華村花音の事件簿

川端睦月

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三本のアマリリス

華村花音の事件 -3-

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「どうして保護なんか? そんなの放っておけば、そのうち諦めるんじゃ……」

 咲の言葉に花音はユルユルと首を振った。途端に暗澹たる表情が顔を覆う。

「二階堂悟は怒らせると何をするかわからないから」

 眉を顰め、険しい口調で告げた。

「実際、彼の被害にあった人は多いんだ。命の危険すらある」

 あまりに冷たい花音の声音に、咲はビクリと身を竦めた。

「あ、ごめんね。怖がらせちゃった?」

 咲の様子に気づいて、花音がいつもどおりの穏やかな笑顔を作る。

 大丈夫です、と咲は首を振った。

「昨日の顔合わせはほとんど仕上げの段階でね。決定的な不正の証拠を抑えるためにセッティングしたものだったの──だから、咲ちゃんが出席するって聞いたときは少し焦っちゃった」

 花音は肩を竦めた。

「あ、……ごめんなさい」

 咲は頭を下げる。

「そんなこととは知らなくて。自分勝手に突っ走ってしまいました……」
「別に責めてるわけじゃないんだ」

 花音は困ったように笑う。

「そうだね、どちらかというと喜んでいるかな……」
「喜んでいる?」

 パチクリと目を見開く咲に、花音は続けた。

「だって、今までの咲ちゃんだったら、確実に逃げの一手だったでしょ? どんな事情があっても、二階堂と直接会おうなんて思わなかったはずだもの。それが行動に移せるようになったんだから──本当に強くなったなって、嬉しいんだ」

 花音はそう言って咲の頭をぽんぽんと撫でた。

「だが、下手に首は突っ込むな」

 花音に代わり、凛太郎が釘を刺す。ごめんなさい、と咲は再び頭を下げた。

「まぁ、たしかに、一歩間違うと危険だったよね」

 花音はうんうんと頷いた。

「でも、とりあえず証拠は揃ったし、田邊さんが、今日中には二階堂綾子の告発手続きはするって言っていたから。たぶん、もう二階堂悟のことは心配しなくていいかな」

 ニコリと笑った。

「母親の後ろ盾がなくなったら、二階堂も好き勝手はできないだろうからね」

 そうだな、と凛太郎も同意した。しかし、その表情は固い。

「他にもなにか?」

 咲は気になり、凛太郎に視線を向ける。いや、と凛太郎は首を捻った。

「実は昨夜から二階堂悟の消息が掴めていない……」

 眉間に皺を寄せ、告げた。

「咲と二階堂が別れたあと、すぐに身柄を確保しようとしたんだが、見失った」

 凛太郎の眉間の皺がさらに深まる。

「それって、あまりよろしくないのでは……もし、二階堂さんがなにかを企んでいたら……」

 よからぬ状況に胸の内が一気にざわついた。

「うーん、その点については、あんまり心配してないんだよね」

 しかし、花音はのんびりと応じた。

「二階堂は、代議士の母親の後ろ盾があってこそ、傍若無人に振る舞っていられたんだから。それが望めなくなった今、無茶はしないんじゃないかな。所詮、虎の威を借る狐にすぎないんだから──むしろそれより心配なのは……」

 そこで言葉を切って、花音はしばし考えを巡らす。

「──法月青……」

 ポツリと呟いた。

「法月、青?」

 なぜ今ここでその名前が出るのか、咲には不思議だった。

 たしかに彼は、文乃の挙式をメチャクチャにしようと企み、華村ビルへ火を放ちはしたが、それらは全て二階堂の指示によるもので、彼自身の考えではない。

 それなら、二階堂が姿を消した今、法月がなにか仕掛けてくる心配はないはすだ。

 ──花音さんは彼のなにが心配なのかしら?

 咲は花音を仰ぎ、視線で問うた。それに花音の瞳が憂いを帯び、暗く沈む。

「……法月は二階堂を恨んでいるんだ」
「恨んでいる?」

 花音の言葉に戸惑う。

 法月は二階堂を恨んでいるのに、その部下として働いていたということ?

「なにから話したらいいかな……」

 訝しむ咲を眺め、花音はどこか寂しげに微笑んだ。
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