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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち20(ダニエラ視点)
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「ロニー、一緒にいらっしゃい」
食事の後、半分眠りの中に入っているマチルディーダを乳母に託して私はロニーをお茶に招きました。
普段であればロニーはマチルディーダが寝付くまで側にいますが、養子の件で話をしなくてはならない為、心を鬼にして誘ったのですが乳母に抱っこされて部屋を出ていくマチルディーダを見送るロニーの目が悲しそうで、やっぱり今日はいいわと言いそうになりました。
本当に私はこういう事に弱いのです。
でも、こういうことを先送りして良いことなど何もありません。
「ダニエラ、雪の魔鹿は如何でしたか」
「私魔鹿肉はあまり得意ではないのだけれど、あれは匂いもキツくないし味も良くて食べやすかったわ。普通の魔鹿とは違うのかしら」
「ええ、あれは上位種ですから普通の魔鹿とは違います。蜘蛛が張り切って狩って来た様なのでダニエラの口にあって良かった」
「それは……、くぅちゃんにお礼を言わないとね」
上位種というのは狩るのが難しいと聞いた事があります。
くぅちゃんはそれを一人? (一匹? 良く分からないので一人でいいですよね)で狩ったのでしょうか。
ディーンも優秀ですが、彼の従魔であるくぅちゃんも優秀です。
主が凄いから従魔も凄くなるのでしょうか、その辺りが私には良く分かりません。
「くぅちゃんが凄いのはディーンが凄いから?」
なんだか頭が悪そうな聞き方をしてしまいましたが、私の心の声がそのまま出てしまったのですから仕方がありません。
「私も蜘蛛も凄いと言われる事は何もしていませんよ」
「そんな事ないわ。あなた私の魔力不足の解消方法をもう思いついているでしょう? それが凄くなくてなんなのかしら」
「解消方法、それはまあ。魔法は私の得意分野ですから」
食事をしている間の僅かな時間でそれを考え付く方が凄いのですが、ディーンって魔法使いとしてどれだけ凄いのでしょうか。
ウーゴ叔父様は魔法師団の団長として、魔法使いとして最強だと言われていますがディーンだって負けていないきがします。
「もうっ。得意分野だと言い切れるものがあるっていうのが凄いのよ。あなたがどれだけ努力し続けていたかお兄様に聞いた事があるけれど、皆が皆ディーンの様に努力が実を結ぶ人ばかりじゃないわ。あなたは凄いの、私の自慢の旦那様なのだからもっと自覚して、自信を持って」
「自覚……。私はいつだってあなたに認められたい。ニール兄上達にも役に立つと思われたいと願っています。自信はありません。だからあなたが私に言い続けてくれませんか?」
「役に立つからあなたの妻になったんじゃないわ」
ロニーが側にいるというのに私達なんて会話をしているのでしょう。
うっかりディーンのトラウマにひっかかりそうな言い方をした私が悪いのですが、これは幼い子供に聞かれていて恥ずかしいとか教育上良く無いとか、無視した方が良いでしょう。
大事なのはディーンの気持ちです。
「私はあなたが好きだから、あなたの妻で居続けるのよ」
「ダニエラ、ありがとう。あなたが私の妻になってくれた、それがどれだけ私を救ってくれたか分かりません。私はあなたが誇れる夫でありたい。子供達が誇れる父でありたい」
「あなたならそうなれるわ。あなたは自慢の夫で、子供達の自慢の父親よ」
少しマシになったとはいえ、ディーンはいつまでも愛を疑うヤンデレなのです。
ほんの少しの切っ掛けで、闇落ちしそうになる危険な人です。
それでも彼は私の夫、大切な夫なのです。
ディーンには私が居ます、お兄様もいます。
でも、ロニーはどうなのでしょう。
ロニーにとって大切なのはマチルディーダただ一人、でも彼はこれからマチルディーダと離れて、居心地が良いかどうかも分からない家に一人で向かうロニーの気持ちを思うと胸が張り裂けそうになります。
「ダニエラ……ありがとうございます。……ロニー」
「は、はいお義父様」
「私とダニエラの子、それはお前もだ」
「え」
「……中に入って話そう」
丁度目的の部屋の前まで辿り着いたのかディーンの歩みが止まり、タオが扉を開きました。
「ロニーはそちらに座りなさい」
当たり前の様にディーンは私を膝に乗せてソファーに腰を下ろし、向かいの席をロニーに勧めました。
