ!」

 続け、こちら側の状況の詳細を発して告げる峨奈。

《――ライフボートよりジャンカー1。現在当機は車輛隊に上空支援を提供中。少し待つんだ》

 しかし要請先のCH-47Jの小千谷から返されたのは、そんな旨の言葉であった。
 返されたその言葉に、峨奈は顔をより顰める。

《いえ、アルマジロ1-1よりライフボート。こちらは大丈夫です》

 が、そこへ車輛隊の長沼の言葉が割り行った。

《車輛隊も間もなく現在位置より離脱します。そちらは、ジャンカー1の支援に向かってください》
《――了解、アルマジロ1-1。ジャンカー1、少し辛抱しろ。これより向かう》

 長沼からの促しを受け、CH-47Jの小千谷から、こちらの支援に向かう旨の言葉が返された。

「ジャンカー1、了」

 峨奈はそれに返答し、そして再び窓の外へ視線を向ける。

《警備隊より、住民の方へ――!》

 上空より、異質で大きな音声が響いたのは、その瞬間であった。
 峨奈は上空へ視線を向ける。一帯の上を旋回飛行する、警備隊側が飛ばしている観測用の発光体が見える。音声は、そこから発せられていた。

《侵入者に対して、抵抗はしないでください。警備隊がただちに向かいます。繰り返します、侵入者に対して抵抗はせず、警備隊の到着を待ってください!ただちに警備隊が向かいます!》

 聞こえ来たそれは、警備隊から住民に対する広報の言葉であった。
 分隊がこの家屋を抑えた事を見止め、居住住民の安否を案じた警備隊側は、住民への呼びかけを実施したのだ。

「チッ。これじゃ俺等が悪モンだぜ」

 それを聞き留め、町湖場は射撃行動を続けながらも悪態を吐く。

「事実、こちらは侵入者だからな」

 峨奈はそれに顰めた顔で返しながら、下げていたスピーカーメガホンを手に取り、口許に寄せる。

《こちらは、日本国陸隊です。周辺住民の方にお伝えします。こちらは危害を加える者ではありません。外に出ず、お住いの安全な場所に避難してください》

 そしてこちらからも、広報の言葉を周辺に向けて発した。

《――また、警備隊各位に告ぎます。当方は、そちらの拘束している、日本国民の保護が目的です。速やかな、該当国民の引き渡しを要求します》

 続け、警備隊側に訴えの言葉を発する峨奈。
 一帯には双方の広報音声が錯綜する。
 しかし反して戦闘は苛烈さを増し、上流側からは警備隊の放つクロスボウの矢や、鉱石の針等が引っ切り無しに飛来し襲う。
 対する第1分隊各員も応射応戦。
 警備隊側の矢や鉱石針。そして分隊側の銃火が、激しく家屋間を飛び交った。

《ジャンカー1、こちらはライフボート。間もなくそちらの上空へ到達する》

 そこへ、盃の装備する無線機より通信音声が上がり聞こえる。支援を要請した、CH-47Jの小千谷からの物だ。同時に一帯に響く射撃音に混じり、バタバタというヘリコプターの飛来音が聞こえ来る。

《ただ、申し訳ない。こちらも送り狼を付けられた。あまり長時間の滞空支援はできない》

 続け聞こえ来たのは、ヘリコプター側の状況を説明する言葉。
 そして同時に、激しいローターの回転音を轟かせ、一帯上空へCH-47Jが姿を現し飛び抜けた。しかし少しの間をおいて、それを追いかける二機の箒が、同様に上空を飛び抜ける。CH-47Jの後部からは、追いすがる箒に対して、12.7mm重機関銃が発砲する様子が微かに見えた。先の通信の通り、CH-47Jは警備隊の箒隊による追撃を受けている様子であった。

