公認ゾンビになりました

川端睦月

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公認ゾンビになりました──そして、ゾ対にも -2-

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「追い込まれた人は思いがけない行動を取るものです。──我々ゾ対の任務は、そんな危険から佑さんを守り、安心して生活して頂けるようサポートをすることです」

 つまりは僕は何をする必要もなく、黙って守られていればいいらしいということらしい。

 できれば他人と関わることなく、ひっそりと。

 でも、それってどうなんだろう、と僕は視線を膝の上へと落とした。

 守るだけ守ってもらって、自分は何もしないのであれば、病弱だった頃と何も変わらないではないか。

「……ここからは単なる提案になるのですが」

 平板な薮木の声に僕は視線を視線を戻す。薮木の薄茶の瞳と目が合った。

「もし、よろしければ、佑さんの力を私共に貸して頂きたいのです」
「……貸す? 僕が?」

 何の取り柄もない、死ぬ前まで病弱だった僕がゾ対に協力したところで、なんの足しになるというのだろう?

 もしかしたら人体実験的な話なのだろうか。ゾンビは滅多に現れないと言うし、ゾンビになる原因も解明されていなければ生態も分からない。詳しく知りたくなるのも当然だ。

 恐ろしい考えに思い至り、血の気が一気に引いていく。まぁ、血液は一滴も流れていないのだけれど。

「佑さんはご自身の価値というものを正しく理解されていないのだと思います」

 僕の表情が強張ったのを見て、薮木が言う。

「僕の価値ですか?」

 ──一体僕に何の価値があると言うのだろう?

 僕に価値があるのだとすれば、やはり研究材料としての価値しか思い浮かばない。

「いいですか、佑さん。あなたは既に亡くなっています」

 言い含めるように薮木が言う。まあそれはそうですね、と僕は頷く。何を今更分かりきったことを、とも思う。

「つまりそれはこれ以上、あなたが死ぬことはないわけです」

 それも分かりきっている。一体何が言いたいのだろう、と僕は彼の次の言葉を待つ。しかし、薮木は口を噤み、何かを躊躇っている。

「つまりさ、簡単にいうと、死なないから、生死に関わるような危険な仕事を任せても大丈夫だよねって話」

 只野が横から涼しい顔をして告げた。

「そんなこと絶対に反対ですっ」

 それに即座に反応したのは母だった。僕を庇うように抱き寄せ、鋭い視線で只野を睨む。

「どうして? だって、佑くんは絶対に死なないんだよ?」

 只野が悪びれた様子もなく、不思議そうに問うた。

「死ぬか死なないかの問題じゃありませんっ。一体、佑を何だと思っているんですか?」

 母の声が険しさを増し、只野を糾弾する。

「何って、ゾンビ……」
「係長っ。少し黙っていて下さいっ」

 変わらず空気の読まない発言を繰り返す只野を、薮木が声を荒げ、制した。

「ちょっと何だい? 薮木くん……」

 不満げな只野をギロリとひと睨みし、

「申し訳ありません。只野は少しばかり人間味に欠けているところがありまして」

 薮木は深々と頭を下げた。それから、「ですが」と姿勢を正し、僕を見据える。

「只野の言い方は極端ではありますが、佑さんのお力が私共の助けになることは確かです。もちろん生死に関わるようなことをしろと言っているわけではありません。──佑さんとしても、ただ守られているよりは何かしらの役割を持ったほうが気兼ねなく過ごせると思うのですが」

 薮木の言葉は、本当にその通りだった。

 死してなおただ面倒をかけるだけの存在であることが自分では歯痒かった。だから、自分に何らかの役割を与えてもらえることは、この上ない幸福に感じた。

 けれど、と僕は僕の体を抱き寄せる母に目を向ける。

 それは同時に、母に心配をかけることになる。

 今まで散々心配をかけてきて、更に母の負担になることを強いることはできなかった。

「今回のご提案はお受け頂かなくても問題ありません。我々ゾ対が佑さんのサポートをさせて頂くことに変わりはありませんから──ただ、ご一考頂けますと幸いです」

 そう言って、薮木は立ち上がった。

「本日はもう遅いです。佑さんが自宅に帰ると騒ぎになるでしょうから、当面の間はこちらの空いている部屋でお過ごしください」

 僕と母は薮木に連れ添われ、3階の個室へと案内された。
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