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第七話、暗転と亀裂
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「っ!」
明け方近い時間帯だった。突然家の中で異界への扉が開く気配がして、晴明は急に腰を上げた。
「どうした?」
「今、この家の中で異界へ繋がる扉が開いてすぐに閉じた」
将門からの問いかけに答えながら、晴明が朝陽の眠る部屋へと急ぐ。
「朝陽!」
ベッドの上で寝ていた筈の朝陽がいない。晴明がシーツの上に手をやると、そこはたった今まで誰かが寝ていたように温もりがあった。
「今までのは単なる目眩しか」
そろそろ仕掛けて来るとは踏んでいたが、まさか自分の他に異界への扉を開ける者がいるとは晴明は考えもしていなかった。
朝陽から聞いていた話では、毎回物理的な手段を用いていた為、今回もそうだろうと思っていたのだ。
「晴明、どうした?」
続々と顔を見せ始め、全員部屋に集まった。
「朝陽が異界に連れ去られた」
後を追うように、晴明もすぐに異界への入り口を開いた。
◇◇◇
「う……?」
スマホのアラームよりも早く目が覚めたと思ったが、寝室ではなく別の場所にいるのが分かって朝陽は飛び起きた。
——どこだ、ここ?
「おはよう、お兄さん。よく眠れた?」
声をかけてきたのは物部アマヤだった。
「どういう事だ?」
寝入った時はきちんと寝室のベッドの上で寝ていた。
それは間違いない。家には常時結界が張られている上に、家の中には己の番達も全員揃っていた。彼らにバレずに朝陽だけを連れ出すなど不可能に等しい。
「以前、お兄さんの霊体がここの空間と繋がるように時限式の扉を作っていたんだよね。驚いた?」
ケラケラと笑いながら軽く言われる。此処は晴明が開く空間と似ていた。同じ異界なのではないかと推測出来る。
「俺はお前に用なんてない」
朝陽の言い分を無視して物部が続ける。
「僕はあるよ。ちゃんと貴方にも伝えたでしょ?」
確かに言われた。だが、了承した覚えはない。
「俺がいつ了承したよ」
鼻で笑って朝陽が視線を逸らすと、物部は気にもせずに続けて口を開いた。
「物部アマタケとニギハヤヒは元々同一人物だった。祟り神と言われていた面がアマタケだよ。今のニギハヤヒは表の面。それを本来の姿に戻すのさ」
朝陽は微かに反応してみせる。
「本当は八岐大蛇も欲しかったんだけど、かつての霊力の十分の一にも満たない八岐大蛇だとお話にならないんだよね」
「そんな事して一体何になる。お前……一体何がしたいんだ?」
「全てを海に帰すのさ。小さな物差しでしか他人を判断しない、こんなつまらない世界なんていらなくない? 貴方なら分かってくれると思ったんだけど勘違いだったのかな」
「で、自分は何もせずに高みの見物かよ?」
「高みの見物なんてする訳ないじゃない。側で見ていてこそ楽しいからね。お兄さんの番たちが堕ちるとこ、見てみたいでしょ?」
それこそ正気の沙汰とは思えない。巻き込まれて死ぬのがオチだというに、何が楽しいのかさっぱりわからない。否、理解が出来ない。
「見たいわけないだろ。それにアイツらはそんな事にならない」
「お兄さんがいる限りはね。でも貴方が居なくなった世界じゃどうかな?」
ニギハヤヒが言っていた、己の死とはこの事なのかも知れない。
己を生贄とする事で皆んなの暴走を狙っている。それなら尚更無事で帰らなくてはならない。
物部は異質な程に破壊への執念が凄まじい。ここまで滅びに執着するのであれば自身が祟り神になれるのではないか。何がこの男をそうさせているのかも理解不能だった。
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