《これより支援を開始する。目標の位置を知らせ》

 要請の言葉が聞こえ来ると共にCH-47Jが、箒と交戦しながらも、上空で時計回りの旋回行動に入る様子が見える。

「ジャンカー1よりライフボート。敵は上流側の各家屋に配置、陣取っている。てき弾によるこれの掃射、無力化を願いたい」

 上空のCH-47Jを視線で追いながら、峨奈は敵警備隊の配置所在を告げる。

《ジャンカー1、それは民家家屋への攻撃になるぞ?民間人の存在の有無は確認できているのか?》

 しかし、家屋に対する攻撃要請に懸念を抱いたのであろう、小千谷の声で尋ねる言葉が寄越される。

「ライフボートへ。警備隊は住民の安全に気を使っている様子だ、おそらく民間人は退避済みと思われる。どちらにせよ、陣取った警備隊の無力化には、家屋への火力投射が必須となる。念のため、建物の表面側に限定しての、火力投射を願いたい」

 対して峨奈は、説明と再度の要請の言葉を返す。

《――了解。これより火力投射を実施する》

 それに対して、少し間を置いた後に、ヘリコプターの小千谷より了承の返事が返された。

「――頼むぞ、避難させていてくれよ」

 要請の通信を終えた後。峨奈は、警備隊が本当に民間人を避難させている事を願うように呟き、そして対岸の家屋群を睨んだ。



 上空を旋回するCH-47Jのコックピット。計器類の中に設けられたモニターの一つ。機体に搭載されたFLIRが捉えた赤外線画像を映すそれには、眼下で動き回る多数の警備兵達の影が、映し出されていた。
 いや、FLIRを通さずとも、眼下の激しい戦闘の様子は、風防五越しに肉眼でも確認することが出来た。

「結構な数だな」
「あぁ――所縁、要請は聞いたな?上流側建物の正面、表面側に限定して射撃を実施するんだ」

 その光景を目に収めながら、小千谷は貨物席の銃手に向けて指示を送った。



 一方、貨物室。その右側キャビンドアで、据え付けられた96式40mmてき弾銃に着く所縁一等空士は、装着したインカムより機長の小千谷の指示を聞いた。

「了解」

 聞こえ来た指示に、返答を返す所縁。

(不慣れな人間にまた注文を……!)

 しかし内心では、所縁は悪態を吐いていた。
 航空隊の空士である所縁にとって、今担当している96式40mmてき弾銃は扱いなれない装備火器であった。陸隊隊員より操作手順の説明は受けたが、それも付け焼刃の物であり十分とは言えない。
 そんな身の上の自分への突っ込んだ注文に、人出不足等の現状を呪う所縁。
 しかし文句を浮かべているばかりではいられず、所縁はグリップを掴んだ96式40mmてき弾を旋回させ、眼下の光景をその照準越しに覗く。
 そして該当の、橋を挟んで上流側の建物。その正面を照準し、押し鉄を押す。
 瞬間、40mmてき弾が銃身より数発、立て続けに撃ち出された。
 一般的な銃より遅い発射速度で撃ち出された40mmてき弾の群れは、弧を描き眼下の建物へ落ち、その側面へ着弾して炸裂した。
 旋回移動を続ける安定しないCH-47Jの機体上で、所縁はてき弾銃を懸命に操り、照準を移動させながら押し鉄を幾度も押す。
 撃ち出された40mmてき弾は次々に眼下家屋の各所へ落ち、炸裂。あちこちで無数の小爆発が上がる様子が、照準越しの所縁の眼に映る。

《所縁。北側、道の先から複数名。増援と思われる》
「了解、了解――」

 小千谷より届く指示指定の声。それに返しながら、所縁はてき弾銃を該当方向に向ける。
 その先、町路上に見えた数名分の人影。それが警備兵を纏い武装した人間である事を確認し、押し鉄を押す。
 撃ち出され、撃ち込まれたてき弾の炸裂を諸に受け、その警備隊の一帯が吹き飛び投げ散らかされる様子を見る。
 さらにそこから家屋群に照準を戻し、動きの見えた個所にてき弾を打ち込んでゆく。

