44 / 105
イースターエッグハント
フラワーアレンジメント教室にて -2-
しおりを挟む丸テーブルに移動すると、すでに参加者の子供たちが席に着いていた。陸もその中に混じり、行儀良く座る。その陸の後ろに咲は立った。
「今日のお花は、イースターをテーマに生けます」
花音は窓際を背に、子供たちへと声をかけた。
「イースター?」
子供たちが口々に言葉を発するので、一気に辺りが賑やかになる。それを花音が口に人差し指を当て、シーっと静かにするよう促す。
途端に子どもたちは静かになった。ずいぶんと子供の扱いに慣れている。
「まず、先生が作ったアレンジメントを見てくれるかな?」
花音は手本のアレンジを丸テーブルの中央へと据えた。
鳥の巣をモチーフにした蔦の花器にヒヤシンスとミモザの花を生け、カラフルな卵とうさぎのオブジェを飾ったアレンジだ。
子供たちの視線は一斉にテーブルの中央に集まった。
「かわいいっ」
「いい匂い」
「これ、本物のたまご?」
再び子供たちが言葉を発し始める。それをひと通り聞いてから、花音が口を開いた。
「イースターはね、キリストの復活と春の訪れを祝う祭りなの。だから、明るく元気よく生けてくれるといいな」と曰う。
子供たちが大きく頷くのを見て、「咲ちゃん、お願い」と咲を促す。
咲は子供たちの前に蔦の花器を置き、その中に水を染み込ませた吸収スポンジをセットした。その間、花音は新聞紙で包んだ花と今日の資料のプリントを配っていく。
「では、まず先生がお手本を見せるのでよく見ていて下さい」
花音は子供たちに配ったのと同様の花器を目の前に置き、吸収スポンジにヒヤシンスを生けていく。ひと通り生け終わると、今度はスポンジが見える部分を隠すようにミモザの花を生けた。
ものの五分もかからずに、手本と同じアレンジメントが出来上がった。
「ここまで出来たら、あとは卵やうさぎのオブジェを好きなように飾りつけてます」
花音の言葉に、「どうして、卵とうさぎなの?」と女の子が問いかけた。
「いいところに気がついたね」
花音はニコリと笑い、女の子を見返す。
「実はイースターでは、卵とうさぎは欠かせないシンボルなんだ」
「シンボル?」と女の子が首を傾げる。
「……ゆるキャラみたいな」
「ゆるキャラ!」
子供たちにはその単語がわかりやすかったのか、楽しそうに声を上げた。
「イースターではね、うさぎは春の女神の遣いで、卵は復活を意味しているの」
へぇ、と子供たちは一様に頷く。
「このカラフルにペイントした卵はイースターエッグって言うの」と卵のオブジェを一つ持ち上げる。
「イースターエッグはその色で意味合いが変わってくるんだ」
「じゃあ、オレンジ色は?」
男の子が尋ねた。
「オレンジは強さを現しているんだ」
「それなら、黄色は?」
別の女の子がキラキラと目を輝かせ言う。
「黄色は知恵。──色の意味は、沢山あるからね。詳しくはさっき配った資料を見てね」と花音は手元のプリントを顔の前へとかざした。
子供たちは一斉にプリントを読み始める。
「あ、なんか、ゲームも書いてある」
別の男の子が呟く。
「このエッグハントって、宝探しみたい」
「ああ、隠されたイースターエッグを集める遊びだね。たしかにそうかも」
花音は同意して頷く。
「ほかにもイースターエッグを使った遊びをプリントに載せてあるので、お家に帰ったら是非挑戦してみてください」
丸テーブルをグルリと見渡し、声をかけた。はーい、と子供たちが元気よく返事をする。
「それじゃあ、そろそろ、お花を生けます」
花音が子供たちを促すと、子供たちは目の前の花器に向き合って、思い思いに花を生けていく。その間、花音は全体を見渡し、困っている子に声をかけてはアドバイスをして回る。
全員が生け終わるには三十分ほど時間がかかった。一番年下の陸が最後に生け終わった。
出来上がったアレンジを見ると、皆んな同じ手本を見て生けたはずなのに、それぞれに個性が出ていて、違うアレンジメントになっているのが面白い。
「あとはラッピングしてから持ち帰ってね」と花音が声をかける。それから、台車の荷物の山からラッピング材を取り出そうとした花音は「あ」と声を上げた。
「どうしたんですか?」
咲は花音を振り返った。
「ラッピング材、車に置いてきたみたい」
花音はバツが悪そうに肩を竦めた。
「ごめん、皆んな。ちょっと忘れ物したから、とりあえず、一旦解散するね」
子供たちに声をかけた。
それを合図に子供たちは散り散りに親の元へ戻っていく。その背中に、「欲しい子はあとで取りに来てね」と花音は呼びかけた。
陸も自分の顔くらいの大きさのあるアレンジを持ち、川上の元へと走っていった。
「ごめん、咲ちゃん。車に取りに行ってくるから、後片付けお願いしていいかな?」