これから真面目な話をするというのにふざけた格好ですが、ディーンの発言に驚きすぎて止めるのを忘れていました。まあ、今更と言えば今更なのでこのままにするしかありません。
「ニール兄上に養子の件を進めて頂ける様お願いした。だが、本当にそれでいいんだな」
「……は、はい」
「養子になってから嫌だ止めたい、この家に戻りたいと言ってもそれは出来ない」
「はい」
「ただ一つ戻る事が出来るのは、マチルディーダの夫となった時だけだ」
食事の前にディーンはお兄様に連絡を取り、ロニーの養子の話を進めてくれる様頼んでくれました。
でも、私は養子の話だけで、マチルディーダの結婚の話までするとは思っていなかったのです。
夫になる。
それをディーンがはっきりと口にしました。
私は小さく息を飲み、ロニーは何も言えずにいます。
ちらりとロニーに視線を向けると、彼の目はこれ以上に無い程見開かれていました。
「夫、マチルディーダの、でも」
「ニール兄上は、ブレガ侯爵にお前をマチルディーダの夫候補として養子に出す。お前にそのつもりがないのであればこの話は無しだ」
それはつまり、お兄様がロニーを本当にマチルディーダの夫候補として認めたと言う事です。
今まではロニーが希望を言っていただけ、マチルディーダの側に居たいと願っていただけでしたが、お兄様がロニーを認めたのです。
「僕がマチルディーダに相応しい人間になれたら、それを望んでいいと」
「相応しい人間になっても、マチルディーダが選ばなければ駄目だ」
「それは勿論です。でも、僕がそれを望んでいいと」
信じられない、そういう感情が声に現れていました。
私と会話した時のロニーは、その資格は自分に無いと辛そうに言っていましたが、それでも希望を持っていたかったのだと分かりました。
ロニーはマチルディーダを諦められない、あの子だけがロニーのすべてなのです。
「進むからには、マチルディーダに誠実でいろ。マチルディーダを裏切る様な事があれば私はお前を許さない」
「許してくれるなら、どんな事でもします。僕はマチルディーダに選ばれなくても、彼女を思うことを許してくれるなら、それだけで。僕は絶対にマチルディーダを裏切らない、お義父様とお義母様に顔向けできない様な真似はしない。誓います、だからどうか。マチルディーダを思う事を許して下さい。罪の子の僕に希望を下さい」
ロニーは立ち上がり、私達のところまで来るとディーンの足に縋りました。
希望、マチルディーダを思う事が希望になるのでしょうか。
罪の子だと自分を言い、裏切らないとまだ子供のロニーが誓うのです。
「ディーン、下ろして」
「……はい」
のろのろとディーンは動いて私をディーンの隣に座らせました。
「ロニー、顔を上げて」
「はい、お義母様」
「ロニー、何度だって言うわ。あなたは罪の子なんかじゃない。私とディーンの大切な子供よ」
小さな頭をそっと撫でると、ディーンの大きな手が私の上に重なりました。
その手が震えている事に、私はすぐに気が付いてディーンを見つめると彼は泣きそうな顔をしていました。
「あなたの思いはあなたのもの。あなたがマチルディーダを大切に思ってくれているのは、親である私達にとって嬉しいことよ。だから反対したりしないわ」
「本当に?」
「ええ、だから自分を追い詰めないで。マチルディーダが将来誰を選ぶのか分からないけれど、ロニーがマチルディーダを思うのは自由なのよ」
ゲームの内容と、すでに大きく変わっています。
このまま進むと、もしかしたらロニーとマチルディーダはゲームとは違う未来を進むのかもしれません。
そうであって欲しい、幸せになって欲しいと願います。
「私はマチルディーダもあなたも幸せになって欲しいわ。でも私達は貴族だから王家に近い血を持つ者だから、それなりに責任も立場もあるの。だから怠惰でいる事は許されないわ。これは分かるわね」
ピーターにはその自覚は全く無かったのでしょう。
勉強をせず、愛に溺れてリチャードと一人の女性を共有していた。
その歪んだ関係を持ったまま、私の夫になり私を害した。
「上位貴族として生きるなら、努力が必要よ。それが出来る?」
「出来ます。誰もが認める人間になります。それでマチルディーダの夫になれるのなら僕はどんな努力だって」
この目は、ディーンに似ています。
ピーターとディーンの母親は同じなのですから、似ていても当然ですが。
血というものでは無い、何か、そんな似方をしている様に思うのです。