《――よし所縁。射撃中止、一度中止しろ》

 数秒後に、小千谷より射撃指示の指示が届いた。
 それを聞き留め所縁は押し鉄より指を放し、てき弾からの射撃が中段。眼下で立て続けに上がっていた炸裂が、鳴りを潜める。

《待機しろ。第1分隊に効果確認取る》
「――了解」

 小千谷からの指示に、了解の声を返す所縁。
 そして彼は上がった息を抑えながら、各所が損壊した痛々しい光景となった眼下を、改めてその目に収めた――



 地上、橋の下流側。陣取った家屋二階の窓より、一体の様子を観察する峨奈。
 航空火力支援により、対岸の各所に上がった激しい炸裂は鳴りを潜めた。
 視線の先には損壊した家屋群。さらには各所に吹きとばされ死亡、あるいは負傷した警備兵達の姿が確認できる。そして警備隊側からの攻撃の手は、先と比べて目に見えてその勢いを減じていた。

《ジャンカー1。火力投射の効力はどうか?》

 その様子を目に収めていた峨奈の耳に、上空のCH-47Jからの小千谷の、確認を求める声が聞こえ来る。

「――ジャンカー1よりライフボート。敵警備隊からの攻撃は大きく減退。火力投射効果は十分と認む」
《了解。――ッ、こちらも送り狼から攻撃を受けている。離脱しても問題ないか?》

 CH-47Jの小千谷からは、了解の声と共に、そんな言葉が寄越される。
 見れば、CH-47Jは取り巻く二機の箒に対して砲火を上げている。しかし一方の箒に跨る警備兵側も、それの合間を狙ってクロスボウや鉱石魔法をCH-47Jに向けて放つ様子が見えた。

「問題ありません、あとは自力で突破します。退避してください」
《了解。健闘を祈る》

 そう小千谷からの声が返ると、CH-47Jは旋回行動を解き、一帯上空を飛び去り離脱。
 そしてそれを、取りついていた二機の箒が追いかけて行った。

「――よし、ここを越えるぞ。香故、四耶、波原、策頼。先行して横断、対岸の家屋をクリアリングするんだ」
《1-2、波原。了》
《1-3、香故。了解》

 峨奈はそこから、地上に残る各員に通信で指示。それに代表して香故から返信が返る。
 それから程なくして、先に指名された四名が、警戒の隊伍を組んで飛び出す姿が地上に見えた。
 二名はそのまま直進。二名は橋を越えて、それぞれ上流側にある家屋建物の元へと飛び込み張り付く。そしてそれぞれは、入り口を破り突入する姿を見せた。
 彼等の突入から数秒後。家屋より数発分の発砲音が木霊し、峨奈の耳に届く。

「………」

 対岸の家屋を固唾を飲んで見守る峨奈。やがて銃声は鳴り止み、一体に静寂が訪れる。

《――1-2、波原。家屋制圧完了、被害無し》
《1-3、香故。同じ》

 少しの間を置いた後に、インカムに突入した各方からの報告が上がり寄越された。

「了解。各ユニット、そちらに民間人の被害者が出た様子はあるか?」

 それぞれの報告に峨奈は返答し、次いで懸念事項である民間人の被害について、報告を要請する。

《いえ。家屋内に民間人らしき姿は確認できません》
《1-3。こっちもそれらしき物は見えない》

 対して、波原からは透る声で。香故からは冷たい声で、それぞれ報告が上がり聞こえ来る。

「了解――」

 各ユニットからの報告を聞き、峨奈はそれに返答。そしてそれまで作っていた険しい表情を解き、安堵の混じった溜息を吐いた。

「1-2及び1-3。ヘッド及び1-1もそちらへ横断する、その間援護頼む。――よし、行くぞ」

 先行させた各ユニットへ援護を要請し、そして峨奈は一室内の各員に、行動再開の指示を張り上げた。
 角部屋を引き払い階段を下り、一階へ降りてダイニングに値するであろう一室へと出る。
 そこには一階での固守を命じた新好地と、誰かの手で家屋内に引きずり込まれたのであろう、ダウン中の易之の姿があった。