わかりました、と咲は頷いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
TAKAMURA 小野篁伝
大隅 スミヲ
キャラ文芸
《あらすじ》
時は平安時代初期。小野篁という若者がいた。身長は六尺二寸(約188センチ)と偉丈夫であり、武芸に優れていた。十五歳から二十歳までの間は、父に従い陸奥国で過ごした。当時の陸奥は蝦夷との最前線であり、絶えず武力衝突が起きていた地である。そんな環境の中で篁は武芸の腕を磨いていった。二十歳となった時、篁は平安京へと戻った。文章生となり勉学に励み、二年で弾正台の下級役人である少忠に就いた。
篁は武芸や教養が優れているだけではなかった。人には見えぬモノ、あやかしの存在を視ることができたのだ。
ある晩、女に救いを求められる。羅生門に住み着いた鬼を追い払ってほしいというのだ。篁はその願いを引き受け、その鬼を退治する。
鬼退治を依頼してきた女――花――は礼をしたいと、ある場所へ篁を案内する。六道辻にある寺院。その境内にある井戸の中へと篁を導き、冥府へと案内する。花の主は冥府の王である閻魔大王だった。花は閻魔の眷属だった。閻魔は篁に礼をしたいといい、酒をご馳走する。
その後も、篁はあやかしや物怪騒動に巻き込まれていき、契りを結んだ羅城門の鬼――ラジョウ――と共に平安京にはびこる魑魅魍魎たちを退治する。
陰陽師との共闘、公家の娘との恋、鬼切の太刀を振るい強敵たちと戦っていく。百鬼夜行に生霊、狗神といった、あやかし、物怪たちも登場し、平安京で暴れまわる。
そして、小野家と因縁のある《両面宿儺》の封印が解かれる。
篁と弟の千株は攫われた妹を救うために、両面宿儺討伐へと向かい、死闘を繰り広げる。
鈴鹿山に住み着く《大嶽丸》、そして謎の美女《鈴鹿御前》が登場し、篁はピンチに陥る。ラジョウと力を合わせ大嶽丸たちを退治した篁は冥府へと導かれる。
冥府では異変が起きていた。冥府に現れた謎の陰陽師によって、冥府各地で反乱が発生したのだ。その反乱を鎮圧するべく、閻魔大王は篁にある依頼をする。
死闘の末、反乱軍を鎮圧した篁たち。冥府の平和は篁たちの活躍によって保たれたのだった。
史実をベースとした平安ダークファンタジー小説、ここにあり。
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
【完結】星の海、月の船
BIRD
キャラ文芸
核戦争で人が住めなくなった地球。
人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。
宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。
遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。
何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。
それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。
宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。
帝国海軍の猫大佐
鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※
幸福画廊
宇苅つい
キャラ文芸
その画廊の絵を見ると、人は幸せになるのだと言う。
これまでに味わったことのないような幸福感を得るのだと言う。
その絵を手に入れる為に世の金持達はこぞって大金を積むのだと言う。
全財産を叩いても、惜しくないほどの幸福がその絵の中にはあるのだと言う。
【幸福画廊】
そこは不可思議な人生の一瞬が描かれるところ……。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
カルム
黒蝶
キャラ文芸
「…人間って難しい」
小さな頃からの経験により、人間嫌いになった翡翠色の左眼を持つ主人公・翡翠八尋(ヒスイ ヤヒロ)は、今日も人間ではない者たちと交流を深めている。
すっぱり解決…とはいかないものの、頼まれると断れない彼はついつい依頼を受けてしまう。
相棒(?)の普通の人間の目には視えない小鳥・瑠璃から助言をもらいながら、今日もまた光さす道を目指す。
死霊に妖、怪異…彼等に感謝の言葉をかけられる度、ある存在のことを強く思い出す八尋。
けれどそれは、決して誰かに話せるようなものではなく…。
これは、人間と関われない人と、彼と出会った人たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる