華村花音の事件簿

川端睦月

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イースターエッグハント

フラワーアレンジメント教室にて -2-

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 丸テーブルに移動すると、すでに参加者の子供たちが席に着いていた。陸もその中に混じり、行儀良く座る。その陸の後ろに咲は立った。

「今日のお花は、イースターをテーマに生けます」

 花音は窓際を背に、子供たちへと声をかけた。

「イースター?」

 子供たちが口々に言葉を発するので、一気に辺りが賑やかになる。それを花音が口に人差し指を当て、シーっと静かにするよう促す。

 途端に子どもたちは静かになった。ずいぶんと子供の扱いに慣れている。

「まず、先生が作ったアレンジメントを見てくれるかな?」

 花音は手本のアレンジを丸テーブルの中央へと据えた。

 鳥の巣をモチーフにした蔦の花器にヒヤシンスとミモザの花を生け、カラフルな卵とうさぎのオブジェを飾ったアレンジだ。

 子供たちの視線は一斉にテーブルの中央に集まった。

「かわいいっ」
「いい匂い」
「これ、本物のたまご?」

 再び子供たちが言葉を発し始める。それをひと通り聞いてから、花音が口を開いた。

「イースターはね、キリストの復活と春の訪れを祝う祭りなの。だから、明るく元気よく生けてくれるといいな」と曰う。

 子供たちが大きく頷くのを見て、「咲ちゃん、お願い」と咲を促す。

 咲は子供たちの前に蔦の花器を置き、その中に水を染み込ませた吸収スポンジをセットした。その間、花音は新聞紙で包んだ花と今日の資料のプリントを配っていく。

「では、まず先生がお手本を見せるのでよく見ていて下さい」

 花音は子供たちに配ったのと同様の花器を目の前に置き、吸収スポンジにヒヤシンスを生けていく。ひと通り生け終わると、今度はスポンジが見える部分を隠すようにミモザの花を生けた。

 ものの五分もかからずに、手本と同じアレンジメントが出来上がった。

「ここまで出来たら、あとは卵やうさぎのオブジェを好きなように飾りつけてます」

 花音の言葉に、「どうして、卵とうさぎなの?」と女の子が問いかけた。

「いいところに気がついたね」

 花音はニコリと笑い、女の子を見返す。

「実はイースターでは、卵とうさぎは欠かせないシンボルなんだ」

「シンボル?」と女の子が首を傾げる。

「……ゆるキャラみたいな」
「ゆるキャラ!」

 子供たちにはその単語がわかりやすかったのか、楽しそうに声を上げた。

「イースターではね、うさぎは春の女神の遣いで、卵は復活を意味しているの」

 へぇ、と子供たちは一様に頷く。
 
「このカラフルにペイントした卵はイースターエッグって言うの」と卵のオブジェを一つ持ち上げる。

「イースターエッグはその色で意味合いが変わってくるんだ」
「じゃあ、オレンジ色は?」

 男の子が尋ねた。

「オレンジは強さを現しているんだ」
「それなら、黄色は?」

 別の女の子がキラキラと目を輝かせ言う。

「黄色は知恵。──色の意味は、沢山あるからね。詳しくはさっき配った資料を見てね」と花音は手元のプリントを顔の前へとかざした。

 子供たちは一斉にプリントを読み始める。

「あ、なんか、ゲームも書いてある」

 別の男の子が呟く。

「このエッグハントって、宝探しみたい」
「ああ、隠されたイースターエッグを集める遊びだね。たしかにそうかも」

 花音は同意して頷く。

「ほかにもイースターエッグを使った遊びをプリントに載せてあるので、お家に帰ったら是非挑戦してみてください」

 丸テーブルをグルリと見渡し、声をかけた。はーい、と子供たちが元気よく返事をする。

「それじゃあ、そろそろ、お花を生けます」

 花音が子供たちを促すと、子供たちは目の前の花器に向き合って、思い思いに花を生けていく。その間、花音は全体を見渡し、困っている子に声をかけてはアドバイスをして回る。

 全員が生け終わるには三十分ほど時間がかかった。一番年下の陸が最後に生け終わった。

 出来上がったアレンジを見ると、皆んな同じ手本を見て生けたはずなのに、それぞれに個性が出ていて、違うアレンジメントになっているのが面白い。

「あとはラッピングしてから持ち帰ってね」と花音が声をかける。それから、台車の荷物の山からラッピング材を取り出そうとした花音は「あ」と声を上げた。

「どうしたんですか?」

 咲は花音を振り返った。

「ラッピング材、車に置いてきたみたい」

 花音はバツが悪そうに肩を竦めた。

「ごめん、皆んな。ちょっと忘れ物したから、とりあえず、一旦解散するね」

 子供たちに声をかけた。

 それを合図に子供たちは散り散りに親の元へ戻っていく。その背中に、「欲しい子はあとで取りに来てね」と花音は呼びかけた。

 陸も自分の顔くらいの大きさのあるアレンジを持ち、川上の元へと走っていった。

「ごめん、咲ちゃん。車に取りに行ってくるから、後片付けお願いしていいかな?」

 わかりました、と咲は頷いた。
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