「新好地、行くぞ」
「了」
「易之。どうだ、動けるか?」

 峨奈はまず新好地に行程再開の旨を告げ、そして続け康之に向けて問いかける。

「動けます……行けます……!」

 問いかけに、未だしんどそうな表情を浮かべながらもそう返す易之。
 容態には少し不安が見られたが、自力で動けるのであれば、それに越したことは無い。

「よし、外に出て準備しろ」

 峨奈は各員に外に出るよう告げる。応じて駆け出てゆく各員を横目に見、そして峨奈は室内空間の一角へ視線を移す。
 部屋の隅に、身を寄せ合いこちらを睨み、あるいは怯えた目で見る、この家屋の家主始め一家の姿があった。

「あんた等は一体……警備隊に何を……!」

 戦闘の様子は、彼等一家にも一部見えてたのだろう。家主は険しい表情で、峨奈に詰問の言葉をぶつけて来る。

「大変ご迷惑をおかけしました。私達は、これで撤収させていただきます」

 しかし峨奈はそれに答える事は無く。冷たいまでの事務的な口調で、それだけを言い伝える。そして身を翻し、先に行った隊員等の後を追い、家屋を出た。
 外部。家屋の壁際では、残る5名の隊員等が壁に取りつき隠れ、準備を整えていた。

「1-2、1-3へ。これより渡る。――行くぞ」

 それに合流した峨奈は、先で援護態勢に着いた各ユニットに一報。
 そして各員に向けて発する。それを合図に、峨奈等は家屋の影を飛び出し駆け出した。
 各員は各方へ銃口を向け、互いを援護しながら道を横断する。
 幸いにしてその間攻撃の類は一切なく、峨奈含む6名は道を渡り切る。そしてその先で待っていた、先行した4名と合流した。

「各員、問題無いか?」
「無し」
「同じ」

 合流し、各員に支障ない旨を問う峨奈。それに各員からは、問題無しの返答が返される。

「よし、進行再開する。急ぐぞ。ここに時間をかけ過ぎた」

 そして第1分隊は編成を整え直し、目的地である上流の橋を目指して、進行を再開した。



 町の中心部より、少し東に行った所にある、あまり広くはない町路。

「どうなってやがる……」

 その町路上に、顰めた険しい表情で、上空を見上げる一人の男性の姿があった。
 男性は、町の西側城壁近くのある宿の店主であった。
 彼は少し前に、雇っている従業員と交代して仕事を上がり、町のほぼ反対側にある実家への帰路に就いた所であった。
 しかしその途中の彼の身に届き、そして見えたのは、警備隊からの町へ侵入者があった事を告げる広報音声。そして町上空を飛び交う、いくつもの警備隊箒隊の姿。
 いや、それ等に関してはまだ理解ができる。
 驚くべきは、箒隊に混じり――否、箒隊を蹴散らし翻弄するように上空を飛ぶ、巨大で異質な飛行物体の存在であった。
 突如として現れ、上空を物々しい様子で飛び回る正体不明の飛行物体は、店主の眼を上空に釘付けにするには十分過ぎた。
 さらに、町の各所からは異質な破裂音が絶え間なく響き上がり、挙句には盛大な爆裂音まで聞こえて来る始末だ。
 住み慣れたはずの町で起る異様な事態に、店主はただただ困惑していた。

「一体何が……――ッ!」

 言葉を零し掛けた店主であったが、直後に彼の耳は、異質な音の接近を捉える。そして音を頼りに道の先へ視線を向け、その上空に〝それ〟の姿を捉えた。
 見上げた道の先の上空に現れたのは、何か翼のような物を回転させる、件の巨大な飛行物体だ。
 規則的な音を立てながら、見る見るうちにそのシルエットを大きくし、接近する姿を見せる。その後方には、飛行物体を追っているのであろう、2機の警備隊の箒の姿も見える。
 魔法を打ち合い戦っているのか、警備隊の箒からは鉱石針が。飛行物体の後方からは、何か光の線のような物が放たれている様子が、微かに見えた。
 店主がその光景を頭で処理している僅かな間に、かなりの速度がでているのであろうその飛行物体は、店主の真上に到達。
 轟音を立てて風圧を巻き起こしながら、店主の直上を飛び抜けて行った。

