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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち43(ダニエラ視点)
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「ダニエラ、あなたが朝からそんな風に言って下さるなんて、とても幸せです」
ディーンが感極まった様に私の頬にキスしてきますが、残念ながらそろそろ起きなくてはいけません。
今日はお昼過ぎにブレガ侯爵が屋敷にやって来るのですから、ロニーが揃う最後の朝食は家族皆で頂く事にしようと昨日マチルディーダとロニーに約束しています。
今さっき双子達の授乳が終ったばかりで、その時マチルディーダはまだ起きていないと言っていましたから、まだ少し時間の余裕はあるでしょうが、私は身支度に時間が掛かるのです。
「幸せ? なら、私の髪を結ってくれる?」
夫に向かって何を言うですが、最近のディーンは私の髪の手入れや髪を結うのが好きなのです。
その切っ掛けは、くぅちゃんでした。
くぅちゃんは人の形を取れる様になってから、私の身の回りの事をメイナ達としてくれる様になりました。
蜘蛛の姿でも自分でリボンを結び上手に絵を描いていたくぅちゃんは、すぐに髪の結い方と化粧を覚えてしまい細かい編み込み等を用いた凝った髪型まで短期間で出来る様になりました。
私達が驚きつつも沢山くぅちゃんを褒めたせいでディーンは嫉妬したのか、いつの間にかディーンは髪の手入れや結い方を完璧に習得してしまったのです。
今では寝る前の私の髪の手入れはディーンの仕事です。
香油を使い、私の髪を丁寧に丁寧に梳いてくれるのですが、鏡越しに見るその時のディーンの顔は何と言うかとても幸せそうで、それはメイドの仕事で夫のする事では無い等言えません。
日頃は忙しいので髪を結う方は私がお願いした時だけにしてもらっていますが、本当は毎日自分が結いたいと思っている様なのが困ります。
「私で良いなら勿論喜んで」
「夫に髪を結わせるなんて、我儘な妻でごめんなさい」
機嫌良さげに請け負うディーンに、私はわざと我儘という言葉を口にします。
嬉しいでしょう? なんて間違っても言いません。
「我儘だなんて、とんでもない」
「我儘じゃないの? それならなぁに?」
「あの、私に……その……甘えて下さっていると思っていいでしょうか。あなたに甘えて頂けるならいつでも言って頂ければ……私の方が我儘ですね」
どうしてそこで自信を持って言い切らないのか分かりませんが、まあ嬉しそうなので良しとします。
これでベッドから出る理由も出来た事ですし、朝食にも間に合いそうです。
「私に甘えて欲しいって言うのが我儘なら、私いつだって甘えるわ、いいでしょう?」
「勿論です。……名残惜しいですが私は先に着替えに行きながらタオに指示してきますね」
「ありがとう」
着替えに行くと言いながら、ディーンは私を抱き寄せて頬と額そして唇とキスを繰り返しています。
どうも今日のディーンは少し情緒不安定な様です。
「ディーン」
「もう少しだけ」
どうしたというのでしょう。
やはり今日のディーンは少し気持ちが不安定になっている様です。
「……まだこうしていたいなら、こちらに朝食を届けてもらいましょうか」
ロニーは残念に思うかもしれません。
でもこんな状態のディーンに無理をさせたくはないので、一応提案してみます。
「いいえ、ロニーと朝食を一緒にする約束ですから」
「……優しいのね、ディーンありがとう」
そう言うだろうと思っていても、ディーンがロニーとの約束を守ろうとしてくれるのが嬉しくて私はディーンに抱き着きながら微笑みました。
ロニーをマチルディーダの婚約者候補と認める発言をした後、ディーンは父親としてロニーと関りを持とうとしてくれました。
剣の基礎を教え、乗馬を教え、魔法の基礎を教えました。
勿論ロニーに家庭教師は付けていましたし、勉強の他にそう言ったものの教育もしてきましたが、ディーンは今まであまりロニーの教育に関わろうとはしてこなかったのです。
ディーンはロニーに自分が子供の頃に使っていた剣と魔法使いの杖を渡し、同じ馬に二人で乗り本当の親子の様に時間を過ごしたのです。
それを見守るくぅちゃんが「最近の主の変化に蜘蛛は驚き過ぎて幻を見ている思いだ」なんて軽口を言っていましたが、それは多分くぅちゃん以外の人達も同じ思いだと思います。
