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番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち37(ダニエラ視点)

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「おかあさまぁ、ディーダね、あのねぇ」

 双子を出産して数日が過ぎたある日の午後、夫婦の寝室のベッドの上でマチルディーダは急に私に甘えた声を出しました。

「どうしたの?」

 出産用の部屋から夫婦の寝室に移動はしたものの、心配性のディーンにベッドから出る事を未だ許されていない私はベッドの住人となっているため、マチルディーダはお勉強の時間以外を私と共にベッドの中で過ごしています。
 ディーンがロニーに乗馬や剣の指導を始めたせいでマチルディーダの側に常にロニーがいないというのが理由の一つですが、もう一つの大きな理由として辺境伯がマチルディーダに向けた暴言の影響がある様です。
 自分に暴力を向ける人間も、否定する人間も見た事が無かったマチルディーダは、ディーンやお父様達がいくらそうでは無いと言っても「マチル」という名がついた自分は駄目なのだと思い込んでいる様子が見えます。
 幼児でもそういう判断は出来るのか、もう「マチルは駄目」とは言いませんが、だいぶ気持ちが不安定になっている様で、私かディーンかロニーがいないと落ち着かないのです。

「おかあさまぁ、だいすきぃ」
「ふふ、お母様もマチルディーダが大好きよ。私の可愛い子、あなたの事も、アデライザの事もルカ―リオもルチアナの事も大好きよ。皆私の可愛い子供よ。勿論ロニーもね」
「あのねえ、ディーダもヨニーすきぃ。アディもリュカもルゥもすきぃ」

 言いながら、マチルディーダは枕を背もたれにして座っている私のお腹にぎゅうっとしがみ付いてきました。
 幼児の短い両腕を私のお腹にぎゅうぎゅうとしがみ付かせながら、マチルディーダは顔を私のお腹に埋めます。

「まあ、ではお母様と同じね、マチルディーダ」
「おなじぃ? うん、おそろぃなのぉ!」

 私の言葉に一瞬顔を上げ、その後嬉しそうな声を上げてまた顔を私のお腹に埋めてしまうマチルディーダの柔らかい髪を撫でながら、私達を見守っているくぅちゃんとメイナに視線を向けると二人共困った様な顔で小さく頷いています。
 本当であればそろそろマチルディーダは自室に戻ってお昼寝をしなければいけない時間ですが、普段こんなに甘えない子が私に縋りつくようにしているのですから、これは全力で甘やかさなければなりません。

「マチルディーダ」
「なあにぃ?」
「お母様眠くなってきてしまったみたい」

 試しにそう言ってみると、マチルディーダは分かりやすくショックを受けた顔を見せました。
 やはりこれは遠ざけてはいけないと判断して、そっと小さな頭を撫でていると、マチルディーダは泣きそうな顔で「ディーダおへやにもどりゅ」と言い始めました。

「お母様ね、一人で眠るの寂しいからマチルディーダも一緒にお昼寝してくれないかしら」
「ディーダがいたらさみしくなぃの」
「ええ、お願いしてもいいかしら」
「うん、ディーダね、おあかさまぁがさみしくないよおに、いっしょにねてあげるぅ!! こもりうただってうたってあげるぅ」

 ぱああっと明るい笑顔に変わったマチルディーダは、私から両手を離してメイナの方に振り返ると「ディーダおきがえしゅるっ」と声を上げました。

「お着替えをお持ちしますので、少々お待ち頂けますか」
「ディーダ、着替えの前に手洗いに行こう」
「おてあらいぃ?」
「そうだ。おねしょしたら困るだろう」
「ディーダ、おねしょしないもん。おねぇさまなんだもん」

 マチルディーダの着替えを取りに部屋を出て行ったメイナと、マチルディーダをトイレに連れて行こうとするくぅちゃん、二人の行動をマチルディーダは違和感なく受け入れている様です。
 メイナは兎も角、ネルツ家のメイド服を着た様に見えるくぅちゃんを幼児のマチルディーダが慣れているのは驚きです。これは子供ならではの柔軟性なのでしょうか、それともくぅちゃんはどんな姿でもくぅちゃんだという事でしょうか。
 ちなみに、くぅちゃんが来ているメイド服は蜘蛛の姿から人の形に変化した時に一緒に変化して現れるもので脱ぐことは出来ないそうです。同じく靴も靴下も脱げないそうです。
 ディーンの使役獣であるくぅちゃんは使役獣は使用人の様なものだから、人の形ならメイドの様なものと認識がある様で意識無くメイド服を着ている様に変化してしまう様です。
 今後メイド服では問題がある場合に対応出来る様に、他の服装にも変化出来る様にすると張り切っています。

「ああ、ディーダは立派なお姉様だ。だからお手洗いにも行けるだろう?」

 だからはどこから繋がるのか分かりませんが、くぅちゃんは上手くマチルディーダを誘導してトイレに連れて行ってしまいました。

「ふうぅ」

 怠い体をベッドに横たえると、大きく息を吐きました。
 ディーンが心配していた魔力不足が関係しているのか、双子達にお乳をあげる度に私の疲労は酷くなっていくようです。
 どうも双子達はお乳と一緒に私の魔力を吸っている様で、お乳をあげるだけだというのに体が辛いのです。
 癒しの苺や雪の魔鹿や金の桃をいくら食べても足りない程ですが、乳児の栄養は母乳でしか満たせないのですから頑張るしかありません。
 乳母も同じ様に魔力不足になりかけているのが大問題で、早まった出産で慌てて来てもらった乳母二人と私の三人でやっと賄えている様な状態なのです。

「二人だから大変なのか、あの子達が必要としている魔力が多いのか分からないけれど、大変だわ」

 マチルディーダもアデライザも、乳母はそれぞれ二人ずつ付いていました。
 双子だから本当は後二人必要なのですが、信用出来て今すぐ乳母の役目を果たせる人間を急には見つけられませんから乳母が二人確保出来ただけでもありがたい話です。
 何せ、当初予定してた乳母候補はこれから出産するのです。
 こちらの方が後から生まれて来る筈だったのですから、乳母候補は何も悪くありません。

「三か月も早いのだから仕方ないわ」

 早すぎる出産でも、双子が元気なのは幸いです。
 元気なのはいいのですが、一般的な貴族女性より魔力量が多い私と平均的な魔力量しかない乳母二人だけで今後の双子の栄養を賄えるのかそれが不安で仕方ありません。

「早めにディーンに相談した方がいいわね」

 魔力が多い魔物肉を沢山食べて私も乳母も魔力を回復させなくてはいけません。
 お手洗いからマチルディーダが帰って来るのも待てず、疲労困憊な私はうとうととまどろみ始めるのでした。
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