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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち23(蜘蛛視点)
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「ディーンそろそろ行かないとお父様達を待たせてはいけないわ」
「はい。でも……こんなに顔色が悪いダニエラを置いていくのは心配です。なるべく早く戻ってきますから、今日は絶対にベッドから出ないで下さいね」
蜘蛛の子供ちぃがマチルディーダの使役獣になってから数日が過ぎたある日、主に呼ばれて屋敷に来てみれば、ベッドに横になりながらダニエラが困っていた。
「主、蜘蛛が来たぞ」
「ああ、蜘蛛来たか。今日はダニエラの側にいて欲しいんだ。頼めるか」
「それがいいが、主はどこへ行く」
今日の主はいつもより立派な姿をしている。
太目の大魔糸で織った張りのある生地で仕立てた紺色の服に、水竜の皮で作ったマントに同じ皮で作った編み上げ靴。そして腰には迷宮で見つけた魔剣、首からは魔力増幅の魔法陣を刻んだ水竜の魔石の首飾りという重装備だ。
これはすぐに帰って来られる装いでは無い様に見える。
「義父上に呼ばれて王家の森まで行ってくる」
「王家の森に行くだけで何故そんな姿になっているんだ」
あの森に主より強い魔物はいない。
あの森の魔物は、蜘蛛より弱いものばかりだ主なら眠っていても狩れるだろう。
蜘蛛の疑問は主に通じたのか、笑いながらばさりと前髪を払い口を開いた。
「あの森の奥に塔を建てただろう、あそこの魔法陣に魔力を注ぎに行くんだ」
「塔、ああ国の防御の魔法陣か」
この国は見えない防御壁がある。
その防御壁を維持する魔法陣を動かす為に、王家の血を受け継いでる女性は守りの力を王宮で大元の魔法陣に魔力を注がなければいけない。
その守りの魔力を受け継ぐ為に、王家は昔から近親婚に近い事を繰り返していた。
王妃がダニエラを害そうとしていたと気が付いていても、父上殿達が王妃の命を狩れなかったのは守りの魔力を注ぐ者を減らせなかったからだった。
「防御の魔法陣は王宮の中にあるのでは無かったの?」
「ダニエラには言っていなかったかな。周囲にある魔素を吸収して防御の魔法陣に守りの魔力を注げる魔法陣を発動しているんだよ。この魔法陣のお陰で王宮の魔法陣へ魔力を注ぐのは毎日で無くとも良くなったんだ」
「まあ、そうなの。知らなかったわ。王族の女性は子を産んで一年過ぎてからじゃないと王宮の魔法陣の間には入れないから、私はあの間に入ったことが無いの」
守りの魔力は本来女性の体を守るためのものだから、子を産んだばかりでは魔力を注げない。だからこその決まりだと父上殿がいっていたことがある。
そもそも、今王宮の魔法陣の間には誰も入っていない。
あの魔法陣は主が書き変えて、今は王妃の魔力だけが本人の意識関係なく注がれるものになっている。
王妃の体に魔力を送る魔法陣を刻み、そこから守りの魔力が流れていく。
それがダニエラの命を脅かし続けた王妃へのもう一つの罰だった。
罰の一つ目は、蜘蛛が王妃の体を乗っ取る事だが、この国の王はどちらの罰も知らないそうだ。
「あそこの魔法陣も、塔と同じく空気中の魔素から魔力を得る方法に変わっているのですよ」
「それもディーンが考えたのかしら」
「ええ、子が生まれたらダニエラも魔力を注ぐ必要があると聞いたものですから。あなたや義母上様の負担を減らしたくて」
にっこりとディーンが笑うけれど、ダニエラ達の負担を減らしたいよりも早く王妃を罰したい気持ちから作った魔法陣だ。
ダニエラを害する者はすべからく排除するべしというのは主の考えの主軸だが、それを行う為に必要な物をすぐに作ってしまうという主の才能は恐ろしいものがある。
「そうなのね。ディーンありがとう。あなたはいつだって私の事を考えて動いてくれるのね」
「私はダニエラを幸せにする為に生きているのですから、当然です」
主の怖いところは、これが誇張した言葉では無いところだ。
「ふふ、それは私だけじゃないでしょう? ディーンは子供達の事も幸せにしようとしてくれているし、私の両親の事もお兄様の事もあなたが幸せにしようとしている範囲に入っているって知っているわ。ありがとうディーン」
ダニエラの凄いところは、主のこの重すぎる気持ちを真正面から笑って受け入れてしまうところだ。
当たり前だと言わんばかりに受け入れて、否定しないというのは簡単に出来るものではないと蜘蛛は思う。
何せ、主の思いは重苦し過ぎるのだ。
『ああ、蜘蛛。ダニエラはやっぱり神の御使いなのかもしれない。私なんかの気持ちを受け止めてお礼まで言って下さるんだからダニエラはなんて優しいのだろう』
『主落ち着け、ダニエラが優しいのは昔からだ。それより何故魔法陣に魔力を注ぎに行く、そんな大げさな恰好をしていくほどの有事が起きたのか』
主は凄い人間だと蜘蛛は思うのに、相変わらず自分なんかと言うのが蜘蛛は少しだけ悲しい。
自己肯定感が低すぎる主のこの性格を作った主の母親をどれだけ憎んでも、足りないと思う。
『少し隣国の動きが怪しくてな。警戒の為に魔法陣を強化してくる』
『隣国、第一王子の妃の国か』
『いや、東の辺境伯と隣接している方の国だ。あそこは本当に厄介だから、やはりニール兄上に献上したほうが……』
『ニール様はあんな国いらないと言っていただろう。それにニール様をあの国の王にしたら、東の辺境伯が父上殿とニール様に何か面倒事を持ってきかねないぞ。ただでさえマチルディーダと婚約を諦めていないのだろう?』
先日婚約の話を森で聞いた後、婚約の断りを入れたらしいが辺境伯側はまだ諦めていないらしい。
『そうだな、ニール様のご負担になるのは駄目だな。では国力を弱らせる様にするか……』
やれやれ、主はどうにもニール様が絡むと短絡的になる。
「ディーン?」
「ダニエラ、あなたを置いて出掛けたくない」
『ここから魔法陣を強化出来たらいいのに、なんだか胸騒ぎがするんだ』
「主、何かあれば蜘蛛がすぐに主を呼ぶと約束する」
主はダニエラの側から離れるのが不安で、何か良くないことが起きた時の為に蜘蛛を呼んだのだと分かった。
過保護な主に呆れるが、とはいえ蜘蛛も何だか主と同じ気持ちだ。
「ディーンならすぐに帰ってきてくれるから、私安心して待っているわね」
「絶対すぐに帰ってきますから。蜘蛛頼んだぞ」
不安そうな顔の主を見送って、その不安が本当に的中するとは蜘蛛は思ってもいなかったのだ。
「はい。でも……こんなに顔色が悪いダニエラを置いていくのは心配です。なるべく早く戻ってきますから、今日は絶対にベッドから出ないで下さいね」
蜘蛛の子供ちぃがマチルディーダの使役獣になってから数日が過ぎたある日、主に呼ばれて屋敷に来てみれば、ベッドに横になりながらダニエラが困っていた。
「主、蜘蛛が来たぞ」
「ああ、蜘蛛来たか。今日はダニエラの側にいて欲しいんだ。頼めるか」
「それがいいが、主はどこへ行く」
今日の主はいつもより立派な姿をしている。
太目の大魔糸で織った張りのある生地で仕立てた紺色の服に、水竜の皮で作ったマントに同じ皮で作った編み上げ靴。そして腰には迷宮で見つけた魔剣、首からは魔力増幅の魔法陣を刻んだ水竜の魔石の首飾りという重装備だ。
これはすぐに帰って来られる装いでは無い様に見える。
「義父上に呼ばれて王家の森まで行ってくる」
「王家の森に行くだけで何故そんな姿になっているんだ」
あの森に主より強い魔物はいない。
あの森の魔物は、蜘蛛より弱いものばかりだ主なら眠っていても狩れるだろう。
蜘蛛の疑問は主に通じたのか、笑いながらばさりと前髪を払い口を開いた。
「あの森の奥に塔を建てただろう、あそこの魔法陣に魔力を注ぎに行くんだ」
「塔、ああ国の防御の魔法陣か」
この国は見えない防御壁がある。
その防御壁を維持する魔法陣を動かす為に、王家の血を受け継いでる女性は守りの力を王宮で大元の魔法陣に魔力を注がなければいけない。
その守りの魔力を受け継ぐ為に、王家は昔から近親婚に近い事を繰り返していた。
王妃がダニエラを害そうとしていたと気が付いていても、父上殿達が王妃の命を狩れなかったのは守りの魔力を注ぐ者を減らせなかったからだった。
「防御の魔法陣は王宮の中にあるのでは無かったの?」
「ダニエラには言っていなかったかな。周囲にある魔素を吸収して防御の魔法陣に守りの魔力を注げる魔法陣を発動しているんだよ。この魔法陣のお陰で王宮の魔法陣へ魔力を注ぐのは毎日で無くとも良くなったんだ」