「約束を守るだけです。優しさではありあません」
もぞもぞとベッドから出ながら、ディーンは言い訳の様に言い捨てているのが可笑しくて、私は「そうなの?」と聞きながらつい笑ってしまいます。
どうもロニーに優しくしている自覚がありつつ、素直に認めたくない様なのです。
「ええ、優しいのはあなたですから」
未練がましく私の頬にキスをしてから、ディーンはソファーに置いてあったガウンを羽織ると煩そうに前髪を払いました。
「ブレガ侯爵を出迎える時はマチルディーダと揃いのドレスを着るのでしたね」
サイドテーブルに置いていた髪紐で無造作に髪を後ろで一つに結いながら、ディーンは思い出した様に今日の予定を話し始めました。
結婚した時よりもディーンの髪はかなり長くなっていて、前髪までまとめて結える程になりました。
「お揃いの髪飾りも用意したのですが、使って貰えますか?」
「お揃いなんて嬉しいわ。ありがとうディーン、用意してくれていたなんて知らなかったから嬉しいわ」
ディーンが用意したという事は、ネルツ家お抱えの金細工職人の工房に作らせたのではなく自分で作ったものかもしれません。
何せディーンは器用なのです、私達の婚姻の儀式の贈り物として私が貰った髪飾りは、本物の皇帝の薔薇をそのまま小さくして髪飾りにしたような金細工でしたが、それを作ったのがディーンとくぅちゃんなのです。
二人の手に掛かれば、王宮の宝物庫にあってもおかしくない様な物がいくらでも作れてしまうのです。
「気に入ってくれたら嬉しいですが、マチルディーダには少し大人っぽいものになってしまったかもしれません」
「あら、その方が長く使えるから良いと思うわ」
「そうですか?」
「ええ、だって気に入ったものは長く使いたいでしょう」
ディーンがくれた薔薇の髪飾りは、婚姻の儀式の後も何度も夜会で着けています。
ドレスは何度も同じ物を夜会に着るわけにはいきませんが、宝飾品はその限りではありません。
しかもあの髪飾りは、貴重なヒヒイロカネを使っているので輝きが素晴らしいのです。
「意匠は蜘蛛と決めたので多分気に入って貰えるとは思いますが……心配です」
私とディーンより、くぅちゃんは美的感覚に優れているというのは夫婦の共通認識みたいです。
※※※※※※
皆様台風は大丈夫でしたか?
家は危うく床下浸水になりかけましたが、何とか無事でした。
ディーンが感極まった様に私の頬にキスしてきますが、残念ながらそろそろ起きなくてはいけません。
今日はお昼過ぎにブレガ侯爵が屋敷にやって来るのですから、ロニーが揃う最後の朝食は家族皆で頂く事にしようと昨日マチルディーダとロニーに約束しています。
今さっき双子達の授乳が終ったばかりで、その時マチルディーダはまだ起きていないと言っていましたから、まだ少し時間の余裕はあるでしょうが、私は身支度に時間が掛かるのです。
「幸せ? なら、私の髪を結ってくれる?」
夫に向かって何を言うですが、最近のディーンは私の髪の手入れや髪を結うのが好きなのです。
その切っ掛けは、くぅちゃんでした。
くぅちゃんは人の形を取れる様になってから、私の身の回りの事をメイナ達としてくれる様になりました。
蜘蛛の姿でも自分でリボンを結び上手に絵を描いていたくぅちゃんは、すぐに髪の結い方と化粧を覚えてしまい細かい編み込み等を用いた凝った髪型まで短期間で出来る様になりました。
私達が驚きつつも沢山くぅちゃんを褒めたせいでディーンは嫉妬したのか、いつの間にかディーンは髪の手入れや結い方を完璧に習得してしまったのです。
今では寝る前の私の髪の手入れはディーンの仕事です。
香油を使い、私の髪を丁寧に丁寧に梳いてくれるのですが、鏡越しに見るその時のディーンの顔は何と言うかとても幸せそうで、それはメイドの仕事で夫のする事では無い等言えません。
日頃は忙しいので髪を結う方は私がお願いした時だけにしてもらっていますが、本当は毎日自分が結いたいと思っている様なのが困ります。
「私で良いなら勿論喜んで」
「夫に髪を結わせるなんて、我儘な妻でごめんなさい」
機嫌良さげに請け負うディーンに、私はわざと我儘という言葉を口にします。
嬉しいでしょう? なんて間違っても言いません。
「我儘だなんて、とんでもない」
「我儘じゃないの? それならなぁに?」
「あの、私に……その……甘えて下さっていると思っていいでしょうか。あなたに甘えて頂けるならいつでも言って頂ければ……私の方が我儘ですね」
