華村花音の事件簿

川端睦月

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三本のアマリリス

華村花音の事件 -1-

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「質問がある」

 凛太郎はリビングのローテーブルの向かいに座り、不機嫌そうに口を開いた。

「質問、ですか?」

 その鋭い視線に怯み、咲は伏し目がちに凛太郎を見つめた。

「お前、どうして二階堂悟との顔合わせに応じたんだ?」

 凛太郎の問い詰めるような物言いに、咲の胃はキリキリと痛む。

「どうしてって……」

 言いづらさに視線を彷徨わせたところへ、「ああ、それ」と花音も頷いた。

「僕も不思議に思っていたの」

 紅茶の入ったカップを凛太郎と咲の前に置きながら言う。

「咲ちゃん、あんなに政略結婚を嫌がっていたのに、どうして顔合わせに出席したんだろうって……もしかして本当に結婚するつもりだったの?」

 カップを配り終えた花音が、咲の座るソファへと腰を降ろしながら、心配そうに顔を覗き込む。

 えーと、と咲は横目で花音の顔色を窺った。

 勝手に花音さんの事情を探ろうとしてました、なんて言ったらどう思われるだろう。

「その、二階堂さんに聞きたいことがありまして……」

 後ろめたさに言い淀んだ。

「聞きたいこと?」

 花音は変わらず心配そうに咲を見つめる。咲は罪悪感からうなだれた。

 ──自分がやろうとしたことは、花音さんの信頼を裏切ることだ。

 その自覚はあったが、直接花音に聞くのは躊躇われ、気まずさから二階堂悟に聞くという姑息な手段を選んでしまった。

 その結果が『二階堂悟から薬を盛られた』なのだから、今回の件は自業自得としか言いようがない。

「咲ちゃん?」

 それでも咲を見つめる花音の瞳は温かく優しい。思わず甘えてしまいそうになる。

 咲はギュッと拳を握りしめた。

「──あの、ごめんなさい」

 そんな花音に謝辞を述べる。

「え? ごめんなさい?」

 突然の謝罪に、花音はキョトンとした。

「はい、あの、私……卑怯でした」

 咲は声を絞り出し、告げた。

「咲ちゃんが卑怯?」

 ますます意味がわからない、というように花音は眉根を寄せる。凛太郎も訝しげに咲を見た。

「あの、花音さんは二階堂さんのこととなると人が変わるので。それで二人の関係が気になったんです……本来なら花音さんに直接尋ねるべきだったんですが、気まずくて。卑怯にも、二階堂さんを探ってみようとした結果が、この有様です──本当に、ごめんなさい」

 一気に捲し立て、情けなさに身を縮めた。

「なんだ、そんなこと」

 花音はホッと胸を撫で下ろす。

「そんなの別に卑怯でもなんでもないだろ」

 凛太郎はボリボリと頭を掻き、呆れた口調で言う。

「あの、怒らないんですか?」

 予想外の反応に、咲はオズオズと顔を上げた。

「ぜーんぜんっ」

 花音はあっけらかんと笑う。

「むしろ光栄なくらいだよ」と嬉しそうに片目を瞑った。

「光栄?」

 ポカンとする咲に、だって、と花音がますます笑みを深める。

「咲ちゃんはそれだけ僕のこと知りたいって思ってくれたってことでしょ?」

 そう問われ、咲は自分の話の内容を改めて思い浮かべる。たしかに、そう思われても仕方のない言い方だった。

 咲はもの恥ずかしさに顔を赤らめ、

「あっ、いえ、けしてそういうことでは……」

 慌てて否定した。

「えっ? 違うの?」

 花音がしょんぼりと咲の顔を覗き込む。

「えーと、その……」

 咲はその距離感に戸惑い、ますます顔を赤らめた。

「もういい加減にしてやれ、武雄」

 黙って二人のやりとりを見ていた凛太郎が、咲の困惑を見兼ねて、助け舟を出す。

「咲も気にするな。そんなの卑怯のうちに入らない……武雄のやってることに比べたらな」

 ついでに意味深なことを言って、ニヤリと口を歪めた。

「なっ、ちょっ、凛太郎っ」

 花音はバツが悪そうに凛太郎を睨む。

「僕のは卑怯じゃなくて、戦略だから」
「へー、ほー、戦略ねぇ。なるほどねぇ」

 凛太郎は明らかに本気にしてない様子でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。花音は何か言いたげにムッと口を尖らせた。

 花音と凛太郎はしばし睨み合っていたが、「あ、でもね、咲ちゃん」と花音が思い出したように咲に視線を移した。

「今後はこういう無茶はやめてほしいな」

 眉を下げ、咲を嗜めた。まったくだ、と凛太郎も頷く。

「今回は、僕や凛太郎が傍で控えていたから大事にはいたらなかったけど。もし何か手違いがあったらって思うと、すごく怖い」

 いつにも増して真剣な表情で言う。

 本当に二人には心配をかけてしまったらしい。

「それは、本当にごめんなさい」

 咲は心から頭を下げる。それから、でも、と首を傾げた。

「花音さんと凛太郎さんがっていうのはどういうことですか?」

 それに二人は顔を見合わせ、凛太郎が、どうぞ、というように手のひらを花音に向けた。

 花音は小さくため息を吐くと、

「実は、そのことなんだけど……」

 申し訳なさそうに咲を見た。

「昨日の顔合わせ、あれ、二階堂親子への罠だったの」
「罠、ですか?」

 咲は眉根を寄せる。

「うん。で、僕たちは二階堂親子の見張り役」
「見張り役……」

 咲は唖然とする。

「まぁ、そうだよね。そういう反応になるよね……」

 花音は困り顔になる。

「だいたい政略結婚の話自体、嘘なんだから」
「嘘?」

 信じられない言葉に自分の耳を疑う。

「えっと、それはどういう……」

 次から次へと出てくる情報に処理が追いつかない。咲はうーんと頭を抱えた。

 そんな咲を花音がクスリと笑う。

「ごめんね。余計に混乱させたみたいだね」

 ポンポンと咲の頭を撫でた。

「それじゃあ、初めから説明させてもらうね」

 そう言って花音は姿勢を正した。
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