「ッぅ……!」

 襲った轟音と風圧に、思わず顔を手で覆う店主。しかし彼の眼は、次には別の事態を捉えた。
 飛行物体より放たれた光の線が、追撃していた箒警備兵の片方に命中。瞬間、警備兵はまるで弾かれるように身を打ち反らし、そして箒のその軌道が明後日の方向へと変わった。
 制御を失ったのであろう箒は、主である警備兵を乗せたまま飛び、こちらへ飛来。そして店主の真横に建つ家屋の窓際へと、突っ込み激突した。
 箒警備兵の激突は、店主にとっても危機的な事態を招いた。
 家屋の窓際は、いくつかの鉢植えが並び彩られていた。それが箒警備兵の激突に寄り軒並み浚えられ、落下。真下に位置していた店主を襲ったのだ。

「ッ――!」

 突然の危機。店主はその眼で襲い来る鉢植えを捉えるも、反して体は咄嗟には動いてくれない。店主は鉢植えが身を襲う事を覚悟し、両腕を翳し、目を瞑る――

「――店主ッ!」

 だが直前、店主を呼ぶ声が響く。
 そして同時に店主の身を、予期せぬ方向からの鈍い衝撃が襲った。

「!?――ヅッ!?」

 気付けば、店主は地面に突き飛ばされ倒れていた。
 一瞬置いて、先程まで彼が立っていた場所に鉢植えが複数落下。ガシャリガシャリと割れ破損する音が上がり聞こえた。
 自信の身を危ぶませたかもしれないその音を聞きながらも、しかし店主の今の意識は、自身の真上――自身に覆いかぶさった一人の人物に向いていた。
 緑を基調として斑模様を描く服装、同様の模様の兜。その腕や身には、用途不明の装備装具らしき物を持ち、あるいは身に着け、全身から異質さを醸し出している。
 しかし店主は、その異質な人物の顔に見覚えがあった。

「大丈夫ですか!?」

 美少年とも言える整ったその顔を、剣幕に染めて聞き尋ねて来る人物は、昨晩宿に道を尋ねに現れた、妙な客人に他ならなかった。

「あ、あぁ……」
「よかった……」

 店主の戸惑い混じりの返答に、対する異質な姿の彼は、剣幕を安堵のそれに変える。
 しかし店主は、次には自身に覆いかぶさる彼の体を、後ずさり抜け出した。

「店主?」
「……お前さん……警備隊の言ってる侵入者の一味だな?」

 怪訝な顔を浮かべた異質な姿の彼に向けて、店主は立ち上がり距離を少し取ると、そう言葉を発した。

「ッ!」

 それを聞き、そして店主が自身に警戒――否、敵意を向けている事を理解し、異質な人物は再びその顔を険しくする。

「お前さんは、昨日から町の下調べに入ってたってトコか……」
「店主……警戒されるのも当然です。ですが我々の行動には事情が――」

 警戒の姿勢を見せる店主に対して、異質な姿の彼は事情を説明する言葉を発しかける。

「分かってるッ!」

 しかしそれは、張り上げた店主の声に阻まれた。

「――分かってんだ。国、いや町が――警備隊の坊主や小娘が、何か良くない企みの元で、動いてるって事はよ……」

 険しい表情で異質な彼を睨んだまま、店主は言葉を紡ぐ。

「だがこの町には、ここしか身を置く場所が無いヤツが大勢いるんだ。――俺や、警備隊のヤツ等を含めてな……」

 続けそう語る店主。その顔には、微かに悲しそうな顔が浮かんでいた。

「タカハバニソウ」

 少しの間沈黙が支配したその場へ、何者かを呼ぶ声が割り込む。
 見れば、異質な姿の彼の背後に、同様の姿格好をした別の人物が駆け寄って来ていた。
 格好は美少年顔の彼と同様ながらも、その姿は高身長で、顔は頬は痩せこけて鋭い眼をしていて、その雰囲気はまるで異なる。

「フチクボサンソウ……」
「急いでください」

 その新たな人物は、周辺に何か杖のような物を構えて警戒の視線を向けながら、美少年顔の彼に端的に何かを告げる。
 見ればその背後向こうには、さらに三名程の同じく斑模様の衣服に身を包んだ者達の姿があった。平凡な顔立ちの者が何か声を張り上げている。そして陰険そうな顔の者と、オークかトロルの亜種かと疑う巨体の者が、杖らしき物や鉄の棒を構えて路地裏を向いている。
 瞬間、それらの道具から破裂音が上がった。
 詳細は分からないが、おそらく追撃の警備隊と相対しているのだろう事は、店主にも察せた。
 その光景を背後にしながら、美少年顔の彼は、店主へと再び視線を戻す。その眼には、少しの悲し気な色が見て取れた。

「……行け。今、救ってくれた義理だ」

 店主はそんな彼に向けて、発し、そして顎をしゃくった。

「――全身再開する!行くぞッ!」

 美少年顔の彼は、背後の者達に向けて振り向き、張り上げる。そしてもう一度だけ店主を見ると、その身を翻した。
 彼等五名は、路地に対して牽制と思しき行動を行いながら、隊伍を組み直す。
 そして道を反対側へ渡り、小道へと入って行き、その姿を消した。

「……」

 険しい顔のまま、それを見送った店主。
 彼等が姿を消してから少し遅れて、路地裏より警備隊の一隊が駆け出て来た。

「ッ!親父さん!?」

 その一隊を構成する中の、指揮官である警備兵長の男が、店主の姿を見つけて驚きの声を上げる。その警備長は、店主の顔見知りであった。

「大丈夫か!?今ここを、侵入者の一団が通ったろ!?」

 駆け寄って来て、店主の身を案じる警備兵長。

「あぁ……どころか、ヤツ等に助けられちまった。箒が家に突っ込んで、鉢が落っこちて来た所をな……」

 対する店主は説明の言葉を紡ぎながら、先に箒警備兵が突っ込んだ家屋や、道に落ちて割れた鉢植えを、順番に視線で示して見せる。

「すまん。その義理で、逃がしちまった……」

 そしてバツが悪そうに、先の彼等が消えて行った、小道を視線で指し示した。

「ッ……!ナウレ、エオン、墜ちた箒警備兵の救護回収に向かえ。残りは、侵入者を追うんだ!」

 警備兵長は配下の警備兵達に指示の声を張り上げる。
 それに応じ、二名の警備兵は墜落した箒警備兵の回収に向かい、残りの者は追撃を続行すべく、小道へ入り駆けて行った。

「親父さん、外は危険だ。どこかに避難を――」
「……なぁ、セウライよぉ」

 残った警備兵長は、店主に避難を促す言葉を発しかける。しかし店主の、警備兵長の名を呼ぶ言葉がそれを遮った。

「お前さん達は――いや、俺達はどこへ向かってるんだ?」
「ッ!」

 続き紡がれた店主の問いかける言葉。それを聞いた警備兵長は目を見開き、そして次には、表情を苦くそしてどこか悲しい物に変えた。

「警備隊が、いつもこの町を守るために動いてくれてる事は知ってる。だが……今回は、道理に外れた、よくねぇ噂が聞こえて来てる」

 そんな警備兵長に、店主は言葉を続ける。

「なぁ。町を守るためとは言え、今進んでる道は、正しいと胸を張って言える道なのか?」

 真剣な顔で、再び問いかけの言葉をぶつける店主。

「……俺にも、わかんねぇよ……」

 しかし警備兵長は、それに対する答えを紡ぐ事はできなかった。
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