「まあ、そうなの。知らなかったわ。王族の女性は子を産んで一年過ぎてからじゃないと王宮の魔法陣の間には入れないから、私はあの間に入ったことが無いの」
守りの魔力は本来女性の体を守るためのものだから、子を産んだばかりでは魔力を注げない。だからこその決まりだと父上殿がいっていたことがある。
そもそも、今王宮の魔法陣の間には誰も入っていない。
あの魔法陣は主が書き変えて、今は王妃の魔力だけが本人の意識関係なく注がれるものになっている。
王妃の体に魔力を送る魔法陣を刻み、そこから守りの魔力が流れていく。
それがダニエラの命を脅かし続けた王妃へのもう一つの罰だった。
罰の一つ目は、蜘蛛が王妃の体を乗っ取る事だが、この国の王はどちらの罰も知らないそうだ。
「あそこの魔法陣も、塔と同じく空気中の魔素から魔力を得る方法に変わっているのですよ」
「それもディーンが考えたのかしら」
「ええ、子が生まれたらダニエラも魔力を注ぐ必要があると聞いたものですから。あなたや義母上様の負担を減らしたくて」
にっこりとディーンが笑うけれど、ダニエラ達の負担を減らしたいよりも早く王妃を罰したい気持ちから作った魔法陣だ。
ダニエラを害する者はすべからく排除するべしというのは主の考えの主軸だが、それを行う為に必要な物をすぐに作ってしまうという主の才能は恐ろしいものがある。
「そうなのね。ディーンありがとう。あなたはいつだって私の事を考えて動いてくれるのね」
「私はダニエラを幸せにする為に生きているのですから、当然です」
主の怖いところは、これが誇張した言葉では無いところだ。
「ふふ、それは私だけじゃないでしょう? ディーンは子供達の事も幸せにしようとしてくれているし、私の両親の事もお兄様の事もあなたが幸せにしようとしている範囲に入っているって知っているわ。ありがとうディーン」
ダニエラの凄いところは、主のこの重すぎる気持ちを真正面から笑って受け入れてしまうところだ。
当たり前だと言わんばかりに受け入れて、否定しないというのは簡単に出来るものではないと蜘蛛は思う。
何せ、主の思いは重苦し過ぎるのだ。
『ああ、蜘蛛。ダニエラはやっぱり神の御使いなのかもしれない。私なんかの気持ちを受け止めてお礼まで言って下さるんだからダニエラはなんて優しいのだろう』
『主落ち着け、ダニエラが優しいのは昔からだ。それより何故魔法陣に魔力を注ぎに行く、そんな大げさな恰好をしていくほどの有事が起きたのか』
主は凄い人間だと蜘蛛は思うのに、相変わらず自分なんかと言うのが蜘蛛は少しだけ悲しい。
自己肯定感が低すぎる主のこの性格を作った主の母親をどれだけ憎んでも、足りないと思う。
『少し隣国の動きが怪しくてな。警戒の為に魔法陣を強化してくる』
『隣国、第一王子の妃の国か』
『いや、東の辺境伯と隣接している方の国だ。あそこは本当に厄介だから、やはりニール兄上に献上したほうが……』
『ニール様はあんな国いらないと言っていただろう。それにニール様をあの国の王にしたら、東の辺境伯が父上殿とニール様に何か面倒事を持ってきかねないぞ。ただでさえマチルディーダと婚約を諦めていないのだろう?』
先日婚約の話を森で聞いた後、婚約の断りを入れたらしいが辺境伯側はまだ諦めていないらしい。
『そうだな、ニール様のご負担になるのは駄目だな。では国力を弱らせる様にするか……』
やれやれ、主はどうにもニール様が絡むと短絡的になる。
「ディーン?」
「ダニエラ、あなたを置いて出掛けたくない」
『ここから魔法陣を強化出来たらいいのに、なんだか胸騒ぎがするんだ』
「主、何かあれば蜘蛛がすぐに主を呼ぶと約束する」
主はダニエラの側から離れるのが不安で、何か良くないことが起きた時の為に蜘蛛を呼んだのだと分かった。
過保護な主に呆れるが、とはいえ蜘蛛も何だか主と同じ気持ちだ。
「ディーンならすぐに帰ってきてくれるから、私安心して待っているわね」
「絶対すぐに帰ってきますから。蜘蛛頼んだぞ」
不安そうな顔の主を見送って、その不安が本当に的中するとは蜘蛛は思ってもいなかったのだ。
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