どうしてそこで自信を持って言い切らないのか分かりませんが、まあ嬉しそうなので良しとします。
これでベッドから出る理由も出来た事ですし、朝食にも間に合いそうです。
「私に甘えて欲しいって言うのが我儘なら、私いつだって甘えるわ、いいでしょう?」
「勿論です。……名残惜しいですが私は先に着替えに行きながらタオに指示してきますね」
「ありがとう」
着替えに行くと言いながら、ディーンは私を抱き寄せて頬と額そして唇とキスを繰り返しています。
どうも今日のディーンは少し情緒不安定な様です。
「ディーン」
「もう少しだけ」
どうしたというのでしょう。
やはり今日のディーンは少し気持ちが不安定になっている様です。
「……まだこうしていたいなら、こちらに朝食を届けてもらいましょうか」
ロニーは残念に思うかもしれません。
でもこんな状態のディーンに無理をさせたくはないので、一応提案してみます。
「いいえ、ロニーと朝食を一緒にする約束ですから」
「……優しいのね、ディーンありがとう」
そう言うだろうと思っていても、ディーンがロニーとの約束を守ろうとしてくれるのが嬉しくて私はディーンに抱き着きながら微笑みました。
ロニーをマチルディーダの婚約者候補と認める発言をした後、ディーンは父親としてロニーと関りを持とうとしてくれました。
剣の基礎を教え、乗馬を教え、魔法の基礎を教えました。
勿論ロニーに家庭教師は付けていましたし、勉強の他にそう言ったものの教育もしてきましたが、ディーンは今まであまりロニーの教育に関わろうとはしてこなかったのです。
ディーンはロニーに自分が子供の頃に使っていた剣と魔法使いの杖を渡し、同じ馬に二人で乗り本当の親子の様に時間を過ごしたのです。
それを見守るくぅちゃんが「最近の主の変化に蜘蛛は驚き過ぎて幻を見ている思いだ」なんて軽口を言っていましたが、それは多分くぅちゃん以外の人達も同じ思いだと思います。
「約束を守るだけです。優しさではありあません」
もぞもぞとベッドから出ながら、ディーンは言い訳の様に言い捨てているのが可笑しくて、私は「そうなの?」と聞きながらつい笑ってしまいます。
どうもロニーに優しくしている自覚がありつつ、素直に認めたくない様なのです。
「ええ、優しいのはあなたですから」
未練がましく私の頬にキスをしてから、ディーンはソファーに置いてあったガウンを羽織ると煩そうに前髪を払いました。
「ブレガ侯爵を出迎える時はマチルディーダと揃いのドレスを着るのでしたね」
サイドテーブルに置いていた髪紐で無造作に髪を後ろで一つに結いながら、ディーンは思い出した様に今日の予定を話し始めました。
結婚した時よりもディーンの髪はかなり長くなっていて、前髪までまとめて結える程になりました。
「お揃いの髪飾りも用意したのですが、使って貰えますか?」
「お揃いなんて嬉しいわ。ありがとうディーン、用意してくれていたなんて知らなかったから嬉しいわ」
ディーンが用意したという事は、ネルツ家お抱えの金細工職人の工房に作らせたのではなく自分で作ったものかもしれません。
何せディーンは器用なのです、私達の婚姻の儀式の贈り物として私が貰った髪飾りは、本物の皇帝の薔薇をそのまま小さくして髪飾りにしたような金細工でしたが、それを作ったのがディーンとくぅちゃんなのです。
二人の手に掛かれば、王宮の宝物庫にあってもおかしくない様な物がいくらでも作れてしまうのです。
「気に入ってくれたら嬉しいですが、マチルディーダには少し大人っぽいものになってしまったかもしれません」
「あら、その方が長く使えるから良いと思うわ」
「そうですか?」
「ええ、だって気に入ったものは長く使いたいでしょう」
ディーンがくれた薔薇の髪飾りは、婚姻の儀式の後も何度も夜会で着けています。
ドレスは何度も同じ物を夜会に着るわけにはいきませんが、宝飾品はその限りではありません。
しかもあの髪飾りは、貴重なヒヒイロカネを使っているので輝きが素晴らしいのです。
「意匠は蜘蛛と決めたので多分気に入って貰えるとは思いますが……心配です」
私とディーンより、くぅちゃんは美的感覚に優れているというのは夫婦の共通認識みたいです。
※※※※※※
皆様台風は大丈夫でしたか?
家は危うく床下浸水になりかけましたが、何とか無事でした。
応援ありがとうございます!
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