「あなたの思いはきっとマチルディーダに届くわ。離れていてもきっと」
くしゃりくしゃりとロニーの髪を撫ぜ続けながら、私は少し先の未来に思いを馳せていたのです。
食事の後、半分眠りの中に入っているマチルディーダを乳母に託して私はロニーをお茶に招きました。
普段であればロニーはマチルディーダが寝付くまで側にいますが、養子の件で話をしなくてはならない為、心を鬼にして誘ったのですが乳母に抱っこされて部屋を出ていくマチルディーダを見送るロニーの目が悲しそうで、やっぱり今日はいいわと言いそうになりました。
本当に私はこういう事に弱いのです。
でも、こういうことを先送りして良いことなど何もありません。
「ダニエラ、雪の魔鹿は如何でしたか」
「私魔鹿肉はあまり得意ではないのだけれど、あれは匂いもキツくないし味も良くて食べやすかったわ。普通の魔鹿とは違うのかしら」
「ええ、あれは上位種ですから普通の魔鹿とは違います。蜘蛛が張り切って狩って来た様なのでダニエラの口にあって良かった」
「それは……、くぅちゃんにお礼を言わないとね」
上位種というのは狩るのが難しいと聞いた事があります。
くぅちゃんはそれを一人? (一匹? 良く分からないので一人でいいですよね)で狩ったのでしょうか。
ディーンも優秀ですが、彼の従魔であるくぅちゃんも優秀です。
主が凄いから従魔も凄くなるのでしょうか、その辺りが私には良く分かりません。
「くぅちゃんが凄いのはディーンが凄いから?」
なんだか頭が悪そうな聞き方をしてしまいましたが、私の心の声がそのまま出てしまったのですから仕方がありません。
「私も蜘蛛も凄いと言われる事は何もしていませんよ」
「そんな事ないわ。あなた私の魔力不足の解消方法をもう思いついているでしょう? それが凄くなくてなんなのかしら」
「解消方法、それはまあ。魔法は私の得意分野ですから」
食事をしている間の僅かな時間でそれを考え付く方が凄いのですが、ディーンって魔法使いとしてどれだけ凄いのでしょうか。
ウーゴ叔父様は魔法師団の団長として、魔法使いとして最強だと言われていますがディーンだって負けていないきがします。
「もうっ。得意分野だと言い切れるものがあるっていうのが凄いのよ。あなたがどれだけ努力し続けていたかお兄様に聞いた事があるけれど、皆が皆ディーンの様に努力が実を結ぶ人ばかりじゃないわ。あなたは凄いの、私の自慢の旦那様なのだからもっと自覚して、自信を持って」
「自覚……。私はいつだってあなたに認められたい。ニール兄上達にも役に立つと思われたいと願っています。自信はありません。だからあなたが私に言い続けてくれませんか?」
「役に立つからあなたの妻になったんじゃないわ」
ロニーが側にいるというのに私達なんて会話をしているのでしょう。
うっかりディーンのトラウマにひっかかりそうな言い方をした私が悪いのですが、これは幼い子供に聞かれていて恥ずかしいとか教育上良く無いとか、無視した方が良いでしょう。
大事なのはディーンの気持ちです。
「私はあなたが好きだから、あなたの妻で居続けるのよ」
「ダニエラ、ありがとう。あなたが私の妻になってくれた、それがどれだけ私を救ってくれたか分かりません。私はあなたが誇れる夫でありたい。子供達が誇れる父でありたい」
「あなたならそうなれるわ。あなたは自慢の夫で、子供達の自慢の父親よ」
少しマシになったとはいえ、ディーンはいつまでも愛を疑うヤンデレなのです。
ほんの少しの切っ掛けで、闇落ちしそうになる危険な人です。
それでも彼は私の夫、大切な夫なのです。
ディーンには私が居ます、お兄様もいます。
でも、ロニーはどうなのでしょう。
ロニーにとって大切なのはマチルディーダただ一人、でも彼はこれからマチルディーダと離れて、居心地が良いかどうかも分からない家に一人で向かうロニーの気持ちを思うと胸が張り裂けそうになります。
「ダニエラ……ありがとうございます。……ロニー」
「は、はいお義父様」
「私とダニエラの子、それはお前もだ」
「え」
「……中に入って話そう」
丁度目的の部屋の前まで辿り着いたのかディーンの歩みが止まり、タオが扉を開きました。
「ロニーはそちらに座りなさい」
当たり前の様にディーンは私を膝に乗せてソファーに腰を下ろし、向かいの席をロニーに勧めました。
これから真面目な話をするというのにふざけた格好ですが、ディーンの発言に驚きすぎて止めるのを忘れていました。まあ、今更と言えば今更なのでこのままにするしかありません。
「ニール兄上に養子の件を進めて頂ける様お願いした。だが、本当にそれでいいんだな」
「……は、はい」
「養子になってから嫌だ止めたい、この家に戻りたいと言ってもそれは出来ない」
「はい」
「ただ一つ戻る事が出来るのは、マチルディーダの夫となった時だけだ」
食事の前にディーンはお兄様に連絡を取り、ロニーの養子の話を進めてくれる様頼んでくれました。
でも、私は養子の話だけで、マチルディーダの結婚の話までするとは思っていなかったのです。
夫になる。
それをディーンがはっきりと口にしました。
私は小さく息を飲み、ロニーは何も言えずにいます。
ちらりとロニーに視線を向けると、彼の目はこれ以上に無い程見開かれていました。
「夫、マチルディーダの、でも」
「ニール兄上は、ブレガ侯爵にお前をマチルディーダの夫候補として養子に出す。お前にそのつもりがないのであればこの話は無しだ」
それはつまり、お兄様がロニーを本当にマチルディーダの夫候補として認めたと言う事です。
今まではロニーが希望を言っていただけ、マチルディーダの側に居たいと願っていただけでしたが、お兄様がロニーを認めたのです。
「僕がマチルディーダに相応しい人間になれたら、それを望んでいいと」
「相応しい人間になっても、マチルディーダが選ばなければ駄目だ」
「それは勿論です。でも、僕がそれを望んでいいと」
信じられない、そういう感情が声に現れていました。
私と会話した時のロニーは、その資格は自分に無いと辛そうに言っていましたが、それでも希望を持っていたかったのだと分かりました。
ロニーはマチルディーダを諦められない、あの子だけがロニーのすべてなのです。
「進むからには、マチルディーダに誠実でいろ。マチルディーダを裏切る様な事があれば私はお前を許さない」
「許してくれるなら、どんな事でもします。僕はマチルディーダに選ばれなくても、彼女を思うことを許してくれるなら、それだけで。僕は絶対にマチルディーダを裏切らない、お義父様とお義母様に顔向けできない様な真似はしない。誓います、だからどうか。マチルディーダを思う事を許して下さい。罪の子の僕に希望を下さい」
ロニーは立ち上がり、私達のところまで来るとディーンの足に縋りました。
希望、マチルディーダを思う事が希望になるのでしょうか。
罪の子だと自分を言い、裏切らないとまだ子供のロニーが誓うのです。
「ディーン、下ろして」
「……はい」
のろのろとディーンは動いて私をディーンの隣に座らせました。
「ロニー、顔を上げて」
「はい、お義母様」
「ロニー、何度だって言うわ。あなたは罪の子なんかじゃない。私とディーンの大切な子供よ」
小さな頭をそっと撫でると、ディーンの大きな手が私の上に重なりました。
その手が震えている事に、私はすぐに気が付いてディーンを見つめると彼は泣きそうな顔をしていました。
「あなたの思いはあなたのもの。あなたがマチルディーダを大切に思ってくれているのは、親である私達にとって嬉しいことよ。だから反対したりしないわ」
「本当に?」
「ええ、だから自分を追い詰めないで。マチルディーダが将来誰を選ぶのか分からないけれど、ロニーがマチルディーダを思うのは自由なのよ」
ゲームの内容と、すでに大きく変わっています。
このまま進むと、もしかしたらロニーとマチルディーダはゲームとは違う未来を進むのかもしれません。
そうであって欲しい、幸せになって欲しいと願います。
「私はマチルディーダもあなたも幸せになって欲しいわ。でも私達は貴族だから王家に近い血を持つ者だから、それなりに責任も立場もあるの。だから怠惰でいる事は許されないわ。これは分かるわね」
ピーターにはその自覚は全く無かったのでしょう。
勉強をせず、愛に溺れてリチャードと一人の女性を共有していた。
その歪んだ関係を持ったまま、私の夫になり私を害した。
「上位貴族として生きるなら、努力が必要よ。それが出来る?」
「出来ます。誰もが認める人間になります。それでマチルディーダの夫になれるのなら僕はどんな努力だって」
この目は、ディーンに似ています。
ピーターとディーンの母親は同じなのですから、似ていても当然ですが。
血というものでは無い、何か、そんな似方をしている様に思うのです。
「あなたの思いはきっとマチルディーダに届くわ。離れていてもきっと」
くしゃりくしゃりとロニーの髪を撫ぜ続けながら、私は少し先の未来に思いを馳せていたのです。
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